共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(5)
第1編 第1章 民主政治の基本原理と日本国憲法
⑨地方自治制度と住民の権利
ポイント
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地方自治の本旨とは,どのようなものだろうか。
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地方自治体には,どのような機能があるのだろうか。
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私たち住民は,どのような権利をもっているのだろうか。
地方自治の本旨
地方自治は,住民の身近な問題を住民みずからの手で解決していくしくみである。イギリスのブライス(1838~1922)は「地方自治は民主主義の学校」といっているが,これはイギリスの民主主義が地方自治の伝統の上に築かれてきたことをあらわしている。
明治憲法下の日本では,急速に国力を増強する必要などから,中央集権的な地方制度が採用された。府県や市町村は,中央官庁を頂点とする行政を全国へ浸透させる組織であった。知事は国の任命する官吏で,市町村長は知事の指揮・監督下におかれていた。
日本国憲法では,明治憲法にはなかった「地方自治」を規定している。地方自治の目標は,地域住民の福祉の実現であり,これをおこなう機関が地方公共団体である。日本国憲法では,「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基いて,法律でこれを定める」(第92条)と規定している。これを受けて,1947年に制定された地方自治法は,団体自治と住民自治の二つの原理を取り入れた。団体自治とは,地方公共団体を設けて国からの分権を図ることであり,住民自治とは地方公共団体の政治を住民自身,またはその代表者がおこなうことである。
その後,国と地方との関係を見直す動きが高まってきた。その中で,1999年,地方分権を推進するため,地方分権一括法が成立し,国と地方との関係が,それまでの上下関係から対等・協力関係へと大きく変わることになった。
地方公共団体の機関と権限
地方公共団体には,議決機関としての議会と,執行機関としての首長(知事・市町村長)がおかれている。地方公共団体としての司法機関は設置されていない。
地方議会は一院制で,住民の代表機関であり,住民から公選された議員で組織されている。おもな仕事は,条例の制定・改廃,予算の決定,決算の認定などである。
住民によって公選された首長は,条例の執行,議案・予算の議会への提出,規則の制定などをおこない,地方公共団体の事務(自治事務①)と国からの法定受託事務②を処理する。執行補助機関として都道府県では副知事,市町村では副市町村長がある。このほかに,執行機関として,各種委員会がおかれている。
議会と首長の関係は,それぞれの独立性を尊重しながらも,抑制と均衡の関係のもとに成り立っている。首長は,議会の議決した条例や予算について異議のあるときは,再議③に付すことができる。また,議会は首長に対して不信任決議権をもち,それに対して首長は議会の解散権をもっている。
住民の権利と住民運動
憲法は,住民自治の原則に基づき,地方公共団体の首長・議会の議員の公選を定めている(第93条2項)。また,一つの地方公共団体のみに適用される特別法(広島平和都市建設法〈1949年〉,長崎国際文化都市建設法〈1949年〉など)の制定には,住民投票(レファレンダム)でその過半数の同意が必要であることを定めている(第95条)。さらに,地方自治法では,住民が直接請求できる権利(直接請求権)が定められている。このうち,条例の制定や改廃を請求する権利は住民発案(イニシアティブ)であり,首長・議員などの解職や議会の解散を請求する権利は住民解職(リコール)である。そのほか,経理や事務の監査請求も認められている。
最近では,住民投票条例による住民投票④が各地でおこなわれるようになった。この投票の結果に法的な拘束力はないが,住民の意思を地方の行政に反映させる有効な手段であり,中学生や高校生の投票を認めている地方公共団体もある。
地方財政の危機と地方分権
国と地方をあわせて775兆円もの累積赤字がある(2006年度末)。このうち地方の累積赤字は204兆円に上り,地方交付税⑤や国庫支出金で国から財政支援を受けている。地方が必要としている財源の中で,自主財源は平均すると約4割弱でしかない(かつては約3割しかなく三割自治ともいわれた)。警察・消防・教育・医療などの公共サービスを提供する財源が,もはや税収ではまかないきれない地方公共団体もある。
そこで政府は,地方交付税の見直し,国庫支出金の削減,税源の移譲を同時に進める三位一体の改革を進めている。この改革では,国から地方へ財源を移譲することで,地方財政を立て直し,地方分権を推進することをめざしている。地方財政の確立のためには,そのほかに,公務員の削減などの行政改革,地方の独自課税のあり方,地方債の計画的な活用など,多くの課題が残されている。
地方分権の推進と住民参加
地方分権の推進には,行政のもつ情報をできる限り公開し,地域住民の声が行政に生かされるように,住民参加や住民投票などを活用していくことが求められる。
