共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(4)
第1編 第1章 民主政治の基本原理と日本国憲法
⑥国会の組織と機能
ポイント
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議会制民主主義の三つの原理とは何だろうか。
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国会の組織や役割とは何だろうか。
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衆議院が優越するのは,どのような場合だろうか。
議会制民主主義の原理
日本国憲法は,その前文の冒頭において,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と規定し,議会制民主主義の三つの原理を宣言している。
第一は,代表の原理であり,国民代表の原理をいう。つまり,議会は国民全体の意思を代表する機関であるという意味である。この原理の確立によって,議会は国家の意思を決定する最高の機関になるのである。
第二は,審議の原理である。公開の議場で与野党が討論を積み重ね,その中から最も多くの国民に支持されるような結論を見いだすことである。
第三は,監督の原理である。議会での決定は,行政を通じて国民に奉仕することになるが,国民のための行政が公正におこなわれているかどうかを,議会は厳重に監督する必要がある。議会は,国民の真の代表であると同時に,国民福利の厳しい守護神でもなければならない。
国会の地位と構成
憲法は,議会制民主主義に基づき,国会を「国権の最高機関」とし,「唯一の立法機関」であると定めている(第41条)。国会が「国権の最高機関」であるという規定は,国会が主権者である国民を代表する機関であり,国政の中心機関として多くの重要な権限が与えられていることを意味している(国会中心主義)。また,「唯一の立法機関」であるということは,憲法で定められた若干の例外①を除いて,国会が立法権を独占することを意味している。
日本は二院制(両院制)を採用し,国会は衆議院と参議院によって構成され,両議院は「全国民を代表する選挙された議員」②(第43条)で組織される。衆議院には解散の制度が取り入れられ,その時々の事態に対応して国民の意思が反映できる。一方,参議院は,衆議院の行きすぎを抑制し,継続して安定した審議をさせようという趣旨で設置されている。
国会の運営と権限
憲法は国会を,常会(第52条)・臨時会(第53条)・特別会(第54条1項)の三つに区別している。また,衆議院の解散中に参議院の緊急集会が開かれることがあり,その議決を国会の議決とすることもある(第54条2項・3項)。
両議院は委員会制度を採用しており,議員はいずれかの委員会に所属し,議案の審議にあたる。議案が発議・提出されると,議長はこれを適当な委員会に付託する。議案は常任委員会または特別委員会で審議された結果が本会議に報告され,そこで議決される。本会議での議決は,特別な場合③を除いて,出席議員の過半数をもっておこなわれる(第56条2項)。
国会がもつ権限として最も重要なものは立法権(第41条)であるが,このほかにも多くの重要な権限が認められている。たとえば,予算の議決権(第60条・第86条)や条約を承認する権限(第61条),弾劾裁判所を設置する権限(第64条),さらに内閣総理大臣の指名権(第67条),憲法改正の発議権(第96条)などがある。また,両議院に認められた権限としては,それぞれ独自に,議員の資格に関する争訟の裁判権(第55条),議院規則制定権(第58条2項),国政調査権④(第62条)などがあり,衆議院特有の権限としては,内閣不信任決議権(第69条)がある。
衆議院の優越
国会の議決は,原則として,両議院一致の議決によって成立するが,両議院一致の議決をみることができない場合,ある条件のもとに衆議院の単独議決をもって,国会の議決とする。これを衆議院の優越とよび,次の四つの場合がある。
第一は,法律案の議決に関することである。衆議院で可決した送付案を参議院で否決し,または参議院で修正可決した回付案に衆議院が同意しない場合,衆議院は両院協議会⑤を求めることができる。第二は,予算の議決⑥に関することである。予算の議決について,参議院で衆議院と異なった議決をした場合に,衆議院は両院協議会を求めなければならない。第三は,条約の締結に必要な国会の承認に関することである。この場合には,予算の議決の規定が準用される。第四は,内閣総理大臣の指名に関することである。両議院で異なった人を指名した場合にも,両院協議会の規定がある。
