大人のための生涯学習としての民法論証集

民法総則… 4

I 法律行為… 4

II 代理… 6

 有権代理… 6

 無権代理… 7

 表見代理… 9

 消滅時効… 13

 取得時効… 14

物権法… 18

I 不動産物権変動… 18

II 動産物権変動… 24

III 共有… 25

 物権的請求権… 27

担保物権法… 29

 留置権… 29

 先取特権… 31

 質権… 32

 抵当権… 33

 抵当権の発生… 33

 抵当権の効力… 33

 物上代位… 36

 法定地上権の成否… 39

 譲渡担保… 42

 譲渡担保権の設定… 42

 譲渡担保権と第三者… 43

 譲渡担保権の実行… 45

 集合動産譲渡担保… 46

 所有権留保… 47

債権法… 49

I 債務不履行に基づく損害賠償請求… 49

 一般の債務不履行責任… 49

 契約締結前の責任… 52

 信義則上の債務の不履行… 53

II 債権者代位権… 54

III 詐害行為取消権… 55

 保証… 57

V 弁済… 59

 相殺… 60

 債権譲渡… 62

 債務者対抗要件をめぐる問題… 62

 第三者対抗要件をめぐる問題… 63

 譲渡制限特約をめぐる問題… 65

 特殊の債権譲渡… 66

 債権の種類… 68

 同時履行の抗弁権… 69

 解除… 70

 売買契約… 72

 賃貸借契約… 74

XIII 請負契約… 79

XIV 不当利得… 81

XV 不法行為… 84

 一般的不法行為… 84

 特殊的不法行為… 86

 過失相殺… 89

親族・相続法… 91

I 婚姻… 91

II 離婚… 92

III 親子… 93

IV 親権… 94

 相続… 94

民法総則

I 法律行為

・契約解釈

1 一見契約の意思表示が合致しているものの、当事者が表示の内容を異なった意味で理解していた場合、どのように契約を解釈すべきか。

2 表示行為の有する社会的な意味を客観的に明らかにすべきである。取引の安全を保護し、また、通常人なら理解できるはずの意味に解釈する以上、これによって生じる不利益は甘受すべきだからである。

もっとも、当事者の意思が表示の客観的意味と異なる意味で合致している場合は、契約が自ら意思を実現すべく法律関係を形成する手段であることに鑑み、共通して考えていた意味で契約が成立すると解する。

・94条2項の「第三者」と絶対的構成

1 善意者が介在した後の悪意の転得者は、94条2項の主張をなしうるか。

2 同条項の趣旨は、不実の外形を前提に行動した第三者の保護にある。したがって、「第三者」とは、当事者又はその包括承継人以外の者であって、虚偽表示を前提にして新たに法律関係を有するに至った者をいい、第三者の無過失や権利保護要件としての登記は要求されない。

3 取消前に虚偽表示の目的を新たに転得した者は、意思表示が無効となると転得物の権利を失う立場に立つから、「第三者」に当たる。

そして、善意の第三者からの悪意の転得者について、善意者の自由な財産処分に対する事実上の制約を回避する観点から、意図的に善意者を介在させたなど信義則に反する特段の事情がない限り、悪意者は善意者が94条2項によって有効に取得した権利を承継取得する。

・虚偽表示と二重譲渡(法定承継説と順次承継説)(H23年予備)

1 虚偽表示の当事者双方が、その目的物を異なる第三者に二重譲渡した場合、どちらの第三者が優先するか。

2 94条2項の趣旨は、取引の安全と当事者の意思の尊重を調和すべく、「善意の第三者」との関係でのみ意思表示を有効とした点にある。したがって、この者との関係では、本来の権利者から虚偽の名義人に権利が移転する結果、第三者が権利を承継取得することとなる。

他方で、本来の権利者は、この者以外の者との関係では無権利者ではない。本来の権利者からの譲受人は、なお94条2項の「善意の第三者」にあたりうる。

すると、二人の「第三者」は、本来の権利者への対抗関係においては、第三者の無過失や権利保護要件としての登記はともに要求されないものの、両者間の対抗関係においては、一方の権利が認められると他方の権利は認められない関係にあるから、互いに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する。よって、その優劣は登記の有無で決する(177条)。

他方、94条2項の適用により、虚偽表示の目的たる権利が、真の権利者から善意の第三者に移転するものとみなしたうえで、真の権利者を起点とする二重譲渡状態が生じていると解する見解がある。しかし、94条2項の効果として、意思表示の有効に対世効を認めるのは過剰であって、当事者の意思の尊重の観点から妥当でない。

・沈黙による詐欺

96条1項の要件は、①違法な欺罔行為、②錯誤による意思表示、③故意(、2項により④相手方の悪意有過失)である。

③は、他人を欺いて錯誤に陥らせる故意と、錯誤に基づいて意思表示をさせようとする故意の両方を要する。

①について、私人は互いに対等であって、各人が情報収集義務を負うのが原則である。よって、沈黙が欺罔行為に当たるのは、相手方に社会通念上の情報提供義務が認められるのに沈黙したなどの特段の事情がある場合に限る。上記義務の有無は、専門家としての立場や先行する自己の言動に照らし、ある情報を伝えないことによって他人の権利を害することとなることが明らかかどうかで判断する。

・錯誤の要件(R1出題)

1 〇表示とそれに対応する意思が存在するから、表示の錯誤ではないこと。〇当該意思の形成過程に瑕疵があること。〇和解の確定効(696条)

→基礎事情の錯誤による取消95条1項2号に基づく取消の主張が認められるか。

2 要件は、①基礎事情の真実性の錯誤、②①に基づく意思表示、③基礎事情の表示(同2項)、④社会通念上の重要性、抗弁事由として⑤表意者の重過失(同3項本文)、再抗弁事由として⑥相手方の悪意重過失もしくは双方錯誤(同3項1号2号)、である。

③について、取引の安全の見地から、当該事情が法律行為の当然の前提となっていることが明示又は黙示に表示されていたことをいう。

①について、和解契約においては、当事者が争いの対象とし、又は互譲によって決定した事項についての認識については、696条が紛争の蒸し返しを防止していることに鑑み、瑕疵があっても①の充足を排除する。他方で、それ以外の事項については、真実と異なっても法律関係を確定する旨の意思が当事者に認められない以上、①の充足を排除しない。

3 〇契約解釈上、当該基礎事情がないとこのような意思表示はしないということを相手方に受け入れさせられていて、相手方に意思表示を取り消すことのリスクを負わせることも不当でないといえること、〇特に、連帯保証・連帯債務において、他の担保の存在、債務者の資力の有無、債務者の人的性質などの事情は、通常は、保証契約をする縁由に過ぎないから、黙示でも契約の当然の前提とされていたということはできない(契約書等から明示的に当該事情を前提にしているといえるときは別)。他方、債権者が積極的に当該事情について発言して保証人等に意思表示させたときや契約書上に重要事項として明記されていたとき(詐欺に近いとき)は、例外的に契約の当然の前提といえる。〇主たる債務の内容・額(空クレジットなど)、債務者が誰であるかについての錯誤については、保証契約の性質上(446条1項参照)重要な要素といえ、黙示に当然の前提となる事情である。〇重過失は、表意者の属する職業や経歴などの社会的グループ、取引の専門性、調査義務を尽くしたか、相手方の言動や職業上の専門性(後見的立場にあるかどうか)、錯誤の対象となる事情についての専門家の意見対立などを考慮して、その人に社会通念上要求される注意義務の違反の程度が著しいかを指摘。〇重要性については、通常人は、錯誤がなかったら意思表示しないといえる、と一言そえる。表意後、重要性が失われるに至ったときにのみ詳しく論じればよい。

*意思表示をした時点では、基礎事情は真実に反しておらず、後に事情が変わって目的達成が不能になったなどの場合は、錯誤ではなく事情変更の法理が問題になることに注意。

*債権者による保証人への詐欺、または債務者による第三者詐欺も成立する事例に注意。

II 代理

*以下のような事例類型では、使用者責任も問題となることに注意。

ⅰ 有権代理

・利益相反と代理権の濫用

1 利益相反行為(108条2項)は、取引の安全の観点から、行為の外形から客観的に観察して、代理人の利益と本人の利益が明らかに相反するとみられる行為をいう。行為の動機や目的は考慮しない。これにあたる行為は、無権代理とみなされる。

2 本人は、代理権の授与により私的自治を拡張して、自らの利益を図ろうとしたのであるから、代理権の範囲内の行為がされたのであっても、本人の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることを目的としてされた行為については、代理権の濫用と評する。

・代理権授与行為の瑕疵と第三者の関係

1 有効な代理行為(99条1項)された後に、代理権授与の意思表示が制限行為能力・強迫を理由に取り消された場合、代理行為の相手方は本人に履行請求できるか。

2 代理権授与行為が遡って効力を失う(121条)から、代理人の行為は遡って無権代理になる。この場合、すでに代理権が消滅している場合にされたときの規定である112条1項を直接適用できない。

もっとも、同規定は代理権の存続を正当に信頼した相手方と、過去に代理権を与えた本人の利益衡量の趣旨であるところ、一方で、相手方に代理行為が瑕疵なく成立したとの信頼があり、他方で、本人が代理権を過去に与えた場合は、112条1項を類推適用できる。

要件は、①無権代理人と相手方の契約、②顕名、③代理権が授与されたが①の後に取り消されたこと、④取消原因があることを知らなかったこと、抗弁事実として、⑤④につき過失があること、である。

*錯誤・詐欺を理由とする取消しの場合、代理行為の相手方は取消前の第三者であるから、悪意有過失であれば、取消を対抗できる。この場合、要件としては112条の類推適用と同じになるが、通常要件を満たすことはない。もっとも、代理される契約の相手方の詐欺に基づく本人の代理権授与の場合は、第三者詐欺となる。このとき、取消の主張が96条2項の要件の不充足により代理人との関係で認められなくとも、詐欺をした者に代理によって成立した契約上の債務の履行を請求することは、信義則に反する。

・107条と転得者(94条2項の類推適用)

1 自己契約・双方代理・利益相反行為・代理権濫用(107条,108条1項2項)として本人が代理行為の効力を否定し、不動産の転得者に対し、所有権に基づく返還請求をした場合、転得者は94条2項の類推適用を主張して反論できないか。

2 転得者は、この場合、無権利者と取引をしたこととなり、不動産の所有権を取得していないことになる。この場合、通謀や虚偽の意思表示がない場合には、94条2項を直接適用することはできないが、その趣旨は、帰責性ある本人と虚偽の外観を信頼した第三者の利益調整にあるところ、本人に不実の外形作出につき帰責性があり、他方で第三者に保護すべき信頼があれば、同項を類推適用できると解する。

要件は、①虚偽の外観の存在、②①が本人の意思に基づくこと、③第三者性、④虚偽であることについての善意である。

②について、107条等の趣旨は、代理権の範囲内にある行為について保護に値しない相手方との間で無権代理を擬制するところにある。したがって、第三者との関係では、当該擬制の効果は主張できない。つまり、本人の意思的関与が当然に認められ、②は必ず充足する。

なお、107条等により無権代理が擬制される趣旨を、代理人に本来許されていない権限濫用行為について、本人は無権代理行為と同様の保護を受けるべきとされたところにあると解すると、②の充足には、真の権利者による虚偽の外観の作出等が認められることを要することになる。しかし、本人は、私的自治を拡張して自らの利益を図ろうとしたのであって、かつ代理権の範囲内の行為がされたのであるから、代理権濫用のリスクは、本人が負うべきである。したがって、無権代理の本人と同様の保護を受けるべき立場にあるとはいえず、この見解はとりえない。

③については、外形の目的につき法律上の利害関係を有するに至ったことをいう。

ⅱ 無権代理

・無権代理人の本人相続(R2、H28出題)

1 本人を相続した無権代理人は、自らのした無権代理行為の追認を拒絶(113条1項)できるか。

2 無権代理人と本人の地位は併存する[1](896条本文参照)。(地位が融合するとすれば、相続という偶然の事情によって悪意の相手方を利する結果になり不当だからである。)

⑴無権代理人が単独で本人を相続した場合についてみると、本人の立場で追認拒絶することは信義則(1条2項)上許されないから、相続と同時に行為は当然に有効となると解する。

⑵無権代理人のほかに共同相続人がいる場合において、113条1項の追認拒絶権は、無権代理をしていない共同相続人らの利益保護及び法律関係の錯雑を避ける観点から、その性質上共同相続人全員に不可分に帰属しており、その一部を分割して行使できない(264条、251条1項参照)。したがって、他の共同相続人が追認拒絶している限り、無権代理は有効とならない。

他方、無権代理をした相続人以外の相続人全員が追認している場合は、信義則上無権代理人のみが追認拒絶することはできず、有効となると解する。

追認拒絶する共同相続人がある場合、相手方は無権代理人に対し117条1項にもとづく責任追及をするしかない。ただし、追認拒絶は実質的には履行拒絶と解されるところ、不可分債務であるなど履行請求が取引上の社会通念に照らして不能(412条の2第1項)な場合は、損害賠償しか請求できない。履行責任を負うとすると、実質的には追認を強制されるのと変わりないからである。

したがって、相手が善意無過失(117条2項1号2号)である限り、共同相続人は損害賠償責任のみを負う。

・本人の無権代理人相続

1 無権代理人を本人が相続(896条本文参照)した場合は、無権代理の追認を拒絶(113条1項)できるか。

2 無権代理人と本人の地位は併存する(896条本文参照)。(地位が融合するとすれば、偶然の事情によって悪意の相手方を利する結果になり不当だからである。)

そして、本人には何ら帰責性なく、信義則上追認を強制されるいわれはない。よって、本人の立場で追認拒絶ができ、無権代理は当然には有効とならない。

もっとも、一方で、相続人は117条1項にもとづく責任を相続するが、他方で、追認拒絶は実質的には履行拒絶と解され、履行請求は取引上の社会通念に照らし不能と解する(412条の2第1項)。履行責任を負うとすると、実質的には追認を強制されるのと変わりないからである。

したがって、相手が善意無過失(117条2項1号2号)である限り、損害賠償責任のみを負う。

・後見人の追認拒絶(親権者・未成年後見人の追認拒絶を含む)(R3予備)

1 成年後見人に就任(838条1項2号、7条)した者は、就任前に被後見人を無権代理してした行為を追認拒絶(859条1項、2項、824条ただし書)できるか。または、114条の催告をしたのに確答がない場合には、追認拒絶が確定し、相手方は117条1項の責任追及しかできなくなるのか。

2 この場合、無権代理人が本人を相続した場合と違い、追認拒絶を許さないことによって不利益を被るのは、無権代理人ではなく被後見人であるから、同様に考えることはできない。むしろ、後見人は、専ら被後見人の利益のために善管注意義務をもって代理権を行使する義務を負う(869条、644条)。

他方で、後見人において、取引の安全や相手方の利益にも相応の配慮をすべきことは信義則(1条2項)に照らして当然であって、法律行為の代理が当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反する例外的な場合には、そのような代理権行使は許されない。

この理は、後見人が追認の催告に確答を発しない場合も同様であり、追認拒絶が信義則上許されない場合は、当該無権代理行為の効果が本人に帰属することが確定すると解する。

上記場合に当たるかどうかは、①無権代理人と相手方の交渉経緯や法律行為の内容、②追認によって本人が被る経済的不利益と追認拒絶によって相手方が被る経済的不利益の衡量、③無権代理人と後見人の関係、④本人の意思能力についての相手方の認識等を考慮して決する。

3 〇①事実上、後見人就任前から後見人のようにふるまっており、この振る舞いにつき異論はなかったことは、追認拒絶を許さないとする事情。〇②追認拒絶しても不当利得返還義務が生じるなど、追認してもしなくても本人に実質的な不利益がない一方で、追認拒絶によって相手方の利益状況が大きく変わるなどは、追認拒絶を許さないとする事情。〇③家裁の判断は合理的と推認されるので、無権代理人の適格性を基礎づけ、追認拒絶を許す事情。〇④制限行為能力者とされるような意思能力しかないことを知らなかった相手方は、保護に値し、追認拒絶を許さない事情。

ⅲ 表見代理

・名義の使用と表見代理

1 名義の使用を許された者(名義借人)が、名義を貸した者(名義貸人)の名で取引した場合、その効果は誰に帰属するか。

2 相手方が信頼したのは、名義借人と名義貸人との人格の同一性ないし名義貸人との直接の取引の存在であって、代理権の存在ではないから、109条1項(110条)を直接適用できない。もっとも、名義借人のする取引が名義貸人の取引であるかのような外観が作出された場合、これへの第三者の信頼を保護して取引の安全を図るべき点は、代理権の存在を信頼した場合と変わらない。

したがって、109条1項(110条)を類推適用し、要件は、①名義借人と相手方との契約の締結、②顕名(99条1項参照)、③①に先立つ名義貸人による名義の使用許諾、もしくは自己のための取引権限の表示、抗弁事由として、④名義貸人との取引ではないことについて悪意有過失、である。

なお、官庁ないし公人であるからといって経済活動をしないわけではないから、取引の安全及び相手方の信頼の保護の要請があることは変わらず、109条の類推適用を妨げる事情ではないと解する。

*商法総則の名板貸しの論点と実質上被っている。

・非輾転流通型の白紙委任状を被交付者自らが濫用的に補充した場合の表見代理109条

1 AがBに交付した(とくに印鑑証明書の発行等の)白紙委任状の表示をBから受けた相手方は、109条1項に基づいて本人Aに対し履行請求できるか。

2 要件は、①代理行為者と相手方との契約締結、②顕名、③相手方に対する代理権授与の表示、抗弁事由として、④代理権がないことについて善意無過失、である。

③は、交付の趣旨を問わず、本人が白紙委任状を代理行為者に任意に交付し、これを補充し提示されたときは、本人による外部への表示行為があったといえるから、充足する。

また、代理権授与表示は観念の通知であるが、相手方との法律関係の形成を実際上可能にする点では意思表示と異なるところはない。よって、意思表示に関する諸規定が類推適用されうる。

3 〇③→代理行為が資格徴憑(委任状、印鑑証明証、実印、権利証等)で示された代理権の範囲内の行為である。代理権の存在を通常信じてよい事情がある。

〇④→資格徴憑(委任状、印鑑証明証、実印、権利証等)があるから善意と認められるが、不審事由(利益相反関係、取引経緯の不自然さ、取引慣行、他人任せにするのが稀な重要な処分、本人・代理行為者間に一定の人的関係があって資格徴憑の冒用がされやすい等)があるから、真に代理権が授与されたことの調査義務(取引の異常性、調査の難易度、相手方が専門家かどうかに応じた、本人への照会等の確認措置をする義務)が生じた。しかし、これを怠ったたから、過失が認められる。

・非輾転流通型の白紙委任状を被交付者からの転得者が補充した場合の表見代理109条

1 AがBに交付した委任状の提示をCから受けた相手方は、109条1項に基づいて本人Aに対し履行請求できるか。

2 要件は、①代理行為者と相手方との契約締結、②顕名、③相手方に対する代理権授与の表示、抗弁事由として、④相手方が代理権がないことについて善意無過失、である。

③は、輾転流通することを常態としない白紙委任状が転得者により提示された場合は、だれが行使しても差し支えない趣旨で交付した場合は別として、充足しない。なぜなら、109条1項は、代理権授与の表示行為をする認識が本人に認められる限度で第三者を保護する趣旨であるところ、本人は受任者の手で委任事務が処理されることを前提に委任状を交付したのであるから、受任者名義が白地だったとはいえ、本人の全く関知しない転得者に対する代理権授与の表示行為をする認識があったと解釈することはできないためである。[2]

もっとも、濫用の程度が軽微で、本人が当初覚悟していた結果が生ずるだけの場合は、本人保護の必要は小さく、取引の安全の要請もあるから、例外的に③をみたすと解する。

3 〇③濫用の程度が軽微→〇代理権授与を受けていない転得者が代理行為をしたが、委任事項欄を濫用しなかった。〇本人が相手方に渡すべく代理行為者に託した委任状が、さらに代理行為者に託されており、相手方と代理行為者がともに本人の信頼を受けた特定他人であって同視されうる。

〇④→資格徴憑(委任状、印鑑証明証、実印、権利証等)があるから善意と認められるが、不審事由(利益相反関係、取引経緯の不自然さ、取引慣行、他人任せにするのが稀な重要な処分、本人・代理行為者間に一定の人的関係があって資格徴憑の冒用がされやすい等)があるから、真に代理権が授与されたことの調査義務(取引の異常性、調査の難易度、相手方が専門家かどうかに応じた、本人への照会等の確認措置をする義務)が生じた。しかし、これを怠ったたから、過失が認められる。

・署名代理

代理人が直接本人名で権限外の行為をした場合、相手方は本人自身による行為と信頼するところ、取引の安全の保護の観点からは、代理権に対する信頼と変わりない。

したがって、110条(109条)を類推適用が可能である。

・110条における基本代理権・正当理由・転得者

1 〇基本代理権が事実行為、公法上の行為、法定代理についてのもの。〇取引の相手方ではない転得者による主張

→110条の表見代理の成立を主張して、本人に履行請求できるか。

(2 110条の「第三者」とは、無権代理行為の直接の相手方に限られる。転得者の信頼の対象は、前主が権利者であることであって、代理権の存在ではないからである。)

3 要件は、①代理行為者と相手方との契約締結、②顕名、③相手方が代理権を有すると信じたことにつき正当な理由(善意無過失)、④①に先立つ基本代理権の授与、である。

なお、

④の代理権は法律行為の代理権であることを要し、事実行為や公法上の行為の代理権では足りない。本人が法律関係を変動させようとしていないのに責任を負わせるのは、相手方及び取引の安全の保護に偏するからである。

もっとも、登記手続申請行為等、私法取引の一環としてなされる公法上の行為の代理権は、法律関係を変動させようとするのと同視でき、例外的に基本代理権となりうる。

④について110条は、有効な代理権の外観を作出した本人に帰責性がある点に根拠するところ、法定代理の本人である制限行為能力者は、自ら代理権を発生させたわけではなく、およそ帰責性を認めることができない。したがって、法定代理権は「権限」たりえない(なお、109,112条における代理権が法定代理権では足りないのは、文言上明らかであり、これとの均衡を図るべきである。)。

3 〇③→資格徴憑(委任状、印鑑証明証、実印、権利証等)があるから善意と認められるが、不審事由(利益相反関係、取引経緯の不自然さ、取引慣行、他人任せにするのが稀な重要な処分、本人・代理行為者間に一定の人的関係があること等)があるから、真に代理権が授与されたことの調査義務(取引の異常性、調査の難易度、相手方が専門家かどうかに応じた、本人への照会等の確認措置をする義務)が生じた。しかし、これを怠ったたから、過失が認められる。

・日常家事債務と110条の類推適用(R2出題)

1 夫婦の一方が夫婦名義で日常家事の範囲を超える行為をしたとき、相手方はどのような請求ができるか

2 761条は、実質的には、日常家事債務の処理の便宜の観点から、夫婦相互に日常家事に関する法律行為についての代理権を与えた規定である。そして、「日常の家事」は、夫婦が共同生活を営むにおいて通常必要な行為をいい、夫婦の社会的地位、職業、資産、収入、地域的慣習、法律行為の客観的性質・種類等から判断する。

したがって、日常家事の範囲を超える法律行為については、原則として、他方配偶者にはその効果が帰属しない。

もっとも、相手方の信頼を保護する観点から、日常家事代理権を基本代理権として110条を類推適用し、①契約の締結、②顕名、③①が日常家事の範囲内にあると相手方が信じたこと、④③につき善意無過失(「正当な理由」)の4要件が満たされるときは、他方配偶者にも法律行為の効果が帰属するものと解する。

・無断処分行為の追認

1 非権利者による他人の権利の処分行為を、権利者が後に追認したとき、処分の効力は生じるか。生じるとして、第三者にも当該処分の効力を対抗できるのか。

2 116条は、本人が無権代理行為の当事者となる旨の追認について定めており、もともと有効な処分行為の効果を本人が引き受ける旨追認した場合は、同条を直接適用できない。もっとも、自己の法律関係の私的自治的決定であり、第三者の地位を保護すべきとの116条の趣旨は及ぶ。

したがって、無断処分行為の追認については、116条を類推適用して、処分のときに遡って権利者に効力が生じ、かつ、追認前の第三者には対抗できないと解する。

とくに他人物売買等(561条、559条)では、買主は、早くとも売主による権利取得時に権利を取得するのであって、無権代理の相手方の遡及効への期待ほど保護に値しない。したがって、他人物売買に対し権利者が追認したときは、契約当事者間に116条本文の「別段の合意」があったと見て、権利者の追認時に権利者への効力が生じると解する。

Ⅲ 消滅時効

・時効の援用権者の範囲

1 この者は、145条カッコ書きにいう「権利の消滅について正当な利益を有する者」として消滅時効の援用し、相手方の請求を拒むことができるか。

2 上位規範

「当事者」を時効によって直接利益を受ける者とし、法律関係の直接性と可分性から判断する見解があるが、「正当な利益を有する者」との文言解釈にはならない。

そこで、145条の趣旨にさかのぼると、このような私的自治の原則に反し他人の権利関係への介入を許した趣旨は、自己の権利を放置した者よりも、当該放置により損害を被る第三者を保護すべきとした点にある。

したがって、「正当な利益を有する者」とは、①他人の法的地位を動かさなければ自らの法的地位を保全できず、かつ②援用によって権利者が失う財産権と同等の利益を直接受ける者をいうと解する(所有権の共同相続人は、自己の相続分の限度で①②を充足するから、その限度で取得時効を援用できる。)。[3]

3 下位規範

⑴詐害行為の受益者は、①詐害行為取消権行使の直接の相手方とされる以上、債務者が被保全権利にかかる債務の消滅時効を援用しないまま取消権が行使されると、債権者との間で詐害行為が取り消され、同行為によって得ていた利益を失う関係にある反面、②詐害行為取消を主張する債権者の債権が消滅すれば、上記利益喪失を免れるという直接の法的利益を受けることができ、また、当該利益は債権者の被保全債権と同等か、それを上回る(424条の8第1項参照)。したがって、「正当な利益を有する者」として時効援用権を認める。

もっとも、時効の完成を阻止する措置をとった債権者に不測の不利益を与えるのを避ける観点から、債務者が債務を承認(152条1項)した場合は、時効の更新の効力が受益者に及ぶ(付従性類似の効果)。(なお、153条は、法的行為は他人を益しも害しもしないのが原則であることに基づく規定であって、このような例外を排除する趣旨ではない。)。

⑵後順位抵当権者は、①先順位抵当権にかかる被担保債権の消滅時効を援用できないとしても、目的不動産の価格から従前の順位に応じて弁済を受けるという後順位抵当権者の地位は害されない。また、②先順位抵当権の被担保債権が消滅すると順位が上昇し、配当額が増加しうるものの、これに対する期待は反射的利益にすぎず、債務者の債務免脱に伴い間接に受けうるに過ぎない。よって、先順位抵当権者の債権と同等とはいえない。

したがって、「正当な利益を有する者」ではなく、援用は認められない。

⑶建物賃借人は、①建物賃貸人による建物の敷地の取得時効を援用できなければ、賃借権を実質的に失い、建物退去・土地明渡の義務を負う。もっとも、②援用によって土地所有者が失う所有権は、土地の排他的支配権である一方で、建物賃借権は建物を使用収益することにつき債権的効力しか有しておらず、同等とはいえない。したがって、「正当な利益を有する者」ではなく、建物賃貸人の敷地についての取得時効の援用は認められない。

