東大の問題から「考える力」を養う

東京大学の過去問を通して、今、入試で問われているのは「考える力」であることを見てみましょう。とはいえ、これは何も東京大学に限ったことではなく、共通テストや私大の入試、国公立大の前期試験でも同様の傾向が現在主流となってきています。一昔前の日本の受験では、「暗記」「知識偏重」の問題が問われてきましたが、文科省が下記のように提言しています。

文科省VUCAについて 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾

つまり、これからの時代はVUCA、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った造語で、社会やビジネス環境が複雑化し、想定外のことが起きたり、将来の予測が困難だったりする状況を指しています。このような「想定外」や「板挟み」が起こる社会では、そうした変則的で流動的な問題に向き合い乗り越えられる人材が求められます。そして、そのためには、主体的な学習や、対話的な深い学びが必要で、こうした学びを通して、問題解決できる人間を育成する必要があるわけです。そのため、大学入試を先頭に、高校入試や中学入試でも入試内容は、これまでの知識偏重の入試内容から考える問題へと変容してきているわけです。早速、実際の問題を見てみましょう。まずは東大の問題から行きましょう。

【問題】(1) 表1のa〜dは、①成田空港の上海行きの航空便、②東京郊外の住宅団地のバス停(最寄の駅の駅前行き)③人口約10万人の地方都市の駅前のバス停、④人口約5000人の山間部の村のバス停の時刻表のいずれかである。a〜dに該当するものの番号(①〜④)を、それぞれaー○のように答えよ。

東大地理過去問 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾

(東京大学「地理」2005年)

これはかなり有名になった問題ですが、東京大学は、2005年から先駆的にこうした考える問題を試験問題に課していたわけです。この問題「地理」(今で言う「地理総合」)の問題なのですが、殆ど地理の専門知識は問われていません。問われているのは与えられている資料を通して、その情報を自分の頭でいかに考えて理解し、的確な表現(アウトプット)をしていくことができるかどうか、ということです。

時刻表を見ると、aの時刻表は、朝の8:15分と夕方の15:45分にしか公共交通機関が動いていません。こういう時刻表を都内や地方都市でも見ることはないでしょう。また、昨今の国際社会、とりわけアジアとの関係を考えると中国への航空便でこのような本数ではとても足りないと分かると思います。なので、このaの時刻表は、限界集落に近い④の人口約5000人の山間部の村のバス停ではないか、と想定できるわけです。実際、話は少しずれてしまいますが、こうした山間部などでは、バスはもちろん、自分の自動車のガソリンを補給するためのガソリンスタンドも減少しており、住民、とりわけ高齢者などが移動できなくなってきているということが、社会問題にもなっていますね。

次に、時刻表のbやcですが、これはぱっと見は同じような時刻表で、少し判断に迷うところがあると思いますので、一旦飛ばしましょう。この「一旦飛ばす」というのも大事な考え方です。もちろん、この問題は、bやcの時刻表を見て直ちに解答出来る生徒もいるかもしれませんが、少なくとも地理の授業でこうした時刻表のことを習ったことはないでしょうし、知識として即答できるということは少ないでしょうし、いきなりこの問題に取り組んで「どれが当てはまるだろう?」と考えていると試験時間が無駄に浪費されてしまうリスクがあります。そこで、時刻表のdに目を向けたいのですが、時刻表のdは、この時刻表の中では一目瞭然で本数が多いことには気づくでしょう。また、東京などで在住している方はこのような時刻表やバス停でもよく見られたものかもいれません。なので、そこからパッとこれは②の東京郊外の住宅団地のバス停だと分かる生徒も多いと想います。しかし、その一方で、意外と引っかかるのが③の人口約10万人の地方都市のバス停かもしれないと思う生徒さんも少なくありません。ここは地理の専門知識とまではいかなくても、ある程度の常識が求められています。②の東京郊外ですが、東京郊外というのですから、23区外ということでしょう。そうすると、場合によっては人口10万人もいないのではないか、と思う生徒も少なからずいるからです。

