大人はもちろん、大学受験・総合型選抜・学校推薦型入試における小論文対策のための基礎から学ぶ法学(2)
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第1編 法学入門
第1章 法とは何か
第1.法の意義
法とは,共同生活を営む上でのルール(=社会規範)
→特に,法が役に立つのは何かトラブルが発生した場合
∵トラブルがなければ,ルールとは何かも問題とならない
↓さらに
ルールを破った人が言うことを聞かない場合
→強制的に言うことを聞かせる必要がある
↓そこで
裁判所が介入して強制的に言うことを聞かせる
=強制力まであるのが法
※ 強制力のない法(条文)もある
第2.法の種類
1.公法と私法
公法:国家の内部の役割分担及び国家と国民との事項を定めたもの ex.憲法,刑法
私法:市民と市民との間の事項を定めたもの ex.民法,商法,会社法
2.実定法と自然法
実定法:人によって定められた法律
ex.悪法も法である
自然法:時代を超えて普遍的に存在する正しい法
ex.すべての人は生まれながらにして自由である
3.成文法(制定法)と不文法
成文法(制定法):明文の形で記録されている法
ex.国会が定める法
不文法:明文の形で記録されていない法
ex.慣習法
4.実体法と手続法
実体法:権利義務の変動(発生・変更・消滅)の要件・効果について定めた権利内容の基準となる法(どのような条件が備わるとどのような結果が生じるかについて定めた法)
ex.憲法,民法,刑法,商法,会社法
手続法:権利義務の具体的な実現手続を定めた法(裁判手続についての法)
ex.民事訴訟法,刑事訴訟法,行政事件訴訟法
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※司法試験の世界では
民法,商法,民事訴訟法を合わせて民事系
刑法,刑事訴訟法を合わせて刑事系
憲法,行政法を合わせて公法系
と呼ぶことがある。
第3.法源
裁判官などが法的決定をなすに当たり,参照・援用することのできる法形式(あるいは規範形式)
=裁判所が法を適用する際に,「これが法である」として用いることができるもの
↓
成文法:前述(ex.憲法,法律)
→原則として,成文法があれば,成文法が優先
不文法:以下のようなものがある
慣習法:慣習の中で特に人々が法規範だと意識するもの(ex.内縁)
条理:社会生活の中で多くの人に承認された物事の道理
→成文法も慣習法もない場合に,条理に従うものと解されている(法源となるかは争いあり)
判例:わが国では,判例は法源ではないとされている(∵ 憲法 76 条3項「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。」)
→もっとも,最高裁判所も事実上過去の判例に矛盾することは許されないし,下級審もこれに従わなければならないので,事実上法源性が認められている
cf.先例拘束性の原理
わが国のような成文法主義を採らず,判例法主義を採る英米法系諸国では,裁判所が過去の先例(判例)に拘束されることを法的に義務付けられている
法律の基礎知識
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第2章 法律及び条文の読み方と構造
第1.法律の構造
目次→本則→附則(短い法律では,目次がない場合もある)
本則:編→章→節→款(短い法律では,章と節だけのもの,条文だけのものもある)
第2.条文の読み方
1 条・項・号
条:条文の基本単位
項:条の内容を段落で分けたもの
号:事柄を列記される場合に用いられるもの
ex.刑法 19 条 次に掲げる物は,没収することができる(19 条1項柱書)。
一 犯罪行為を組成した物(19 条1項1号)
二 犯罪行為の用に供し,又は供しようとした物(19 条1項2号)
三 犯罪行為によって生じ,若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報
酬として得た物(19 条1項3号)
四 前号に掲げる物の対価として得た物(19 条1項4号)
2 没収は,犯人以外の者に属しない物に限り,これをすることができる。ただし,犯人以外の者に属する物であっても,犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは,これを没収することができる(19 条2項)。
2 前段・後段
前段:1つの項(又は号)が2つの文から成る場合における,前の部分
後段:1つの項(又は号)が2つの文から成る場合における,後の部分
ex.憲法 21 条2項 検閲は,これをしてはならない(21 条2項前段)。
通信の秘密は,これを侵してはならない(21 条2項後段)。
3 本文・ただし書
本文:1つの項(又は号)が2つの文から成る場合における,「ただし」の前の部分。原則を表すことが多い
ただし書:1つの項(又は号)が2つの文から成る場合における,「ただし」の後の部分。例外を表すことが多い
ex.刑法 38 条3項 法律を知らなかったとしても,そのことによって,罪を犯す意思がなかったとすることはできない(38 条3項本文)。ただし,情状により,その刑を減軽することができる(38 条3項ただし書)。
法律の基礎知識
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4 準用・読替え
準用:ある事項(a)について定める法令の規定(A)を,これと似た別の事項(b)にあてはめること
→bについて定めた条文は実際には存在しないが,これについて定める法令の規定
(B)が観念上成立する
ex.「代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は,自己のためにしたものとみなす。ただし,相手方が,代理人が本人のためにすることを知り,又は知ることができたときは,前条第1項の規定を準用する。」(民法 100 条)
「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人
に対して直接にその効力を生ずる。」(民法 99 条1項)
→「相手方が,代理人が本人のためにすることを知り,又は知ることができたときは,本人に対して直接にその効力を生ずる。」という内容の条文になる
読替え:準用の際に必要となる,条文の修正を示したもの