・時効完成後の債務の承認

1 時効完成(166条1項)後に、援用権者(145条)が時効完成を知らずに弁際の猶予を求める等、債務を承認(152条)した場合、時効の援用はできないか。

2 時効完成後の債務の承認行為を、時効完成を知ってした時効の利益の放棄(146条)と推定することは不自然である。

他方、このような承認がなされると、債権者においてはもはや時効の援用をしない趣旨だと信頼する。したがって、(債権者が保護に値しないと認めるべき特段の事情がない限り、)信義則上(1条2項)時効援用は許されない。

・保証人の主たる債務者の相続と、保証債務の履行による時効の更新

主たる債務を相続した保証人は、保証人としての地位と主たる債務者としての地位を兼ねる。また、保証債務の付従性に照らすと、その履行は、主債務の存在を当然の前提としていると推認される。

よって、主債務の相続を知りながらした弁済は、保証債務の弁済としてした場合であっても、債権者に対し、主債務の承認(時効の利益放棄)の意思を包含するといえ、特段の事情がない限り、主債務の消滅時効を更新させる効力が生じる。

Ⅳ 取得時効

・時効取得の要件

要件は、①自己のためにする意思、②平穏公然、③20年間の行使(162条1項参照)である。①②については、186条1項により推定され、③は、同2項により占有開始時と請求時の両時点での占有の証明で推定される。

または、①自己のためにする意思、②平穏公然、③10年間の行使、④行使時の善意、⑤無過失(162条2項)である。①②③は、186条1項により推定される。⑤は、同2項により占有開始時と請求時の両時点での占有の証明で推定される。

⑤について、最初の占有者の占有開始時点において無過失であれば足りる。同一人の占有継続の場合との均衡を図る必要があるからである。

・賃借権の時効取得(平成29年出題)

1 他人物賃貸借において、所有権者による返還請求権に対し、賃借人は賃借権の時効取得(163条)を援用(145条)して、これを拒むことはできるか

2 取得時効の制度趣旨が永続した事実関係の尊重にあるところ、不動産賃借権は債権ではあっても、占有継続する権利であるから、163条にいう「財産権」に含まれ、時効取得は可能と解する。

(要件を述べたうえで)所有者が時効完成を阻止する機会を確保する観点から、①は(毎月の賃料の支払いなど)賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていること、③は不動産の継続的占有という外形的事実を要する。

・賃借権の再度の時効取得と抵当権の対抗関係

1 賃借権の時効期間完成後、その対抗要件を備える前に、目的不動産に抵当権が設定されその旨の登記がされた場合、競落人による所有権に基づく明渡請求に対し、賃借権の再度の時効取得により抵当権が消滅したとして、これを拒めるか。

2 時効完成(162条1項2項)により所有権を得た者は、所有権移転登記をしないあいだに原所有者から抵当権の設定を受けた者がある場合、原則として、抵当権設定登記時から起算してさらに時効期間が経過することにより、上記占有者が当該不動産を時効取得する結果、抵当権は消滅する。占有者と抵当権者との間には排他的な物権相互の対立関係があるからである。

他方で、時効完成により賃借権を得た者についてみると、抵当権は非占有権である一方、賃借権は用益を目的とする債権であって、排他的な物権相互の相容れない対立関係がない。よって、賃借権者を所有者と同等に解することはできず、賃借権の再度の時効取得によって抵当権は消滅しない。したがって、賃借人は、抵当権設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ、競落人に対し賃借権を対抗できない(177条)。

・自己物の時効取得(平成24年出題)

1 二重譲渡で登記を具備した第三者から所有権に基づく返還請求をされた場合に、未登記の譲受人は、自己物を時効取得したと主張できるか。/抵当不動産の第三取得者が、抵当権者に対し、自己物を時効取得したことをもって抵当権の消滅を主張することができるか(397条、162条1項2項)。

2(要件を述べたうえで)時効制度の趣旨は、永続した占有の事実状態を実体法上の権利関係に高めるところにある。したがって、永らく占有した自己物の取得時効を援用することは、上記趣旨に適うといえる。また、条文上「他人の物」とされているのは、通常自己物の時効取得が無意味であるからであって、これを禁止する趣旨ではない。以上から、「他人の物」は要件にはならず、自己物の時効取得も可能である。

3 397条は、設定者等の被担保債権の責任を自ら負った者以外の者についての規定である。そこで、抵当権の負担を容認したうえでこれを譲受けた者は、設定者と同視できるから、公平の観点から、397条の適用がないと解する(以下、2と同じ)。

・「所有の意思」がないことの証明による時効取得の阻止

1 本問で、相手方に「所有の意思」がないとの主張(162条1項2項)。は認められるか。

2 (要件を述べたうえで)①は、法的安定性を保護する観点から占有者の内心の意思ではなく、㋐占有取得原因から客観的に見て所有の意思のない権原に基づく占有であること、あるいは、㋑所有者であれば通常はとらない態度を示し、もしくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的に見て占有者が他者を排して占有する意思が認められないときは、推定が覆される。

3 〇他主占有事情として決定的なもの:賃料支払、解除・取消・無効主張をしたこと、管理の委託を受けたこと(、自然中断に近いケース164条)

〇他主占有事情になりうるもの:登記の不存在、権利証・印鑑等の不保持、これを渡すよう尋ねないこと、固定資産税の不払い、自分では修理しない、共有分割協議の依頼、占有していることにつき異議があったこと、管理しておらず収益も独占していない、占有が秘密裏にされており尋ねてもはっきり答えないこと

〇他主占有事情を打ち消すもの:身分関係や信頼関係上、はっきり権利関係をつけられないという事情があるときは、異常な態度ではない。

・相続の新権原性(R4予備)

1 他主占有者の相続人は、独自の占有に基づき占有物を時効取得したとして、所有権に基づく返還請求を拒むことができるか。

2(162条2項の要件を述べたうえで)①は、法的安定性の保護の観点から、占有取得の原因の客観的性質から判断されるところ、これを他主占有者の相続人について見ると、一方では、相続により当然に占有は観念上移転し、他方で、187条1項の「承継」には包括承継(896条本文)も含むから、自己の占有のみを主張できるが、その占有の性質は承継される。したがって、被相続人が他主占有者ならば、相続人の占有も原則として他主占有である。

もっとも、㋐相続人が物の事実的支配による占有を開始し、㋑当該支配が外形的客観的に見て相続人独自の「所有の意思」に基づくものと認められる場合は、相続は、185条の「新たな権原」にあたり、自主占有への転換を認める。外形的事実が存在すれば、相手方は時効の進行を妨げる措置をとることもできる一方、法的安定性を害しないである。

なお、従来の占有状態の変更を主張するのであるから186条1項の推定は受けず、時効取得を主張する側が①を主張立証する。②③は、186条1項により推定される。⑤は、同2項により占有開始時と請求時の両時点での占有の証明で推定される。

3〇自主占有事情として決定的なもの:所有権に基づく主張をしていたこと(?)、共有物分割協議をした〇自主占有事情になりうるもの:登記の存在、権利証・印鑑等の保持、固定資産税の納付、自分で修理する、占有していることにつき異議がなかったこと、管理の専行、収益の独占〇身分関係や信頼関係上、はっきり権利関係をつけられないという事情があるときは、他主占有をうかがわせる事情があっても、異常な態度ではない。

物権法

I 不動産物権変動

・「第三者」の範囲

1 上位規範

177条の趣旨は、物権変動の公示により、同一不動産上に正当な権利・利益を有する第三者に不測の損害を与えないようにするところにある。したがって、「第三者」は、当事者及びその包括承継人以外の者であって登記の不存在を主張する正当な利益を有する者と限定解釈する。

2 下位規範・客観的第三者性

⑴賃借人

不動産の譲受人等からの所有権の主張を認められると、不動産の継続的占有権原たる賃借権を失う立場にあるから、上記正当な利益を有しており、「第三者」である。また、不動産の譲受人からの賃料請求に対しては、賃借人には履行の相手を確知する利益があるから、譲受人が登記を得ない限り、応じる必要はない(605条の2第3項)。

⑵差押債権者・配当加入債権者

一方で、相手方の登記不存在を主張できれば、当該不動産について具体化した債権回収の支配権能によって優先弁済を受けることができ、他方で、主張できなければ、自己の債権を実現できなくなる。したがって、上記正当な利益を有しており、「第三者」である。

⑶持分権譲渡の他の共有者

相手方の登記不存在を主張できれば、共有物の管理(252条1項)等の効力を維持でき、主張できなければ、共有物の権利行使に制約を受ける。したがって、上記正当な利益を有しており、「第三者」である。

⑷一般債権者

いまだ強制執行手続に及んでおらず、債権回収につき、事実上の期待しか有していない。したがって、上記正当な利益は有せず、「第三者」に該当しない。

⑸不法行為者・不法占拠者

不動産につき何の権利も有していない。弁済先確知の利益があるということもできるが、違法行為に基づき債務を負った者に対し、そのような利益を法律上保護する必要性はない。したがって、上記正当な利益は有せず、「第三者」に該当しない。

⑹実質的無権利者

登記のみを有している者の法的地位は、相手方の物権変動の効力を否定できても、できなくとも、何も変わりない。したがって、上記正当な利益は有せず、「第三者」に該当しない。

⑺受寄者

寄託者から請求があればいつでも目的物を返還する義務があり(662条1項)、物の占有につき固有の権利は有しない。したがって、上記正当な利益は有せず、「第三者」に該当しない。

3 下位規範・主観的第三者性

⑴単純悪意者

177条には善意との文言がないこと、登記の客観性画一性を保護すべきこと、自由競争の枠内にある者であることから、「第三者」たることを妨げられない。

⑵背信的悪意者(令和4年出題)

①実体法上の物権変動について悪意であり、かつ②登記欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反する者は、自由競争の範囲を逸脱しているから、上記正当な利益がなく第三者から排除される。

ところで、この者からの転得者は、無権利者から物権取得行為をしたわけではない。背信的悪意者であることは取引の無効をきたすものではなく、登記欠缺を主張することがその取得の経緯に照らして信義則上許されないにすぎないからである。したがって、転得者が「第三者」から排除されるかどうかは、登記欠缺者との関係で相対的に決すべきである。

他方、善意者からの悪意の転得者は、背信性が認められても、善意の第三者の財産処分の自由への事実上の制約を回避する観点から、善意者が有効に取得した権利を承継取得する。もっとも、意図的に善意者を介在させたなど、善意者の保護を図る必要性が低く、信義則に反する特段の事情がある場合は、権利を取得しない。

(背信性についてのあてはめ)〇近親者、会社とその取締役など、売主と第2買主が同一視できる場合。〇取引の仲介者など、不登法5条に準ずる者。〇他人の利益を害して不当に利益を得ようとする者。〇矛盾的態度をとる者。〇利益衡量を要する場合に注意。〇キーワードは、登記が経由されていないことを奇貨として不動産を買い受けて登記を経由した。

⑶通行地役権(280条参照)の設定された承役地の譲受人

地役権者は、土地譲受人の主張が認められれば土地利用権を失い、認められなければこれを保持できるから、譲受人は「第三者」である。もっとも、一般に、実体法上の物権変動について悪意であり、かつ登記欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反する者は、自由競争の範囲を逸脱しているから、背信的悪意者として「第三者」から排除される。

もっとも、通路等が開設され、要役地の所有者が何らかの通行権を有していることが容易に推測され、(この者への照会等により)これについて容易に調査できる場合は、譲受人が地役権設定につき悪意でなくとも、何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲受けたといえる。よって、地役権設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反する。他方、譲受人が、通路としての使用は無権原でされていると認識しており、かつ地役権者の言動がその認識の原因の一端をなしているといった特段の事情がある場合は、信義に反するとまではいえない。

以上、承役地の譲渡時に、①要役地の所有者による継続的な通路としての使用が、通路の位置(公道に通じているかどうか)、形状(アスファルト舗装、排水溝)、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、②譲受人がそのことを認識し又は認識できたときは、③特段の事情がない限り「第三者」から排除される。

なお、この理は、通行地役権が所有権や抵当権と両立可能で、かつ通行地役権が日常生活上不可欠である一方で、所有者や抵当権者の被る負担が小さいことを理由に、信義則に照らして当該負担を甘受すべきとしたものだから、通行地役権及び通行目的の賃借権を超えては妥当しないと解する。

・取消前の第三者と物権変動

1 所有者の所有権に基づく返還請求に対し、売買等による原告の所有権喪失を主張するものの、当該売買は取り消された(96条1項等参照)と反論を受ける。この場合、被告は96条3項等により反論できるか

2 96条3項等の趣旨は、取消の遡及効(121条)によって害される第三者を保護する点にある。したがって、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって、取消前に新たな利害関係を有するに至った者をいい、物権の転得者であることや対抗要件の具備は要しない。

よって、善意無過失であれば、この者との関係では当該法律行為は有効である。

・取消後の第三者と登記

1 原告は所有権に基づく返還請求に対し、被告は、売買等による原告の所有権喪失を主張するものの、当該売買は取り消されている(96条1項等参照)と抗弁を受ける。この場合、被告は177条により反論できるか

2 177条は、文言上、すべての物権変動について適用されうる。そして、意思表示の取消の遡及効(121条)は、法的な擬制に過ぎず、実質的には復帰的物権変動が観念できるところ、意思表示の相手方を起点とする二重譲渡類似の関係が生じたといえる。したがって、意思表示を取消した者と取消後にその目的物を取得した第三者とは対抗関係に立つ。[4](以下、177条の解釈と背信的悪意者排除論。)

・解除と登記

1 解除前の第三者

545条1項ただし書きの趣旨は、解除の遡及効(545条1項本文)によって害される第三者を保護する点にある。他方、第三者は、対抗要件を具備しなければ権利保護の資格に欠ける。したがって、「第三者」とは、当事者又はその包括承継人以外の者であって、解除前に利害関係を有するに至り、かつ対抗要件を具備した者をいう。

また、悪意者も「第三者」に含まれる。瑕疵のない契約を前提に取引することは合理的な行動であって、主観的態様により保護の必要性が変わることはないからである。

2 解除後の第三者

(取消後の第三者と同じ。)

*合意解除は、契約である以上、当事者以外には遡及効を認めないのが学説。判例は、解除をする当事者の合理的意思を尊重して遡及効を肯定し、法定解除と同様に処理。

・相続放棄と登記

1 相続放棄(896条本文、938条)をした者の債権者であって共同相続登記及び差押登記を経由した者に対し、相続人は自らの権利を対抗できるか(177条)。

2 939条が相続放棄の遡及効を定め、かつ909条ただし書のような第三者保護規定を設けなかった趣旨は、取引の安全よりも相続人の意思の尊重を優先したところにある。また、915条1項は、一般承継を強制しないこととして、相続人の利益を保護している

したがって、相続放棄の効力は絶対的であり、何らの公示なくして、何人に対してもその効力が生じる。つまり、放棄者から権利を取得した者との関係でも、放棄者ははじめから相続人にならなかったこととなる結果、この者は無権利者であって、177条の「第三者」に含まれない。他の相続人は登記なくして第三者に対抗できる。

(また、実質的に見ても、相続放棄の期間制限の短さ(915条1項)、法定単純承認(921条)、家庭裁判所への問い合わせも不可能でない(938条参照)ことに照らすと、遺産分割の場合と比べ、第三者を保護する必要も乏しい。)

*相続欠格・廃除判明前に欠格者から転得した第三者に対しても同様に、相続人は、無権利者の法理により登記なくして対抗できることとなる。

・遺産分割前の第三者と登記

1 遺産分割前に目的物を譲受けた者や差押さえた者は、相続人からの所有権に基づく返還請求に対し、909条ただし書にもとづき自己の権利を主張できるか。

2 909条ただし書の趣旨は、分割の遡及効により害される第三者を保護する点にある。他方、第三者は、対抗要件を具備しなければ、権利保護の資格に欠ける。したがって、「第三者」とは、相続開始後遺産分割前に利害関係を有するに至った者であって、対抗要件を具備した者をいう。

なお、分割協議の成立前であることにつき善意である必要はない。909条の文言や、遺産分割の協議の帰趨について予測することが困難な以上、主観的態様によって保護の必要性が変わるわけではないからである。

*遺産分割後は899条の2第1項が適用。

*分割前に相続人の一人が持分権を譲渡すると、遺産分割の対象ではなくなるから、909条の適用自体がない。

・遺贈と登記

1 遺贈(985条1項)した財産につき対抗要件を具備する前に相続人が第三者に譲渡して対抗要件を備えた場合、受贈者が第三者に対してする所有権に基づく返還請求に対し、177条をもって自己の権利を主張することができるか。

2 177条は、その文言から、遺贈にも適用される。そして、遺贈の目的物の相続人による譲渡は、実質的に見て被相続人を起点とする二重譲渡と同じ利益状況といえる。したがって、受贈者と第三者の優越は、登記の前後をもって決する。

・取得時効と登記

1 (⑴~⑹の事例類型を指摘しつつ)所有権に基づく返還請求に対し、取得時効の完成を主張し援用してこれを拒むことはできるか。

2(取得時効の要件が満たされていることを確認)。

3 177条は、文言から、取得時効に伴う物権変動(144条)についても適用されるところ、援用権者は177条により権利を対抗できるかが問題となる(以下、177条の解釈)。

⑴時効完成時に目的不動産につき物権を有する者は、当事者と同視される。現実に物権を失うのは、時効完成時の権利者だからである(占有開始時や時効援用時の権利者ではない)。したがって、援用権者は、登記なくして権利を対抗できる

⑵時効完成後に目的不動産につき権利取得行為をした者(以下、第三取得者)は、当事者又はその包括承継人ではない。また、時効の効果が認められれば権利取得の可能性を失い、認められなければ権利取得の可能性が残るため、「第三者」にあたる。したがって、援用権者は、登記をしなければ第三取得者に権利を対抗できない

⑶取得時効の起算点は、占有開始時に固定され、援用者により任意に変更できない。これを認めると、第三者を常に完成時の物権者とすることができてしまうからである。

(時効完成後に原所有者が抵当権を設定・登記し、その後占有者が占有開始時から起算した時効を援用して所有権移転登記を経た場合、抵当権設定登記時点に起算点をずらして抵当権につき時効期間が経過したと主張することは許されない。なお、この判例は、抵当権の存在を容認したといえる特段の事情があるといえるので、設定登記時から起算しての再度の時効取得を主張することはできないとされたと考えられる。)。

⑷第三取得者が登記をしたときから、さらに取得時効の完成に必要な期間占有を継続した場合は、その再度の時効取得について、第三取得者は完成時の所有者であり、登記なくして時効取得を対抗できる。新たに他人の物の占有が始まったといえるからである。

(時効完成後に所有権移転登記がされないまま、原所有者により抵当権が設定され登記された場合、時効取得者が抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、抵当権設定登記時から起算して時効期間が経過することにより不動産を時効取得する結果、抵当権は消滅する。設定登記時から占有者と抵当権者との間には権利の対立関係が生じ、占有者は将来の競落人の物の占有を開始したといえるからである。)

(時効完成後・所有権移転登記前の抵当権設定登記のあと、つづけて後順位抵当権が設定・登記され、または原所有者からの譲受人が現れたとき、第2抵当権者はもともと第1抵当権に従属的立場にあり、譲受人は競売によって権利を失うため、第1抵当権設定登記時点を起算点として時効期間を計算してよい。すると、第2抵当権者・譲受人は、「当事者」として権利を失うことになる。他方、最初の占有開始時点から起算し、取得時効完成後の第三者と扱うのが公平かにみえるが、そうすると⑶のテーゼに抵触するから、妥当でない。民法の基礎p111。)

⑸一般に、実体法上の物権変動について悪意であり、かつ登記欠缺を主張することが信義則(1条2項)に反する者は、自由競争の範囲を逸脱しているから、上記正当な利益がない背信的悪意者として、「第三者」から排除される。

もっとも、取得時効の成否を認識判断することは事実上ありえない。したがって、㋐第三取得者が譲受けた時点で占有者が多年にわたる占有継続の事実を認識し、かつ㋑登記不存在を主張することが信義則(1条2項)に反する場合は、第三者性を否定する(この者からの転得者があるときは、背信性の相対的判断について論証。)。

・94条2項の類推適用(令和4年、平成28年出題)

1 不実の登記を信頼した第三者の保護を図ることはできないか。

2 94条2項の類推適用の可否

通謀や虚偽の意思表示がない場合には、不実の外観があっても、94条2項を直接適用することはできない。もっとも、同項の趣旨は、権利者と虚偽の外観を信頼した第三者の利益衡量にあるところ、権利者に不実の外形作出につき帰責性があり、他方で第三者に保護すべき信頼があれば、同項を類推適用できると解する。

要件は、①虚偽の外観の存在、②①が権利者の意思に基づくこと(帰責性)、③第三者性、④虚偽であることについての善意、である。

①について、他人名義の移転登記だけでなく、保存登記や登記の表題部、固定資産課税台帳上の所有名義の存在でも充足する。所有権帰属の外形の表示である点では変わりないからである。

②については、虚偽と知りながら明示又は黙示に承認し、もしくはあえて放置したと認められれば、充足される。権利者が自ら虚偽の外観を作出したのと同視できるからである。なお、この点につき不実の登記名義人の知不知は問題にならない。

③については、外形の目的につき法律上の利害関係を有するに至ったことをいう。また、取消前に虚偽表示の目的を新たに転得した者は、無効とされると転得物の権利を失う法的立場に立つから、「第三者」に当たる。そして、善意の第三者の財産処分の自由への事実上の制約を回避する観点から、この者からの悪意の転得者は、意図的に善意者を介在させたなど信義則に反する特段の事情がない限り、善意者が94条2項によって有効に取得した権利を承継取得すると解する。

3 110条の重畳適用の可否

権利者が虚偽の外観の存在を知らず、②が充足されない場合には、110条の重畳的類推適用を検討する余地がある。すなわち、権利者の不注意な行動により他人に許した法的地位の範囲を超えて他人が虚偽の外観を作出したときは、越権代理と類似するから、②‘外観作出、承認またはあえて放置したのと同視しうるほどの重大な不注意があれば、権利者の帰責性を認める。このとき、第三者には、④‘善意無過失が要求される(110条参照)。

4 ②→不実登記を認識しつつ長期間放置し、不実の外形を利用して抵当権を設定し、登記名義人の占有・管理の専行を容認し、不動産についてほとんど関心を払わないなど。

II 動産物権変動

・占有改定、指図による占有取得と即時取得(R3出題)

1 問題提起

所有権に基づく返還請求に対し、無権利者から目的動産を譲り受けた者は、即時取得(192条)の成立をもってこれを拒むことができるか

2 規範

192条の要件は、①取引行為、②動産の占有移転、及び占有開始時における③平穏公然④善意⑤無過失である。③④は186条1項により推定され、⑤は188条により推定される。

②について、同条の趣旨は、公示性に乏しい一方で流通性が高い動産取引の性質に着目し、占有による権利の外観を信頼して、動産を支配するに至った者を保護するところにある。したがって、一般外観上占有状態に変更を生ずる占有移転である必要がある。

3 あてはめ

⑴これを占有改定による引渡についてみると、占有状態の外観にも何ら変更がなく、占有取得者は支配を確立したともいえないから、占有改定では②を充足しない。

⑵これを指図による占有移転についてみると、直接の利害関係を有しない現実の占有者に照会することで占有移転が明らかになる蓋然性が高く、公示作用が弱いとはいえないから、占有状態の変更の外観があるといえる。したがって、所有者は物支配力を相当程度失い、譲受人は物支配を確立したといえ、②を充足する。

⑶これを、無権利者から動産を譲受け、占有改定による引渡しを受けた者が、さらに別の者に譲渡して指図による占有移転をした場合について見ると、終始占有が外観上移転しておらず第三者を巻き込んだ占有移転が認められない。そして、現実の占有者は権利者との関係で利害関係を有しており、権利帰属についての照会に信用性が認められないから、公示性に欠ける。そのうえ、権利者の物支配が喪失したということもできず、指図による占有移転を受けた者が支配を確立したということはできない。

以上、②の充足を認める理由を欠き、即時取得は成立しない。

4 〇代理占有による取得の場合、代理占有者との契約+代理占有者の占有取得。〇代理占有者から取得する場合は、相手方の代理占有関係+代理占有者による占有取得+代理占有者からの占有取得。〇悪意は、前主の権利を疑っていた場合も含む。〇過失は重過失といえる場合にのみ認定(取引慣行に反する、明らかな疑念事由があるのに調査しなかったなど)。

・即時取得と盗品等に関する特則(R3出題)

1 被害者による所有権に基づく返還請求に対し、即時取得(192条)の成立を理由にこれを拒んだ。これに対し193条、194条の回復請求をする場合、これに合わせて、190条1項に基づき、回復までの間の使用利益相当額の返還請求ができるか(なお、88条2項に照らし、使用利益と果実は同視される。)。

2(仮に即時取得が成立しても、193条の適用がある場合には、その文言から、所有権は2年間、被害者のもとに残ると解される。すると、少なくとも回復請求後に生じた盗品等の使用利益を占有者は返還すべきこととなるかにみえる。もっとも、)194条の趣旨は、代価弁済の提供があるまで盗品等の引渡しを拒むことにより、占有者と被害者等との保護の均衡を図る点にある。そして、被害者等は、代価を弁済して盗品等を回復するか、回復を諦めるかの選択権があるのに対し、占有者は、被害者等が回復を諦めた場合は、所有者として占有取得後の使用利益を享受しうるのに、代価弁済を選択した場合には使用利益を喪失するというのでは、占有者の地位が不安定になり、同条の趣旨に反する。また、弁済される代価は利息を含まない以上、占有者に使用収益権を認めるのが公平である。

したがって、占有者は代価の提供があるまで盗品等の使用収益権限を有しており、被害者等は、使用利益の返還を請求できない。

なお、上記趣旨から、194条は抗弁権のみならず独立の請求権としての代価弁償請求権を定めたものといえる。したがって、被害者等が代価を弁償して盗品等を回復することを選択した場合は、代価支払前に占有者が任意に占有物を返還した場合であっても、なお代価を請求できる。

III 共有

・共有者間の明渡請求、使用料請求の可否(使用貸借の推認)

1⑴遺産共有は249条以下の共有の規定の適用を受ける(898条2項参照)。そこで、相続人の一部がする使用収益に対し、他の相続人は持分権に基づく明渡請求ができるか。また、使用料相当額の支払い請求ができるか(249条2項)。

⑵使用収益の方法は、管理行為として、持分過半数で決するのが原則である(252条1項。特に後段参照)。その際、法文及び共有物の有効活用の観点から、現実に全員での協議がされる必要はなく、その決定を他の共有者に知らせることも要しない。

もっとも、一部の共有者による過半数決定で第三者に賃貸したあと、他の共有者も交えて協議した結果、賃借人に明渡請求する旨過半数決定するなど、第三者の法的地位を不安定にし、禁反言の法理に反する特段の事情がある場合は許容されない。

2⑴特別の影響の抗弁(252条3項)。

特別の影響の有無は、使用方法を変更する実用的要請と、共有物を使用する共有者が受忍することになる不利益を比較して判断する。

⑵配偶者居住権の抗弁(1028条、1037条。なお、その効力について1038条以下参照)

要件は、①被相続人の配偶者であること、②居住建物が被相続人の財産に属したこと、③相続開始時において配偶者が居住建物に無償で居住していたこと、④除外事由を含まないこと、である。

①は、内縁配偶者を含まない。1028条、1037条は、居住権を配偶者に相続させつつ具体的相続分に影響させないようにする趣旨である以上、相続人になりえない者に居住権を認める余地はないからである。②について、被相続人が建物の共有持分しか有していなかった場合、他の共有者に対して配偶者居住権を主張できない。③は、同居までは不要で、婚姻関係が事実上破綻しており別居していた場合でも充足しうる。