衆議院の優越にはこのほか,衆議院だけにある予算の先議権(第60条)と内閣不信任決議権(第69条)を含める場合がある。
【注】
①若干の例外 ①両議院の議院規則制定権(第58条2項),②最高裁判所の規則制定権(第77条1項),③内閣の政令制定権(第73条6号),④地方公共団体の条例制定権(第94条)などがある。なお,国会の議決だけで成立しないものに,一つの地方公共団体に適用する特別法(第95条)と憲法改正(第96条)がある。
②全国民を代表する選挙された議員 国会議員は,だれからの干渉も受けずに,一部の人だけのためではなく,全国民のために独立して行動しなければならない。また,国会議員には,憲法で歳費特権(第49条),不逮捕特権(第50条),免責特権(第51条)が認められている。
③特別な場合の議決 ①出席議員の3分の2以上の多数による議決(議員の資格争訟の裁判,秘密会の開催,議員の除名,衆議院での法律案の再可決)。②総議員の3分の2以上の多数による議決(憲法改正の発議)。
④国政調査権 国民の代表者である国会議員が,政治的見地から国政全般にわたる諸問題の原因・内容などを究明し,その結果を立法に反映させることを目的としている。必要に応じて,証人の出頭・証言,記録の提出を要求できる。
⑤両院協議会 両院の議事および議決は独立しており,おたがいに干渉しないことを原則とするが,両議院が意見を異にした場合,両議院で選ばれた10人ずつの委員で両院協議会(定足数は3分の2)を開くことができる。両院協議会で協議案が可決した場合,その成案を両議院で可決すれば,法律として成立する。
⑥予算の議決 法律案の議決に関する衆議院の優越より,予算の議決に関する衆議院の優越の方が,優越の程度が高い。これは,予算の不成立の方が影響が大きいからである。
⑦内閣の機構と機能
ポイント
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内閣と国会の関係は,どのようなものだろうか。
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内閣総理大臣と内閣の権限をまとめてみよう。
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行政を民主化するにはどうすればよいだろうか。
内閣と国会の関係
日本国憲法は,イギリス型の議院内閣制を採用し,内閣と国会の関係を定めている。「内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決」で指名され(第67条1項),内閣総理大臣が国務大臣を任命する場合は,「その過半数は,国会議員の中から選ばれなければならない」(第68条1項)。また,「内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負ふ」(第66条3項)と規定している。
このように内閣は,国会の信任を基盤として成立し,存続するのであるから,衆議院において内閣不信任案が可決され,または内閣信任案が否決されたときは,内閣は総辞職か衆議院の解散①かのいずれかを選択しなければならない(第69条)。衆議院が解散されたときは,解散の日から40日以内に衆議院議員総選挙をおこない,選挙の日から30日以内に国会(特別会)が召集される(第54条1項)。そのときに内閣は総辞職し(第70条),改めて内閣総理大臣の指名(首班指名)がおこなわれる。
議院内閣制を採用している日本では,衆参両院で過半数を占める政党が,事実上,行政権をも掌握することになる。政府の独走を防ぐためには,国会・国民・マスコミなどによる厳正な監視が必要である。
内閣総理大臣と内閣の権限
行政権を担当する内閣は,内閣総理大臣と,14人以内(特別な場合には17人以内)の国務大臣で組織される合議制の機関である。
内閣総理大臣は,内閣の首長として,国務大臣の任命権・罷免権をもっている(第68条)。また,内閣を代表して,内閣作成の法律案,予算その他の議案を国会に提出し,一般国務および外交関係について国会に報告したり,閣議で決定した方針に基づいて,行政各部を指揮監督するなどの強い権限をもっている(第72条)。
国務大臣は,閣議に出席して国政全般についての討議に加わったり,いつでも議院に出席して発言することができる。
内閣の権限には,一般行政事務のほか,法律の執行・外交関係の処理・予算の作成などがある(第73条)。このほかに,天皇の国事行為について,助言と承認をおこなう。
また,軍国主義的政治の再現を防止するという目的で,内閣総理大臣と国務大臣の文民規定(第66条2項)を採用しており,自衛隊に対するシビリアン・コントロール(文民統制)もとられている。
行政の民主化と行政改革
