民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)2

01 未成年者

未成年者とは、18歳に満たないものをいいます(4条)。民法では、初日不算入が原則ですが(140条)、年齢計算に関する法律により、年齢は初日に参入して計算します。さて、この未成年者の保護者、要は子供のお父さん、お母さんなどですね。これらの保護者を法定代理人であるとします(5条)。この法定代理人は、第一次的には親権者(818条以下)、親権者がいないときには未成年後見人(838条以下)で定められています。

親権は父母が共同して行うのが原則であり(813条3項)、未成年者の法律行為には父母の同意が必要です。父母の一方が親権を共同名義でした場合は、善意の相手方は保護されます(825条)。未成年後見人は、親権者がいないとき、指定又は家庭裁判所の選任によります(839条1項、840条1項)さらに、未成年の保護者は、未成年者を代理して法律行為を行うこともできるし、未成年者の法律行為に同意を与えることもできます(代理権及び同意権:824条、859条、5条)。さらに、嶺井念写の保護者は法定代理人だから、取消権・追認権もあります(120条、122条)。

次に、未成年者の行為能力ですが、未成年者は原則として単独で法律行為をすることができません。従って、未成年者が法定代理人の同意を得ないでなした法律行為は、取り消すことができる(5条2項、120条)。取り消すことができる行為は一応有効であるが、取消しによって遡及的に無効となり、追認によって確定的に有効となります(121条以下)。例外として、未成年者は、次の行為を法定代理人の同意を得ずに単独で行うことができます。

(1)単に権利を得、又は義務を逃れる法律行為(5条1項ただし書)。たとえば、義務の負担を伴わない贈与を受ける、書面によらない贈与を取り消す、債務の免除を受けるなど、未成年者の利益となる行為がこれに含まれます。これに対し、貸金の領収は含まれないのには注意が必要です。貸金の領収は、利息を得られない等の不利益が生じることから、法定代理人の同意を有します。他に、負担付贈与を受けること、雇用契約の締結も含まれません。

(2)目的を定めまたは定めずに許された財産の処分(5条3項)。たとえば、参考書を買うように指定されて渡された金銭や小遣いです。

(3)営業を許可されたその営業に関する行為(6条1項)。たとえば、喫茶店の開業を許された場合、原料の購入、客へのサービス、店舗の借入れ、店員の採用など一切が含まれます。営業の許可は、「一種または数種の営業」として種類が特定されていなければならない(6条1項)。しかし、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、法定代理人は営業許可を取り消し、または制限することができる(6条2項)。ここに「取り消し」とは、取引安全から、「撤回」の意味であり、遡及効はないと解します(通説)。

(4)身分行為の一部。たとえば、15歳になれば単独で遺言ができます(961条)。未成年者でも単独で認知できます(780条)。子供の認知のことですね。

(5)民法9条ただし書の類推適用。民法9条には「成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入の他日常生活に関する行為については、この限りではない。」と定められています。民法では、制限行為能力者であっても、大量且つ定型的な事実的契約(たとえば、電気供給契約)は取り消すことができないと説明されていました(事実的契約関係理論)。平成11年改正により、成年被後見人、被保佐人の日常行為についての9条ただし書、13条1項ただし書が設けられ、これらの規定は事実的契約関係の多くに適用されるから、殆どの問題は解消しました。しかし、未成年者については改正されなかったため、未成年者に9条ただし書が類推適用されるか問題となります。9条ただし書は、日常生活に関する行為について成年被後見人の意思を尊重する趣旨です。とすれば、未成年者であっても、その意思を考慮すべきことは同じですから、9条ただし書は類推適用されると解します。

02 成年被後見人

成年被後見人とは、(1)精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にあり、かつ(2)家庭裁判所の後見開始審判を受けた者をいいます(7条)。この場合の「事理を弁識する能力を欠く常況にある」とは、常に意思能力のない状況にある場合だけではなく、多くは、心神喪失を普通の状態とする場合も含みます。たとえば、強度の精神障害者です。ただ、精神上の障害があったとしても、直ちに成年被後見人となるわけではなく、家庭裁判所の審判を受けて初めて成年被後見人となります。「審判をすることができる」と規定されていますが、家庭裁判所は事理弁識能力を欠くと判断すれば、必ず後見開始の審判をしなければなりません。