なお、使用貸借契約の成立を主張することは妨げられない。

⑶使用貸借の推認の抗弁(配偶者以外の同居人について)

共同相続人の一部が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居していたときは、当該建物が生活の場であることに照らし、特段の事情がない限り遺産分割完了まで引き続き無償で使用させる旨の合意があったと推認される。よって、他の相続人が被相続人の貸主の地位を承継し、同居の相続人を借主とする建物の使用貸借契約が存続すると解する。すると、遺産分割完了までは、使用料等なく遺産である建物を占有することができる。使用貸借の合意を解約する252条1項の決定があっても同居相続人の同意がなければ明渡請求できないし、(249条2項の「別段の合意」があるので)償還請求もできない。

・持分権に基づく不実の登記抹消登記手続請求

各共有者は共有物全部に及ぶ持分権を有する(249条1項)。したがって、他の共有者の権利を妨げない限り、単独で、共有物全部について、持分権侵害を理由とする物権的請求権を行使できる。(また、このような場合は保存行為とも解される(252条5項)。)

Ⅳ 物権的請求権

・物権的請求権の相手方(建物の譲渡人であって未だ登記名義を有する者)

1 土地所有者が、建物の譲渡人であって未だ登記名義を有する者に対し、所有権に基づく土地の返還請求権を行使できるか。(*建物所有による土地の不法占拠を理由とする不法行為責任追及の場面で、請求の相手方を確定する際にも妥当。)

2 物権的請求権の相手方は、原則として、現に土地所有権の円満な支配(206条参照)を妨げている建物の現在の所有者である。

もっとも、建物所有は必然的に土地の全面的な占有を伴うから、土地所有者は、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有する。したがって、自らが177条の「第三者」に類似する地位に有ることを理由に、地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定する点において、あたかも建物について物権変動における対抗関係も似た関係が存在する。

また、地上建物の実質的所有者を特定するのは困難であるところ、建物登記を自ら自己名義にした者は、建物譲渡に際して容易に登記を移転できるのにこれを怠ったとの帰責性が認められる。かつ、土地所有者にとって建物の登記は建物収去土地明渡責任の所在を公示するものと評価できる。そのうえ、いずれにせよ当該建物は土地利用権の欠缺により収去されるべきものである。他方、たんなる登記名義人に建物収去の義務を負わすのは酷だといえるものの、これを理由にたやすく建物所有権の移転を主張して(176条参照)土地明渡義務を免れることが可能とするのは不合理である。また、建物収去は代替執行により実現されるため、現実的には収去費用の負担の問題に帰着し、求償等による内部問題として処理されるから、不都合はない。

以上、建物譲渡人が①自らの意思に基づき所有権取得の登記を経由し、②引き続き登記名義を保有する場合には、例外的に当該請求の相手方となると解する。

・物権的請求権の相手方(建物所有権を取得したことがないのに登記名義のみを有する者)

1 土地所有者が、建物所有権を取得したことがないのに登記名義のみを有する者に対し、所有権に基づく土地の返還請求権を行使できるか。

2 物権的請求権の相手方は、原則として、現に所有権の円満な支配(206条参照)を妨げている者であり、土地上の建物については建物の現在の所有者である。

他方、所有者が所有権を移転する意思がないのに、他人の承諾を得て同人名義の所有権移転登記等した場合、94条2項の趣旨(権利者の外観作出についての帰責性と外観を前提に取引に入った第三者の利益調整)が、物権的請求をする第三者においても妥当する。地上建物の実質的所有者を特定するのは困難であるところ、建物登記を自ら自己名義にした者には、不実登記をしたとの帰責性が認められ、これを前提にした土地所有者を保護すべきことは同じからである。したがって、善意の土地所有者との関係では、建物登記名義人への所有権譲渡があったのと同視できる(昭和47年12月7日。大隅意見)。

そして、建物所有は必然的に土地の全面的な占有を伴うから、土地所有者は、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有する。したがって、自らが177条の「第三者」に類似する地位に有ることを理由に、地上建物の所有権の譲渡の事実がなかったことを否定する点において、あたかも建物について物権変動における対抗関係にも似た関係が存在する。

また、土地所有者にとって建物の登記は建物収去土地明渡責任の所在を公示するものと評価できる。そのうえ、いずれにせよ当該建物は土地利用権の欠缺により収去されるべきものである。他方、たんなる登記名義人に建物収去の義務を負わすのは酷だといえるものの、収去義務は代替執行により実現されるため、現実的には収去費用の負担の問題に帰着し、求償等による内部問題として処理されるから、不都合はない。

以上、①登記名義人がその意思的関与により所有権取得の不実登記を経由し、②引き続き登記名義を保有する場合において、③物権的請求者が善意のときは、例外的に当該請求の相手方となると解する。

・不可抗力または第三者が惹起した侵害状態の除去

1 土地所有者は、土地所有権を侵害している物の所有者に、引き取りを命じることができるか。

2 まず、土地所有者が関知しない原因で物が土地に入ってきた場合、土地所有者には、当該物に関する自己のためにする意思が認められない。したがって、当該物を占有していることとならず(180条)、物の所有者は土地所有者に対し物権的請求をすることはできない。

もっとも、所有物の円満な支配の実現に必要な不作為を、他人(土地所有者)を害しない限度で求めることはできると解する。また、これを拒む場合には、その時点から土地所有者に占有意思が発生したと解し、物権的請求権を行使できると解する。

3 物の所有者は、自己の支配物をもって他人の円満な物支配を妨げるという客観的違法な状態を作出している以上、当該状態を除去すべき責任を免れることはできない。したがって、侵害者の行為に基づくかどうかや過失の有無にかかわらず、土地所有者は、侵害者に妨害排除の積極的行為を請求する権利を有し、費用は侵害者が負担する。

なお、不可抗力により当該状態が生じた場合には、違法性がないゆえに、土地所有者には、自己の負担で当該物を除去することを相手方に認容させる権利があるにとどまるとの見解がある。しかし、客観的には、違法に物の円満な支配を妨害していることは否定できないから、同見解は採りえない。

担保物権法

Ⅰ 留置権

・留置権一般/留置権の対抗/二重譲渡/留置的効力

1 〇相手方からの請求 〇反対債権を有する 〇留置権を主張して引渡を拒めるか

2 要件は、①物の占有、②他人の所有、③物と債権との牽連関係(295条1項本文)、④債権の弁済期の未到来(同項ただし書き)、⑤占有が不法行為により始まったこと(同条2項)である。

②について、債務者以外の他人の所有であっても、物の留置により債権回収を確実にすることができるとの期待を保護すべきであるから、「他人」は債務者に限られない。

③については、物の引渡請求を拒むことで債務の履行を促すという留置権の趣旨から、被担保債権の成立時において債権が物自体から生じている(費用償還請求権、物の瑕疵による損害賠償請求権等)か、物の引渡義務と同一の法律関係又は事実関係(契約、契約の取消・解除に基づく原状回復義務、清算金債権と目的物引渡債務等)から生じておれば、充足される。もっとも、上記趣旨が及ばない場合には、牽連関係を否定する。

3 留置権の対抗力

留置権成立後に物が第三者に譲渡されたとしても、債権者は第三取得者に留置権を対抗できる。目的物が債権者の占有下にある以上、ある程度の公示が図られており、取引の安全への危険が少ないからである。

4 留置権と二重譲渡

留置目的物が二重譲渡された場合、③について、履行に代わる損害賠償請求権(415条1項、2項1号)は、形式的には不動産の譲渡契約から生じていないことから、同一の法律関係から生じたとはいえないとするのが判例である。もっとも、実質的に見れば、当該不動産の引渡義務も、譲渡人・第2譲受人間の売買契約及び登記の移転という同一の法律関係から生じているといえるから、適切ではない。むしろ、引渡請求を拒むことで債務の履行を促すという留置権の趣旨が及ばないことを理由に、牽連関係を否定する。

5 建物買取請求権と土地の留置

土地賃借人が建物買取請求権(法13条)を行使した場合、敷地の引渡義務と当該請求権は同一の法律関係から生じたとはいえない。

もっとも、建物買取請求権は、借地権者保護とともに社会的損失の回避の趣旨でみとめられている。また、建物の引渡しを拒みつつ土地の明渡すことは社会通念上不可能である。したがって、建物について生じた留置権の効力が反射的に敷地に及び、代金支払いがあるまで敷地の返還を拒むことができる。(*建物についての必要費等償還請求権と、土地の留置の可否にも妥当)

6 造作買取請求権と建物の留置

建物に付加され、その使用に客観的便益を与える賃借人の所有物であるから、造作にあたる(借地借家法33条1項)。これは賃貸人の同意を得て付加しものであり、賃貸借の契約満了又は解約申し入れにより契約は終了しているから、造作買取請求権が発生している。もっとも、建物の引渡義務と当該請求権は同一の法律関係から生じたとはいえない。

また、造作は取り外しが可能なので、これを引き渡さずに建物を明渡すことも社会通念上可能であり、また、造作は一般に建物に比して価値が低いから対価的牽連性を認めることが困難であるから、建物の返還を拒めないとしても、公平を失することはない。

したがって、造作買取請求権にもとづき建物を留置することはできない。

・295条2項の類推適用

1 賃貸借契約終了後も引き続き賃借物を占有している者が、○○を修繕改良した。その費用は、物の原状維持に要した必要費/物の通常の利用のために有益な価値増加行為として有益費にあたる(196条1項2項。すでに契約関係にないので、608条の適用はない。また、有益費は、裁判所が期限を許与できるので、留置権の成立を妨げることが可能。)。

もと賃借人は、もと賃貸人の所有権に基づく返還請求に対して、償還請求権をもって留置権の抗弁を認めてよいか。

2(要件と牽連関係の意義について述べたうえで)

⑤は、295条2項の趣旨が、不法占有者には公平の見地から留置権を認めない点にあるから、占有取得者が債務者以外の者との関係で不法行為者であれば足りる。

3 適法占有→占有権原喪失→債権取得の場合

適法に占有を始めたのち、占有権原喪失後に必要費・有益費(196条1項)を支出した者についてみると、⑤形式的には、占有が不法行為により始まったとはいえない。もっとも、295条2項の趣旨は、不法占有者に留置権の主張を認めることが公平に反するとされた点にあるところ、占有権原喪失につき悪意有過失で占有継続した場合は、その後生じた償還請求権等により留置権を主張することは公平に反する。したがって、295条2項を類推適用し、留置権の抗弁を認めない。

他方、必要費を賃貸借契約中に支出(608条1項)し、さらに終了後も支出したというという特段の事情がある場合は、295条2項は類推適用されず、留置権の抗弁を認める。前者の償還請求権に基づく留置が適法であるならば、その後成立した償還請求権に基づく留置も適法だからである(この場合、留置権は目的物使用収益権を含まないから、使用利益(賃料相当額)は不当利得として返還せねばならないところ、果実(88条2項)に準ずるものとして必要費償還債権に充当することができる(297条1項)。)。

4 不法占有→適法占有権原取得の場合

(無権代理人から、代理権のないことを知りながら不動産を買い受けたのちに本人から追認を得た場合など、)不法に占有を始めたのちに占有権原を取得した者が、必要費・有益費(196条1項)を支出した場合、形式的には、⑤占有は不法行為から始まっている。

もっとも、295条2項の趣旨は、不法占有者に留置権の主張を認めることが公平に反するとされた点にあるところ、適法占有権原を取得した以上は、その必要費・有益費の確実な回収の利益を認めるが公平である(また、無権代理行為の追認には遡及効があり(116条本文)、本人は契約当事者であるから、116条但し書きの「第三者」ではない。)。したがって、⑤を充足しないと解する。

・留置物の使用・賃貸・担保供与の承諾と対抗(道垣内p37)

留置権者がいったん「債務者」(その時点で権原を有する者)の承諾(298条2項)を得ておれば、その後、第三者に所有権が移転した場合でも、留置権者はその承諾の効果を新所有者に対抗できる。留置権者には所有権移転を知ることができないのに、移転後も使用を継続しておれば突然義務違反とされて留置権が消滅させられ(298条3項)、不測の損害を生じ、公平を失するからである。

・留置権者による不法行為に基づく損害賠償請求の可否(道垣内p38)

Ⅱ 先取特権

・請負代金債権への物上代位の可否

1 請負人が用いた原材料の売主は、動産売買先取特権(311条5号、321条)に基づき、請負人が有する報酬支払債権に対し物上代位(304条1項)できるか。

2 要件は①先取特権の存在、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差し押さえたこと、である。

②について、請負代金は、原材料だけでなく労務等に対する対価を包含するから、原則として、原材料の価値が姿を変えたものとみることはできない。

もっとも、請負代金全体に占める当該動産の価格の割合や請負人の債務の内容等に照らして、請負報酬債権の全部または一部を原材料の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、②を充たす。

・先取特権の物上代位と債権譲渡

1 債務者が譲渡した債権に対して動産売買先取特権者(311条5号、321条)が差押えをして物上代位権(304条1項)を行使できるか。債権譲渡が「払渡し又は引渡し」にあたるかが問題となる。

2 要件は①先取特権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差し押さえたこと、である。

③について、304条1項ただし書きは、抵当権と異なり公示方法が存在しない先取特権について、代償物につき排他的権利を取得した第三者の利益を保護する趣旨を含む。したがって、債権譲渡の第三者対抗要件(467条2項)具備後は、物上代位権行使の目的債権をすでに排他的に取得していた以上、「払渡し又は引渡し」がされたといえ、③が充足しない。

・先取特権の物上代位と差押え

1 動産先取特権者(311条5号、321条)は、一般債権者が先に目的債権を差押えた場合でも、物上代位権(304条1項)を行使できるか。差押えが「払渡し又は引渡し」にあたるかが問題となる。

2 要件は①先取特権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差し押さえたこと、である。

③について、304条1項ただし書きの趣旨は、差押えにより物上代位権行使の意思を明確にすることで、第三債務者に二重弁済の危険が生じるのを防止することにあるところ、一般債権者が差押さえたのみではいまだ二重弁済の危険は生じない。

したがって、一般債権者の差押えは「払渡し又は引渡し」に含まれず、先取特権者が重ねて差押えすれば、目的債権につき物上代位権を行使できる。

Ⅲ 質権

・動産質権者が質物を設定者に返還した場合の質権の効力

1 動産質権者が質物を設定者に返還した場合、質権は消滅しないか。しないとすれば、質権に基づき返還請求できるか。

2 352条の反対解釈により、当事者である設定者には、質物の占有継続なくして質権を対抗できる。このことに照らすと、同条は、占有喪失により質権自体は消滅しないが、「第三者」への対抗力は失われるとする趣旨と解する。

したがって、設定者に対しては質権自体に基づく返還請求権を行使できる一方で、質物が第三者のもとにある場合には、占有回収の訴え(353条、200条1項、201条3項)によるのでない限り、返還請求できない。

これに対し、第三者に質物が渡れば、質権者は容易に返還を受けられなくなるというこの結論は不合理であるとする見解がある。そこで、占有喪失により質権の効力は失われるが、その設定契約の効力は失われていないとして、設定者に対する質物引渡請求権を被保全債権として、設定者の所有権に基づく返還請求権を質権者が代位行使する構成(423条1項)が考えられる。しかし、設定契約に基づく引渡請求権は、一度履行されれば消滅すると考えられる以上、当該権利を被保全債権とすることには無理がある。よって、結局のところ、質権者は第三者に対して353条に基づく返還請求をする以外に方法はないと解する。

Ⅳ 抵当権

ⅰ 抵当権の発生

・抵当権の付従性

1 貸付けについて、〇意思表示の無効・取消が認められたこと、〇取引の安全を考慮して、法人の行為の客観的性質に照らして抽象的に判断すると、34条の「目的」を遂行する上で直接または間接に必要な行為といえず、絶対的無効であること

→被担保債権が無効又は取消された場合、抵当権は消滅するか。

2 債権者が債務者に対し、当該無効等によって生じる原状回復請求権(121条の2第1項)等を取得し、抵当権は同債権を新たに担保するものとして存続するとの見解がある。

しかし、抵当権は付従性を有し、抵当権それ自体に経済的価値はない以上、被担保債権が無効であれば抵当権も不成立であって、その実行もできない。

ただし、債権者の要保護性の程度、物上保証人が設定者である場合はその予測可能性、無効とされるような債務を負った債務者の帰責性等を総合して、債務者が利益を受けておきながら抵当権の成立や実行の無効を主張するなど信義則に反する場合は、債務者は無効主張ができず、抵当権は存続してその実行もできると解する。

3 〇債権者の無効事由・取消事由についての善意、〇債務者の策略の悪性や故意、〇債務者は結局不当利得として貸金を返還する必要があること

・流用登記の有効性

1 すでに消滅した抵当権の登記は、他の債権を被担保債権とする抵当権の登記(以下、流用登記)として効力を有するか。

2 物権変動の過程を正確に公示するという登記の役割からすれば、実体と合致しない登記は、原則として効力を生じない。(流用前に後順位抵当権者等の第三者が存在していた場合には、順位上昇の利益保護の観点から、その者は流用登記の無効を主張できる)。

もっとも、(流用登記の事実を知り、又は現在の権利関係の同一性を害しない程度に公示された抵当権など、)抵当権の外形を前提に利害関係に入った第三者は、新抵当権の登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない(177条参照)。よって、流用登記の無効を主張できない。

ⅱ 抵当権の効力

・付加一体物の範囲

1 本問の物は、抵当不動産の構成部分であって分離復旧が社会経済上不能であるから、付合物(242条本文)にあたる/継続して主物たる抵当不動産の経済的効用を高める物であって、主物の所有者が附属させたものであるから、従物(87条1項)にあたる。抵当権の効力は及ぶか。

2 370条の趣旨は、抵当権の効力範囲についての当事者の意思を推定し、かつ、登記簿上で公示されなくとも第三者に不測の損害が生じないようにする点にある。したがって、「付加して一体となっている物」には、取引通念上、抵当不動産と経済的一体をなす物を含む。

3⑴これを付合物について見ると、経済的一体性が付合の時期を問わずに認められる。よって、抵当権設定との時期の前後を問わず、付加一体物としてその効力が及ぶと解する。もっとも、242条ただし書により不動産の所有者が当該物の所有権を取得しないときは、付合者の権利保護のため、抵当権の効力は及ばないものと解する。

⑵これを抵当権設定時に存在していた従物について見ると、87条2項が従物は主物の処分に従うとされた趣旨や、主物の経済的効用を高めていることから、経済的一体性を肯定できるから、付加一体物に含まれる。もっとも、被担保債権額と従物の価格を比較して、抵当不動産と別個独立の価値を有する高価物といえるときは、経済的一体性が欠けるから、当事者の意思を解釈し、抵当権の効力は及ばないと解する。

⑶これを抵当権設定後に付加された従物について見ると、87条2項が従物は主物の処分に従うとされた趣旨や、主物の経済的効用を高めていることから、経済的一体性を肯定できるから、付加一体物に含まれる。もっとも、被担保債権額と当該従物の価格を比較して、当事者がその付加を予期しなかったような高価物は、抵当不動産と別個独立の価値を有する物であり、抵当不動産との経済的一体性を認めることができない。よって、当事者の意思を解釈し、抵当権の効力は及ばないと解する。

・従たる権利

 借地上の建物に抵当権を設定した場合、抵当権の効力は借地権に及ぶか。

2 370条は物についての規定であるが、その趣旨は、抵当権の効力範囲についての当事者の意思を推定し、かつ、登記で公示されなくとも第三者に不測の損害が生じないようにする点にある。そして、建物が社会的効用を全うするために必要な敷地の賃借権は、取引通念上、建物所有権に付随し、これと一体となって財産的価値を有している(87条2項参照)ことから、賃借権にも抵当権の効力を及ばせることが当事者の意思と推定され、かつ第三者に不測の損害も生じないない。

そこで、370条を類推適用し、借地権を建物に従たる権利として抵当権の効力が及ぶものと解する。そして、上記趣旨から、借地権の登記も不要である。

*これについては簡単に87条2項の類推適用で片づけてもよい。

・付加一体物の分離、搬出

1 設定者により抵当権の効力が及ぶ物が分離・搬出された場合に、(設定者には抵当権の効力が及ぶことを主張できることに異論はないものの)当該物を取得した第三者に対し、抵当権者は、当該物を抵当不動産から搬出するのを差し止め、または抵当不動産内に戻すべく、抵当権に基づく妨害排除請求できるか。

2 設定者が第三者と抵当不動産内で取引をしてから分離・搬出するケース

(設定者が業者であって付加一体物の流動が予定されているなどといった事情がなく、)通常の用法を逸脱し設定者に許されていない分離・搬出がなされても、担保価値維持の観点から、抵当権の効力は消滅しない。また、分離物が抵当不動産上に存在し抵当権設定登記がされていれは、抵当権の効力を「第三者」に対抗できる。

したがって、(370条但し書きに該当し、又は即時取得(192条)が成立するなど特段の事情がない限り、)抵当権に基づく妨害排除請求として差止・回復請求できる。

なお、抵当権の不可分性(372条、296条)に照らし、抵当権の実行・差押えの前後にかかわらず、この理は妥当する。

3 設定者が抵当不動産外に搬出の上、取引をしたケース

第三者との取引時においてすでに分離物が抵当不動産から搬出されている場合は、当該動産について抵当権設定登記による公示は及ばない。したがって、通常の用法を逸脱し設定者に許されていない分離・搬出であったとしても、抵当権者は、第三者が背信的悪意者であるなど第三者性が否定される特段の事情がない限り、抵当権の効力を当該第三者に対抗できず、抵当権に基づく妨害排除請求として差止・回復請求できない。

4 回復方法

抵当権の非占有権たる性質上、設定者への返還を求めることができるにとどまるのが原則である。もっとも、設定者が対象物を受領し適切に維持管理することが期待できない場合には、例外的に、抵当権者は自己への引渡を請求できる。この場合、抵当権者の当該占有は管理占有であって、使用収益権は取得しないから、引渡時までの果実又は使用利益相当額の賠償請求はできない。

・抵当権に基づく適法占有者等への妨害排除請求

1 抵当権者は、当該抵当権に対抗できない賃借権により抵当不動産を占有している者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求ができるか。また、自己への明渡請求できるか。

2 抵当権は非占有権であるから、抵当目的物の占有関係に干渉できず、抵当権に基づく妨害排除請求はできないのが原則である。もっとも、適法占有者であっても、その存在が実質的に競売価格の下落を招く場合があり、担保価値の減少ないし抵当権に対する侵害を観念できる。また、所有者の使用収益権(206条)と抵当権者の交換価値把握権能の調和を図る必要もある。

したがって、①(実際に交付されたのかも不明な高額の敷金、低額の賃料、賃借人と賃貸人の密接な関係、395条1項1号の猶予期間、契約上の使用目的等に照らし、)賃借権の設定に競売手続妨害の目的が認められ、かつ②(賃借人の問題ある態度等により買い手がつきにくくなる、低廉な賃料で占有しているという状況が評価額を不当に下げ、競落価額を下げるなど、)抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済権の行使が困難になるような状態があれば、当該請求をなしうる。

なお、抵当権の不可分性(372条、296条)に照らし、抵当権の実行・差押えの前後にかかわらず、この理は妥当する。

3 抵当権は非占有権であるから、設定者に返還するのが原則である。もっとも、競売妨害目的で賃貸したなど、抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、例外的に、抵当権者は自己への明渡を請求できる。この場合、抵当権者は管理占有するのであって、使用収益権はないから、明渡時までの賃料相当額の請求はできない。

*不法占有者に対する妨害排除請求は、より緩やかに認められる。ただ、あえて不法占有者についての問題を出すとは思われないので、省略。

・抵当権に基づく損害賠償請求

1 債務者が第三者に対して有する損害賠償請求権に物上代位することもできるところ、

抵当権者は、不法行為に基づく固有の損害賠償請求(709条)ができるか。

2 要件は、①権利侵害、②故意または過失、③損害額、④①と③との因果関係である。

①につき、目的物の交換価値を減少させる行為をいう。

③につき、抵当不動産の残価値で被担保債権の満足を得られない限度で損害を算定する。抵当権者が把握していた交換価値の限度で損害が観念できるからである。

ⅲ 物上代位

・売却代金債権への物上代位

1 抵当不動産が売却された場合、代金債権は物上代位(372条、304条1項本文)の対象になるか。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差押さえたこと、である。

②について、条文の文言から、抵当目的物が売却代金へと姿を変えた以上、抵当権の効力が及ぶと解される。抵当権に追及効があるからといって、否定的に解する必要はない。

したがって、抵当権の実行か代金債権への物上代位権の行使かを債権者は選択できると解する。もっとも、後者の場合でも、実質的には実行と変わりないから、被担保債権の弁済期の到来が必要である。

3 物上代位の効果として、抵当権の効力が対象債権に及び、第三債務者は、差押以後は弁済を抵当権者に対抗できず、債権者・設定者は弁済受領権限を失う。

・物上代位と転貸料債権

1 抵当不動産の賃借人の有する転貸料債権は、物上代位(372条、304条1項)の対象になるか。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差押さえたこと、である。

②について賃借人は372条の準用する304条1項の「債務者」ではないから、原則として転貸料債権は代償物といえない。もっとも、およそ物上代位が不可能とすると、転貸借を介在させることで容易に執行妨害ができることとなる。

そこで、被担保債権の弁済期の到来を前提に(371条参照)、法人格の濫用、賃貸借の仮装により、転貸借を作出したなど、賃借人を所有者と同視することを相当とする特段の事情がある場合は、例外的に、代償物と解する。

そして、371条の文言に関わらず、担保不動産収益執行制度(民執93条2項参照)との平仄を合わせ、被担保債権の不履行時にすでに弁済期の到来していた賃料ないし転貸料も物上代位の対象となると解する。

・物上代位と差押え

1 一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押え(372条、304条1項)が競合したとき、どちらが優先するか。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差押さえたこと、である。

③について、上記規定の趣旨は、差押えにより物上代位権行使の意思を明確にすることで、二重弁済の危険から第三債務者を保護する点にある。他方、他の債権者については、抵当権の効力が物上代位の債権についても及ぶことは、抵当権設定登記により公示されているといえるから保護する必要はない。

したがって、他の債権者に先立って差押えることは、必要ではなく、抵当権者は自ら重ねて差押えすればよい。むしろ、差押の処分禁止効が差押命令の送達時に生じること(民執145条1項5項参照)に鑑み、一般債権者の申立てによる差押命令の第三者債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって優劣を決する。

・物上代位と債権譲渡

1 第三者対抗要件(467条2項)が具備された譲渡債権への抵当権に基づく物上代位(372条、304条1項)は可能か。「払渡し又は引渡し」に債権譲渡が含まれるかが問題となる。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差押さえたこと、である。

③について、上記規定の趣旨は、差押えにより物上代位権行使の意思を明確にすることで、二重弁済の危険から第三債務者を保護する点にある。そして、債権譲渡がされただけの場合、差押前の弁済を抵当権者に対抗でき(481条参照)、また執行供託による免責(民執156条1項)も可能である以上、二重弁済の危険は生じない。また、債権譲受人については、抵当権の効力が物上代位の債権についても及ぶことは、抵当権設定登記により公示されているといえるから、保護する必要はない。そのうえ、抵当権者からの差押え前に債権譲渡すれば容易に物上代位権行使を阻止できるとすると、抵当権者の利益を不当に害する。

したがって、「払渡し又は引渡し」に債権譲渡が含まれず、債権譲受人に第三債務者が弁済をするまえに抵当権者が当該債権を差し押さえれば、物上代位権を行使できる。

・物上代位と転付命令

1 抵当権に基づく物上代位(372条、304条1項)の目的となる債権について、一般債権者が転付命令を受けたとき、抵当権者はなお物上代位権を行使できるか。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差し押さえたこと、である。