構造改革特区法(2003年)は,地域を限定した特区を設け,教育,物流,研究開発,農業などの分野における構造改革と地域の活性化を図ることを目的としている。また,地方分権の推進,高齢化への対応,行政の効率化のために,市町村合併が推進されている。さらに,道州制⑥への移行も検討されている。住民福祉の向上には,住民みずからが特色ある地域づくりに参加することが必要である。最近では,NPO(非営利組織)の活動が増え,地方行政にも参画するようになってきた。今後はこれらの活動に対する支援も積極的におこなわなければならない。
【注】
①自治事務 法律または政令により,地方公共団体が処理することとされている特定の事務をいう。たとえば,都市計画の決定,病院・薬局の開設許可などがある。
②法定受託事務 国が本来,果たすべき役割にかかわるものであって,国において適正な処理を特に確保する必要があるとして,法律または政令に定めた事務である。たとえば,国政選挙,旅券の交付などがある。
③再議 議会の議決した条例や予算について,首長は再議を要求できる。この場合,議会が出席議員の3分の2以上の多数の賛成で再議決すれば,その議決は確定する。
④住民投票 日本国憲法による特別法制定の際の住民投票のほかに,地方自治法による首長・議員などの解職請求や議会の解散請求の際の住民投票,条例による住民投票がある。
⑤地方交付税 地方交付税は,所得税・法人税・酒税(国税三税)の32%,消費税の29.5%,たばこ税の25%の合計額を,地方公共団体の財政力に応じて交付される。使途は,地方公共団体が自主的に決定できる。使途を指定して交付される国庫支出金とは異なる。
⑥道州制 地方自治制度の改革構想の一つ。都道府県を廃止し,新たな広域自治体としての「道」や「州」を設けて,国の権限を大幅に移譲しようとする制度。
⑩政党政治と選挙
ポイント
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私たちの民意は,政治にどのように反映しているのだろうか。
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日本の政党は,どのように変わってきたのだろうか。
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日本の政治家は,どのようなしくみで選ばれているのだろうか。
政党の役割と圧力団体
民主政治は,国民の意思を政治に反映させ,国民のための政治をおこなうことである。私たちは,それぞれ意見や要望をもっているが,その国民の意思を集約し,具体的な政策として政治に反映させるのが,政党である。政党は,かつては「教養と財産」をもつ有力者を中心とする名望家政党であったが,大衆民主主義の成立とともに,大衆の支持を基盤とする大衆政党となった。
政党は,議会の中で活動するだけでなく,日常的な活動を通して組織の拡大に努める。選挙のときにはマニフェスト(選挙公約・政権公約)を掲げ,候補者を立てて政権の獲得をめざす。
政権を担当する政党を与党といい,それ以外の政党を野党という。野党は,単に反対勢力というのではなく,政府や与党の施策を批判し,行政を監視するなど,重要な役割をもっており,次の選挙で議席の過半数を獲得すれば政権の交替もあり得る。
現代の政治は,このように政党が中心になっておこなわれているので,政党政治とよばれている。
今日では,国民の価値観や意見が多様化している。これに対応して,多種多様な団体が存在する。これらの団体の中には,自分たちの要求を政府や国会,政党などに積極的にはたらきかけて実現させようとするものが増加している。このような団体を圧力団体という。
さまざまな圧力団体が,それぞれの要求を掲げて,政府や国会にはたらきかけることは,議会政治の運用を補い,政党の任務を補足する意味で必要なことである。しかし,強力な圧力団体が,行きすぎたはたらきかけをおこない,その結果として,その団体だけが不当に優遇されたり不当な利益を得たりすると,政治の公正さが失われてしまう。
現代の政党政治とその課題
日本の政党政治は,欧米にくらべると歴史が浅く,さまざまな面で多くの課題をかかえている。
第一は,政治資金①の問題である。日本の政党は,一般的に党員が少なく,活動資金が不足しがちである。このため,政党が特定の企業や団体から活動資金を得る代わりに,利益供与をおこなう金権政治や構造汚職が生じ,国民の政治不信が高まったこともある。
第二は,派閥の問題である。大政党の党首は,派閥間の調整によって決まり,さらに,派閥を中心に人事や資金が動いているといわれる。また,利益集団と官僚を結びつける族議員なども生まれた。
第三は,党議拘束の問題である。議員が所属する政党の決定である党議は党本部で決め,党所属の衆参両院議員を拘束する。そのため,議員の自由な発言や議論を阻害する場合がある。
このような政党政治がかかえる問題を解決するために,政治改革がおこなわれ,政治資金規正の強化や公的資金制度②の導入などがおこなわれたが,現状では,まだ多くの問題が残されている。
近年,こうした政党への不信や不満が国民の間で政党離れ現象を起こし,無党派層の増加が顕著になってきている。政党は,このことを厳しく受けとめ,国民からの信頼を回復させなければならない。
