中学受験に向いている子の特徴
今回は、今、過熱化している中学受験について、そもそも、どういう子が中学受験に向いているのか3つの特徴をお伝えしたいと思います。
01 中学受験に向いている子、特徴その一「思考や作業のスピード感がある子」
中学受験に向いている子の特徴その一は思考や作業のスピード感がある子です。入試本番のテストはもちろん模擬試験、塾の授業内での確認テストなど、決められた時間内に終了する必要があります。例えば、難関校の中学入試の国語の問題なら制限時間40~50分で1万文字近く、原稿用紙にしたら25枚以上の文字数の文章量を読ませてきます。その上、合計したら原稿用紙1枚のマスを全部埋めるよりもずっと多い字数の記述問題がある学校も少なくありません。
中学受験に合格するため、受験にたどり着くまでの勉強でも物事を深く考えられるようになる必要がありますが、同時にテンポよくテキパキと考えられる頭の回転の早さも求められます。また塾では、日々各科目多くの宿題が出されます。テキスト、副教材、配布プリント、様々な種類の宿題が各科目でそれぞれ出されます。宿題だけではありません。受験勉強は日ごとの授業の復習、授業の1週間ごとの復習、授業内で実施される確認テストの復習、総合テストの復習、模試の復習、入試が迫ってきた小6の9月以降は入試過去問題の解き直しなど、全科目、宿題⇒復習⇒宿題⇒復習⇒宿題⇒復習と復習の膨大な繰り返しです。
例えば、有名な大手進学塾SAPIXのように復習中心の塾ではなく(武蔵野個別指導塾はどちらかというとSAPIXのように復習中心の塾ですが)、四谷大塚や早稲田アカデミーのような塾だったら、予習にも多くの時間がかかります。中学受験を目指すのであれば、これら各科目の勉強をどれか1つにかけ過ぎないでどんどん進めていく必要があります。「マイペースで勉強したい」「自分の好きなようにさせて」という性格だと、塾のカリキュラム、求められる家庭学習のペースについていくのが強いストレスになりますし、そもそもついていくのも困難になります。そのあたり中学校で内申点を取りやすい子の特徴と対照的だといえるでしょう。
02 中学受験に向いている子、特徴その二「精神年齢が高い早熟タイプの子」
中学受験に向いている子の特徴その二は、「精神年齢が高い早熟タイプの子」です。中学受験は12歳時点での受験です。さらに受験勉強を始める9歳前後だと精神年齢の差はかなり大きいです。いますよね。小4でも大人よりも大人っぽい思考ができる子。中学受験の国語を例に挙げると、抽象度の高い論説文の読解が求められます。
抽象度が高い論説文というのは、たとえばキリスト教における「死」に対する意味と仏教における「死」の輪廻転生の違いだとか、AI(人工知能)が進化して人間の知能を超えることをシンギュラリティといいますが(レーツ・カーワイルによって有名になりましたね)、そこまで進化したAIと人間の思考の違いだとか、資本主義経済の限界とパラダイムシフトの先にある新たな価値観などについて書かれた文章です。
今年(2023年)の開成の国語の問題では、建築家の隈研吾の文章からの出題で「『80年代の建築の世界も、戦場を失った武士によく似ていた』とありますが、『戦場を失った武士』のどのような点に『よく似ていた』のですか。わかりやすく説明しなさい。』という設問が出て、もちろん、課題文に答えはほぼ書いてあるのですが、模範解答的には「戦乱のない平和な江戸時代に入って、自分たちが不要なことに気付いた武士が、過去の功績や特権を守るために、武士道のように倫理や美意識をエスカレートさせ、自分たちのレゾンデートル(raison d’être)を正当化した点。」という感じになります(仏語の引用は本文にないので半分冗談です)。小学生にニーチェのルサンチマン(ressentiment、これも仏語ですね)のような価値顛倒として生まれた道徳というような、かなり難しい問題の読解と回答を求めています。とまあ、このような文章を読み書きすることを、つい最近まで「今日もみんなでトロピカル」なんてアニメを見ていた子どもが取り組むわけです。物語文では、「笑顔の裏に隠された悲しみ」、「異性にわざとそっけない態度を取る心情」などを読み取らせて書かせるような読解問題がでます。最近私が生徒さんに教えた麻布中の2022年の問題では、2021年に「群像」で発表され、芥川賞候補作にもなった、くどうれいんの『氷柱の声』の文章で「『夕方の美術室にひとりきり、私は私の滝〔の絵〕を抱きしめていた』(〔〕内私の補足)とは、どのようなことを表していますか。説明しなさい。」と聞き、答えとしては、「伊智花(主人公の名前)が、たとえ自身の絵が認められなくても、自分の表現をを諦めることはできないし、全力で描いた滝の絵を愛おしく思っているということ」くらいなことを記述させるような問題が出されています。答えの根拠となる地の文では「こんなもの、こんなものこんなもの。『んら!』と、声が出た。しかし私は絵を蹴ることができなかった。とっさに的をずらし、イーゼルを蹴った。蹴り上げられたイーゼルの左の脚が動いてバランスが崩れ、キャンバスの滝がぐらり、と大きく揺れた。私は倒れ込もうとする滝へ駆け寄った。両手でキャンバスの両端を支えて持ち上げると、イーゼルだけが鋭い音を響かせて床へ倒れた。吹奏楽部の金管楽器が、ぱほおー、とさっきから同じ音ばかりを出している。それがそういう練習だと知っていても、間抜けなものだった。」と直前に描いてあり、蹴ろうとして蹴れない、自棄になろうとしてなれない、そういう複雑な感情を主人公の動作や情景描写で描いています。