③について、民執159条3項の反対解釈、5項及び160条によれば、転付命令が第三債務者に送達されるまでに他の債権者(物上代位権を行使する抵当権者を含む)が差押えなどしなければ、転付債権者は券面額で弁済を受けたとみなされ、独占的満足を受けることとなり、目的債権は消失する。よって、転付命令の「払渡し」にあたる。

したがって、抵当権者は、転付命令が第三債務者に送達されるより前に自ら差押えを行わなければ、転付命令を受けた差押債権者に劣後すると解する。

・物上代位と第三者による相殺

1 抵当権者が賃料債権に物上代位(304条1項、372条、371条)し、差押さえたが、賃借人が賃貸人に対する一般債権を自働債権とする相殺(505条1項)を主張したとき、抵当権者は、賃借人の支払うべき賃料から優先弁済を受けられるか。

2(まず、この場合に511条の適用はない。同条は、一般債権者による差押えと相殺の競合についての規定だからである。むしろ、物上代位と第三債務者(賃借人)による相殺の優劣の問題と解する。)

要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差押さえたこと、である。

③について、差押えにより物上代位権行使の意思を明確にすることで、二重弁済の危険から第三債務者を保護する点にある。他方、賃借人の要保護性について、抵当権の効力が賃料債権について及ぶ可能性(371条)は、抵当権設定登記により公示されているから、当該登記後は、賃借人は物上代位権行使を予想できる。他方で、抵当権設定登記前に反対債権を取得した者の、相殺による債権回収の期待は保護に値する。

そこで、抵当権者が賃料債権を差押さえたあとは、賃借人は、設定登記後の原因に基づいて賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする相殺をもっては抵当権者に対抗できず、賃借人は抵当権者に賃料債権全額を支払わなければならない。

*設定者ないし賃借人が相殺した後に差し押さえても、相殺は「払渡し」にあたるから、もはや賃料債権に物上代位できない。

*相殺適状と登記の前後ではなく、反対債権取得時と登記の前後で決することに注意。

・物上代位と抵当不動産所有者による相殺・債務免除(道垣内p157)

1 抵当不動産所有者が目的債権を相殺に供し、または債務免除して消滅させたとき、抵当権者は同債権に対し物上代位(372条、304条1項)できるか。

2 要件は①抵当権、②代償物の存在、③払渡し又は引渡しの前に差し押さえたこと、である。

③について、抵当不動産所有者による物上代位権侵害を認めることとなるともいえる。もっとも、目的債権はすでに消滅しており、⑴いずれから相殺の意思表示をしたのかという不分明なことも多い事情により、効果を異ならせることに合理性がない。⑵債務免除を受けた第三債務者は、その有効性を前提として法律関係を形成する。したがって、相殺又は債務免除は「払渡し」にあたり、信義則上保護に値しないとする特段の事情がない限り、もはや物上代位権は行使できない。

・物上代位と敷金充当

1 抵当権者が物上代位(304条1項、372条、371条)し、差押さえた未払い賃料債権の支払いを、賃貸借終了後に賃借人にもとめた場合、賃借人は、賃料債権が敷金(622条の2第1項1号)の充当によって当然消滅していると主張して支払いを拒むことができるか。

2 敷金の充当による未払い賃料の消滅は、敷金契約から発生する当然の効果であって、賃借人からの相殺とは同視できない。また、賃借人は、賃貸借契約締結時、敷金の交付に事実上応じざるを得ない以上、賃借人の敷金返還の期待の保護が要請される上、当該保護を厚くせねば、抵当不動産を賃借する者が現れにくくなり、かえって抵当権者の弁済原資を得る利益を損なうことにもなりかねない。

したがって、目的物の返還時に残存する賃料債権は敷金が存在する限度で敷金の充当により当然に消滅し、賃借人はこのことを抵当権者に対抗できると解する。

3 差押え後、賃借人は不安の抗弁権に基づき、敷金額までは賃料支払いを停止できる。

ⅳ 法定地上権の成否

・設定時には更地だった場合の、法定地上権の成否

1 土地への抵当権設定時には更地だったが、後の建物築造を前提として設定していた場合、土地競売により法定地上権は成立するか。

2 388条の要件は、①抵当権設定時に土地上に建物があったこと、②それらが同一人に帰属していたこと、③その一方又は双方への抵当権の設定、④競売により土地建物が別人所有となったこと、である。

①は、抵当権者が更地評価した場合だけでなく、抵当権者が後の建物築造を予期し、建物付き不動産として評価していた場合でも、客観的に更地であれば充足しない。更地評価した抵当権者の優先弁済額への期待保護だけでなく、後順位抵当権者や買受人等の利害関係人の合理的期待を保護する必要があるからである。裏を返せば、後順位抵当権者が存在せず、かつ、抵当権者自身が買受人となるという特段の事情があれば、建物保護の観点から、①の充足なく法定地上権の成立を認める。

・土地のみに抵当権が設定され、建物が再築された場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)①は、再築が抵当権実行前にされた場合は、充足する。抵当権設定契約の当事者は、旧建物について法定地上権の成立を予期していた以上、それと同じ内容の法定地上権を成立させても不測の損害がないからである。

再築が抵当権実行後にされた場合、競売時には存続を図るべき建物が存在しておらず、法定地上権の成立を予期していなかった抵当権者に不測の損害を被らせることとなるから、原則①は充足しない。もっとも、第三者が建物滅失前に建物を譲り受け、これを建替えている間に実行した場合は、第三者は法定地上権の取得のため対価を支払っており、その期待を保護すべき一方で、抵当権者は容易に建替えの事実を知ることができる以上、不測の損害が無いから、例外的に①を充足する。

・共同抵当に入っており、建物再築後に競売された場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)①について、設定時には土地建物が存在した以上、形式的には充足する。もっとも、共同抵当権者は土地建物を一体の物として担保価値を把握するところ、建物が取り壊れたときは、土地について法定地上権の制約のない更地として評価するのが設定当事者の合理的意思である。抵当権が設定されない新建物のために法定地上権が設定されるとすれば、担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることとなり、抵当権者に不測の損害が生じる。

したがって、新建物の所有者が土地の所有者と同一で、かつ、新建物について実行前の土地についてと同一順位の抵当権の設定を受けた等の特段の事情がないかぎり、①を充足しない。

・第1順位の土地抵当権設定時には更地だったが、後順位抵当権設定時には建物が存在した場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)①の設定時とは、第1順位の土地抵当権の設定時をいうところ、土地を更地評価した第1抵当権者の合理的期待を保護すべきであるから、①を充足せず、法定地上権は成立しない。この理は、後順位抵当権が実行した場合でも、抵当権の順位変更があった場合でも変わりない。第1順位で配当金を受けるのは先順位抵当権者である以上、抵当権を誰が実行したかで、法定地上権の成否を分ける理由は無いからである。

もっとも、先順位抵当権が消滅した後に実行された場合は、この者の予測や期待を保護する必要はないから、①の成否は後順位抵当権者について決する。

・設定時には別人所有だったが、実行時には同一人所有となっていた場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)②は充足されないから、法定地上権は成立しない。この結論は、設定時、建物所有者が抵当権に優先する土地利用権を有しており、土地建物が同一人に帰しても消滅しない(179条1項ただし書き類推)ことからしても妥当である。逆に、建物所有者が土地利用権を抵当権者に対抗できないときは、抵当権者が法定地上権の制約を受けることがないから、やはり妥当である。

・設定時には同一人所有だったが、実行時には別人所有になっていた場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)②について、この場合でも充足する。抵当権者は法定地上権の成立を覚悟していたのであるから、法定地上権を成立させても不測の損害はない。他方、建物の所有者となった者(土地の所有権を譲渡した者)は、設定されることになる土地利用権を抵当権者に対抗できず実行によって消滅する。したがって、法定地上権の成立を認める必要があり、不動産の処分の自由の観点からもこの結論は妥当である。

・設定当時に土地建物が同一人に帰していたが、登記上は別人所有となっていた場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)②につき、土地に抵当権が設定されていた場合には、真実の建物所有者の利益保護の必要性がある一方で、抵当権者は設定を受ける前に真実の法律関係を調査により知ることができたはずであるから不測の損害がなく、この場合でも充足し、法定地上権が成立する。

建物に抵当権が設定されていた場合は、抵当権者の法定地上権の成立への期待を保護すべき一方で、土地所有者は自ら抵当権を設定している以上、実体と合致しない登記がされていることにより利益を得る理由はない。したがって、②を充足すると解する。

・土地への1番抵当権設定時において別人所有だったが、第2抵当権設定時においては同一人所有だった場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)②の設定時とは、第1順位の土地抵当権の設定時をいうところ、約定利用権の負担のみを期待して担保評価した抵当権者にとって、法定地上権の成立は意外な結果となる。したがって、②を充足せず、法定地上権は成立しない。この理は、後順位抵当権が実行した場合でも変わりない。第1順位で配当金を受けるのは先順位抵当権者である以上、抵当権を誰が実行したかで、法定地上権の成否を分ける理由は無いからである。

もっとも、2番抵当権実行時に1番抵当権の設定契約が(解除によって)消滅していたときは、1番抵当権の保護を図る必要もないから、2番抵当権を基準に考え、法定地上権は成立すると解する。

・建物への1番抵当権設定時において別人所有だったが、第2抵当権設定時においては同一人所有だった場合の、法定地上権の成否

(法定地上権の成立要件について述べたうえで)②につき、法定地上権の成立を認めると、建物の買い受け価格の上昇が見込まれ、後順位抵当権者にとって有利である一方、1番抵当権者や所有者には損害が実質上生じない。したがって、第2抵当権設定時を基準にして要件充足性を判断し、法定地上権の成立をみとめる。この理は、後順位抵当権が実行した場合でも変わりない。第1順位で配当金を受けるのは先順位抵当権者である以上、抵当権を誰が実行したかで、法定地上権の成否を分ける理由は無いからである。

もっとも、1番抵当権実行時に2番抵当権の設定契約が(解除によって)消滅していたときは、2番抵当権の保護を図る必要もないから、法定地上権は成立しない。

Ⅴ 譲渡担保

ⅰ 譲渡担保権の設定

・譲渡担保設定契約の認定

買戻特約付売買契約の形式がとられていても、目的物の占有移転を伴わない契約は、特段の事情がない限り、債権担保の目的で締結されたものと推認されるから、譲渡担保契約と解する。特段の事情は、代金価額と目的物の時価の差や、実質的に利息にあたる額を代金額から控除したなどの事情、当事者の動機などから判断する。

また、この場合、動産については、特段の意思表示がなくとも占有改定による引渡がされたものと認められる。

・譲渡担保の多重設定(動産譲渡担保の場合)

1 譲渡担保権を設定後、第三者とのあいだでさらに譲渡担保契約を締結して占有改定による引渡をした場合、当該第三者はいかなる権利を取得するか。

2 まず、譲渡担保の法的性質について、一方で、譲渡担保契約には債権担保の実質があるが、他方で、形式上は所有権が移転している。そこで、債権者は債権担保の目的を達するのに必要な範囲で所有権(以下、譲渡担保権)を取得し、設定者は残余の権利(以下、設定者留保権)を有するものと解する。

そこで、設定後であっても、譲渡担保権者を害しない限りで、設定者が目的物の価値を利用して信用供与をうけることも認められてよい。したがって、譲渡担保の多重設定も可能であるが、後順位担保権者は、設定者留保権を担保目的で取得すると解する。

(なお、第三者において即時取得が成立すれば別論であるが、占有改定による引渡では即時取得は成立しないから、この点の問題はない。)

3 もっとも、後順位の譲渡担保権者による私的実行を認めることはできない。民事執行法上の執行手続が行われない以上、先順位譲渡担保権が有名無実化するのを防ぎ、その優先権を確保する必要があるからである。

*この理は、所有権留保目的物への譲渡担保の設定、譲渡担保目的物への所有権留保の設定の場合にも妥当する。

*設定者による売却等と異なり、後順位担保権者による譲渡担保権の即時取得などは認められていない模様。

・譲渡担保契約に賃貸借契約が付随した場合の、賃料不払いを理由とする賃貸借解除の可否

1 譲渡担保目的物が賃貸借の目的物として占有改定により引渡された場合、賃料の不払いを理由に賃貸借契約の解除(541条1項)はできるか。

2 この場合、当該賃料は実質的に被担保債権の利息であるから、解除を認めると、利息不払いを理由に譲渡担保の実行を認めることとなって妥当でないとの見解がある。

しかし、賃貸借が解除されても、譲渡担保契約自体は存続するのであって、目的物が譲渡担保権者に引渡されるだけであるから、実行とはいえない。また、実質が利息の支払いであっても、当事者が賃料の支払いという形式を選択した以上、その意思を尊重するべきである。したがって、この場合、賃貸借の解除を認める。

ⅱ 譲渡担保権と第三者

・譲渡担保権と物上代位

1 譲渡担保権にも304条の類推適用を認められるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)そして、物上代位によって担保権の実効性を高める要請が存在する。また譲渡担保権の公示は不十分であるにしても譲渡担保権者に帰責事由はなく、公示のない動産先取特権においても物上代位が認められる(304条1項、321条)。これらに照らすと、譲渡担保権にも304条の類推適用が認められるものと解する。もっとも、被担保債権額の範囲に限る。

・設定者による譲渡(主に、動産譲渡担保)

1 弁済期前に設定者が譲渡担保目的物を第三者に譲渡した場合、債権者は、譲渡担保権に基づいて、第三者にその引渡しを請求できるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)すると、設定者による第三者への譲渡は、債権者による価値の把握を害するから、設定者はなしえない。もっとも、第三者に即時取得(192条)が成立する場合には、処分は有効と解する(別途、物上代位の可否が問題になる。)。この場合、譲渡担保権は消滅し、債権者は第三者に何ら請求できない(即時取得の検討へ。ネームプレートが付されておれば悪意と解される。債権譲渡登記がされていても即時取得はなしうるが、登記を確認しなかった点に過失があるとされる場合はある。)。

3 即時取得が成立しない場合、設定者留保権を第三者に移転させることは債権者を害しないから、その限りでは有効に成立する。他方で、譲渡担保権については、債権者が先に対抗要件(178条)を得ているときは、第三者はこれを取得できない。また、137条2号(担保価値の損傷)による弁済期の到来により、債権者は、譲渡担保の実行として第三者に目的物の引渡しを請求できる。

・譲渡担保権者による処分(主に不動産譲渡担保)

1 譲渡担保権者が第三者に担保不動産を譲渡し、または譲渡担保に供した場合、設定者は第三者に対していかなる請求ができるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)すると、第三者は設定者留保権について無権利者たる譲渡担保権者から目的物を譲り受け、または譲渡担保の設定を受けたこととなる。したがって、原則として、債務者は登記なくして第三者に設定者留保権を主張でき、第三者はその負担付きでのみ所有権又は譲渡担保権を取得する。

3 もっとも、94条2項の類推適用の余地がある。つまり、同項の趣旨は、虚偽の外観を作出した本人とこれを信頼した第三者との利益調整にあるところ、譲渡担保権ではなく通常の所有権の移転という不実の登記をした点で帰責性があるから、第三者に保護すべき信頼があれば、同項を類推適用できる。

よって、①不実登記が設定者留保権の意思に基づくこと、②第三者性、③虚偽であることについての善意、が充足されるときは、第三者は完全な所有権を取得する。

①について、たしかに、設定者留保権の真正な登記をする手段はない。もっとも、将来の返還に備えて仮登記を備えることはできるのに、これをしなかったときは、通常不実登記を承認したといえ、意思に基づく不実登記といえる。

*①が充足しないごく例外的場合、110条の重畳適用を論ずべき。

・設定者に対する債権者がした差押と動産譲渡担保権者の関係

1 設定者に対する債権者が、譲渡担保目的物を差し押さえた場合、譲渡担保権者は第三者異議の訴え(民執38条)をすることができるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)したがって、形式上は譲渡担保権者の所有物であるし、また、配当要求において優先弁済を受けられる地位には立てず(民執133条)、無剰余による差押の取消も事実上不可能であるから、譲渡担保権者は、第三者異議の訴えをすることができると解する。

・譲渡担保権者に対する債権者がした差押と設定者の関係

1 譲渡担保権者に対する債権者が、譲渡担保目的物を差し押さえた場合、設定者は第三者異議の訴え(民執38条)をすることができるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)したがって、被担保債権の弁済期の到来前に差押がなされたときは、譲渡担保権者に目的物の処分権能がない状況下における差押により、設定者の受戻権を制限する理由はないから、登記を信頼した第三者が94条2項の類推適用に救済されるべき場合を除き、設定者は第三者異議の訴えができる。

他方、弁済期の到来後に差押されたときは、譲渡担保権者は目的物の処分権能を取得し、設定者は換価処分を甘受すべきであるから、その債権者による換価も受忍すべきである。よって第三者異議の訴えは認められない。

・設定者による物権的返還請求の可否

1 譲渡担保設定者は、不法占拠者に対し物権的請求権を主張できるか。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)よって、設定者は、目的物の使用収益権能を有するのみならず、実行までは被担保債権の弁済により完全な所有権を回復できる地位に立つ。したがって、設定者は、その設定者留保権にもとづいて、不法占拠者に対し、返還請求できる。

*譲渡担保権者による物権的請求は、抵当権にもとづく物権的請求と同様。

ⅲ 譲渡担保権の実行

・譲渡担保の実行の方法

1 被担保債権につき債務不履行があったときには目的物を譲渡担保権者に確定的に帰属させ、清算金を設定者に支払う旨の合意があったにもかかわらず、譲渡担保権者が実行として第三者に目的物を処分した場合、当該処分は有効か。

2(譲渡担保の法的性質について述べたうえで)そして、債務不履行があったあとは、譲渡担保権者は担保の目的を実現するために必要な行為として目的物を処分する権能を取得する。帰属合意については、債権的な効力は認められても、処分の相手方に対する効力は認められない。

この理は、第三者が背信的悪意者に当たる場合も妥当する。権利関係の早期安定及び譲渡担保権者に不測の損害が生じるのを防ぐ必要があるからである。

したがって、当該合意に関わらず処分は有効であり、第三者に譲渡され実行が完結した時点で受戻はできなくなるから、設定者による第三者に対する返還請求は認められない。

*債務者が弁済して譲渡担保権が消滅したのちに第三者に譲渡されたときは、通常の二重譲渡と同じ状況になり、177条が通常通り適用され、背信的悪意者排除論も妥当する。

・清算金の未払いと留置権

譲渡担保権者の清算金支払義務履行前に、第三取得者から目的物の引渡を受けた設定者は、留置権を主張してこれを拒むことはできるか。(→留置権の対抗力)

・設定者による受戻権の放棄

1 設定者が譲渡担保権の実行の完結前に受戻権を放棄して清算金支払請求をすることはできるか。

2 受戻権は、譲渡担保権の実行の完結前に被担保債権を消滅させることで設定者が目的物の所有権を回復できるという地位である。したがって、それの放棄は、受戻しができなくなるという効果を生じさせるだけで、清算金の支払請求権を設定者に生じさせる効果をもたない。また、譲渡担保権者による実行時期決定の自由を保護すべきである。

したがって、受戻権を放棄して清算金支払請求をすることはできない。

ⅳ 集合動産譲渡担保

・集合動産譲渡担保の設定と対抗

 集合動産に対する譲渡担保権は有効に成立しているか。成立したとして、譲渡担保権の対抗要件は、当該集合動産及び設定後に加わった動産につき具備されるか。

2 まず、譲渡担保の目的物は一個の集合物である。他方で、集合物を構成する個々の動産にも譲渡担保の効力が及ぶ。よって、効力範囲を明確にすべく、物の種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法で担保の目的物の範囲が特定されねばならない。

この場合、特段の意思表示なくして占有改定(183条)による引渡がされたとみなし、それにより集合物について対抗要件(178条)が具備され、その効力は、構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が失われない限り、新たに構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶと解する。

3〇範囲の特定とは、どれが担保に供されていますかときかれて、これらですと指差しで答えられるかどうか、ということ。道垣内p339

・集合動産中の個々の動産の処分

1 第三者が集合動産譲渡担保に供されている個別の動産を譲受けた場合、第三者は所有権を主張できるか。

2 集合動産譲渡担保契約では、通常の営業の範囲内での担保目的物の使用収益処分を設定者に許し、それによって生じる利益から債務を弁済することが当然の前提となっている。したがって、①営業の性質、②処分価格、③新たな動産の集合物への補充の予定等に鑑みて、当該範囲内の処分といえるときは、譲渡は有効であり、譲受人はその主観的態様に関わらず所有権を確定的に取得する。

他方、処分が当該範囲を逸脱するときには、無権限での処分であるから、原則として第三者は所有権を取得しない。もっとも、㋐処分された動産が処分時にすでに集合物から離脱しており、譲渡担保権を第三者に対抗できないときは、第三者が背信的悪意者に当たる場合を除き、例外的に所有権を取得する。または㋑集合物内にあった当該動産を即時取得(192条)した場合も、例外的に所有権を取得する。

・集合動産譲渡担保と物上代位

1 譲渡担保権者は債務者の取得する債権に物上代位することはできるか。

2 まず、担保目的物は一個の集合物である。他方で、集合物を構成する個々の動産にも譲渡担保の効力が及ぶ。また、通常の営業の範囲内での担保目的物の使用収益処分を設定者に許し、それによって生じる利益から債務を弁済することが契約の前提となっている。つまり、目的物の代償として取得される金銭は、営業継続のために用いることが予定されている。

したがって、譲渡担保権の効力は、原則として目的動産の滅失等により設定者に発生する債権にも及ぶ(304条1項参照)が、通常の営業の範囲にとどまる場合は、特段の合意があり、又は営業を廃業する場合等を除き、物上代位権を行使できない。

・動産売買先取特権または所有権留保と、集合動産譲渡担保権の競合

1 動産売買先取特権者(311条5号)による競売申立または留保所有権者による搬出に際し、集合動産譲渡担保権者は自己の権利を主張できるか。

2 まず、担保目的物は一個の集合物である。他方で、集合物を構成する個々の動産にも譲渡担保の効力が及ぶ。そして、集合物につき占有改定(183条)による引渡しがされることにより譲渡担保権の対抗要件(178条)が具備され、その効力は、構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が失われない限り、新たに構成部分となった動産を包含する集合物について及ぶ。

したがって、動産売買先取特権の目的物が譲渡担保の目的たる集合物の構成部分となった場合には、担保権者は333条の「第三取得者」に該当し、当該物の引渡しを受けたものとして、第三者異議の訴えを提起できる。他方で、所有権留保特約の効力が認められる場合は、設定者は当該動産の所有権を取得しておらず、集合物を構成しないから、譲渡担保権者は留保所有権者による搬出を差し止めることができない。

Ⅵ 所有権留保

・留保所有権者に対する物権的請求の可否

1 第三者の土地上に存在する自動車について、所有権留保売主に対し土地所有権に基づき妨害排除請求できるか。

 物権的請求権の相手方は、原則として、現に所有権の実現(206条参照)を妨げている者、つまり妨害を惹起している物の所有者である。

そして、売買契約上、代金債務の弁済期到来により売主が自由に処分できる旨の特約があって、かつ、実際に支払いがないときは、特段の事情がない限り、留保所有権者が所有者ないし侵害惹起者にあたる。

したがって、第三者に対する留保所有権者に対する妨害排除請求は、売買契約の弁済期後は認められ、自己の費用で撤去する義務を負う。

*設定者留保権者への物権的請求権は、所有権留保の性質から、弁済期到来前は当然に認められる。

・所有権留保物件の転得者の保護

1 所有権留保売買契約が解除されたときに、目的物の転得者は、もと売主による所有権に基づく返還請求に応じなければならないか。

2 まず、所有権留保特約は、代金債権担保の実質がある一方で、形式上所有権を移転させている。よって、売主は担保目的の所有権(留保所有権)を有し、買主に現在の利用および将来の取得を可能する物権(物権的期待権)が移転すると解する。

したがって、買主からの転得者は物権的期待権を取得しうるにすぎず、売主による上記請求に応じなければならない。(即時取得の成立の余地がある。ただし、車両については登録により第三者に留保所有権を対抗できるので、即時取得が成立する余地はない。)。

もっとも、本来、売主は自己の責任において代金回収の不能のリスクを負うべきである以上、転得者に当該リスクを負わせる理由はない。他方、代金を完済して正当に物を利用する転得者は、保護に値する。したがって、転得者は、具体的事情(サブディーラーの転売にディーラーが協力したこと、転売契約が所有権留保契約に先行または同時締結されたこと、転得者の所有権留保についての善意など)を考慮のもとで、売主の権利行使を権利の濫用(1条3項)として認めない旨の抗弁ができるものと解する。

債権法

I 債務不履行に基づく損害賠償請求

ⅰ 一般の債務不履行責任

・415条1項の要件論

1 要件

債権者は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額、(415条1項、416条1項(559条、562条1項、564条、636条))を主張立証する。また、双務契約上の債務に不履行があった場合、債務者に当然に同時履行の抗弁権(533条)が認められ、債権者はこれを消失させる必要があるから、④履行を提供(492、493条)したことも要件となる。これに対し、⑤債務者に帰責事由がないことが抗弁となる(415条1項ただし書き)。

2 手段債務における債務及びその不履行の認定(要件①②)

①当該契約の内容及び社会通念に照らすと、債務者には、○○をし、またはしない債務があったといえる。また、もし○○をし、またはしなかったら、××いう経緯で、このような結果が生じることは、同じ立場の通常人からみて債務者にも当然予見でき、かつすべきであった。②にもかかわらず、これを怠って漫然と○○をせず、またはしたときは、債務不履行といえる。

(契約に照らして債務者に義務付けられていた具体的行為の特定→これを履行するか否か、するとしてどのようにするかの決定及び実行について、債務者に期待すべき合理的注意はどの程度のものかの確定)

3 帰責事由(要件④)

(契約内容と取引上の社会通念に照らし判断。手段債務の場合、債務不履行の認定においてすでに顕れているというべき。)

4 履行補助者の責任(要件②。手段債務の場合、2の論証の「債務者」を「履行補助者」に変える。)

そして、履行行為を行うため自ら使用する者(履行補助者)の任用が禁止されていない場合でも、履行補助者によって債務不履行が生じたときは、これを手足として利用した債務者は、自分自身の不履行ではないことを理由に責任を否定することはできない。

(賃借人の家族や同居人など占有補助者は、賃借人の用法遵守義務(手段債務)の履行補助者たりうるのに対し、転借人は、別個独立の生活関係・独立関係を有しており、履行補助者と解することはできない)

5 代金減額請求後の損害賠償請求の可否

代金減額請求権(563条)の趣旨は、追完請求(562条)が奏功しない場合において、履行が得られなかった限度で債権者を契約の拘束力から解放するため、実質的な一部解除を認める点にある。他方、通常の解除をした場合でも別途損害賠償請求することは可能であり(545条4項)、その趣旨が債権者保護のため解除の遡及効(同1項)を制限する点にあるところ、当該趣旨は一部解除に相当する代金減額請求にも及ぶ。したがって、代金減額請求したからといって損害賠償請求することは妨げられない。

これに対し、代金減額請求権が形成権であることに着目し、これを行使した後は損害賠償請求できないとする見解があるが、通常の解除権も形成権である以上、別異の解釈をとる理由はない。

・填補賠償の場合(415条2項)

1 要件

要件は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額、④履行不能、履行拒絶の意思の明示または解除もしくは解除権の発生を主張立証する(415条1項本文、2項、416条1項)。また、双務契約上の債務に不履行があった場合、債務者に当然に同時履行の抗弁権(533条)が認められ、債権者はこれを消失させる必要があるから、⑤履行を提供(492、493条)したことも要件となる。これに対し、⑥債務者に帰責事由がないことが抗弁となる(415条1項ただし書き)。

