成績を上げるための秘訣

01　学力向上の鍵は”戦略的なアプローチ”

教育心理学における一つの大前提は、単純に学習時間を増やすだけではなく、その時間をどう活用するかが重要であるという点です。ハーバード大学の研究によれば、一定の時間を設けて学習を進めるだけでなく、その時間を最大限に活用するための戦略的なアプローチが、学力向上に絶対的に必要となります。具体的な手法とその背後にある考え方を探り、学力向上の実現可能性を高めていきましょう。

エビデンス：(Harvard Educational Review, 2020)

02　「理解」と「達成」の違いを理解する

“理解する”と”達成する”の間には、重要な違いが存在します。ある特定のスキルや知識を理解することと、それを適切に適用することは別々のスキルを必要とします。例えば、ラケットの振り方を理解するのと、その理解を元に正確なスイングを実現するのとでは、必要なスキルセットが異なります。この”理解-達成ギャップ”を縮めることが、学力向上の第一歩となります。

エビデンス：(Journal of Educational Psychology, 2019)

03　学習ステップに対する戦略的なアプローチ

“理解”、”記憶”、”実行”、”修正”という4つの基本的な学習ステップは、全ての学習科目に共通しています。これらを効果的に進めるためには、それぞれに対する戦略的なアプローチが不可欠です。理解力の深化から記憶の定着、そして実際のスキルの適用と改善まで、これら全てのプロセスが、学力向上のための鍵となります。

エビデンス：(Educational Psychologist, 2021)

ちなみに、記憶の定着は、脳科学の視点から見ると、神経可塑性という現象により可能となります。神経可塑性とは、経験や学習によって脳がその構造や機能を変化させる能力を指します。記憶の定着は、この神経可塑性の具体的な例であり、新しい情報を学習することによって脳の神経回路が再構成され、その情報が長期記憶として保存されます。学習を通じて神経可塑性が発揮される具体的なメカニズムの一つに、シナプス可塑性があります。シナプスとは、ニューロン（脳の神経細胞）間で情報を伝達する接続部位のことで、シナプス可塑性とは、学習や経験によってシナプスの強度が増減する現象を指します。例えば、ある情報を反復して学習することで、その情報を伝達するシナプスの接続が強化され、その情報が定着しやすくなります。

この現象は、”Hebb’s rule”または”Hebbian learning”とも呼ばれ、”ニューロンが同時に発火するとき、それらは結びつく（Cells that fire together, wire together.）”という原則を表しています。したがって、新しい情報を効果的に記憶に定着させるためには、この神経可塑性とシナプス可塑性を最大限に利用する学習法が有効です。具体的には、反復学習やスペーシング効果（学習を一定の間隔で分散させること）を利用するといった方法が挙げられます。

今日から実践できる学力向上のための戦略を理解し、あなたの学習の質を向上させましょう。学力向上は一夜にして達成できるものではありませんが、適切な戦略を持つことで、そのプロセスは確実に進展します。

04　学習プロセスの構造と重要な要素

成績UPへの道筋としての学習プロセスは、”インプット”と”アウトプット”の二つの大きな段階に分けられます。このプロセスは教育学の領域で頻繁に使用されるモデルで、各段階において重視される要素があります。

インプットの段階では、新たな情報や知識の「理解」と「記憶」が中心となります。一方、アウトプットの段階では、得た知識を実際に「実行」し、「修正」することが重要となります。それぞれのステップには、適切な学習方法が存在し、それぞれの方法を理解し、活用することで、学習の効率と効果を高めることが可能となります。

我々は情報を吸収する「インプット」と、それを実際に表現または利用する「アウトプット」の二つの主要なプロセスを経験します。これらの行為は学習の成功を大きく左右するため、それぞれのメリットや重要性を理解することが必要となります。

まず、インプットとは何か。これは、新しい情報を吸収し、それを脳に保持する行為を指します。教科書を読む、講義を聞く、映像を視聴するなどがインプットの具体的な例です。この段階では、情報が脳の中に取り込まれ、神経細胞（ニューロン）間の接続（シナプス）が活性化されます。シナプスの活性化は、脳内での情報の伝達を強化する役割を果たし、これが後に記憶の形成につながる重要な過程です。脳科学的に言えば、ここで神経可塑性という、脳がその構造や機能を学習や経験により変化させる能力が働きます。

一方で、アウトプットは情報を外に出す行為を指し、これがなければインプットした情報は活用されません。アウトプットには、口頭や筆記での説明、ディスカッションへの参加、テストの解答などがあります。アウトプットすることで、脳内の情報を組み立て直し、それを他人に伝達する形を作り出すプロセスが生じます。これは、ある種の「内部教授法」のようなもので、脳にとって非常に有益です。なぜなら、アウトプットにより学習内容を深く理解すると共に、それを長期記憶に固定するための再度のシナプス活性化が起こるからです。

さて、それぞれの役割とメリットを理解した上で、これらのバランスが学習効果に重要であることも忘れてはなりません。インプットだけ、あるいはアウトプットだけに偏ると、学習の効率は下がります。インプットとアウトプットは一種のダンスのようなもので、一方がリードし、他方がフォローする。そして、その結果として美しい学習の舞台が完成するのです。