ex.「第1項の規定は監査役について,……準用する。この場合において,第1項中「会計参与の」とあるのは,「監査役の」と読み替えるものとする。」(会社法 345 条4項)「会計参与は,株主総会において,会計参与の選任若しくは解任又は辞任について意
見を述べることができる。」(会社法 345 条1項)
→以下のように読み替える
「監査役は,株主総会において,監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる。」
※ 総合講義テキストでは,以下のように,略記を用いる
刑法 19 条1項1号→19I①(当該科目において,法令名は省略)
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【参考】語句の使い方(司法試験レベルではあまり気にして使っていないのが現状)
(1) 「又は」と「若しくは(もしくは)」
いくつかの中のどれか,というときに用いる
ア 単一に用いるとき→「又は」を使う
ex.「公の秩序又は善良の風俗」(民法 90 条)
イ 3つ以上のどれか,という場合で,段階があるとき→小さく分けられるところには「若しくは」を用い,大きく分けられるところには「又は」を用いる
ex.「人を殺した者は,死刑又は無期若しくは 5 年以上の懲役に処する」(刑法 199 条)
死 刑 又
は
懲 役
若しくは
無
期
5年
以上
(2) 「及び」と「並びに」
いくつかのうちのいずれも,というときに用いる
ア 単なる並列の場合→「及び」を用いる
ex.「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,……」(憲法 15 条1項)
イ 3つ以上のいずれも,という場合で,段階があるときには,接続の小さい方に「及び」を用い,接続の大きい方に,「並びに」を用いる
ex.「取締役は,法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し,……」(会社法 355 条)
(3) 「場合」,「とき」,「時」
ア 「場合」と「とき」はともに状況,事情などを示す
→状況が二重になる場合には,大きい方に「場合」を,小さい方に「とき」を用いる
ex.「予算について,参議院で衆議院と異なった議決をした場合に,法律の定めるところにより,両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき……は,衆議院の議決を国会の議決とする。」(憲法 60 条2項)
イ 「時」はある時点(瞬時)を示す
ex.「意思表示は,その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」(民法
97 条1項)
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第3.条文の構造
1 総説
法律の構造は条件と結果から成り立っている
ex.AさんがBさんにお金を渡した上で,返す約束をした
→消費貸借契約が成立し,AはBに対して貸金返還請求権を有する
ex.甲は乙をナイフで刺し殺した
→甲に殺人罪が成立し,5年以上の懲役,無期懲役,死刑に処される
2 要件・効果
(1) 要件(法律要件)
条件のこと→どうすれば,法律の適用を受けるかが書いてある
(2) 効果(法律効果)
結果のこと→法律要件を満たした場合に,どのような結果が発生するかが書いてある
↓そうすると
法律家の仕事は,生の事実から「要件」に当たる事実を抽出すること(あてはめ)
※事実の存在を調査することも法律家の重要な仕事になる
↓
この作業を法的三段論法と呼ぶことがある
大前提 要件A(他人の財物を窃取すること)→効果B(10 年以下の懲役又は 50 万円以
下の罰金)(窃盗罪・刑法 235 条)
小前提 事実C(甲が乙の自転車を盗む)→要件Aに該当(あてはめ)
結論 事実C(甲が乙の自転車を盗む)→効果B(10 年以下の懲役又は 50 万円以下の
罰金)
cf.通常の三段論法
大前提 全ての人間は死すべきものである。(A→B)
小前提 ソクラテスは人間である。(C→A)
結論 ゆえにソクラテスは死すべきものである。(C→B)
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3 解釈
(1) 解釈とは
事例:Aが 100 万円相当の宝石を持っていたところ,Bが「それは呪われている」とA
を騙して 10 万円でその宝石を買い取った。その後,BはCにその宝石を 100 万円で
売ったが,騙されたことに気づいたAはCに宝石を返せと言い出した
民法 96 条 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。
2 (略)
3 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗
することができない。
ア 民法 96 条1項の要件効果
要件を抜き出してみると……
①「詐欺」=「Bが『それは呪われている』とAを騙している」
②「詐欺による意思表示」=「その結果Aは 10 万円でBに宝石を売っている」
↓効果
取り消すことができる(民法 96 条1項)
=AはBとの売買契約を取り消すことができる
イ 民法 96 条3項の要件効果
要件
①「前2項の規定による詐欺による意思表示の取消し」=Aによる取消しの意思表示
②「善意でかつ過失がない第三者」=???
↓効果
「対抗することができない」=???
↓
解釈=条文の意味がわかりにくい部分をわかりやすくすること!(ちなみに,そもそも
条文がない場合もある)
※「善意でかつ過失がない第三者」≒AB以外,かつ,保護に値する者で,詐欺の事実
について知らず,知らないことについて過失がない者のこと
「対抗することができない」≒主張することができない
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(2) 判例と学説
判例=最高裁判所の示した見解のこと
cf.裁判例=下級審(高等裁判所,地方裁判所)が示した見解のこと
学説=学者の示した解釈のこと
ア 通説
学界などで,広く通用している見解
イ 多数説
学界などで,多くの人が賛成する見解
ウ 有力説
通説(多数)までには至らないが,説得力に富み,支持する人もかなり多い見解
エ 少数説
支持者の少ない見解
↓どの解釈をとればよい?