2 履行期前の履行拒絶

②について、履行期前は、債務者には即時に履行すべき義務がないので、履行拒絶の意思を明確にしても、不履行とは評価できないともいえる。もっとも、債務者に主観的な履行意思がまったくなく、かつ客観的に見ても履行拒絶の意思を覆すことがまったく期待できない場合は、実質上履行不能と同視でき(412条の2第1項参照)、履行期前であっても債務不履行と評価する。

3 追完不能(追完と共にする損害賠償請求は除く)と415条2項

415条2項の「履行に代わる」との文言上、追完に代わる損害賠償請求権について同規定の適用がないとする見解がある。しかし、同請求は、実質的には代金減額請求または一部解除に併せて履行を得られなかった分の損害賠償請求をするのと同じであるから、563条及び541条・542条の要件設定と平仄を合わせるべきである。したがって、415条1項及び2項が適用されると解する。

4 追完請求前の追完に代わる損害賠償請求の可否

415条2項3号、541条は、履行が可能もしくは明確に拒絶されていない場合において履行に代わる損害賠償請求ができるのは、履行の催告をしてこれが奏功しなかったときに限っている。そして、追完に代わる損害賠償請求権についても415条2項が適用される以上、追完が可能もしくは明確に拒絶されていない限り、追完の催告をし、これが奏功しない場合に初めて追完に代わる損害賠償ができると解する。

・416条の法意及び損害賠償額の算定時期

1 法意

416条1項は相当因果関係の原則を定めており、通常損害については予見可能性を問題とすることなく賠償額に含める趣旨である。対して、同条2項は、㋐債務不履行時(解除による損害賠償の場合は解除権発生時点等)に㋑債務者において㋒特別事情についての予見可能性があったといえるときは、特別事情から通常生ずべき損害も、例外的に賠償額に含める趣旨の規定である。

2 単調騰貴の場合

滅失した目的物の価格騰貴は通常事情ではなく特別事情である。よって、㋐目的物給付義務が滅失により社会通念上履行不能となった(412条の2第1項)時点で、㋑債務者において、㋒(債務者の職種・属性や目的物取得の経緯等から)価格騰貴を予見すべきであったといえるときに限り、騰貴した現在の価格を損害額とする。

なお、転売目的ではなく自己使用目的であっても同様である。債務不履行がなければ、騰貴した価格のあるその目的物を現に保有しえたはずだからである。

3 価格変動型の場合

滅失した目的物の価格がいったん騰貴し、その後下落した場合、当該価格変動は特別事情である。よって、㋐目的物給付義務が滅失等により社会通念上履行不能となった時点で、㋑債務者が、㋒(債務者の職種・属性や目的物取得の経緯等から、)価格が騰貴し、かつ、その最高価格時に転売等により利益を確実に取得したであろうという特別事情について予見すべきであったときに限り、当該最高価格を損害額とする。

なお、目的物の価格が現在なお騰貴しているとき、債権者現在においてこれを他に処分するであろうと予測されることは必要ではない。

4 価額下落の場合

そこで、目的物給付義務の履行不能後(または解除後)に目的物の価格が下落した場合、履行不能時(解除時)における価格が通常損害であり、かつ、価格下落のリスクは債務不履行をした債務者が負担するのが公平である。よって、価格の下落について予見可能性があったとしても、履行不能時(解除時)の価格が賠償額となり、債務者の賠償額が減額されることはない(416条2項の類推適用は認められない)。

この理は、価格下落後に債権者が代替取引をした場合でも変わりない。取引通念上合理的な行為をした債権者を不利に扱う理由は無いからである。

5 数量に関する契約不適合責任

⑴一般に、土地面積は土地の個性の一つにすぎないから、一定面積の土地を給付する債務を認めることはできない。他方、買主が特定用途のために一定の面積が必要である旨、または転売利益を得ることを目的としている旨説明し、一定の面積・容積等あることを売主が契約において特に表示し、かつ、この数量基礎として代金額が定められていたから、売主に一定の具体的な数量を給付する「債務」が生じたといえる。にもかかわらず、売主の給付した土地面積は不足していたから、「数量…に関する契約不適合」として「債務本旨に従った履行がなされないとき」にあたる。よって、契約不適合に基づく損害賠償(562条1項、564条、415条1項)をなしうる。

⑵では、土地の数量不足分の値上がり利益は賠償の範囲(416条1項2項)に含まれるか。

(416条1項2項の意義を述べたうえで、)売買当時の地価がその後値上がりしたことは特別事情である。よって、㋐土地の譲渡時に、㋑売主において、㋒当該特別事情について予見可能性があった場合に限り賠償範囲に含まれる。

・利息超過損害の賠償の不可能性

債権者は、419条2項により、法定利率(404条)により算定された損害を超える拡大損害の存在を証明してその賠償を受けることはできない。金銭債務の履行遅滞を受けた債権者は、金銭をほかから借入ることで、その調達利息に対応する利息損害をもって損害とみれば足りるし、債権者の濫訴を防ぐ必要もあるからである。

ⅱ 契約締結前の責任

・契約の不当破棄

415条1項本文は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額(416条1項)を要件としている。

①につき、契約関係にない当事者間では、不法行為責任しか生じえないのが原則である。もっとも、契約締結準備段階にある当事者は、信義則の支配する契約関係類似の緊密な信頼関係に入る。そのため、相互に相手方の合理的期待及び財産権を害しない信義則上の義務を負う。

②につき、㋐社会通念上契約締結準備段階に成熟したこと、㋑一方が契約締結を信じ、かつ、締結に向けて準備することがやむを得ないといえること、㋒㋑について他方が明示又は黙示に誘因を与えたこと、㋓当該準備行為を防止すべき信義則上の注意義務の有無等を総合考慮して決する。

③につき、特段の事情がない限り、契約の有効を信頼したことによって生じた利益(信頼利益)の損害が、相当因果関係にある損害と考えられる。

・説明義務違反の債務不履行責任追及の可否

1 消極説(判例・通説)

一方当事者が説明義務に違反したゆえに、契約締結に至り、損害が生じた場合、当該契約は説明義務違反により生じた結果といえる。にもかかわらず、説明義務違務違反を契約上の義務の違反だとすることは、一種の背理である。

したがって、説明義務違反に基づく債務不履行責任は生じえず、不法行為責任を追及すべきである。

*上記の契約破棄類型にも当該判例の射程が及ぶとする見解もある。これによる方が論証も短いし、学説上有力なので、受験上得策かもしれない。ただ、消滅時効の関係では債務不履行構成のほうが有利(主張立証の負担は同じ。遅延損害金慰謝料については、不法行為構成の方が有利)。

2 債務不履行構成

415条1項本文は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額(416条1項)を要件としている。

①につき、私人は互いに対等であり、必要な情報は自己の責任で集めるのが原則である。もっとも、契約当事者の知識に大きな差があり、或る事項につき、一方が、すべき説明をせず若しくは虚偽の説明をして、他方の権利を害することとなるときは、当該事項につき信義則上の説明義務が認められる。

*説明しなかったら契約を締結しなかったであろうとまではいえない場合には、債務不履行構成をとることもできると調査官解説では言われている。

ⅲ 信義則上の債務の不履行

・保護義務違反(一般)

1 債務者は、その債務を履行するにあたり、債権者の身体財産等を害しないよう配慮する信義則上の義務(以下、保護義務)を負う。この点を捉えて、債務不履行責任は追及できるか。

2 415条1項本文は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額(416条1項)を要件としている。

①につき、自己の身体や財産は本来自ら管理すべきであるし、保護義務は契約において実現が目指された利益ではない。そこで、その充足性は、㋐当該法益侵害の危険が契約利益実現に伴う特別な危険といえるか、㋑自己の法益の管理保護を債務者に委ねざるを得ないような事情があったどうか、から判断する。

②につき、履行過程で債権者の法益に対し合理的な注意を尽くしたかどうかで判断する。

・安全配慮義務違反

1 被用者等が仕事中に死傷した場合に、使用者等に対し、不法行為責任とは別に債務不履行責任を問うことはできないか。

2 責任発生の要件は、①債務の発生原因、②債務の不履行、③②と相当因果関係にある損害の額(415条1項本文)である。

①につき、ある法律関係に基づいて特別の社会的接触関係に入った当事者間においては、その双方は、信義則(1条2項)上、相手方の生命身体を保護すべき義務を、当該法律関係の付随義務として負う。

これを使用者等についてみると、使用者は危険源を支配しており、被用者は労務提供に際しての安全性を使用者側に依存せざるを得ない。したがって、使用者は、被用者の従事する職種、地位、具体的状況に照らして適切な労務管理のための人的・物的組織を整備し、または安全教育を施すことによって危険源を排する信義則上の義務(以下、安全配慮義務という)をも負う。この理は、直接の雇用契約関係にない者の間でも、実質的な労働指揮関係が存在する場合には妥当する。(なお、当該義務の内容は事案によってさまざまであるから、原告の側が義務の内実及びその違反の事実につき主張立証責任を負う。)

3 これに対する抗弁として、415条1項ただし書に基づき、使用者自身が上記義務の不履行をしたわけではない場合に、使用者には帰責事由がないと主張することが考えられる。もっとも、被用者が(道交法上の義務など)使用関係とは無関係に課されている義務の場合は別として、使用者が上記安全配慮義務の任務を委託し、被用者の業務を管理する者(履行補助者)が当該任務を怠ったといえる場合は、取引上の社会通念に照らせば、債務者は、自分自身の不履行ではないことを理由に責任を否定することはできない。

4 不法行為責任との相違点

〇時効期間は167条、724条の2により統一化(主:5年、客:20年)。〇履行遅滞の時期が、不法行為では行為時、安全配慮義務違反では請求時(412条3項)。〇遺族固有の慰謝料請求権は、安全配慮義務違反では発生しない。〇安全配慮義務の履行請求が承認されている。〇主張立証の負担は、実質的に変わりない。

・代償請求権

要件は、①履行不能、②債務者が履行の目的物に代わる権利利益(代償)を得たこと、③①と②の原因の同一性、④債権者の受けた損害の額、である。履行の代償であるため、債務者の帰責事由は要件とはならない。

損害賠償請求権と並列的に請求することができるが、履行不能にかかる損害の分担の公平を図る観点から、代償請求権行使の結果利益を得たときは、その限度で損害額が減少する。

代償が第三者に対する債権である場合、すでに債務者に対し履行されていた場合は、代償の償還、まだ履行されていなかった場合は、債権譲渡及びその対抗要件の具備(467条)を請求できる。

II 債権者代位権

〇無資力という文言があって、債務者がまだ行使していない権利を有しているときに注意。

・要件論

1 一般的要件

請求原因は①被保全債権の存在、②債権保全の必要性、③被代位権利の存在(423条1項本文)、抗弁は、④債務者がすでに③を行使していること、⑤①に履行期があること(同2項本文)、⑥③に付着している抗弁(同1項ただし書き、3項)、である。また、⑤に対する再抗弁は、⑦履行期到来、または保存行為(同2項ただし書き)である。

②は、責任財産保全の観点から、債務者の資力が自己の債権の弁済を受けるについて十分でないことをいう。

2 転用事例

②について、責任財産保全目的でなくとも、債権保全の必要性が認められる限り、債権者代位権行使を認めるのが法の趣旨である(423条の7参照)。この場合、金銭債権の保全ではなく、特定債権の保全が目的であるから、②は債務者の無資力を意味しない。

⑴登記移転手続請求権の代位行使

⑵契約の相手方の履行請求権の代位行使

⑶賃借人による建物買取請求権の代位行使

①被保全債権は賃借権であり、③被代位権利は、建物買取請求権により生ずる売買代金債権であるところ、②両債権には関連性がなく、賃借権保全の必要は認められない。よって、建物買取請求権の代位行使はできない。

⑷借地借家法が適用されない場合の賃借人による賃貸人の妨害排除請求権の代位行使

⑸抵当不動産に関して、担保価値維持請求権に基づいて、抵当不動産の所有者の有する妨害排除請求権を代位行使。

3 時効援用権の代位行使

⑥について、時効援用権は、当事者の財産的利益にのみ関し、純粋な債務者の身分ないし人格そのものと結合するものではない。また、債務者の援用権不行使が債権者を害する場合にまで、債務者の自由意思を尊重する必要はない。そこで、時効援用権は一身専属権ではなく、423条1項ただし書きには該当しないと解する。

4 権利行使方法

423条の2、423条の3(債権者が被保全債権を自働債権として、債務者への受領した金銭等の返還債務を受動債権とする相殺ができる。)。

5 債務者・第三債務者の保護

423条の4、423条の5、423条の6

III 詐害行為取消権

〇無資力という文言があって、債務者が法律行為をしたときは、注意。

〇債務の免除や相殺、債務引受など、典型的ではない行為も詐害行為となることに注意。

・要件論

1 一般的詐害行為

要件は、①被保全債権の存在、②①の発生原因が詐害行為前に生じたこと、③債権保全の必要性、④財産権を目的とする行為、⑤④の詐害性、⑥債務者の詐害意思、抗弁として⑦受益者の善意(424条1項、2項、3項)である。

2 相当価格処分行為

⑧相当対価を得てした処分行為、⑨金銭への換価等により隠匿等の処分のおそれが現に生じたこと、⑩債権者の隠匿等の処分意思、⑪受益者の⑨についての悪意、も要件となる(424条の2各号)。

⑧について、新規借入れのための担保供与行為/保証料の支払いを受けてする物上保証や保証も、目的物を売却して資金調達したのと同視できるから、これに含まれる。

3 義務的偏頗弁済等

⑧既存の債務についての担保供与または債務消滅行為、⑨⑧が支払不能時にされたこと、⑩通謀的害意、も要件となる(424条の3第1項)。

4 非義務的偏頗弁済等

⑧債務者の義務に属しない、または、その時期が債務者の義務に属しない行為、⑨⑧が支払不能30日以内にされたこと、⑩通謀的害意、も要件となる(424条の3第2項)。

⑧には、代物弁済を含む。弁済方法が義務に属しない行為だからである。

5 過大な代物弁済等

⑧代物弁済等の債務消滅行為、⑨過大性、も要件となる(424条の4)。

6 転得者等に対する詐害行為取消権

⑧債務者からの転得者、またはさらにその転得者であること、⑨転得当時の悪意、も要件となる(424条の5第1号、2号)。このとき、⑦は債権者が主張立証すべきとの見解があるが、424の5柱書は「取消請求をすることができる場合」としており、取消請求が認められる場合としていないことから、原則通り転得者において主張立証すべきである。

7 詐害行為取消訴訟の提起 424条の7、426条

8 取消の行使及び効果 424条の6、424条の8、424条の9、425条

9 後処理 425条の2、425条の3、425条の4

・対抗要件具備行為の取消可能性

不動産・債権の譲渡契約がされたあと、被保全債権の発生の原因が生じ、その後、対抗要件具備行為がされた場合であっても、譲渡と対抗要件の具備は異なる行為であり、後者によって債務者の責任財産が減少するわけではなく、単に公示性が備わるにすぎないことから、詐害行為取消の対象とはならない(424条3項)と解する。

・特定物債権保全のための詐害行為取消権行使の可否(令和4年出題)

(要件につき、上述)①について、詐害行為取消権は責任財産保全のための制度であるから、被保全債権は金銭債権でなければならない。もっとも、特定物債権も究極においては損害賠償請求権に変わり得るから、債務者の一般財産により担保が必要である点は、金銭債権と変わりない。したがって、特定物引渡債務の社会通念上の履行不能(412条の2第1項)により発生する損害賠償請求権(415条1項、2項1号)として、①を充足する。

ただし、取消しの効果として特定物債権を行使することはできない。仮にこれを認めると、対抗要件具備の有無によって決した優劣関係を覆すこととなって、法の趣旨に反するからである。

・抵当権付き不動産の代物弁済の取消の範囲/返還の方法

抵当権によって価値が把握されていた部分は、もともと責任財産を構成しないから、抵当権者に対し当該不動産を代物弁済に供した場合は、当該部分は詐害行為取消権の対象にはなりえない。したがって、代物弁済の一部取消しがされることになる。

また、すでに抵当権設定登記が抹消された場合に、仮に不可分物である不動産を現物返還させるとすれば、責任財産を構成していなかった部分をも責任財産に復帰させることになるし、改めて抵当権を設定し直すことも社会通念上不可能であるから、現物返還は困難である(424条の6第1項後段)。

したがって、債権者は、受益者等に対し、自己の有する債権の限度で、自己に対し、価格償還を請求することになる(424条の8第2項、1項、424条の9第2項、1項前段)。

(*夫婦財産の清算、慰謝料、扶養料の趣旨を含む財産分与において、この趣旨を逸脱する部分を詐害行為として不動産譲渡を取り消すべきときにも妥当する論証。)

(*単に抵当権付き不動産を譲渡しただけのときは、原則通り現物返還。責任財産を構成していた部分の譲渡行為の全部取消しであり、現物復帰しても過大な回復にはならないから。)

・遺産分割、相続放棄と詐害行為取消

(要件につき上述)

④について、遺産分割協議は、相続人の共有財産の帰属を単独所有または新たな共有に確定させるものであり、持分譲渡の性質を有しているから、財産権を目的とする行為といえる。

④について、相続放棄は、相続資格を遡及的に喪失させるものであり、相続人としての地位にかかわる問題である(939条)。また、相続放棄によって相続財産を減少させることはないし、相続財産から相続人の財産へ財貨が移転するものでもなく、一般財産を減少させるものではない。したがって、財産権を目的する行為とはいえない。

Ⅳ 保証

〇保証契約は、しばしば、主たる債務者が持参してきた白紙委任状に保証人が署名押印して交付することによって成立するから、保証と表見代理をめぐる問題が生じやすい。

・解除(取消・無効)に伴う原状回復義務と原債務の保証

1 解除(取消・無効)によって債務者に生じる原状回復義務も保証の範囲に含まれるか。

2 特定物給付義務の保証

解除は、債務不履行をされた債権者を契約の拘束力から解放し、契約関係を清算する趣旨の制度であって、契約は遡及的に無効となる(545条1項参照)。すると、保証債務も付従性により消滅するのが原則である。

他方で、他人が代わって履行することの困難な特定物の給付債務を保証した場合、当該債務の不履行に起因して債権者に対して負うことのある債務につき保証する趣旨でなされたと推認される。よって、特段の意思表示のない限り、保証債務は、当該原状回復義務を保証するものとして存続する。

3 不特定物給付義務、金銭債務の保証

(保証契約の解釈による。特定物給付義務と同様に考えてよい特段の事情がある場合には、保証人は原状回復義務の保証責任を負うとしてよい。449条の類推適用の可能性もある。)

4 合意解除の場合

債務者の債務不履行を背景とする合意解除がされた場合であっても、実質的にみて、解除権を行使したときに保証人が負担しうる義務よりも重いものでない限りにおいて、妥当する。保証人の責任が過大にならず、保証人の通常の意思に反しないからである。

・463条2項3項による弁済の有効擬制の効力の及ぶ主観的範囲

463条2項3項の趣旨は、第1出捐者の帰責性を根拠に第2出捐者を保護し、両者間での求償関係の公平を図る点にある。したがって、同項による有効擬制の効果は、第2出捐者の主張をまってはじめて生じ、かつ、相対的にのみ生じる。つまり、他の保証人や債権者にとっては、第1出捐が弁済として有効である。

その結果、第2出捐者は第1出捐者による求償を拒み、(かつ463条2項の場合にあっては保証人は)求償権を行使できる(459条1項)。さらに、債権者に対しては、不当利得として全額返還請求できる。

・事前通知および事後通知ともに怠られたとき

463条2項の趣旨は、主債務者の帰責性を根拠に、帰責性のない保証人を保護し、両者間での求償関係の公平を図る点にある。したがって、同条1項の事前通知を怠った保証人は、保護の対象ではなく、保証債務の履行は無効である。

*連帯債務者における443条2項についても妥当する。

・主たる債務者の消滅時効援用後に保証人が保証債務を履行した場合

1 委託保証の場合は、463条2項の趣旨(主債務者の帰責性を根拠に、帰責性のない保証人を保護し、両者間での求償関係の公平を図る)が妥当するから、同項を類推適用する。

2 委託のない保証等の場合、消滅時効援用により保証債務が消滅しているから、保証人のした弁済は非債弁済となる。債務の消滅行為ともいえないので、主債務者に求償はできない。

・主たる債務の時効利益放棄または債務承認と、保証債務の承認後の時効援用

主債務の消滅時効を保証人として援用し(145条)、保証債務が付従性により消滅したと主張することはできる(145条、458条2項参照)。

しかし、主債務者の時効利益放棄または承認を知って保証債務を承認または履行したのに、のちに主たる債務の消滅時効を援用し/保証人が主たる債務について時効の利益を放棄したのに、主債務者が時効を援用したことを奇貨として/主債務の時効の完成後に、主たる債務についても消滅時効を援用しないとの趣旨で、保証債務を承認または履行した場合、付従性により保証債務が消滅したと主張するのは、自ら引き受けたリスクを免れ、相手方の地位をみだりに不安定にするもので、信義則に反するから許されない。

意思表示の瑕疵と449条の類推適用

1 主たる債務者/債権者が意思表示の瑕疵を理由にこれを取り消した場合、保証人は債権者に対し損害担保義務を負うことがあるか。449条の類推適用が問題となる。

2 主たる債務者により取消されたとき

449条の趣旨は、取り消されうる契約を保証した者は、現に取り消されたかに関係なく、債務を負担する意思があると解釈される点にある。そして、意思表示の取消原因を知って保証した者についてもその趣旨は妥当するから、449条の類推適用の基礎がある。他方、債権者の詐欺・強迫等については、債権者が損害担保責任の追及を通じて債権を確保できるとすると、間接的に不当な行為の奨励につながる。

そこで、主債務者による錯誤取消等がなされた場合に、債権者が保証人の取消原因についての悪意を主張立証したときには、保証人に損害担保義務を負わせる。もっとも、債権者が誤認惹起に関与し詐欺に近い場合は除く。

3 債権者により取消されたとき

(449条の類推の基礎を述べたうえで)この場合、債権者は被害者であって、その権利を保護しても詐欺脅迫等を奨励することにならない。(また、債権者保護の観点から、取消原因について保証人が知らなくとも、不当利得返還請求権について保証人の責任が生ずるとの見解もあるが、保証意思の解釈を不当に拡張するものであって、採りえない。)

そこで、債権者が保証人の悪意を主張立証できたときには、保証人の独立の損害担保義務を負わせる。

V 弁済

・表見受領権者に対する弁済

1 債権が二重譲渡され、対抗要件の具備につき劣後する譲受人に債務者が弁済した場合/債権譲渡契約が無効・不成立なのに譲受人に債務者が弁済した場合/債権者の代理人と称する者に弁済した場合、478条により当該弁済が有効とされるか。

2 478条の要件は、①取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者、②弁済行為、③弁済者の善意無過失、である。

③について、債務者は467条2項により客観的基準により決定した優劣に拘束される。したがって、債務者において、優先譲受人の債権譲受行為又は対抗要件に不備があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど、劣後譲受人を真の権利者と信ずるにつき相当の理由がある場合に限り、無過失として③を充足する。

3〇「相当の理由」の一例:一方の譲渡については債権譲渡登記のみされ、その後、他方の譲渡について確定日付通知され、債務者が後者しか知らなかった場合

〇二重譲渡以外の事例:債権譲渡契約が虚偽表示である、取消・解除されたがその通知がされていないなど。

・預金担保貸付及び相殺と478条の類推適用(省略)

・弁済による代位とその範囲

2 代位の要件は、①弁済その他の債務消滅行為、②債務者に対する求償権取得、③弁済するにつき正当の利益(または467条所定の手続を履践した)、である(499条、500条)。

そこで、原債権と求償権の関係についてみると、本制度の趣旨は、本来消滅するはずの債権および担保権を存続させて、求償権を確保させる点にある。

したがって、⑴求償権の範囲を超えて弁済を受けることはできない(501条1項2項参考)。⑵担保権を実行するにあたっては、その被担保債権は原債権であって求償権ではなく、後順位抵当権者の利益保護を考慮して、代位弁済者は、原債権の限度で優先弁済を受けることができるにすぎない。⑶債務者から内入弁済を受けたときは、後順位抵当権者の利益保護を考慮して、求償権と原債権のそれぞれに弁済があったものとして488条ないし490条に従って双方に充当される。

3 〇②→連帯債務者→442-445、保証人→459,459の2,462-465、物上保証人→ 372,351

Ⅵ 相殺

・相殺の要件

相殺の要件は、①相殺適状(同一当事者間における債権の対立、両債権の同種目的性、両債務の弁済期の到来)、②①の現存、③相殺の意思表示である。ただし、④債務の性質が相殺を許すものでないときは、相殺できない(505条1項、506条1項)。

(①について、478条の類推適用と担保権者による第三者相殺が例外。)

②について、先に相殺適状に達していたとしても、相殺の意思表示がされる前に弁済、相殺等により対立債権の一方が消滅していたときは、充足しない。

④につき、双務契約の場合、債務者に当然に同時履行の抗弁権(533条)が認められる。また、相殺においては双務契約上の牽連関係を維持する要請がある。したがって、履行の提供(492、493条)を継続しなければ、債務の性質上相殺は許されない。

・追完に代わる損害賠償請求権と反対債権の相殺及び履行遅滞となる時期

1(相殺の要件充足性を論じてから、)履行の提供なくして相殺はできるか(505条1項ただし書き)。できるとして、どの時点から遅延損害金が発生するか。

2 双務契約においては、当事者に当然に同時履行の抗弁権(533条)が認められるから、自己の債務の履行の提供により当該抗弁権を消失させなければ、505条1項ただし書きに該当して相殺は許されないのが本来である。もっとも、①追完に代わる損害賠償請求権と反対債権の相殺が、実質的・経済的には反対債権を減額するものといえ、②両債権が、同一の原因関係に基づく金銭債権であり、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益はないときは、相手方に当該抗弁権の喪失による不利益を与えることにはならず、むしろ、相殺により清算的調整を図り、当事者双方の便宜及び法律関係の簡明を優先すべきである。よって、履行の提供なくして、一方当事者からの相殺は可能と解する。

2 損害賠償請求権が相殺の遡及効により消滅したとしても、当該遡及効は法律関係の簡明化の趣旨で認められたにすぎない。よって、相殺の意思表示をするまでは反対債権の債務者が債務全額について履行遅滞による責任を負わなかったという効果に影響はない。したがって、債務者は、相殺の意思表示をした日の翌日から遅延損害金の賠償責任を負う。

・債務不履行解除後の相殺と解除の有効性

解除の意思表示後、債務者から債務不履行にかかる債権を受働債権とする相殺の意思表示がなされたとき、解除された契約上の債務が遡及的に消滅し(506条2項)、債務不履行の事実がなくなって解除の理由がなくなるかに見える。しかし、当該遡及効は債権の簡易決済の趣旨であって、解除の有効性に影響を及ぼさないし、法的安定に欠ける。

したがって、解除者が相手方に反対債権があることを知りながらあえて債務不履行解除をしたなど信義則に反する特段の事情がない限り、解除はなお有効である。

・時効消滅した自働債権と、受働債権の弁済期到来の要否(R3出題)

2 一般に、受働債権については、期限の利益を放棄して弁済期を到来させることができるものの、債務者がいつでも期限の利益を放棄できることを理由に相殺適状を認めることは、すでに享受した期限の利益を自ら遡及的に消滅させることとなって相当ではない。また、505条1項の文言も重視すべきである。さらに、508条1項は、相殺適状にある債権は、決済されたものと考えるのが通常であるから、その期待を保護する趣旨の例外規定である。