以下の表は、インプットとアウトプットのバランスを示しています。

したがって、効率的な学習を実現するためには、適切なインプットとアウトプットのバランスを保つことが鍵となります。

05　理解力の向上を中心に

学習プロセスの初期段階である”理解”に焦点を当てて考えてみましょう。なぜ同じ授業を受けても理解力が高い学生と低い学生が存在するのでしょうか。この違いは何なのでしょうか。これらの疑問に対して、教育学の観点から、学習プロセスにおける初期段階、具体的には「理解」に焦点を当ててみましょう。

同じ授業を受けても、一部の学生は内容をすばやく理解し、他の学生よりも深い洞察を得ることができます。一方で、他の学生は理解するのに苦労し、同じ情報から同じように学び取ることが難しいようです。これらの差異は何によって生じるのでしょうか。教育学の観点から見ると、その答えは学習スタイル、注意力、事前の知識、そして最も重要な要素として、「理解力」にあると言えます。

理解力とは、新しい情報や概念を頭に取り込み、それを自分自身の既存の知識構造に組み込む能力を指します。これは、新たな知識を理解し、それを適用するための基盤を形成するという意味で、極めて重要です。そしてこの理解力の向上が、学力全体の向上に直結します。教育学の研究は、理解力の向上に役立ついくつかの戦略を示しています。例えば、前もって教科書を読んだり、問題に対して自分なりの答えを考えること、または新しい情報を既存の知識と関連付けることなどがあります。

以上のように、理解力の差は、学習者の態度、学習方法、さらには教材への接し方に大きく影響されます。教育学は、これらの問題に対する理論的なフレームワークと具体的な解決策を提供します。同じ授業を受けても理解力に差が出るのは、情報の取り込み方、処理の仕方がそれぞれの学習者で異なるためです。したがって、理解力を高めるための一連の手法を身につけることで、学習者は自分自身の学力向上に貢献できるのです。

06　授業の受け方と理解力

理解力を向上させるためには、授業の受け方が重要です。その中でも特に、授業前の適切な準備と、授業中の集中力が鍵となります。これを具体化したものが”予習”という概念です。予習とは、授業が始まる前に、教科書や関連資料を読むことを指し、新しい概念や用語、原理などを事前に理解し、それらをどのように活用するかを把握します。

予習の時間には、わからない部分を調べ、授業で取り扱われるであろう重要なポイントを特定します。こうすることで、授業が始まる前に既に学習内容が頭に入っている状態を作り出すことが可能となり、授業中に新たに得られる情報と既存の知識を関連付けやすくします。これにより、新しい情報への理解度を深めると共に、学習の効率を高めることができます。

予習が新しい概念に対する学生の初期的な理解を形成し、授業中にその理解を深める機会を提供します。このような適切な準備は、学生が新たな知識にアクセスし、それを自身の既存の知識フレームワークに統合する能力を向上させます。これは、一部の教育学者が「スキャフォールディング」（足場作り）と呼ぶプロセスに似ています。また、予習は学生が授業で提供される情報に対する深層的な理解を可能にします。これは、学生が授業内容を単に暗記するのではなく、自己の理解と関連付けて情報を処理する「深層学習」を促進するために役立ちます。深層学習は、学生が知識を長期記憶に保持し、それを新しい状況に適用する能力を向上させます。

さらに、予習は学生に自己調整学習のスキルを教えます。これは、教育学者が「メタ認知」と呼ぶ能力の一部で、自身の学習プロセスを理解し、評価し、調整する能力です。メタ認知スキルは、生涯学習者にとって非常に重要な能力であり、予習はその発展を助けます。その他、予習が学生の授業参加を向上させることも分かっています。予習を行った学生は、授業中に教師が提出する質問に対する理解度が高く、他の生徒との討論に積極的に参加します。

以上から、理解力向上のための具体的な手法は、教育学の研究により科学的に裏付けられています。予習による授業への準備と、授業中の集中によって、情報の理解と記憶が深まり、それによって理解力と学力が向上することが実証されています。我々が学び、理解する過程は一見すると単純な行為に見えますが、実はその背後には、科学的な方法と努力が必要となる複雑なプロセスが存在しているのです。

07　授業中の注意点と集中力

授業中は、教師の説明に集中し、内容を理解することが学力向上のカギとなります。教師の語る内容の理解度は、学生の学力向上に大いに関連しています。しかし、ここで忘れてはならないのが、教師の言葉をただ受け入れるのではなく、それを自身の頭で理解し、その上で必要な情報をメモするという行為です。こうしたメモは、後の復習や理解の深化のための重要な資源となります。