成年被後見人の保護者は、成年後見人です(8条)。成年後見人は、家庭裁判所が選任します(843条)。平成11年改正により、成年後見人は複数選任でき、法人を選任することもできるようになりました(843条3項・4項)。選任できる法人には、社会福祉法人や福祉関係の公益法人ばかりでなく、銀行などの営利法人も含まれます。成年後見人には、本人意思尊重義務や身上配慮義務が課せられています(858条)成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、財産上の法律行為については成年被後見人を代理する権限を有します(代理権:859条)。居住用の不動産の処分等については、家庭裁判所の許可を要します(859条の3)。成年後見人は法定代理人だから、取消権・追認権をもあります(120条、122条)。もっとも、本人の意思尊重の見地から、日用品の購入その他日常生活に関する行為を本人の判断に委ねて取り消しできないとしています(9条ただし書)。尚、成年後見人には、代理権・取消権・追認権はあるが(859条、120条、122条)、同意権はありません。成年被後見人本人は期待通りに行動する能力がないからです。民法は、成年被後見人をもっとも要保護性が大きいと考えています。

この成年被後見人は、原則として単独で法律行為をすることができません。従って、成年被後見人が単独で行った法律行為は取り消すことができます(9条本文)。言い換えると、成年被後見人の法律行為は、必ず成年後見人が代理して行う必要があります。成年被後見人が単独で行った法律行為は、成年後見人が事前に同意を与えていても、取り消すことができます。例外としては、成年被後見人は、次の行為を単独で行うことが出来ます。それが(1)日用品の購入その他、日常生活に関する行為(9条ただし書)。本人の意思尊重の見地からです(ノーマライゼーション)。(2)身分行為の一部(例えば、婚姻、離婚、養子縁組、離縁)。本人の意思が尊重される事柄だからです。

9条ただし書は、成年被後見人ができるだけ通常の日常生活を営めるようにするため、成年被後見人の意思を尊重する趣旨です。従って、「日常生活に関する行為」とは本人が日常生活で営む上で通常必要な行為をいうと解します。尚、761条における「日常の家事」は、取引の相手方の信頼を確保する必要から、もっと広く解されています(贅沢品も含まれうる)。

また、任意後見契約として、平成11年に、「任意後見契約に関する法律」が制定されました。「任意後見契約」とは、本人が精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況になった場合に備えて結ぶ委任契約であり、「自己の生活療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部」を受任者に委託し、その事務を処理するための代理権を付与するというものです(任意後見法2条1号)。任意後見契約は、必ず所定の様式の公正証書によってしなければなりません(任意後見法3条)。任意後見契約が登録されている場合に、本人が精神上の障害により事理弁識能力が不十分になれば、本人・配偶者・四親等以内の親族又は任意後見受任者の請求により、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し(同上4条1項本文)、選任時点から任意後見契約は効力を生ずる(同法2条1号)。任意後見人契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のためにとくに必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができます(同法10条1項)。そして、かかる後見開始の審判等の請求は、本人・配偶者・四親等以内の親族のほか、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる(民法7条、任意後見法10条2項)。

03 被保佐人

被保佐人とは、(1)精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分であり、かつ(2)家庭裁判所の保佐開始の審判を受けた者をいいます(11条)。「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」とは、成年被後見人の精神障害の程度には至っていないが、通常人に比べると判断能力が不十分の者をいう。たとえば、知的障害者、ノイローゼ患者、ヒステリー患者です。なお、平成11年改正により、「浪費者」は保佐の対象にならないことになりました。

精神上の障害があったとしても直ちに被保佐人になるわけではなく、家庭裁判所の審判を受けて初めて被保佐人となります。「審判をすることができる」と規定されるが、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者については、請求により保佐を開始し、保佐人を選任しなければなりません。