これらのことから、期限の利益を放棄しえただけでは足りず、期限の利益の現実の放棄により弁済期を現実に到来させ、相殺適状を消滅時効期間の経過の前に現に生じさせたことが必要である。

・期限の利益喪失特約及び相殺予約の第三者効

1 511条1項2項を満たす限り、弁済期の前後を問わず、また差押と相殺適状時の前後を問わず、受働債権の債務者は、相殺をもって差押債権者に対抗できる。つまり、差押後、転付命令到達前に相殺の意思表示さえすれば、当該債務者が優先する。

2 債務者は、期限の利益喪失特約及び相殺予約特約(以下、特約)があれば、他の要件を満たす限り、遅くとも差押時までには相殺の効力が生じることとなる。そして、特約に第三者効があれば、転付命令の到達時期にかかわらず、差押債権者に相殺を対抗できることとなる。特約に第三者効は認められるか。

たしかに、当該合意を無条件で第三者に対して対抗できるとした判例がある。しかし、銀行取引上特約がなされることは公知の事実であり、差押債権者に合意を対抗できるとしてもあながち不合理ではないとの事情を背景にしていた。つまり、判例の射程は限定的である。

そこで、⑴受働債権が自働債権の担保としての機能を有し、両者に密接な牽連関係があるなど相殺権者の期待に合理性があり、かつ、⑵特約がされていることが公知の事実であるなど相殺への期待が第三者に予測可能であれば、特約に第三者効を認める。

*三者間相殺契約にも使える論証だが、実質的には債権譲渡と構成すべき場合がある。

・「差押え前の原因」の意義(潮見説)

1 511条2項の趣旨は、差押え前に債権の発生原因がある以上、これを自働債権とする相殺への合理的期待が第三債務者にあるという点にある。したがって、「差押え前の原因」にあたるかどうかは、時間的観点のみならず、相殺への期待を直接具体的に基礎づけるものかどうかで決する。

2 個別事案

〇売買・請負の代金報酬請求権と損害賠償請求権→あたる。〇賃料債権と必要費償還請求権→あたる。賃料債権と有益費償還請求権→あたらない?。〇別個の契約上の2つの債権→個別事案による。

Ⅶ 債権譲渡

ⅰ 債務者対抗要件をめぐる問題

・譲渡前にした通知の無効

いまだ債権が譲渡されていないのに譲渡人が譲渡通知し、その後債権譲渡がされたとしても、債務者対抗要件(467条1項)が備わったことにはならない。譲渡が実際になされるか不明確な段階で通知に債務者対抗要件としての意味を認めるとすると、債務者を不安定な地位においてしまうからである。

したがって、債権譲渡後、改めて有効な譲渡通知をしなければ債務者対抗要件は具備されないし、通知したとしても、譲渡以前にした通知に対抗要件としての意味が与えられることはない。

・債務者対抗要件が具備されていないときにされた弁済と非債弁済

債務者対抗要件が備わっていない場合、債務者は譲渡人を債権者と扱ってよく、債務者が譲渡人を債権者としてした弁済は有効である(468条1項により、譲受人に弁済の抗弁を提出できる。この理は、債権譲渡登記がされて第三者対抗要件が備わっていても変わりない。)。

したがって、債務者は、譲渡当事者間で債権者が誰であるかについて債務者を混乱させたなど信義則に反する特段の事情がない限り、自らの意思でした債権者の選択を事後的に翻し、非債弁済(708条)又は譲受人を債権者とする弁済であったと主張することは禁反言に照らして許されず、譲渡人に対し弁済金相当額の返還請求はできない。

・債務者の抗弁(取消、解除)と債権譲渡通知

1 468条1項に基づき債務者が原契約の取消解除による債務消滅の抗弁を譲受人に対抗するには、取消又は解除の意思表示を譲渡通知時(467条1項)までにする必要があるか。

2 通知との競合関係

468条1項の趣旨は、債務者が関与できない債権譲渡によって、債務者が従来よりも不利益な立場に陥ることを防ぐところにある。

したがって、抗弁事由の発生の基礎(つまり、解除原因、取消原因)が通知時までに具体的に存在していれば、債務者は468条1項により債務消滅を譲受人に対抗できる。

3 解除における第三者該当性

譲受人は545条1項ただし書きの「第三者」にあたらないから、譲受人との関係でも債務は消滅する。第三者とは、当事者又はその包括承継人以外の者であって、解除された契約の有効を前提に新たな法律関係を形成した者をいうところ、当該契約上の債権を譲り受けたのみでは、法律関係を形成したとは言えないからである。また、債権を譲渡さえしてしまえば第三者は債権を行使できるとすると、実質的に契約の遡及的無効を潜脱できることとなり、不当である。

ⅱ 第三者対抗要件をめぐる問題

・「第三者」の意義

467条2項の趣旨は、債務者の債権譲渡についての認識を通じて譲渡を公示することで、同一債権の譲受人に不測の損害が生じないようにする点にある。

したがって、「第三者」とは、当事者又はその包括承継人以外の者であって、譲渡された債権そのものについて両立しえない法的地位を取得した者をいう。保証人、物上保証人、担保財産の第三取得者、譲渡債権についての債務引受人、譲受人が譲渡債権を自働債権として債務者に対する自己の債務と相殺した場合の、その後受動債権を譲り受けた者やこれを差し押さえた一般債権者は「第三者」にあたらない。

・債権の二重譲渡と優劣の決定

1 債権が二重譲渡され、両譲受人が確定日付のある通知(467条2項)を備えた場合、債務者はどちらを債権者として扱えばよいのか。

2 優劣決定の一般的基準

467条2項の趣旨は、債務者の認識を通じて譲渡を公示することで、第三者への不測の損害を防止する点にある。他方で、同2項が確定日付を要求した趣旨は、譲渡人と債務者の通謀によって譲渡の通知の日時を遡らせることを防止するところにある。

したがって、譲受人相互の優劣は、確定日付の前後ではなく、通知の到達日時の前後によって決する。

3 同時到達の場合

同時に到達した場合は、どちらも対抗要件を具備している以上、双方とも、自己の優先的地位を主張することはできない。そこで、双方とも同一順位の譲受人となり、双方とも債権全額の履行を求めることができ、債務者がいずれかに弁済すれば債務は消滅すると解する。(なお、債権者から正当に請求されているのであるから、弁済を拒絶することはできず、債権者不確知を理由とする供託(494条2項)もなしえない。)

もっとも、一方譲受人に対し全額の弁済がされると、他方が全く債権回収できないとすると、請求の前後で優劣が決まることとなって、467条の上記趣旨及び公平に反する。そこで、432条以下を援用して、467条1項2項により可分債権たる金銭債権が連帯債権となったのと同視し、全額弁済を受けた譲受人に対して、他方は、債権額に応じた按分配当(427条参照)を求めうる(供託金還付請求権の債権額に応じた分割取得を認めた判例を参照)。

4 前後不明の場合

確定日付通知の到達が前後不明の場合は、事実認定上、同時に到達したとみなす。すると、どちらも対抗要件を具備している以上、双方とも、自己の優先的地位を主張することはできない。そこで、双方とも同一順位の譲受人となり、双方とも債権全額の履行を求めることができ、債務者がいずれかに弁済すれば債務は消滅すると解する。

また、どちらが真に優先する債権者なのか不明であるから、債務者は、債権者不確知として供託できる(494条2項)ところ、供託後は、公平の原則に照らし、各債権者の債権額に応じて供託金を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得すると解する。

5 債務者への通知なき債権譲渡登記と(確定日付)通知の優劣(平成18年出題)

法4条1項により、債権譲渡登記をすれば、467条2項の第三者対抗要件が具備されたものとみなされる。

もっとも、(譲受人からの登記事項証明書の発付で債務者対抗要件も具備できる(4条2項)ところ、)たとえ登記がされていても、債務者対抗要件が具備されなければ、譲受人は、債務者に対して自分が債権者であることを対抗できない。よって、債務者は、この場合、譲受人からの履行請求を拒むことができる。

そこで、債権譲渡登記はされているが債務者対抗要件が備わっていない段階で、別の譲受人が(確定日付)通知により債務者対抗要件を備えた場合、債務者は、この者に弁済すれば債務を消滅させることができ、債権譲渡登記をした譲受人に弁済を対抗できる(468条1項。「対抗要件」は、同規定が債務者保護の趣旨であることから、債務者対抗要件をいう。)。

この場合、第三者対抗レベルで優先する譲受人は、譲渡人に対し債務不履行責任を追及するか、弁済を受けた譲受人に対し、第三者対抗レベルで劣後するにもかかわらず弁済を受領したとして不当利得または不法行為責任の追及が考えられる。

(なお、債務者対抗要件の抗弁を出さずに先に債権譲渡登記をした譲受人に弁済した場合、これも有効な弁済であって、この者が優先する以上、第三者対抗レベルで劣後する譲受人は何らの請求もできない。)

・債権譲渡と相殺(潮見説)

469条2項1号の趣旨は、対抗要件具備時において反対債権が未発生であっても、その発生原因が存在する場合は、相殺への期待が保護に値するとされたところにある。したがって、「前の原因」にあたるかどうかは、①自働債権の発生原因が形式的に債務者への通知(467条1項)より前に存在していたというだけではなく、②対立債権の内容及び関連性を考慮して、相殺への合理的期待が認められるかどうかによって決する。

ⅲ 譲渡制限特約をめぐる問題

・善意無重過失の譲受人からの転得者

466条3項の趣旨は、法的安定性の確保、及び、善意無重過失の譲受人の債権処分に事実上の制約が生じるのを避ける点にある。よって、転得者がたとえ悪意でも、債務者は、466条3項により譲渡制限特約をもって悪意転得者に対抗できない。

・譲渡制限特約付債権の二重譲渡と第三者対抗要件

1 悪意の譲受人vs悪意の譲受人

いずれに対する債権譲渡も有効(466条2項)で、対抗要件の関係では、先に確定日付通知をした第1譲受人が優先し、この者が債権者となる。

しかし、特約について悪意なので、債務者は、第1譲受人への履行を拒絶して、譲渡人に支払うことができる(466条3項)。弁済を受けた譲渡人は、受領した給付を第1譲受人に支払わなければならない。

なお、債務者が債権譲渡を承諾した場合は、譲渡制限特約の抗弁を放棄したものとして、第1譲受人が債務者に履行請求できる。対して、第1譲受人が債権者であることが確定している以上は、第2譲受人に対して承諾しても、履行請求することはできない。(債権譲渡は有効なので譲渡人は履行請求できない。)

2 悪意の第1譲受人vs善意の第2譲受人

(上に同じ。466条3項は、主観的態様により優劣関係を決める趣旨を含まない。つまり、善意の第2譲受人に弁済すべきことを定めた規定ではない。また、この者に対して債権譲渡を承諾しても、第1譲受人が債権者であることに変わりないから、同じ結論になる。)(善意の第2譲受人を差押債権者に代えても同じ。)

3 善意の第1譲受人vs悪意の第2譲受人

いずれに対する債権譲渡も有効(466条2項)で、対抗要件の関係では、先に確定日付通知をした第1譲受人が優先し、この者が債権者となる。

また、債務者は、譲渡制限特約をもって第1譲受人に対抗できず、債務を履行しなければならない。

なお、第2譲受人にたいして債権譲渡を承諾しても、第1譲受人が債権者であることが確定している以上は、第2譲受人に履行することはできない。

・預貯金債権の譲渡の承諾

譲渡禁止特約について悪意または重過失のある譲受人に対し、債務者が預貯金債権譲渡を承諾したときは、466条の5第1項にかかわらず、債権譲渡は譲渡時点にさかのぼって有効となるが、116条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできない。

ⅳ 特殊の債権譲渡

・債権の遺贈と相続

債権の遺贈・相続は、債権の譲渡ではないが、債権の帰属が変動するのは同じであるから、467条の規律が同様に妥当する。

⑴したがって、債権の遺贈の債務者対抗要件は遺言者の相続人全員による通知または債務者の承諾であり、第三者対抗要件は確定日付通知・承諾である。

なお、899条の2第2項の適用はない。同規定は、同1項を受けたもので、相続を原因とする債権の承継にのみ適用されるからである。

⑵したがって、特定財産承継遺言(1014条2項参照)や遺産分割協議の結果、法定相続分を超える取得をした相続人がこの事実を債務者に対抗するには、本来、相続人全員による通知または債務者の承諾を要し、第三者対抗要件は確定日付通知・承諾である(899条の2第1項)。

もっとも、遺言又は遺産分割協議の内容を明らかにして債務者に承継の通知をすれば、これをもって債務者及び第三者対抗要件の具備があったとみなされる(899条の2第2項)。

・将来債権譲渡(担保目的の譲渡を含む)(平成18年出題)

1 将来発生する債権を一括して譲渡する契約をした場合に、譲渡人に対する債権者による差押えに際し、譲受人は自己の権利を主張できるか。

2 将来債権譲渡の有効性

まず、将来債権の一括譲渡の有効性について、①債権の発生原因、②譲渡にかかる額、③期間の始期と終期等をもって特定され、公序良俗に反しなければ、有効である(466条の6第1項参照)。担保目的での譲渡についても変わりない。

3 債権は契約時に確定的に譲受人に移転し(466条の6第2項参照)、(将来債権譲渡を債権者となる地位の譲渡と解する見地から、将来発生した時点で原始的に譲受人において債権は取得され、)当該譲渡の対抗要件は467条所定の方法により備わる。設定者に取立権が留保される旨の合意があっても、譲渡担保実行通知があるまでは譲渡人に債権がとどめられると解することはできない。

以上、譲受人が467条2項に従い、適法に第三者対抗要件を具備している限り、譲受人が差押債権者に優先する。

3 対抗要件具備手続

債務者対抗要件については、467条1項が対抗要件として通知を要求した趣旨は、債務者による譲渡の認識を通じて譲渡を公示するところにあるから、どの債権が移転するのか債務者に理解できるように明確に通知する必要がある。

4 公序良俗違反の場合の譲渡契約の無効

ただし、譲渡により譲渡人の営業活動・取引活動が不当に制限され、または譲受人が譲渡人の債権者であって債権譲渡担保により過剰な優先的回収の可能性を得ることとなり、他の債権者の引き当てを不当に逸出させることになるなど、公序良俗に反する場合は無効である。

5 将来債権が発生しなかった場合の処理

将来債権の発生可能性については譲渡契約の締結時において互いに了解済みである以上、発生の見込みが小さいからといって譲渡契約は無効にならない。

将来発生しなかった際のリスクについては、債権譲受人は、譲渡人に対し、債権の価値を維持・保証する(黙示の)特約上もしくは信義則上の義務の不履行として損害賠償請求しうる。(すでに債権自体は譲渡し終えている以上、不完全履行の類型。)

・将来賃料債権の譲渡と賃貸不動産の譲渡の競合

1 将来の賃料債権が一括譲渡され対抗要件が具備された(466条の6第1項、467条1項カッコ書き、2項参照)(ここで、将来債権譲渡の有効性について言及)。他方、賃借権が(借地借家法10条、31条の)対抗要件を備えているところ、その後、賃借物が譲渡され、移転登記がされた(605条の2第1項、3項)。

2 賃料債権譲受人と不動産譲受人のどちらに賃料債権が帰属するか。

不動産譲受人(605条の2第1項)は、賃貸人たる地位、つまり賃料債権を発生させることのできる地位を承継している。よって、当該地位に基づいて発生する債権については、すでにされた旧賃貸人の処分の結果を引き受けるべきである。また、不動産譲受前に賃料債権に関して賃借人に照会等すれば不利益を回避できたはずである。また、賃料債権を取得できなかったことを理由に不動産譲渡人に債務不履行責任を追及することもできる。

したがって、賃料債権譲受人は将来債権譲渡を不動産譲受人に対抗でき、賃料債権を行使できる。

たしかに、(旧賃貸人は、新賃貸人が将来取得することとなる債権を処分しえないはずであること、将来債権譲渡契約においては将来債権の不発生は当然想定される事態であるから、)債権譲渡の当事者間の損害賠償の問題として処理すべきという見解もある。しかし、将来賃料債権譲渡が目的物の譲渡により容易に喪失されるとすると、法があえて将来債権譲渡を認めた趣旨を没却する。

Ⅷ 債権の種類

・種類物の特定

1 種類債務の履行方法

(合意がない場合、484条1項により履行方法が定まるが、)484条1項の別段の意思表示がある本問では、債務は、債務者が目的物を債権者の住所等の契約において定められた場所に持参して債権者に引き渡す債務(持参債務)/債務者が債務者の住所等契約において定められた場所で目的物を受け取りに来た債権者に引き渡す債務(取立債務)/債務者が契約において定められた場所に目的物を送るべき債務(送付債務)にあたる。

(なお、493条本文が現実の提供を原則としていることに鑑み、配達者に送付を依頼する場合、種類物の発送のみが債務者の負うべき債務の内容となり、それが到達することは含まれないことが特に合意されない限り、配達者を履行補助者とする持参債務と解する。)

2 持参債務における種類物の特定

債務者が種類物から特定の物を選定して弁済場所に到達し、現実の提供(493条本文)をしたときに目的物の特定が生じる(401条2項)。ここでの現実の提供とは、「物の給付をするのに必要な行為が完了」との文言から、提供時において分離等により履行対象を確定させ、債権者がいつでも受領できる状態にしたことをいう。

3 取立債務における種類物の特定

種類物の特定(401条1項、2項参照)により債務者は調達義務を免れ、また善管注意義務を負う(400条)等の効果が生じる。よって、履行対象の客観的確定が必要となるところ、種類物たる性質上、口頭の提供(493条ただし書)だけでは足りない。目的物を分離する等の客観的確定行為がなされたうえで、引渡しの準備を整えこれを通知し受領を催告してはじめて、「物の給付をするのに必要な行為が完了し」たものとして、特定が生じる。

4 送付債務における種類物の特定

債務者が目的物を引渡場所に向けて発送することにより特定が生じる。

5 特定の効果

⑴492条、履行遅滞の違法性が阻却。解除、損害賠償請求、違約金請求、担保権実行(371条も参照)等がされない。相手方の同時履行の抗弁権を喪失させる。

⑵特定後に目的物が滅失した場合でも、調達義務が消滅しているので引渡義務は履行不能となる(412条の2第1項)。滅失についての債務者の帰責事由は、特段の合意がない限り、善管注意義務に違反したか否かで判断される(400条。536条、543条参照)。

⑶受領遅滞(413条1項)の前提要件をみたす。413条の2第2項により、買主は反対給付(代金債務)の履行を拒絶できない(536条2項)。解除もできない(543条、567条2項)。

⑷売主は、引渡日の翌日から、遅延損害金を請求できる(575条2項)とされているところ、その趣旨は、売主に引渡時まで目的物の果実収取権を認める(同1項)以上、引渡後に生じた遅延損害金のみ請求できるとする点にある。他方、目的物が滅失して果実収取が不能になった場合は、上記趣旨があてはまらないから、575条の適用はないというべきである。そこで、滅失後は、代金請求権の履行遅滞が違法となった時点から、遅延損害金が発生する。

6 制限種類債権と特定前であっても生じる効果

種類債権がさらに特殊の範囲で制限した物を目的物とする債権(制限種類債権)である場合、目的物の特定前であっても同範囲にある物の全量滅失により、調達義務は取引通念上履行不能(412条の2第1項)となる。債務者は目的物の特定前でも保存義務を負うものの、特定していない以上、自己の物に対するのと同一の注意義務で足りる(400条参照)。よって、滅失についての帰責事由は、受領遅滞中か否かにかかわらず、認められにくい。

引き渡すべきものの品質が当該制限により当然に定まる(401条1項参照)。

Ⅸ 同時履行の抗弁権

・追完に代わる損害賠償請求権と反対債権の同時履行の範囲(支払拒絶の可否)

追完請求権自体は、目的物の追完が性質上不可分であるから、全体として反対債権と同時履行の関係に立つ。このこととの平仄を合わせ、追完に代わる損害賠償請求をする場合でも、その全額において同時履行の関係に立つと解する。

(もっとも、契約不適合の程度や交渉態度等に鑑み、あまりにも過小な瑕疵を理由に報酬支払を拒絶しているなど信義則(1条2項)に反する特段の事情がある場合は、公平の観点から、その対等額においてのみ同時履行の主張を許す。)

・履行請求における弁済提供の抗弁と同時履行の抗弁権の消滅

1 履行請求された債務者が同時履行の抗弁権(533条)を主張した場合に、債権者による履行提供(492条、493条)の再抗弁により当該抗弁権を消滅させることができるか。

2 売主は履行提供後無資力となる可能性があり、また、売主が履行を提供しても債務を免れるわけではなく、双務契約上の牽連関係を維持するべきである。

したがって、債権者が履行の提供を継続していれば、債務者の同時履行の抗弁権を消失させることができると解する。

・原状回復における同時履行

1 原状回復義務(121条の2第1項)につき、同時履行の抗弁権を主張できるか。

2 取消により法律行為ないし双務契約が遡及的に無効となる(121条)場合、給付保持の根拠が失われ、よって互いに原状回復義務が生じるところ、当該義務は双務契約上の債権債務ではない。もっとも、一個の法律関係から生じた対価的牽連性のある債務であることはかわりない。また、533条の趣旨である当事者の公平は妥当する。

したがって、533条を類推適用し、互いの原状回復請求権は同時履行の関係に立つ。

これに対し、詐欺者・強迫者による同時履行の主張など、信義則に反すると認められる場合は、295条2項の類推適用によりこれを認めるべきでないとの見解がある。しかし、このように解しても、詐欺者等から別訴等を提起されうる以上、表意者の保護にはならないところ、無効な契約によって生じた法律関係の簡易迅速な処理の観点からは、むしろ同時履行を認めるのが合理的である。よって、この見解は採りえない。

・不安の抗弁権

1 双務契約上の一方の債務が先履行とされている場合、533条の適用はない。もっとも、相手方の債務の履行の見込みがないときには、履行を拒むことはできないか。

2 このような場合に無条件に債務の履行を求めるのは、当事者の公平を失する。他方で、私的自治の原則から、契約締結時のリスク分配に配慮すべきである。

そこで、①継続的売買取引において、②契約締結時には予測不能だった事由が発生し、③売主が担保の提供を求めたのに拒否された等の事情がある場合には、売主は履行を拒むことができ、違法な履行遅滞にもならないと解する。

3 先履行後に反対給付の履行不能が判明した場合には、履行不能に基づく解除(542条1項1号)から原状回復義務が発生することとの平仄を合わせ、705条の反対解釈、703,704条により既履行の給付目的物の返還を求めることができる。

Ⅹ 解除

・解除の要件

1 催告解除

541条の解除の要件は、①債務の不履行、②履行の催告、③相当期間経過、④解除の意思表示、⑤①が軽微でないことである。また、双務契約上の債務に不履行があった場合、債務者に当然に同時履行の抗弁権(533条)が認められ、債権者としては当該抗弁権を消失させる必要があるから、⑥履行の提供(492、493条)をしたことも要件である。

①②③④⑥は債権者が主張立証し、⑤の不充足は債務者が主張立証する。

2 無催告解除

履行の提供は要件にならない。契約目的が達成できない以上、双務契約における両債務の牽連関係を維持する利益がなく、相手方の同時履行の抗弁権(533条)が問題にならないからである。

・複合的契約における解除(R3予備)

1 契約解釈

契約の個数が当事者の明示の意思だけでは明らかでないときは、契約目的の独立性、交渉経緯、契約条項の記載・定め方、慣習等から、当事者の合理的意思を推認し、一個の混合的契約か、複数の契約かを決する。

2 契約が一つの場合

(全部解除か一部解除か、及び付随性・軽微性について検討。541条。542条1項2項。)

3 契約が二つ以上の場合

(1)(一つの契約において解除の要件が充足することを述べたうえで)二つ以上の契約の一つに債務不履行があったことを理由に、他の契約を解除できるか。

(2)契約には相対効しかないから、一方において債務不履行があったからといって、他方の契約を解除することは原則できない。もっとも、解除の制度趣旨が、債務不履行された債権者を契約の拘束力から解放するところにある以上、密接な関連を有する複合的契約においても上記原則を貫くのは、当事者の意思に反する。

したがって、①両契約の目的が相互に密接に関連していて、②社会通念上いずれかが履行されただけでは、契約目的が全体として達成されない場合には、例外的に、このような解除ができると解する。

なお、一般には、不履行となった債務が付随的事項にすぎないなど軽微な場合は、解除権が制限される(541条ただし書き)ものの、要件②を充たす場合は、軽微であるとは考えられないから、債務者は当該抗弁ができない。

(3)〇1では、契約の形式・体裁から契約の個数を判断するのに対し、ここでは、契約の実質を考える。①→成立・存続・消滅に関する一体性、契約相互間の対価的経済的な相互依存性、②→契約締結の主たる動機、不履行の期間、契約の経済的効果

・解除に基づく原状回復義務の履行不能

1 解除後、互いに原状回復義務(545条1項)を負う場合に、給付受領者の同義務が社会通念上履行不能となった(412条の2第1項)とき、給付者は何らかの返還請求ができるか。

2 解除に基づく原状回復制度の趣旨は、契約の拘束力から解放して契約関係を清算するところにある。また、返還の相手方に滅失についての帰責事由があるときは格別、そうでないのに相手方にリスクを負わすべきでない(548条の法意を参照)。

したがって、双方に帰責事由がないときは、給付受領者は、返還すべき物の客観的価値相当額の返還し、返還不能について給付者に帰責事由があるときは、返還物の客観的価値相当額の返還は不要と解する。

3 給付受領者は、いずれの場合でも、545条3項により果実または使用利益(目的物の使用の対価と同視される。88条2項参照)の返還義務を免れることはない。給付者の帰責事由の有無にかかわらず、履行不能時まで使用収益しえたことは事実であり、給付受領者には当該利益を保持する根拠がないからである。

Ⅺ 売買契約

ⅰ 契約不適合責任

*請負契約では、567条に代わって636条、566条に代わって637条が適用される。

・契約不適合責任の期間制限、消滅時効との関係

1 本問では、引き渡された目的物について○○という種類・品質における契約不適合(562条1項)があるところ、566条の「不適合を知ったとき」(売主に対し契約不適合責任を追及しうる程度に確実な事実関係を知ったとき)から一年内に通知しているので、同規定による失権はされない。

2 本問では、引き渡された目的物について○○という種類・品質における契約不適合(562条1項)があるところ、当事者は双方とも商人(商法4条1項)であるから、商法526条が問題となる。もっとも、受領後遅滞なく検査し、かつ6か月以内に契約不適合を発見して通知しているから、同規定による失権はない。

3 166条1項の適用もある。566条は1年内の通知がなければ責任追及権の失権を定めただけであり、通知さえすれば権利を永続させるとの趣旨は含まないからである。この場合、166条1項2号の起算点は、買主が目的物の引渡を受けた時点となる。

・代金増額請求の可否

1 当事者が契約で定めた数量を超過していた場合、563条の類推適用により超過分の代金増額請求をなしうるか。

2 同条は、数量等の不足を前提に、買主の法的救済手段を定めた規定である以上、数量超過の場合にこれを類推する基礎に欠ける。

したがって、(契約の合理的解釈により増額請求ができると解すべき特段の事情がない限り、)同条は類推適用できず、増額請求はできない。

・法律的制限と契約不適合

1 売買目的物に関する法律的瑕疵(行政上の規制等)により契約の目的を達成できないとき、売主に対し、品質又は権利の契約不適合いずれの責任を追及できるか(562条1項、565条)。566条の期間制限をかけるべきか否かが問題となる。