わかりやすく言うと、物語文の読解が、分かりやすい「怒ってた」とか「悲しかった」という単純な感情ではなく、アンビバレンツな感情、相反する複雑な感情を読み解き、それを文字にして説明しなければならないわけです。私は今、アンビバレンツな感情と簡単に言いましたが、精神年齢の高いお子さんは、そんなテクニカルな解き方ではなく、感覚的に察知してあっさり模範解答に近いような記述回答をするわけです。
一方、精神年齢がまだ幼いというか、年齢相応だと思うのですが、先程の文章を見て「蹴ろうとした絵を抱きしめるって、ただ蹴るのに失敗したんじゃないの」とか「この子、混乱しているんだよ。わけらかんない。」ぐらいに思うと思います。まあ、それが小学生の自然な反応かもしれません。中学受験をしない子たちは、「お前さ。来月出るポケモンのブリリアントダイヤモンドとシャイニングパールとどっち買う?」とか「俺、ブリリアントダイヤモンドの方買うからさ…」だなんて言っているわけですよ。
それが中学受験という一気に別の世界戦に足を踏み入れるわけです。もちろん、国語以外の科目でも以前紹介した同じく麻布中学の社会の問題のように知識だけでは解けないような高度な論理的思考能力を問う問題が頻出します。解法テクニックをいくら学んでも限界があるくらいです。ふだんから新聞や大人が読むような小説やビジネス書を読んでみたり、情報、ドキュメンタリー番組を進んで見たりする子は中学受験向きです。中学受験は早熟有利です。
03 中学受験に向いている子、特徴その三「知的好奇心が高い子」
中学受験に向いている子の特徴その三は、「知的好奇心が高い子」です。たとえば、子どもと話していて、「ちょっと待って、今Wi-Fi繋ぐから」だなんて言っちゃったときに、「わいふぁいって何?」というように分からない言葉を聞いたら、その都度確かめてくるような子は知的好奇心が高いと言えます。
テレビだったら「ロケット団!またおまえらか!」とか「今日もみんなでトロピカろう!」というような番組だけではなくて、大河ドラマや「ダーウィンが来た!」とか「歴史探偵」「100分DE名著」、アニメでも「はたらく細胞」とか「Dr.STONE」(東大生300人に聞く為になるマンガ第二位)などにお子さんは関心を持っているでしょうか。
視界に入った文章を自然と目で追って、内容を確かめようとする姿勢があるでしょうか。クイズやパズルに取り組んですぐに答えが分からないとき、答えを早く知りたがるのか、それとも「考えるから答えいわないで」と自分で考えて答えを出したいと思う姿勢があるでしょうか。
これから中学受験をするかどうか検討しているのであれば、理科や社会の塾のテキストなどを見せてみてください。塾の理科や社会のテキストってカラフルな図表や画像が多くて図鑑が好きなような子は夢中で見入ってしまうような作りなんですよね。一方で興味なさそうにすぐにテキストを閉じちゃう子も一定数います。塾のテキストを面白がれる子、関心を持てない子、どちらが中学受験に向いているか、一目瞭然だと思います。知らないことを知りたい、いろんなことをもっと深く知りたい、と思う子、そして、学べば学ぶほど知的好奇心で目を輝かせる子、そんな子は中学受験に向いていると思います。
04 まとめ~我が子やご家庭に向いている学校が一番
今回は、中学受験に向いているお子さんの特徴3つに絞ってお伝えしましたが、「うちの子は中学受験に全然向いてないわ」と残念に思っている方もいらっしゃると思います。いや、むしろ中学受験に向いている子のほうが少数です。「うちは中学受験に向いてなさそう」と思う方が多数派なんです。では、そんな子は中学受験をあきらめた方がいいのでしょうか。そうとも言い切れないのが子どもの可能性と中学受験の多様性です。今、子供に知的好奇心があまり感じられないのは、まだそういうきっかけがないだけからかもしれません。子供はふとしたきっかけで変わることがあります。幼く思えた子が、急に大人びてくることもあります。どこでいつどうなるかは未知数です。半年後には、半年前には考えてもいなかった成長があることもあるので、私は生徒の可能性を決めつけないようにしています。
また中学受験は従来の4科目、国語、算数、理科、社会以外にも多様な受験があります。たとえば、駒込中のSTEM入試、大妻嵐山中のみらい力入試、聖徳学園中のMinecraft入試、Sphero入試、相模女子大中学部のプログラミング入試というようなものもあります。これらの入試はニンテンドーSwitchの「Minecraft」や「ナビつき!つくってわかるゲームプログラミング」だったら夢中で取り組めるというような子に向いています。
そもそも、今の中学受験の主流は「偏差値が高い=良い学校」という図式はもう完全に崩れています。我が子やご家庭の方針と合う学校が良い学校です。ぜひ、お子さんの人生に良い選択をご家庭で応援してください。
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
社会=暗記という常識はもう古い!知識だけでは通用しない社会の問題(麻布中学校の社会の入試問題より)
有名大学に入学するための勉強をすることは時給3万円のバイトをするようなもの