この被保佐人の保護者は、保佐人です(12条)。保佐人は家庭裁判所が選任します。平成11年改正により、保佐人は複数選任でき、法人を選任することもできるようになりました(876条の2)。保佐人は、被保佐人が一定の行為をするときに同意を与える権限を有する(同意権:13条)。保佐人には同意権があるから、取消権・追認権もあります(120条、122条)。もっとも、本人の意思尊重の見地から、日用品の購入その他日常生活に関する行為を本人の判断に委ねて取消しできないとしています(13条1項ただし書)。

保佐人には、同意権、取消権、追認権はあるが(13条、120条、122条)、代理権はありません。保佐人が被保佐人に不利益がないのに同意しないときは、家庭裁判所は保佐人の同意に代わる許可を与えることができます(13条3項)。また、保佐人には代理権はないが、家庭裁判所は特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(876条の4。ただし本人の同意必要)。なお、13条1項に定められていない行為について保佐人に代理権が授与されても、被保佐人はそれによって行為能力の制限を受けるわけではありません。

被保佐人は、原則として単独で法律行為ができます。例外として、被保佐人は、13条に定める重要な財産行為・遺産分割等について保佐人の同意を得て行うことが必要です。従って、13条に定める行為について保佐人の同意を得ないで行った場合には取り消すことができます(13条4項、120条1項)。13条に定める行為(同意を要する行為)は、次の通りです。

(1)元本の領収・利用(1項1号)

(2)借財または保証(1項2号)

(3)不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(1項3号)

(4)訴訟行為(1項4号)

(5)贈与・和解又は仲裁合意(1項5号)

(6)相続の承認・放棄・遺産分割(1項6号)

(7)贈与の申込みの拒絶・遺贈の放棄・負担付贈与の申込みの承諾・遺贈の承認(1項7号)

(8)新築・改築・増築・大修繕を目的とする契約(1項8号)

(9)602条所定の期間を超える賃貸借(1項9号)

(10)前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう)の法定代理人としてすること(1項10号)

(11)家庭裁判所がとくに指定した行為(2項本文)。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は含まれない(2条ただし書)

上記の(2)に関して、時効完成前の債務の承認(152条)には保佐人の同意は不要であるが(大判大正7年10月9日)、時効完成後の債務の承認には「借財」に準じて保佐人の同意を要する(大判大正8年5月12日)

04 被補助人

被補助人とは、(1)精神上の障害により事理弁識能力が不十分であり、かつ(2)家庭裁判所の補助開始の審判を受けた者をいいます(15条1項)。もっとも、本人以外の者の請求により補助開始の審判をする場合には本人には同意が必要です(15条2項)。自己決定の尊重からです。保護者は、補助人となります(16条)。補助人は、家庭裁判所が選任します。平成11年改正により、補助人は複数選任でき、法人を選任することもできるとしました(876条の7)。家庭裁判所は、申立により選択した特定の法律行為について、審判により補助人に代理権または同意権を付与することができます(17条1項、876条の9)。

補助人は、成年後見人(代理権)や保佐人(同意権)とは異なり、当然に有する権限はなく、家庭裁判所が補助開始の審判の際に、代理権又は同意権(両方でもよい)を付与する審判を行います。同意権付与の対象となる「特定の法律行為」は13条1項所定の行為の一部に限られます(17条1項ただし書)。これに対し、代理権付与の対象となる「特定の法律行為」には法律上の限定はありません。

被補助人の行為能力としては、原則として単独で法律行為ができます。例外として、被補助人は、13条に定める重要な財産行為・遺産分割等の一部について家庭裁判所が定めた範囲内の特定の法律行為を行う場合には補助人の同意が必要です(17条1項)。従って、補助人の同意を得ないで行った場合には取り消すことができます(17条4項、120条1項)。これに対し、補助人に代理権が付与されたにすぎない場合は、被補助人の行為能力は制限されません。従って、被補助人はすべての行為を有効になしうる。この場合は、補助人に取消権はありません。

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プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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