2 566条の趣旨は、目的物は引渡時から品質が悪化しつづけ、または不明確になることから、一応債務を履行した債務者の責任が過大になるのを防ぐ点にある。

他方、目的物の法律的瑕疵は、目的物の引渡以後に悪化するものではなく、さらなる規制がされたとしても、これは明確に知ることができる。したがって、売主の責任追及について、566条による規制をかける根拠を欠く。

したがって、権利に関する契約不適合として売主の責任を追及すべきであり、566条の期間制限は課されない。

・土地賃借権の瑕疵と契約不適合責任

1 土地賃借権付きの建物の譲渡において、賃借権は、建物の経済的効用を継続的に高めると従たる権利として、建物とともに移転する(87条2項の類推適用)。買主は、土地の瑕疵について、賃借権の品質に関する売主の契約不適合責任(565条、562条以下)を追及できるか。

2 建物とともに売買の目的物とされたのは土地賃借権であって土地自体ではない。また、敷地の瑕疵は賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべきものである(606条1項)。また、仮に賃貸人が無資力であっても、債権の売主が当然に債務者の資力を担保するものではない(569条参照)。

したがって、土地に瑕疵があったとしても、売主に対し、賃借権の品質に関する契約不適合責任を追及することは原則としてできない。

もっとも、敷地の面積不足、土地に対する法的規制、賃貸借上の使用方法の制限などの客観的事由により賃借権が制約を受けて売買目的を達成できない場合、または、606条の適用排除特約等があるのにこれを加味して代金が設定されなかったなど特段の事情がある場合は、公平の観点から、例外的に、契約不適合責任を売主に追及できると解する。

ⅱ 手付契約

・違約手付と解約手付

1 違約手付の約束がある場合に、これを解約手付として557条1項の解除ができるか。

2 557条1項は任意規定であり、また、手付に複数の性質をもたせることもできるところ、同条の適用を排除するには、その旨の意思表示を要する。また、契約の拘束力の側面から見ても、違約手付の約束が同条項による解除権の留保を妨げると敢えて解すべき合理的な理由はない。

したがって、違約手付と解約手付としての性質は兼ねることができ、557条1項にもとづく解除は違約手付の約束に関わらず可能である。

・「契約の履行に着手」の意義

手付解除の要件は、①手付契約の合意、②手付金の交付、③買主は手付金放棄の意思表示、売主は手付金の倍額の現実の提供(557条1項本文)、④解除の意思表示、⑤④のまえに相手方が契約の履行に着手していないこと(同ただし書き)である。

⑤について、557条1項ただし書きの趣旨は、履行に着手した当事者の合理的期待を保護するところにある。したがって、「履行に着手」は、単なる契約の準備では足りず、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするのに欠くことのできない前提行為をすることを要する。とくに、履行期前にした行為については、行為態様・時期、債務の内容、履行期が定められた(期限の利益を認めた)趣旨・目的等を総合して決する。

(あてはめ)

・履行着手肯定例→〇現実の提供+受領催告、〇多額の支払代金の用意、〇農地売買許可の申請、〇他人物売買における他者からの目的物の調達+自己名義の対抗要件の具備

・否定例→〇1年以上前に多額の資金用意+口頭の提供(長期の期限の利益を設けた趣旨に反する)

Ⅻ 賃貸借契約

〇622条の準用する600条の損害賠償の除斥期間と時効の完成猶予規定に注意。

ⅰ 賃貸借・転貸借当事者間の問題

・共同賃貸借における賃料支払義務

賃貸目的物を使用収益させる債務は不可分債務(430条)であることから、その対価たる賃料債務も性質上不可分であるとして、共同賃借人各人に賃料全額を請求できる(436条)。

・賃借人による増改築部分の留保の可否と不当利得

1 当該増改築部分の所有権を、242条ただし書きにより、賃借人は留保できるか。

⑴増改築部分が構造上及び利用上の独立性がなく、分離復旧が社会経済上不能であって、区分所有権の対象たりえないときは、建物との強い付合が認められる。よって、242条ただし書きの「附属させた」にあたらず、当該部分は建物の所有者に帰属する。(もっとも、608条2項により費用償還請求ができる。)。

⑵増改築部分が構造上及び利用上の独立性があり、分離復旧が社会経済上可能であって、区分所有権の対象たりうるときは、建物との弱い付合が認められる。よって、242条ただし書きの「附属させた」にあたる。もっとも、賃借人には原則として「権原」は認められない。賃借権は建物を現状のままで利用することを内容としている(601条、616条、594条1項、621条参考)からである。したがって、「権原によって附属させた」にあたらず、当該部分は建物所有者に帰属する。(608条2項により費用償還請求はできる。)。

もっとも、賃貸人が、増改築だけでなく、区分所有権を賃借人に留保することまで明示又は黙示に承諾していたといえる場合、「権原」が認められ、当該部分は「権原によって附属させた他人の物」にあたるから、賃借人に帰属する。また、622条、599条1項の収去権、収去義務が発生するが、造作買取請求権(法33条)を行使することもできる。

第三者との関係について、権原たる賃借権または付合物自体につき対抗要件を具備しなければ、増改築部分の所有権の留保を第三者に対抗できない。権原にもとづく所有権留保は物権変動の一種といえ、また、取引の安全を図る必要があるからである。

2〇外側から直接出入りでき、増改築部分だけで建物としてなんらかの用途に供することができるときは、区分所有権の対象となるとしてよい。〇建物の屋上に作ったプレハブで、はしごがないと出入りできない場合は、独立性がないとされた。

・「転貸」該当性(転貸契約の要否/現実の使用収益の要否)

612条1項2項に基づく解除の要件は、①賃貸借契約の締結、②①に基づく引渡し、③(賃借人の意思に基づく)第三者への賃借物の転貸または賃借権の譲渡、④賃貸人が③について承諾していないこと、⑤第三者が現実に使用収益したこと、である。

③について、文言上は転貸借契約(・賃借権の譲渡契約)を要するかのようであるものの、賃貸人は賃借人による使用収益を認めたのみである(601条)から、第三者との上記契約の締結がなくとも、第三者に使用収益させておれば、実質上「転貸」(「譲り渡し」)にあたる。

⑤は、601条が賃借人に第三者への賃借物の引渡を認めていないことを理由に、当該引渡のみで充足するとの見解がある。しかし、第三者が現実に使用収益していないのに賃貸人に無催告での解除権を認めることは、賃貸人の過剰保護であって妥当でなく、法文上「使用または収益させたとき」としているのも同趣旨である。したがって、この見解は採り得ない。

・地上建物の賃貸と転貸該当性

1 建物所有目的の土地の賃貸借契約において、借地上の建物が賃貸された場合、土地賃貸人は、敷地の「転貸」(612条1項)にあたるとして契約を解除できるか。

2(612条1項2項に基づく解除の要件を述べたうえで)③について、土地の賃貸人は、建物所有のために土地を賃貸した以上、建物の利用に伴う敷地の利用は、当然甘受すべきである。また、通常、建物を建物賃貸人が利用するか建物賃借人が利用するかで敷地の利用形態に違いは生じない。さらに、建物の使用収益は建物所有者の自由である(206条)。

したがって、「転貸」に該当せず、612条2項の解除権の行使は認められない。

・信頼関係破壊の法理

1 形式上、無断譲渡転貸(ないし債務不履行)にあたる場合

⑴無断転貸・譲渡(または賃料不払い)を理由とする賃貸人による解除の主張に対し、賃借人はいかなる抗弁を主張できるか。

⑵612条1項2項の趣旨は、賃貸借契約が個人的信頼関係を基礎とする継続的法律関係であって、賃貸人は賃借人による使用収益を認めたのみである(601条)点に照らし、賃貸人に無断での譲渡転貸が、一般的に、上記信頼関係を破壊する行為といえるところにある。

したがって、無断譲渡転貸がされた場合でも、人的・経済的関係等において、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、信頼関係が破壊されていないものとして無催告解除権が制限される(賃料不払の場合、541条但し書きにより、取引通念上軽微な債務不履行と解する。)。

⑶ 賃借人が、賃借権を賃借人が個人で経営する会社に譲渡・転貸した場合には、使用収益の主体ないし実態が変わらず、背信行為とはいえない特段の事情があるから、信頼関係を破壊していないとして612条1項、2項に基づく解除に対抗できる。

2 形式上譲渡転貸にあたらない場合(「譲渡」「転貸」の拡張)

⑴賃借人である法人の役員が替わった場合、612条2項の解除権を主張できるか。

⑵賃借人である法人の役員が替わっただけでは、形式的には賃借人に変更がないうえ、役員が替わること自体は法人の性質上当然に予期されることである。したがって、616条、594条1項の用法遵守義務違反を理由とする解除(541条、542条)は格別、612条2項の「転貸」にあたらず、解除権は原則として発生しない。

もっとも、第三者が全く形骸化した法人を取得し、実質的には法人ではなくその経営者個人を賃借人と解すべき特段の事情がある場合には、賃借権の譲渡転貸と評価して解除権を認める。

なお、一般に、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない事情があるときは、612条2項にもとづく解除権が制限されるものの、実質上の譲渡転貸と解される場合においては、もはや信頼関係が損なわれており、背信性について争うことはできない。

3 賃借物、賃貸物への譲渡担保権の設定

⑴賃貸不動産への譲渡担保権の設定により賃貸人たる地位の移転は生じるか。/借地上の建物への譲渡担保権の設定は、612条2項の無断譲渡・転貸に該当するか。

⑵譲渡担保の法的性質について、一方で、譲渡担保契約には債権担保の実質があるが、他方で、形式上は所有権が移転している。そこで、債権者は債権担保の目的を達するのに必要な範囲で所有権(以下、譲渡担保権)を取得し、設定者は債権者の上記所有権に含まれない権利(以下、設定者留保権)を有するものと解する。

そして、借地権付き建物に設定された譲渡担保権の実効性を確保する観点から、その効力は、特段の合意がない限り土地賃借権に及ぶ。ただし、譲渡担保権の設定だけでは終局的な譲渡には当たらない。したがって、設定者が使用収益を継続する場合には、⑴賃貸人たる地位の移転はなく、敷金返還義務等の承継もない。⑵賃借権の無断譲渡・転貸には該当しないから、解除権も発生しない。

対して、譲渡担保権者が建物の引渡しを受け、または設定者が受戻しをすることができなくなった場合には、⑴賃貸人たる地位の移転が生じる。⑵信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情がない限り、賃借権の無断譲渡・転貸に該当し、賃貸人は無催告で土地賃貸借契約を解除できる。

・原賃貸借が合意解除された場合の転貸借の(R2予備)

1 承諾ある適法な転貸借契約(612条1項)が締結されたのちに、原賃貸借契約が合意解除されたとき、転借人は賃貸人による目的物の明渡請求を拒めるか。拒めるとして、賃貸人は他にいかなる請求ができるか

2 613条3項本文の趣旨は、賃貸人が転貸に対し承諾を与えておきながら原賃貸借を解消し、原賃貸借契約の帰趨に関与できない転借人に不測の損害を被らせないようにするところにある。他方で、賃借人の意思を尊重する必要もある。したがって、転借人による従前どおりの使用収益が妨げられない限り、転借人との関係でも、賃借人の転貸借関係からの離脱を認める一方で、賃貸人は転貸人の地位を承継するとみなす。

この場合、賃料については、原則として転貸借契約上の賃料とする。もっとも、原賃貸借における賃料の方が低い場合は、後者の賃料とする。一方では、賃貸人に意図しない利益が生じるのを避け、他方で、転借人に不利益は生じないからである。

以上、転借人には、賃貸人の目的物明け渡し請求に対する占有権原に基づく抗弁が認められ、賃貸人としては、原賃貸借または転貸借上の賃料のいずれか低い方の額を請求できるにとどまる。

・原賃貸借が債務不履行解除される場合の催告の要否/転貸借の終了時期

1 原賃貸借関係を、債務不履行を理由に解除する場合(613条3項ただし書き)、賃貸人は、612条1項の承諾を与えた転借人に対し解除を対抗するため、転借人への催告を要するか。また、転貸借契約はいつ終了するか。

2 賃貸人は、転貸借に承諾を与えた以上、転借人への催告を経て第三者弁済(474条、613条1項)する機会を信義則上付与すべき、との見解がある。

しかし、賃貸人が認めたのは、賃借人の収益権の限度での転借人の使用である。また、転借人も、自らの地位が原賃貸借の帰趨に左右されることを前提にして契約関係に入ったと考えられる。よって、債務不履行された賃貸人に信義則上の負担を課す理由はない。

したがって、賃貸人は、転借人への催告なしに解除を対抗できる。

*借地上の建物の抵当権者に対しても、転貸借→設定契約、転借人→抵当権者、転貸人→設定者として同じ論証が妥当する。

3 転貸借契約における貸す債務(601条)は、原賃貸借契約を有効に存続させて、転借人が賃貸人との関係において転借権を対抗しうる状態にしておくことをもその内容とする。そして、(転貸人と転借人が同視でき、原賃貸借解除時に転貸借上の貸す債務が社会通念上履行不能となり転貸借が終了すると解すべき特段の事情がない限り、)一般に、原賃貸借が解除された時点では、まだ原賃貸借関係を再び締結するなどして転借権を対抗しうる状態を回復させ得るから、貸す債務は社会通念上履行不能(412条の2第1項)とはならない。対して、賃貸人が転借人に対し明渡請求をした場合には、転貸人が転借権の対抗可能状態を復活させることの期待可能性がもはやなく、転貸人の貸す債務は社会通念上履行不能といえる。

したがって、賃貸人による明渡請求時に転貸借契約は616条の2により終了し、賃借人は、転貸料は当該時点までの分を転借人に請求できる。

*無承諾転貸を含む他人物売買においては、使用収益が現実に妨げられる事情が客観的に明らかになり、転借人が現実の明渡を余儀なくされた時に履行不能として賃貸借が終了するとされる。

・敷金返還債務と明渡債務の同時履行関係の有無

敷金契約と賃貸借契約は別個の契約であって、一個の双務契約によって生じた対価的関係にあるとは解されない。また、両債務の間に著しい価値の差があることから、同時履行関係にあると解することは公平とはいえない。そこで、622条の2第1項1号は、明渡義務を先履行としたのであり、敷金返還までは不動産を明渡さないとの主張は認められない。

・土地明渡と建物買取請求権の同時履行の抗弁権の成否

1 土地の賃借人がした建物譲渡につき、土地賃貸人が承諾しなかった場合において、賃貸人による土地所有権に基づく返還請求に対し、建物転得者は、建物買取請求権(借地借家法14条)を主張して土地明け渡しを拒むことができるか。

2 建物買取請求権が認められた趣旨は、借地権者保護とともに社会的損失を回避するため、売買契約類似の法律関係を生じさせて建物の存続を図るところにある。したがって、533条により代金の支払いがあるまでは建物の引渡を拒むことができる。そして、建物の引渡しを拒みつつ土地の明渡すことは社会通念上不可能である。よって、反射的に土地の明け渡しをも拒むことができる。

以上、代金支払まで同時履行の抗弁権を主張して土地明け渡しを拒むことができる(土地の賃料相当額につき、解除後明渡済みまで不当利得(704条)として賃貸人に返還すべき)。

・建物明渡と造作買取請求権の同時履行の抗弁権の成否

1 建物に付加され、その使用に客観的便益を与える賃借人の所有物であるから、造作にあたる(借地借家法33条1項)。これは賃貸人の同意を得て付加しものであり、賃貸借の契約満了又は解約申し入れにより契約は終了しているから、造作買取請求権が発生している。

では、同請求権の履行と建物明渡しとの同時履行の抗弁権(533条)を主張できるか。

2 造作買取請求権が認められた趣旨は、賃借人の利益保護のため、造作につき売買契約類似の法律関係を生じさせるところにある。したがって、533条により代金の支払いがあるまでは造作の引渡を拒むことができるが、他方で、建物引渡は代金と同時履行には立たない。また、造作は一般に建物に比して価値が低いから対価的牽連性を認めることが困難であるし、建物から取り外すことのできる以上、造作を引き渡さずに建物を明渡すことも社会通念上可能である。

以上、造作の代金の支払いがあるまで建物の明け渡しを拒むとの主張は認められない。

*608条の償還請求権を有するときは、これによって留置権を主張できる。この論点が出てくるのは、608条が適用排除され、借地借家法33条の適用は排除されていないという、ほぼありえないケースのみ。

ⅱ 第三者との問題

・他人名義の建物登記の対抗力

1 借地上の建物を近親者等の他人名義で登記した者/譲渡担保権者に登記を移した設定者は、敷地の譲受人による土地明渡請求に対し、借地借家法10条1項による借地権の対抗要件の具備を主張して拒むことができるか。

2 法10条1項の要件は、①借地権者が建物所有者であること、②建物所有者が建物の登記名義人であること、である。

②について、法10条1項の趣旨は、建物につき所有権移転登記があれば、その名義人に対する借地権の設定も推知されることから、これを借地権の登記に代えるところにある。他方、他人名義の建物登記にからは自己の建物所有権さえ第三者に対抗できない以上、これに対抗力を認めると、取引の安全を大きく害する。また、不実の登記をしたことに帰責性が認められる。

したがって、②を充たさず、自己名義でない建物登記に借地権の対抗力は認めない。

もっとも、敷地譲渡の当事者双方が建物所有者を立ち退かせる目的で当該譲渡をしていた場合、譲受人が譲渡人と同視できる場合、譲渡との当事者が建物所有者の保存登記を妨げていた場合など、土地明渡請求が権利濫用(1条3項)にあたる特段の事情があるときは、例外的に、当該請求を認めない。

3(譲渡担保権の性質を述べたうえで)譲渡担保権が対抗要件を具備するには建物の所有権移転登記手続によるしかない。よって、不実登記について設定者に帰責性はない。

もっとも、取引の安全を著しく害することに変わりない。よって、②を充たさない。

XIII 請負契約

〇結果債務だから、485条本文により、履行にかかる費用は何があっても請負人負担。〇注文者に帰責事由のある履行不能は、634ではなく536条2項で解決。〇報酬請求権は契約時に発生とするのが通説。

・請負における目的物の所有権の帰属と下請人の地位

1 所有権を原始的に注文者に帰属させる旨の元請契約上の合意(以下、帰属合意)、又は報酬ないし費用の大半を支払済みで、黙示の帰属合意があると解される場合は、同合意は下請人を拘束するか。

2 まず、付合(243条)の法理によれば、材料提供者、つまり請負人が建物の所有権を取得する。もっとも、帰属合意がある場合は、注文者に所有権が帰属する。

そして、元請契約上の帰属合意が下請契約においても効力を有するかについて、下請契約は、元請契約の存在及び内容を前提とする。また、注文者との関係では、下請人は履行補助者的立場にあるにすぎず、元請人と異なる権利主張ができる立場にはない。

したがって、帰属合意は契約の相対効にかかわらず下請人を拘束し、所有権は原始的に注文者に帰属する(支払を受けられないリスクは、下請人が負う。)。

・建前への第三者による工事と所有権の帰属

 第1請負人の工事した建前(未完成建物)を第2請負人が完成建物にした場合、同建物の所有権は誰に帰属するか。

2 まず、建前が動産か不動産かは、使用目的に適った構成部分を具備したか否か、とくに家屋の場合は、外界を遮断する建物としての構造を有するか否かで決する。

3 これが動産である場合、建前は土地とは別個独立の動産である。付合すると仮定すると、建物となって土地と別の不動産になる時点の確定が困難であり、また一般取引上、土地と別個の財産として扱われているからである。

また、材料の所有権が積み立てられて建物となる以上、付合(243条)の法理から、材料提供者が建前の所有権を取得する。そこで、明示の建前の帰属合意があり、または材料の対価を回収できるほどに工事代金が支払済みで、注文者が材料提供者と解すべき事情がない限り、第1請負人が原始的に建前の所有権を取得する。

その後、建前が第2請負人の工作により不動産になったとき、不動産のもつ著しい価値に照らせば、単に動産に動産を付合させるのと異なり、工作に対して特段の価値が認められる。したがって、これも考慮にいれるべく、加工(246条2項)の規定に基づいて所有権帰属を決する。

なお、第2請負人に帰属するとされた場合、第1請負人は、248条、703条により、第2請負人が対価関係なしに利得を受けている場合に限り、この者に償還請求できる。

(第2請負人に利得がなく、所有権が注文者に移転した場合、第1請負人の保護の見地から、注文者への移転に伴い償金債務も移転するが、注文者が償金債務について善意無過失である場合に限り、192条の法理により、償金債務なしに目的物の所有権を取得すると解する。)

4 これが不動産である場合、付合(243条)の法理から、材料提供者が建前の所有権を取得する。そこで、建前の帰属合意があり、または工事代金の大半が支払済みで、注文者の利益保護の観点から黙示の帰属合意があるとすべき特段の事情がない限り、第1請負人が原始的に建前の所有権を取得する。

その後、第2請負人が建物として完成させた場合、不動産の付合(242条)であって、所有権は第1請負人に帰属する。

なお、第2請負人は、248条、703条により、第1請負人が対価関係なしに利得を受けている場合に限り、この者に償還請求できる。

・建替費用請求と居住利益の控除

1 建物の追完に代わる損害賠償請求(559条、562条1項、564条、415条1項)をされた請負人が、当該建物に居住し続けてきた利益(居住利益)を賠償額から控除すべき旨主張した場合、これは認められるか。

2 倒壊の具体的危険がある等、社会通念上経済的な価値のない建物については、そこに居住することを利益とみることは困難である。また、請負人により賠償を遅らせる旨の主張は、公平の観点から、許されない。

したがって、建物自体が社会経済的価値を有しないと認められる限り、居住利益を損益相殺的な調整として賠償額から控除すべき旨の主張は許されない。

・追完に代わる損害賠償請求権と反対給付履行請求権の同時履行の範囲と相殺の可否

追完に代わる損害賠償請求権(559条、562条1項、564条)の根拠条文として415条1項だけでなく2項も必要か(この点の論証について、債権法-Ⅰ)。

同請求権と報酬支払請求権(632条、634条)は、どの範囲で同時履行の関係にたつのか(533条カッコ書き)(この点の論証について、債権法-Ⅸ)。

反対債権の履行の提供なくして、報酬債権と相殺はできるか(請負人からも相殺できるか)。できるとして、どの時点から報酬支払にかかる遅延損害金が発生するか(この点の論証について、債権法-Ⅵ)。

*559条により、有償契約一般に妥当する。追完可能な部分と不可能な部分とに応じて、追完請求とそれに代わる損害賠償請求をともにした場合にも妥当する。

XIV 不当利得

・使用利益の返還と709条

189条1項、190条は709条の適用を排除する趣旨を含まないが、189条2項の効果として709条の故意過失があるとすることはできない。

・悪意の時期

186条1項により占有者の善意は推定されるから、利得消滅の抗弁(703条)をするには現存利益がないことを主張立証すれば足りる。

不当利得返還請求する側が、704条の適用を主張立証すべきであるが、善意の受益者が占有開始後悪意に転じたときも、悪意に含まれる。取引通念上、自らの受益に法律上の原因がないことを知った以上は、これを自ら返還すべきだからである。

・騙取金による弁済

1 騙取金による弁済について、被害者は債権者に不当利得返還請求をなしうるか。

2 要件は、①受益者の利益、②請求者の損失、③①と②の因果関係、④①に法律上の原因がないこと、である。

ところで、不当利得の制度趣旨は、形式的一般的には正当視される利益の移転が、実質的相対的には正当視されえない場合に、公平の観点から矛盾を調整する点にある。

したがって、③について、通常、金銭の占有者が所有者であるとしても、(加害者には騙取横領金以外に弁済の原資がない等)社会通念上被害者の金銭で債権者の利益が図られたといえるだけの連結がある場合には、充足する。

また、④について、形式的一般的には、単なる債務の弁済であって正当視される。もっとも、金銭のもつ高度な流通性や有価証券における善意取得制度(手形法16条2項等参照)に照らし、債権者が悪意重過失の場合には、実質的相対的には弁済が正当視できず、債権者に被害者への弁済金の返還をさせるのが公平であり、弁済に法律上の原因がないと解する。

・転用物訴権

1 賃借人と賃借物の修理契約をした者は、賃借人が倒産・失踪したのち、賃借物が所有者に返還された場合に、所有者に修理代金相当額を不当利得として返還請求(以下、転用物訴権)できるか。

2 要件は、①受益者の利益、②請求者の損失、③①と②の因果関係、④①に法律上の原因がないこと、である。

(①は、請負人の労務提供に相当する支出分又は工事による増加額)

③は、社会通念上の因果関係で足りるところ、債権回収が事実上不能であれば充足する。

④については、不当利得の制度趣旨は、形式的一般的には正当視される利益の移転が、実質的相対的には正当視されえない場合に、公平の観点から矛盾を調整する点にある。したがって、賃貸借契約を全体として見て、所有者が対価関係なしに利益を受けたときに、④を充足する。具体的には、賃貸借契約上、権利金を支払わないことの対価として修繕や増築等の工事は賃借人においてすべきとの特約等があり、賃料が特に安価なときなどは、賃貸人は、本来得るべき適正価格による賃料を得ていないから、利益に相応する出捐をしているとみることができ、賃貸人の利益には対価関係がある。他方で、賃料が通常の価格のときは、賃貸人は利益に相応する出捐をしていないので、法律上の原因を欠く。

・指図に基づく出捐

1 登場人物:A=仕向銀行・指図の実行者・出捐者/B=口座名義人・振込委託者・振込人・指図人/C=受取人・受益者/D=被仕向銀行

2 要件:①Cの利益、②BまたはAの損失、③社会通念上の因果関係、④法律上の原因の不存在。

3 対価関係が不存在又は無効なのにBが指図した場合

④AからCへの出捐の法的意義は、本来、有効な支払指図の実行によるAのBに対する預金債務の弁済であり、かつBによるCへの債務の弁済である。しかし、BC間の債務の原因となる法律関係が存在しないまたは無効のとき、支払指図が動機の錯誤(95条1項2号)として取り消された場合を除き、BのCに対する非債弁済(705条)となる。よって、Cの受益は法律上の原因を欠いているといえ、Bが債務の不存在について悪意でない限り、BはCに対して不当利得返還請求権を有する。

4 Bの支払指図に誤りがあり、対価関係にないCに振り込まれた場合

④AからCへの出捐の法的意義は、本来、有効な支払指図の実行によるAのBに対する預金債務の弁済であり、かつBによるCへの給付である。また、預金契約の解釈上、同給付の原因となる法律関係の存否はCの預金債権の成否に影響を与えないし、大量取引である振込の安全・迅速のため、振込の原因関係の調査を銀行に義務付けるべきではない。よって、Bの支払指図の誤り(表示の錯誤95条1項1号)に重過失(同3項柱書参照)がない(またはAに同各号事由がある)というべき特段の事情がない限り、Cに正当な預金債権が成立する結果、BからCへの給付は非債弁済(705条)となり、Cの受益は法律上の原因を欠いており、Bが債務の不存在について悪意でない限り、Bは、有効に預金債権を取得したCに対して不当利得返還請求権を有する。

5 Aの支払指図の実行に誤りがあり、対価関係のないCに振り込まれた場合

④AからCへの出捐の法的意義は、本来、有効な支払指図の実行によるAのBに対する預金債務の弁済であり、かつBによるCへの給付である。もっとも、支払指図がないのに(またはこれを超過して)振り込んだ分については、AはBの口座から引き落とすことができない(要件②はAの損失となる)。また、大量取引である振込の安全・迅速の要請や預金契約の解釈から、同給付の原因となる法律関係の存否にかかわらず、Cに正当な預金債権が成立する。よって、AがCに非債弁済(705条)してCが有効な預金債権を取得したこととなり、Cの受益は法律上の原因を欠く。