第二次世界大戦直後には多数の政党が生まれ,離合集散を繰り返した。しかし,1955年,自民党の結成と社会党の統一により,いちおうの二大政党制が形成された(55年体制)。しかし,政権交替はおこなわれず,自民党は,40年近い長期政権を続けた。この間,政界,官界,財界との癒着構造ができあがり,ロッキード事件,リクルート事件,東京佐川急便事件などの政治腐敗事件が国民の批判を浴びた。その後,1993年の衆議院議員総選挙で自民党が過半数の議席をとれず,非自民の細川連立政権が誕生した(55年体制の崩壊)。現在は,自民党が再び政権を担当しているが,参議院で議席が単独過半数を満たしていないために,他の政党との連立政権が続いている。
日本の選挙制度
政党政治が民主政治の中で有効に機能するためには,国民が政党を自由に選べる公正な選挙が保障されていなければならない。選挙は,主権者としての国民が,その意思を直接的に表明する最も重要な機会であり,国会議員や地方公共団体の首長・議員を選出するのであるから,民主政治の基礎といわれている。
民主的な選挙制度の原則は,普通選挙・平等選挙・直接選挙・秘密投票であり,日本では,そのいずれもが採用されている。
1890年に国会が開設されたときは,男子25歳以上で直接国税15円以上を納める人という厳しい条件がつけられた制限選挙であった。
その後の激しい選挙権運動の結果,1925年の男子普通選挙権や1945年の女性参政権が実現し,完全な普通選挙となった。私たちは,このような一票にかけられた歴史の重みを知る必要がある。
世界の選挙制度は,主として小選挙区制,大選挙区制③,比例代表制に大別される。小選挙区制は,1人区で候補者に単記で投票する。政治が安定しやすいという長所があるが,小政党の議席獲得はむずかしく,死票が多いなどの問題点がある。小選挙区制は,アメリカやイギリスなどで採用されている。比例代表制は,政党の得票数に比例して議席を配分する制度で,有権者の意思を公正に議会に反映できるという長所があるが,小党分立になり政治が不安定になる場合があるといわれる。比例代表制は,ヨーロッパ諸国で多く採用されている。
日本の選挙制度の現状と課題
衆議院の選挙制度は,小選挙区比例代表並立制である。この制度は,小選挙区と比例代表からそれぞれ代表者を選出する方法で,重複立候補制④が採用されている。
参議院の選挙制度は,都道府県を単位とする選挙区選挙(146名選出)と,非拘束名簿式比例代表制⑤(96名選出)である。選挙区選挙では候補者名,非拘束名簿式比例代表制では候補者名または政党名で投票する。
選挙区制以外にも,日本の選挙制度の課題は多い。第一は,議員定数の削減である。定数の改革は,各政党の利害に直接関係するため,大きな政治問題となる。そのため,抜本的な改革は,なかなか進んでいない。第二は,金権選挙・腐敗選挙の問題や選挙運動の規制の問題である。第三は,選挙権に関する問題である。これには,在日外国人の地方選挙への選挙権と,18歳への選挙権引き下げが指摘されている。なお,在外日本人の投票権は,国政選挙に限って実現した。
このほかに,同じ一票による選挙でも,選挙区間の議員1人当たり有権者数に著しい格差があると一票の価値⑥が不平等になるという問題(定数是正問題),政治資金規正法の見直しなど,課題は少なくない。
【注】
①政治資金 企業などの行きすぎた政治資金が政治腐敗に結びつくことが多いため,政治資金規正法が制定されているが,必ずしも十分な効果をあげていない。
②公的資金制度 1994年に政党助成法が成立し,政党への公費助成が決まった。2006年は総額317億円(議員1人当たり約4,300万円)が支払われた。国民1人当たり250円の税金を使うのであるから,政党は,その運営に責任をもつ必要がある。
③大選挙区制 大選挙区制は1選挙区から複数の代表を選出する。1994年までおこなわれてきた衆議院のいわゆる中選挙区制(原則3~5名選出)も大選挙区制の一種である。
④重複立候補制 小選挙区の候補者が,同時に比例代表の名簿登載者にもなることができる制度をいう。重複立候補者は,小選挙区で落選した場合でも,比例名簿登載順に,また登載順が同じ場合には,惜敗率(小選挙区での最多得票者の得票数に対する候補者の得票数の割合)の高い順に当選する。ただし,重複立候補者が比例代表で当選するためには,小選挙区での得票数が有効投票総数の10分の1以上でなければならない。
⑤非拘束名簿式比例代表制 政党の議席数は,候補者名と政党名を合計した得票数をドント方式によって配分し,当選者は,その中の得票順によって決まる。これに対して,政党が候補者にあらかじめ順位をつけておき,有権者に候補者の選択ができない方法を,拘束名簿式という。
⑥一票の価値 最高裁判所は,1985(昭和60)年7月17日の判決で,1983年の衆議院議員総選挙で一票の価値に最大4.40倍の格差があったのは,憲法の法の下の平等に反するという違憲判決を下した。しかし,選挙は無効としなかった。1994年,小選挙区比例代表並立制に改められ,最大格差は2.14倍に縮小したが,2倍未満にすることはできなかった。参議院については,その特殊性が認められ,いちおう合憲とされている。
共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(6)
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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