しかし、東京都の二十三区外の人口といっても、一番多い八王子市は約58万人、続く第二位の町田市は約43万人、武蔵野個別指導塾がある武蔵境がある武蔵野市は東京の市部では少ない方ですが、それでも約15万人います。また、人口だけではなく、たとえば武蔵境駅の乗降者数で考えると、約14万人程度います。つまり、二十三区外で比較的人口も少ない武蔵野市でも人口約10万人の都市よりも数が多いわけですね。更にいえば、人口約10万人の地方都市というと、例であげればたとえば岡山県の津山市がちょうど人口約10万人くらいです。しかし、この数値というのは、津山市という約500キロ平方メートルとかなり広いエリアです。それに対して、武蔵野個別指導塾のある武蔵野市の面積は、たった約15キロ平方メートルしかありません。つまり、津山市の方が、武蔵村山市より33倍も大きな市であるということです。となると、津山市の駅前のバス停と言っても、津山市の方全員が使うようなものではないということです。実際、主要な駅である津山駅の鉄道の上京者数は3000人くらいです。これも計算すると面白いですが、武蔵境駅の1/33のしかありません。となると、東京都郊外と地方都市ではまるで人口(人口面積)も乗降者数も違うということがわかりますね。実際、津山市の津山駅の駅前のバス停の時刻表は下記の左の通りです。逆に武蔵境駅へ行くは右の通りです。全く本数が違うのが明らかです。

岡山県津山市のバス停の時刻表 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾 武蔵野市第五小学校前武蔵境駅前行きのバス停 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾

どうでしょうか。これで、dの時刻表は、東京郊外のバス停、つまり②であると理解出来ると思います。最後に、残ったbとcですが、これがどちらが、①成田空港の上海行きの航空便、なのか、③人口約10万人の地方都市の駅前のバス停なのか悩むところです。本数的にはさほど大きな差が無いですね。しかし、時刻表をもう一度見直してみて、bとcに違いが無いか考えてみましょう。本数は確かにさほど変わりはありませんが、「違い」を見付けようとすると、bの時刻表は始発が9:50分と、時差出勤でもしなければ無理な比較的朝遅めになっていることや、最終便が20:20分とちょっと会社や遊びなどで遅くなったら利用出来ないような時刻表になっていることに気づけるかと思います。社会人(大人)や高校生ではなく、中学生や小学生でも始発が9:50分というバス停や電車の時刻表は見たことがないでしょう。実際、通学するのに、始発が9:50分では学校に間に合いませんね。その上で、飛行機の離発着についても考えてみましょう。もちろん、中には飛行機なんて乗ったことはないという人もいるかもしれませんが、ジャンボジェット機などが時刻表cのように朝6:50分に飛び立つとしたら、近隣の住民はどうでしょうか。ものすごい騒音がするのではないでしょうか。寝ていても音でびっくりして起きてしまいますよね。

このように地理の知識ではなく、自分の身の回りのことや物事を考えることによって、この時刻表bは、①成田空港の上海行きの航空便の時刻表ではないかと推察できますし、cの時刻表は、③人口約10万人の地方都市の駅前のバス停、であるとわかるわけです。

以上、ご覧になっていただいたように、東京大学という日本で最難関の大学の問題ではありますが、決して「知識そのもの」を求めているわけでもなく、また、「暗記」や「知識の多寡」を問うているわけではないことがおわかりになっていただけると思います。求められているのは、与えられた「情報」を下に、自分の力で考えていく力が求められているわけです。まさに下記の通りに文科省が考えていることがわかりますね。

文科省の学習指導要綱の方針 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾

ここで書かれて在るとおり、「学びを人生や社会に生かそうとする」力、「生きて働く知識・技能の習得」、そして、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」が、現代の教育では求められており、大学入試はもとより、高校入試や中学入試でも重視されるようになってきているわけです。

武蔵野個別指導塾ロゴ1600 x 1200 px 《武蔵境駅徒歩30秒》武蔵野個別指導塾

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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