Aは、有効に預金債権を取得したCに対して不当利得返還請求権を有する。

なお、DがすでにCに振込指図を実行した場合、DのAに対する不当利得返還請求も認められる。①DのCへの出捐、②AのCへの給付の免脱、③社会通念上の因果関係、④形式的一般的には通常の振込指図であるが、支払指図がなく、自らCに給付することになっていたのにこれを免れたのであるから実質的個別的には正当視されない財貨の移転があったのと同視でき、法律上の原因を欠く。かつAは悪意ではなく利得消滅の抗弁が出せない(703条)からである。

6 対価関係は存在しているものの、補償関係は不存在なのに、AがCに対しBの支払指図を実行した場合

④AからCへの出捐の法的意義は、本来、有効な支払指図の実行によるAのBに対する債務の弁済であり、かつBによるCへの債務の弁済である。もっとも、補償関係が不存在又は無効のときは、AのBに対する債務の非債弁済(705条)であり、BがAから金銭の交付を受けて、これをCに交付した場合と比較すると衡平に反する。よって、Aが預金債務の不存在について悪意でない限り、BのCへの実質的な債務免脱という受益は、法律上の原因を欠いているといえる。AはBに対して不当利得返還請求権を有する。

6 補償関係も対価関係も不存在又は無効なのに、AがCにBの支払指図を実行した場合

④AからCへの出捐の法的意義は、本来、有効な支払指図の実行によるAのBに対する預金債務の弁済であり、かつBによるCへの給付である。もっとも、補償関係も対価関係も存在していなかったときは、AのBに対する非債弁済(705条)であり、BのCに対する非債弁済である。よって、ABがそれぞれの債務の不存在について悪意でない限り、BCの受益は、法律上の原因を欠いているといえる。よって、AはBに対し、BはCに対し、不当利得返還請求権を有する。

7 補償関係と対価関係が強迫により取り消された事例

原則として、AはBに対して原状回復請求権(121条の2第1項)を有する。もっとも、

BC間には何らの法律上又は事実上の関係はなく、Bは、第三者の強迫を受けて、指示されるままに消費貸借契約(対価関係にあたる契約)を締結させられた上、貸付金をCの口座へ振り込むようAに指示したなど特段の事情がある場合は、Bは、振込みによって何らの利益を受けなかったといえるから、AはCに対し不当利得返還請求権を有すると解する。

8 誤振込にかかる預金債権の行使と権利濫用

受取人が有効な預金債権を有する以上、誤振込に係る預金の払戻請求については、払戻金の受領が金員の不正取得といえ、詐欺罪等の犯行の一環を成す場合であるなど、著しく正義に反するような特段の事情があるときに限り、権利の濫用に当たる。

XV 不法行為

〇火事の場合、失火責任法について要言及。債務不履行を根拠にする場合は同法の適用がないことの言及も必要。

ⅰ 一般的不法行為

・債権侵害

1(類型⑴:表見受領権者等による債権取立/類型⑵:売買目的物を滅失させた/類型⑶:二重譲渡の第1譲受人の有する移転登記手続請求権/営業上の利益等)債権侵害を理由に不法行為責任(709条)を追及できるか。

2 要件は、①権利侵害、②故意または過失、③違法性、④損害額、⑤①と③との因果関係である。

③について、債権の存在は通常外部から認識できず、契約には自由競争が認められ、債務の履行は債務者の意思にかかわるという性質をもつ。

⑴もっとも、債権の帰属そのものを失わせる場合は、財産権としての債権自体を失わせるから、違法な債権侵害といえ③を充足する。

⑵したがって、債権にかかる給付を社会通念上履行不能(412条の2第1項)にした場合は、過失があるに過ぎない侵害者に責任追及するのは酷であるから、故意がある場合に限り、③を充足する。

⑶したがって、給付は侵害しているが、債権を消滅させたことにはならず、債務者に帰責事由ある履行不能として損害賠償請求権に転化する場合は、侵害行為が公序良俗(90条)に反するといえる特段の事情があるときにのみ、③を充足する。

・契約当事者以外の第三者に対する不法行為責任

1 安全性に瑕疵がある建物を取得した第三者は、契約不適合責任を債務者に追及する代わりに、設計工事者等に対し不法行為責任(709条)を追及して瑕疵修補相当額の賠償を受けることができるか。

2 要件は、①権利侵害、②故意または過失、③①と相当因果関係にある損害の額(416条1項の類推適用)である。

①について、建物は、およそ居住者や通行人等の生命身体または財産を危険にさらすことのない基本的な安全性を備えていなければならない。よって、設計者、施工者、工事監理等は、契約関係にない者に対する関係でも、建物に基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務を負う。そして、当該義務を怠ったために建物に基本的な安全性を損なう瑕疵が生じ、それにより生命身体又は財産が侵害される抽象的危険がある場合には、第三者が当該瑕疵を知って譲り受けたなど特段の事情がない限り、生命身体または財産を危険にさらされない法律上保護された利益を侵害したといえ、①を充足する。

3〇①は、生命身体財産に関係しない瑕疵は、含まれない。建物の美観や居住者の住環境の快適さを損なう程度の瑕疵など。〇②工事監理は、設計・施工が適切にされているかチェックし、されていないときは指摘し改善するよう命じる義務があり、気づいたのに注意しなかったときは、過失が認められる。

・被害者死亡の場合の損害賠償請求の可否(平成26年出題)

被害者即死の場合には、その瞬間に権利能力が失われるものの、侵害発生時に被害者に損害賠償請求権が発生し、死亡までに観念される一定の時間的間隔の経過後に、相続人に相続される(896条。胎児について、886条1項。)と解する。

ⅱ 特殊的不法行為

・監督義務違反の要件及び代理監督者の意義

1 要件論

要件は、①行為者につき709条の要件(権利侵害、故意または過失、損害の額、因果関係)充足、②行為者に自らの行為の責任を弁識する能力(712条、713条参照)がないこと、③法定の監督義務者、またはこれに代わる者、抗弁事由として、④監督義務を怠らなかったこと、または⑤怠らなくとも損害が生ずべきであったことである

3「法定の監督義務者」の範囲

⑴752条は、夫婦間において相互に相手方に対して協力扶助する抽象的義務を定めたものにすぎず、第三者との関係で相手方を監督する義務を根拠づけるものではないから、配偶者であるからといって法定の監督義務者とはいえない。

⑵858条の身上監護義務は、成年後見人が法律行為を行う際に成年被後見人の身上に配慮すべきことを定めたにすぎず、現実の介護を行うことや、行動を監督することを求めるものと解することはできない。よって、成年後見人だからといって法定の監督義務者とはいえない。

⑶本条の趣旨は、法定の監督義務者(親権者の場合、820条参照)の監督上の過失を根拠に、被害者を救済する点にある。

したがって、法定の監督義務者にあたらない場合でも、①責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、加害行為の防止に向けて責任無能力者を監督し、その態様が単なる事実上の監督を越えているなど監督義務を自ら引き受けたとみるべき特段の事情が認められ、かつ②(生活状況、親族関係、同居の有無、財産管理の関与の状況、行為者の日ごろの問題行動の有無、監護の実体などを考慮し、)現に監督し又はすることが可能かつ容易であるなど、衡平の見地からその者に対し責任を問うのが相当といえる客観的状況があるときは、714条を類推適用し、法定の監督義務を負う者と同視する。

⑷代理監督者とは、単に一時的に責任無能力者を預かっただけでは足りず、監護権を法定の義務者に代わって引き受ける法律上の地位にあることをいう。

4 免責立証の可能性

④につき、とくに親権者が包括的に子の生活全般にわたる影響力を有するときには、子が加害行為をしないよう監督する一般的義務が認められる。もっとも、通常は人身に危険を及ぼさないような行為によりたまたま損害が生じたときは、当該損害発生が予見されたなど特段の事情がない限り、監督義務違反があったとはできない。単なる偶然によって生じた損害の賠償責任を負わせるのは、過失責任の原則に反するからである。

・責任能力ある者の監督者の責任(平成27年出題)

1 責任能力(自らの行為の責任を弁識する能力。712条参照)のある者に不法行為責任(709条)が生ずるとしても、その監督者に対して責任追及することはできないか。

2 714条は責任無能力者の監督義務者の責任を定めたものであるから、同条の適用はない。もっとも、同条の趣旨は、被害者保護のため監督義務を怠った点について立証責任を転換したところにあるのであって、監督義務者の責任を714条の場合に限定する趣旨ではない。したがって、709条を根拠に監督義務者(820条参照)の賠償責任を認めることは可能である。

要件は、①権利侵害、②故意または過失、③①と相当因果関係にある損害(416条の1項の類推適用)である。

②の過失につき、被監督者は法の命令禁止を理解している以上、個人責任の原則の観点から、714条における包括的監督義務の違反ではたりず、被監督者が特定行為をすることの予見が可能だったのに、当該行為をしないよう監督する義務を怠ったことを要する。

・使用者責任の成立要件

1 勧誘行為において不当な説明をした/職務上の権限を濫用して第三者に損害を与えた/越権代理により第三者に損害を与えた/仕事中に起こした交通事故の場合に、使用者責任(715条1項)は生じるか。

2 715条1項の趣旨は、使用者は被用者の利用によって事業範囲を拡大し、利益を上げる関係にあること(報償責任)や社会一般への危険を増大させていること(危険責任)に着目し、損害の公平な分担という見地から、使用者に代位責任を負わせる点にある。

よって、要件は、①不法行為者において709条の要件(権利侵害、故意または過失及び相当因果関係にある損害の額)充足、②使用関係、③事業執行性である。

②は、(715条1項ただし書きが監督・支配の可能を使用者の責任の根拠としていることから、)実質的指揮監督関係をいい、委任や請負など、行為者に独立性、裁量性が認められる場合は充足しない。

3 取引的不法行為

③は、外観への信頼保護の観点より、使用者の業務の範囲内の行為であって、かつ、行為の外形から職務の範囲に属すると見られる行為を包含する。

もっとも、行為が被用者の職務権限内において適法に行われたものでないことについて相手方が悪意又は重過失の場合は、保護すべき信頼がない。他方、多大な取引の利益を得ている使用者を免責して被害者の賠償請求を退けるという重大な効果が生ずることから、軽過失があるにすぎない場合は、なお保護に値する。したがって、③の充足が否定される。

⑴勧誘行為における不当説明/権限濫用

(当然に外形上の職務行為にあたる)

⑵越権代理

とくに、権限外の行為が外形上の職務行為にあたるというためには、(使用者の事業の施設、機構および事業運営の実情と被用者の行為の内容、手段等に照らし、)㋐被用者の分掌する職務と相当の関連性を有し、かつ㋑被用者が使用者の名で権限外に行うことが客観的に容易な状態におかれていることを要する。

4 事実的不法行為

使用者の業務の範囲内の行為として監督・支配が可能であって、職務行為と密接な関連性のある場合に、③が充足すると解する。

・被用者に対する求償権の制限及び逆求償の可否

1 使用者が715条3項により被用者にどの範囲で求償できるか。また、被害者に賠償した被用者は使用者に逆求償できるか。

2 715条3項は、個人責任の原則から、被用者に代位して支払った賠償金の求償を認めている。もっとも、同条1項の趣旨は、使用者は被用者の利用によって事業範囲を拡大し、利益を上げる関係にあること(報償責任)や第三者に損害を生じさせる危険を増大させていること(危険責任)に着目し、損害の公平な分担を図る点にある。そして、使用者に責任の一端がある場合にも全額求償を認めるのは、公平を失する。

そこで、求償額は、事業の性格、加害行為の態様、使用者の日ごろの配慮等に鑑みて、信義則上相当と認められる額に限定される。

3 被害者だけでなく被用者との関係でも、使用者が上記額の限度で損害を負担すべきこととなるから、先に使用者が賠償したのちに被用者に求償する場面との平仄を合わせ、先に被用者が賠償したあとでも、被用者は、上記額の限度で使用者に逆求償できる。

・工作物責任の成立要件(平成23年出題)

1 エレベーター等、土地に直接接していない工作物であっても、その設置保存の瑕疵により生じた損害の賠償(717条1項2項)を占有者に問うことはできるか。

要件は、①土地工作物、②①の設置保存の瑕疵、③権利侵害、④②と③との因果関係、⑤損害の額、⑥占有者による①の占有、抗弁事由として⑦損害防止への必要な注意をしたことである。

①について、717条1項の趣旨は、危険源を創造・管理していた者が責任を負うべきとされたところにある。したがって、土地工作物とは、土地に接着した人工物及びそれと機能的に一体となって危険性を有する物をいうと解する。

②は、工作物の用途や場所等に鑑みて、通常備えるべき安全性を欠いていることをいう。

・狭義の共同不法行為の成立要件

719条1項の「共同」とは何を意味するか。

要件は、①権利侵害、②各人の故意または過失、③損害額、④各人の行為と①の因果関係、⑤各人の行為の関連共同性、である。

⑤について、本条の趣旨は、個々の行為者ごとに責任を検討した場合には④の因果関係に相当性(416条1項参照)がないとして賠償が認められない損害についても、それぞれが共同した行為全体の間に関連性があれば、賠償の対象と認めるところにある。したがって、⑤は客観的に関連しあっておれば足り、意思の連絡までは不要と解する。

・失火責任法の適用

1 714条との関係

714条は、法定の監督義務者の固有の監督義務違反を理由に第1次的責任を負わせるものであるから、当該監督義務者において重過失の有無を判断する。

2 715条との関係

715条は被用者の不法行為の責任を使用者が代位して負うべき旨を定めた規定であり、被用者において重過失の有無を判断する。

3 717条との関係

工作物の設置・保存の瑕疵について占有者に重過失があるかどうか判断する。所有者は無過失責任を負うから、同法の適用は問題とならない。

ⅲ 過失相殺

・過失相殺能力

責任無能力者の過失を考慮して過失相殺(722条2項)することはできるか。

過失相殺は、損害の公平な分担の観点から、損害額について被害者の不注意をいかに斟酌すべきかの問題であり、被害者に不法行為責任を負わす趣旨の制度ではない。

したがって、709条の「過失」と同様に解さず、被害者が責任無能力者であっても5,6歳程度の事理弁識能力があれば、過失相殺されうると解する。

・被害者側の過失

1 好意同乗者の運転者、幼児の保護者など、被害者本人以外の者(被害者側)の過失を理由として過失相殺(722条2項)をなしうるか。

2 過失相殺の趣旨は損害の公平な分担にある。そして、被害者側の者に不注意がある場合は、その過失による不利益は被害者に負わせるのが公平である。また、経済的に一体をなす者の間で損害賠償請求することは考えにくいから、被害者側の過失を考慮して実質的に分割責任とすれば、求償関係を一回的に解決できて合理的である。

したがって、身分上ないし生活関係上一体をなすと認められる者(被害者側)の過失を考慮して過失相殺できると解する。

(あてはめ)保育園の被用者、交際中の相手→×。内縁配偶者→〇

・被害者の素因による減額(平成23年出題)

1 被害者の身体的・精神的性質(素因)を理由に損害額を減額することはできるか。

2 素因は、722条2項の「過失」そのものではないから、同条項は直接適用できない。もっとも、その趣旨が損害の公平な分担にある以上、①素因が損害発生・拡大に寄与し、②損害の全部を加害者に負担させるのが公平を失する場合は、同条項を類推適用して、賠償額を減額できる。

②について、疾患に至らない身体的特徴は、個体差の範囲として当然その存在が予定されているから、日常生活において通常人に比べより慎重な行動が求められているような特段の事情がない限り、考慮に入れない。

(あてはめ)老齢、妊娠、疲労→×。極度の肥満→〇

親族・相続法

I 婚姻

・認知した子を準正により嫡出子とするためだけにした婚姻(仮想の婚姻)は、有効か。

742条1号にいう「婚姻する意思がないとき」とは、当事者間に社会通念上夫婦と認められる関係を設定する意思がないことをさす。したがって、届出をする意思の合致があっても、単に他の目的達成の便法としてされたに過ぎないときは、婚姻は無効である。

・一方に無断で婚姻届を作成、提出したものの、異議を唱えず夫婦として生活をつづけたとき、婚姻の効力はどうなるか

一方に無断で婚姻届を提出しても、婚姻は無効である(742条1号)。もっとも、夫婦としての実質的生活関係が存在しており、のちに当該事実を知ってこれを追認したときは、届出の当初にさかのぼって有効となるものと解する。追認により意思の欠缺は補完され、また追認に遡及効を認めることが当事者の意思に沿い、実質的生活関係を重視する身分関係の本質に適合しているだけでなく、第三者の利益保護にも資するからである。

・重婚の場合に、後婚が離婚によって解消されたとき、なお前婚の配偶者は婚姻取消請求ができるか

婚姻取消の効果は離婚の効果に準ずる(748条1項の将来効、749条)から、後婚が解消された以上、特段の事情がない限り、訴えに法律上の利益がない。

したがって、この場合、重婚を理由とする婚姻取消請求(744条1項2項、732条)は却下される。

・重婚の場合に、後婚が死亡解消した場合、なお前婚の配偶者は婚姻取消請求できるか

744条1項ただし書きを反対解釈すると、死亡後も生存配偶者は重婚(732条)を理由とする婚姻取消請求ができる(同条2項)。これは、死亡により相続が開始し、配偶者が2分の1の相続分を有している以上、身分関係を確定させる利益があるからである。

したがって、前婚者は婚姻取消請求ができ、また不適法に婚姻した者に相続権を認めるべきでないから、当該請求認容により後婚は死亡時に取り消されたものとみなす。

・配偶者の不貞行為の相手方に対する不法行為責任は生じるか

709条は①権利または法律上保護に値する利益の存在②加害行為③故意または過失④損害の額⑤相当因果関係を要件としているが、①につき、そもそも不貞行為が不法行為とされるのは、婚姻共同生活の平和の維持という法的保護に値する利益を侵害したからであるから、夫婦関係がすでに破綻していた場合は、特段の事情がない限り、要件①は充足しない。

II 離婚

・仮装離婚は有効か

協議離婚にあっては、離婚意思の合致が必要である(742条1号の趣旨の援用)。ここにいう離婚意思とは、法律上の婚姻関係の解消の意思があれば足りる。

・強制執行逃れのための離婚ないし財産分与は、詐害行為取消権の対象たりうるか

要件は、①被保全債権の存在、②①の発生原因が詐害行為前に生じたこと、③債権保全の必要性、④財産権を目的とする行為、⑤④の詐害性、⑥債務者の詐害意思、抗弁として⑦受益者の善意(424条1項、2項、3項)である。

④について、財産分与(768条1項)は身分行為であって、第三者の介入すべき行為ではないから、原則として充足しない。

もっとも、768条3項の趣旨(夫婦財産の清算、相手方配偶者の扶養、慰謝料の代替)に照らして分与が不相当に過大であり、財産分与に仮託して為された財産処分であると認めるに足りる特段の事情があれば、例外的に、その部分については取消の対象となる。もはや財産隠匿行為にほかならず、責任財産の減少を招く一方で、不相当に過大な部分についてはもはや身分行為性を失っているからである。

III 親子

・事実上父子関係がないことが明らかな場合、どのようにして親子関係を否定できるか

772条2項による推定を受ける子に関して父子関係を否定するには、夫による嫡出否認の訴え(775条)によらねばならず、出生後父が嫡出を承認した場合はもはや否認できない(776条)し、子の出生を知って一年以内に提起しなければならない(777条)。この趣旨は、子の身分関係の早期安定にある。そして、この理は、生物学上父子関係がないことが明らかな場合であっても妥当する。子の身分関係の保持の必要性が当然なくなるわけではないからである。

もっとも、妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白な場合は、実質的には772条2項の推定の及ばない嫡出子とし、親子関係不存在確認訴訟によることができる。

・自ら無効な認知をした者が、のちに親子関係を否定できるか

血縁上の父子関係のない認知は、無効である(786条)。そして、認知者も同条の利害関係人に当たるから、自ら父子関係がないことを知って認知したからといって、その無効主張ができなくなると解することはできない。もっとも、認知無効の主張が権利濫用に当たる場合は、無効主張が制限されうる。

・節税対策等、仮想の養子縁組は有効か

802条1号の「縁組をする意思」とは、社会通念上親子と認められる関係を設定しようとする意思をいう。もっとも、相続税の節税の動機と縁組意思は併存しうるので、このような動機が見受けられるからといって縁組意思がなかったとすることはできない。

・虚偽の出生届により戸籍上親となった者が、15歳未満の子の縁組行為に代諾を与えたとき、縁組は有効か

797条1項の法定代理人の代諾について、法定代理権の欠缺した場合は、一種の無権代理と解する。従って、養子が15歳に達したあとは、父母でなかった者の自己のためにした養子縁組を有効に追認することができる(116条本文の類推適用)。この追認は黙示でもよく、養子縁組は遡って有効となる。

もっとも、116条ただし書きは取引の安全保護の規定であるところ、事実関係を重視する身分関係の本質から見れば、116条ただし書きは類推適用されない。したがって、相続人が追認の前から嫡出子たる身分を有していたことを理由に、養子縁組の追認による遡及的有効を制限できない。

IV 親権

・共同親権に服しているのに、一方が他方に無断で、単独名義で子の代理行為したとき、その行為は有効か

825条の趣旨は、共同名義でされた行為は、外観上、親権者双方が共同で、または一方が他方の同意を得てされていることから、行為の有効性に対する相手方の信頼を保護すべきとされた点にある(818条3項本文参照)。

したがって、単独名義のときは、このような信頼の基礎がなく、親権共同行使の原則に反しているから、他方親権者の同意がある場合を除き、行為は無効と解する。

・離婚後、単独親権者となった者が死亡した場合、未成年後見が開始するか

838条1項1号によれば、単独親権者の死亡とともに未成年後見が開始する。もっとも、親子関係の密接な関係に照らし、離婚によって停止した他方の親の親権を復活させるのが子の福祉に適うと認められる場合は、後見人の選任の前後を問わず、親権者変更の申し立てができると解する。

これに対し、後見開始の余地はなく、当然に他方の親の親権が復活するとする見解もある。しかし、法が親権復活制度を用意していないのは、このように処理することが必ずしも子の福祉に適するとはいえないからだと解される以上、この見解は採りえない。

・利益相反行為と法定代理権の濫用

1 利益相反行為(826条1項)とは、取引の安全の観点から、行為の外形から客観的に観察して、親権者の利益と子の利益が明らかに相反するとみられる行為をいう。親権者の動機や目的は考慮しない。これにあたる行為は、無権代理とみなされる(108条2項本文)。

2 親権者による子の代理行為は、利益相反行為に当たらない限り、親権者の広範な裁量にゆだねられている(824条、827条参照)。したがって、子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされた行為など、親権者に子の代理権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、法定代理権の濫用に当たると解することはできない。

子自身に経済的利益が無いことだけでは、直ちに自己または第三者の利益のみを図るものと解することはできないから、上記特段の事情は認められない。

Ⅴ 相続

・共同相続人またはその者から財産を取得した第三者は、他の共同相続人からの返還請求等に対し、相続回復請求権の消滅時効(884条)を援用できるか

相続回復請求権とは、表見相続人が真正相続人の相続権の目的(相続財産を構成する個々の財産に関する権利)を侵害しているときに、前者に対し後者が、その侵害を排除し相続権の回復を請求する権利である。これの行使に関して884条が5年または20年の消滅時効にかからしめている趣旨は、法律関係を早期に安定させるところにある。

そこで、共同相続人の一人が自己の本来の持分を超える部分につき、表見相続人として当該部分の他の共同相続人の相続権を侵害しており、対して後者が前者に当該財産の返還請求をしたときでも、上記趣旨は妥当し、後者は相続回復請求をしたものとして884条の適用を受ける。

もっとも、自らが表見相続人であることを知り、またはそう信じるにつき合理的理由がないのに当該財産の占有管理をはじめて他の相続権を侵害した者は、不法行為者にほかならず、当該制度が保護の対象として想定している者に当たらない。よって、消滅時効援用は認められない。

この理は、相続財産を表見相続人から譲り受けた第三者がいる場合に、真正相続人が899条の2等により返還請求をした場合にも妥当し、悪意有過失も、表見相続人につき判断する。相続という事実上の身分関係に関する権利変動については、取引の安全を優先するべきではないからである。

・連帯債務者を相続した者は、いかなる債務を承継するか。

898条1項にいう「共有」は249条以下の共有と別異に解する必要はない(同2項参照)から、相続された債務は264条ただし書、427条の適用を受け、金銭債務については法定相続分に応じて当然に分割される。この理は、連帯債務であっても妥当する。

もっとも、相続人が複数いる場合に、その内の一人が全額を負担するとなると、相続という偶然の事情により債権者が有利な立場を得ることとなって不当である。

したがって、相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲内で本来の債務者とともに連帯債務を負うものと解する。

・預金債権は遺産分割の対象になり、分割前は払い戻しを請求できないこととなるか

898条1項にいう「共有」は249条以下の共有と別異に解する必要はない(同2項参照)から、相続された債権は264条ただし書、427条の適用を受け、金銭債権については法定相続分に応じて当然に分割される。

もっとも、遺産分割は共同相続人間の実質的公平を確保する目的でなされるところ、実務上は、具体的な分割方法を定めるにあたっての調整を容易にすることが要請され、預金債権はこの要請に応えるものである。また、普通また定期問わず預金債権は、その性質の上からも、当然分割の対象とすべきではなく、例外的に遺産分割の対象となると解する。

したがって、909条の2の規定の限度を超えては、払戻を請求できないと解する。

・相続財産たる賃貸不動産から生じた賃料について、遺産分割により単独相続した相続人は分割前に生じた賃料をも他の相続人に請求できるか。

898条1項にいう「共有」は249条以下の共有と別異に解する必要はない(同2項参照)から、相続された債権は264条ただし書、427条の適用を受け、金銭債権については法定相続分に応じて当然に分割される。

ところで、896条本文により、相続開始時に遺産の範囲が定まるところ、相続財産たる賃貸不動産は共同相続人の共有状態にあり、相続開始後、遺産分割終了までに生じた金銭債権たる賃料債権は、遺産相続とは別個の契約関係から生じた共有財産である。したがって、当該賃料債権は、その相続分に応じて当然に確定的に分割帰属し、後の遺産分割の遡及効(909条)の影響を受けない。(賃貸人の義務が不可分債務であることは、この理を妨げない。)

よって、単独で賃貸不動産を承継した相続人も、その法定相続分に応じた賃料額を請求できるにとどまる。

・特定財産を相続させる旨の遺言(1014条2項参照)がされたとき、代襲相続(887条2項3項)は生じるか。

そもそも遺言者は推定相続人に当該財産を相続させる意思を有するにとどまり、それをその代襲者に相続させる意思まではないと解される以上、特段の事情がない限り、当該遺言の効力は失われ、代襲相続は生じない。

[1] 資格併存貫徹説は、本人の地位での追認拒絶が信義則に反しないとする。本人が生存していたときと利益状況が変わらない以上、本人の死亡という偶然によって利益を得ることを認める必要がないから。

[2] 取引の安全を考慮すれば、白紙委任状を交付したと以上、輾転流通の可能性を本人も了解しており、転得者の委任状提示による代理権の授与表示は、その危険の現実化に過ぎないとみることが自然だとの批判がある。しかし、白紙委任状だからといって、自由な意思解釈は許されず、かつ実情に合っていないとの反論が可能。

[3] 佐久間p436

[4] 取消前か後かで法律構成を変えるのは一貫性がないとの批判。しかし、対抗問題構成が原則であるところ、96条3項はこれを覆す例外規定としないと、同規定の存在意義がないとの反論が可能。

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ryomiyagawa
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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