公務員制度は,高度な能力をもった行政官を民主的に確保し,行政事務を民主的・能率的に進めることを目的としている。公務員は,「全体の奉仕者」(第15条)と規定され,政治的中立性が強く要求されている。そこで,公務員に対して公正な人事行政をおこなったり,適正な給与のあり方を国会や内閣に勧告したりするために,人事院が設けられている。
また,行政が民主的に運営され,その目的が適正に,能率的に達成されるように,一般の行政機関からある程度独立して設置されているのが行政委員会である。行政委員会は,①政治的中立を必要とする分野,②専門的知識を必要とする分野,③利害関係の調整を必要とする分野などに設けられており,人事院・国家公安委員会・公害等調整委員会・各種の労働委員会などがある。行政委員会は合議制の行政機関で,準立法的機能や準司法的機能をもち,国と地方公共団体に設置されている。また,行政監察官(オンブズマン)制度を採用する地方公共団体が増加している。
1999年,中央省庁等改革関連法が成立し,行政機関は1府12省庁に再編成され,独立行政法人②が設置された。
【注】
①衆議院の解散 解散とは,任期満了前に議員としての資格を失わせる行為である。これは内閣の助言と承認によって天皇がおこなう国事行為(第7条)の一つである。
②独立行政法人 公共上の見地から確実な実施が必要な事務・事業で,国が直接実施する必要のないもののうち,民間では実施されない恐れがあるものを,効率的・効果的におこなわせることを目的に設立される法人をいう。
⑧裁判所の機能と人権保障
ポイント
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司法権の独立を保障するため,憲法はどのように規定しているだろうか。
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裁判の公正を保つために,どのような制度が設けられているだろうか。
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最高裁判所が,「憲法の番人」といわれるのはなぜだろうか。
司法権の独立
裁判を通じて,国民の権利と自由を保障し,社会の法秩序を維持していくのが司法の役割であり,このような国家の権限を司法権という。
日本国憲法では,司法の公正と民主化を図るために,裁判所だけに司法権を与え(第76条1項),司法権の独立①の原則を確立している。そして,司法権の行使については,「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される」(第76条3項)と規定し,裁判官の職権の独立を保障している。憲法はさらに,裁判官がいかなる外部の圧力や,司法内部の上からの指揮・命令によって,罷免・懲戒処分や報酬が減額されたりすることのないように,裁判官の身分保障の規定を設けている(第78条~第80条)。
しかし,このような身分保障は,裁判官の独善を許す趣旨ではない。憲法は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設け(第64条),最高裁判所の裁判官については,さらに国民審査の制度を設けている(第79条2項~4項)。
裁判制度
裁判所には,最高裁判所と下級裁判所がある(第76条1項)。下級裁判所には,高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所および簡易裁判所がある(裁判所法第2条)。
裁判には,民事裁判と刑事裁判の二つの種類がある。民事裁判は,個人や団体の財産上や身分上の権利・義務についての争いであり,訴訟を起こした原告と,その相手である被告(両者をあわせて当事者)が法廷で争う裁判である。刑事裁判は,検察官が原告となって被疑者を裁判所に起訴し,裁判官が検察官・被告人・弁護人の申し立てを聞き,証拠を取り調べ,そのうえで判決を下す裁判である。刑事裁判は被告人の人権を守るため,罪刑法定主義②に基づいておこなわれ,「疑わしきは罰せず」が原則となっている。日本国憲法の下では,行政裁判所・軍法会議などの特別裁判所の設置は認められていない(第76条2項)ので,政府や地方公共団体のおこなった決定に対する国民・住民の異議申し立てである行政裁判は,民事裁判に準じておこなわれる。
検察官は,刑事事件において,公益を代表して裁判所に訴えを起こし,適正な判決を求め,また,刑の執行を監督する検察権をもっている。検察権は行政権の一種であり,検察庁は検察官のおこなう事務を統括するところである。検察官は法務大臣の一般的な指揮・監督を受けるが,検察官による起訴・不起訴が政治的圧力に屈するようでは,刑事裁判の公正を期すことはできない。そのため,検察官の身分は法律によって強く保障されている。
弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。裁判にあたっては弁護人・訴訟代理人となって,法廷において依頼者を弁護する。刑事被告人には,弁護人を依頼する権利が保障されており(第37条3項),経済的理由などで弁護人を依頼できないときには,国が国選弁護人をつける制度がある。
国民と裁判
裁判の公正と人権保障のためには,裁判が公開の法廷でおこなわれなければならない。憲法は,国民に裁判を受ける権利(第32条)を保障するとともに,裁判の公開(第82条)の原則を定めている。また,日本では,同じ事案について三回まで裁判を受けることができる三審制を原則としている。これも,人権保障を十分なものにするためのものである。
裁判は,人間が人間を裁くものであるから,常に正しいとは限らない。そこで,裁判によって刑が確定したあとでも,判決の判断材料となった事実の認定に,合理的な疑いがもたれるような証拠が発見された場合には,裁判のやり直しをおこなうための制度を設けている。これが再審③の制度である。再審によって無罪となった事件も少なくないが,再審請求が認められず,無実の罪(兀罪)を訴え続けている人もいる。
検察審査会は,検察官の不起訴処分が適当であるかどうかを審査する機関である。これは,検察事務に民意を反映させるためにつくられた制度である。
本来,裁判は国民に開かれたものである。そのため,参審制や陪審制など,司法制度の改革が検討され,2004年には,重大な刑事事件の裁判に国民の参加を認める裁判員法④が制定された(2009年までに実施予定)。
違憲法令審査権
日本国憲法は,「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない」(第98条)と規定している。これは,憲法の最高法規性を定めたもので,日本国憲法における法の支配のあらわれである。また,「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」(第81条)と規定し,すべての裁判所に違憲法令審査権を認めている。
このように,最高法規である憲法に違反する行為は,裁判所の違憲法令審査権によって厳しく規制されており,終審裁判所である最高裁判所は憲法の番人であるといわれる。
違憲法令審査権は,国会や内閣に対する裁判所の独立性を明確にしたものであるが,国会や内閣が高度な政治判断に基づき,その政治的責任においておこなう行為は,審査の対象にならない(統治行為論⑤)と判断された例もある。このような考え方が広く認められると,憲法の番人としての役割も失われ,人権保障もあやぶまれる。
裁判所は「憲法の番人」であるとともに,「人権の砦」・「法の支配の砦」でもある。私たちは,このような裁判所の大切な役割が十分に果たされるよう,主権者として見守る必要がある。
【注】
①司法権の独立 司法権が内閣や国会から分離独立していること。1891年に起きた大津事件では,大審院長(現在の最高裁判所長官にあたる)の児島惟謙が,被告人を死刑にするように迫った政府や元老に反対し,担当の裁判官を督励して,司法権の独立を守った。
②罪刑法定主義 犯罪となるべき行為およびこれに対する刑罰は,すべて法律によってあらかじめ規定し,法律にない行為は罪にならないとする考え方をいう。憲法第39条では,遡及処罰の禁止が規定されている。
③再審 再審事件にも「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則が適用される。無罪判決が出たおもな再審請求事件には,免田事件(1983年),財田川事件(1984年),松山事件(1984年),徳島ラジオ商殺し事件(1985年),梅田事件(1986年),島田事件(1989年),榎井村事件(1994年)などがある。
④裁判員法 国民から無作為に選出された裁判員が,裁判官とともに,刑事事件の事実認定や量刑の決定にまで加わる。選出された一般人が,裁判官から独立して事実認定だけをおこない,量刑は裁判官が決定する陪審制とは異なる。
⑤統治行為論 最高裁判所で統治行為論が採用された例としては,砂川判決(1959年,日米安全保障条約について),苫米地判決(1960年,衆議院解散の効力について)がある。下級裁判所では,長沼事件控訴審判決(1976年)や百里基地事件判決(1977年)がある。
共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(5)
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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