判例をとるべき!判例がない場合は,裁判例 or 通説
∵ 実務は判例で動いている→判例は条文とニアリーイコール
(3) 判例の射程
判例は,ある個別具体的な事案に対する判断として現れる
→事案が変われば,結論も変わる可能性がある
↓
その判例のうち,どの部分が一般的なルールとして確立されており,そのルールの前
提はどのようなものなのかをしっかりと把握することが重要
ex.会社A社を倒産させた社長に殺人罪は成立しないとする判例
→およそ法人である限り,事案が変わってもルールは変わらないだろう
ex.甲がAに対して大量の睡眠薬を飲ませて殺害した事例において,最高裁判所が人
を「殺した」(刑法 199 条)に当たると判断した
→およそ睡眠薬を飲ませて人が死亡すれば,人を「殺した」に当たるのか(ex.睡
眠薬は致死量に達していなかったが,被害者の特異体質と相まって死亡した場
合)?
※ 主論と傍論
主論:判例としての(事実上の)拘束性を持つ部分(≒当該事案において結論を導くために必要な部分)
傍論:判例としての(事実上の)拘束性を持たない部分(≒当該事案において結論を導くために必要とはいえない部分)
法律の基礎知識
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【参考】判例を読む際の注意点
(1) 表記
最三小判平成 15・10・7 刑集 57 巻 9 号 1002 頁
【最三小(①)】【判(②)】【平成 15.10.7(③)】【刑集 57 巻 9 号 1002 頁(④)】
①:最高裁判所第三小法廷
※ 最高裁判所には,第一小法廷から第三小法廷まで3つの小法廷があり,それぞれ
5人の裁判官で構成されている
また,最高裁判所においては,稀に大法廷が開かれ,極めて重要な事項(ex.判
例変更)について 15 人の裁判官全員で判断している(大法廷の場合には,最「大」
判と表記される)
※ 総合講義テキストでは,「最判平 15.10.7」という形で表記する
②:判決
cf.他の裁判形式(判断の種類)として,決定,命令がある(決定の場合【決】と表記さ
れる)
③:年月日
④:出典
※ 最高裁判所の判決には,最高裁判所判例集に搭載されるものと,最高裁判所裁判集
に搭載されるものがある。
前者は,最高裁判所判例委員会によって判例として公刊する価値があるとされたものであり,判示事項(当該判決がどのような法律問題について判断したのかを簡潔に示すもの)と判決要旨(判示事項に示した法律問題につき,当該判決のした法律判断の結論を整理して示すもの)が示されている。
ex.最一小判昭 34.2.12 民集 13 巻2号 91 頁
【判示事項】
1.登記簿上所有名義を有するにすぎない者と民法第 177 条の第三者
2.真正な不動産所有者の登記簿上の所有名義人に対する所有権移転登記請求の許
否
【判決要旨】
1.不動産につき実質上所有権を有せず,登記簿上所有者として表示されているにすぎない者は,実体上の所有権を取得した者に対して,登記の欠缺を主張することはできない。
2.真正なる不動産の所有者は,所有権に基き,登記簿上の所有名義人に対し,所有権移転登記を請求することができる。一方で,後者は,公式判例集に登載するほど重要ではないが,裁判実務の参考になるとされるものである
☆大審院判決
戦前は,現在の最高裁判所に対応するものとして,大審院が設置されていた変更されていない大審院の判決は現在においても判例とされる(ただし,大審院判例の変更は,小法廷限りで足りる)大審院明治 38 年 5 月 11 日判決→大審院が明治 38 年5月 11 日になした判決
※大審院連合部→大審院自身が出した法令解釈を変更する場合に組織された合議体
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(2) 個別意見
最高裁判所の判断は,多数意見(法廷意見)を形成した裁判官の意見により構成されるこれに対して,個別裁判官が意見を述べる場合があり,以下のような種類がある
意見:多数意見の結論に賛成であるが,理由を異にするもの
反対意見:多数意見の結論に反対するもの
(3) 最高裁判所判例解説
最高裁判所には,最高裁判所調査官という裁判官の裁判を補佐する職がある。調査官は,担当する事件について,記録を調査し,論点を明らかにし,それに関係ある判例・学説などを調べ,その調査した結果をまとめて各裁判官に報告する。この調査官が担当する事件について解説を加えたものが「最高裁判所判例解説」であり,法曹時報という雑誌に掲載される。それが1年分まとめられて,「最高裁判所判例解説」として公刊される。判例解説のうち,もっとも権威のある解説として実務上極めて重要な意義を有する。
る。
武蔵野個別指導塾・武蔵境唯一の完全個別指導型学習塾
武蔵境・東小金井・武蔵小金井の完全個別指導型学習塾「武蔵野個別指導塾」の教育理念
【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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