実は、メモを取ることは単なる情報の書き留めではなく、理解を深め、知識を記憶する力強いツールです。メモを取る行為は、「選択的注意」と呼ばれる心理学的プロセスを活性化させます。これは、大量の情報の中から重要な部分を選び出し、注意を向ける能力を指します。教室の状況下では、このスキルは教師の説明から主要な点を抽出し、それを記録するために特に有用です。メモを取ることは、情報を深く理解するために「深層処理」を促進します。深層処理とは、情報を表面的に処理するのではなく、より深いレベルで理解しようとする認知的プロセスを指します。メモを取ることで、学生は新たな情報を自分の言葉で書き換え、それを既存の知識と関連付けることができます。これは、単に聞くだけよりも情報の理解と記憶に効果的です。

また、メモは「外部記憶源」としての役割を果たします。これは、脳内の情報を補完し、必要に応じて参照できる物理的な記憶媒体を意味します。学生は授業の後でメモを見直すことで、授業中に学んだ情報を思い出す助けとすることができます。メモは「メタ認知的スキル」の向上を助けます。メタ認知とは、自分自身の学習プロセスを理解し、評価し、調整する能力を指します。学生は自分のメモを見直すことで、自分がどの程度理解しているのか、どの部分がまだ理解できていないのかを自己評価することができます。

08　暗記と自己評価

また、授業中に重要な部分を暗記することも有効な手法です。これにより、情報の理解度をさらに深めることができます。授業が終わったら、自分自身で教科書やノートを見直し、理解できなかった部分を見つけ出すことが重要です。そして、理解できなかった部分について、教師に質問をすることで、学習の質を向上させることができます。自分で問題点を発見し、それを解決することで、学習は一層深まります。

何故教師は学生に質問するよう励ますのでしょうか？その答えは、質問が学習と理解を深化させ、自己発見の旅を助けるからです。

そもそも、質問をすることは、「自己説明効果」という心理学的な現象を活用します。これは、自分自身に対してあるトピックを説明すると、そのトピックへの理解が深まるという現象を指します。学生が自己の疑問を形成し、それに対して答えを見つける過程で、自身の理解度を高めることが可能になります。

また、質問をすることは、「メタ認知的スキル」の発達を促します。これは、自分自身の学習や思考プロセスを理解し、それについて反省や評価を行い、必要な調整を行う能力を指します。質問を形成するプロセスは、自分自身の知識と理解を評価し、理解が不十分な領域を特定するための重要なメタ認知的な演習です。

さらに、質問は、受動的な学習からアクティブな学習へと移行するための鍵となります。教育学では、「アクティブ・ラーニング」（自分自身で積極的に情報を探し、分析し、適用すること）が、深い理解と長期的な記憶の形成にとって重要であると広く認識されています。

「アクティブラーニング」は、一般的に学生が主体的に学習に関与し、自身の学習を積極的に進める手法を指します。近年、伝統的な講義スタイルとは異なる教育アプローチとして、多くの教育者や研究者から注目を集めています。

アクティブラーニングの理論は、主に構築主義（Constructivism）と社会文化理論（Sociocultural theory）に基づいています。構築主義は、学習者が自身の経験を基に知識を構築するという視点を提供します。一方、社会文化理論は、他者との対話や共同作業を通じて学習が進行すると考えます。これらの理論は、アクティブラーニングの中心的な要素である、学習者の主体性や協働学習を強く支持します。

近年の研究報告では、アクティブラーニングが学習者の深い理解や情報の長期記憶形成に対して有効であると指摘されています。例えば、2019年のフリーマンらによるメタ分析では、STEM（Science, Technology, Engineering, and Mathematics）の領域で、アクティブラーニングが伝統的な講義スタイルに比べて学生の学習成果を大幅に向上させることが示されています（Freeman et al., 2019）。

最後に、質問をすることは、学生の「自己効力感」を強化します。これは、自分自身の能力に対する信念を指し、教育成果に強く関連しています。自分自身の質問に答えを見つけることで、学生は自身の能力を肯定的に評価し、自己効力感を高めます。

質問は、これらの全ての要素を組み合わせ、学習を一段階上のレベルへと引き上げる手段となります。これらの効果を活用し、授業で質問を積極的に行うことで、学力の向上と深い理解を実現することができるのです。

09　積極的で主体的な態度と戦略的学習

教育の成果は様々な要素によって決まりますが、その中心にあるのは、学習者自身の学習姿勢とそれを支える学習法です。実際に、学力向上のための最も重要なアプローチは、全ての学習ステップで積極的で主体的な態度を保つことです。学習は、情報をただ受け入れるだけの受動的な行為ではなく、自分自身が能動的に取り組むべき活動なのです。

学習者が理解力を向上させるには、予習、授業の受け方、メモの取り方、暗記、質問の仕方といった様々な手段を組み合わせ、戦略的に学習を進めていくことが求められます。教育学の視点から見れば、これらの手法は学力向上の戦略的なパズルのピースとなります。

以上のように、積極的な態度とそれを支える戦略的な学習法が、理解力と学力向上の道筋を照らす灯台となります。教育学の研究はこれらの要素がどのように組み合わせられ、最大の効果を発揮するかを示しています。学習は個々の旅であり、その旅を成功に導くためには、適切な地図（学習法）と明るい灯台（積極的な態度）が必要なのです。

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ryomiyagawa

早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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