民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)4
01 法人の意義・種類
法人とは、自然人以外で法人格(権利能力)を有する者をいう。各々の会社には「○○株式会社」「社団法人△△」「学校法人□□」「××協同組合」などの名称で事務所を構え、人を雇って活動を行っている団体が存在する。これらの団体は、売買の当事者(売主や買主)となったり、財産を所有したりするなど権利義務の帰属主体となっている。つまり、自然人と同じく権利能力(法人格)を有している。このような団体が法事である。法人制度の目的は、社会生活上、独立の団体を法律上も権利義務の帰属主体とすることによって法律関係を単純化し、このような団体自身の経済活動を肯定することにある。
法人の種類については、大きく公法人と私法人に分かれる。公法人とは、公法に準拠して設立され、公の事務を行うものをいう。たとえば、、国、地方公共団体のほか、各種組合、公団、公庫事業団などがある。私法人とは、社団法人と財団法人に分類される。社団法人とは、一定の目的のもとに結合した人の集団に対して法人格が与えられたものをいう。次に財団法人とは、一定の目的のために提供された財産の集合に対して法人格が与えられたものをいう。例えば、私立学校、育英会などがある。
社団法人と財団法人の差異は、構成員の有無である。従って、社団法人においては構成員の総意(社員総員)を中心に活動を行うのに対し(構成員の総意によって目的も変更できる)、財団法人においては設立者が財産を拠出する際の目的に従って財産の運営が行われる(ただし、事後的に目的を変更できないわけではない:一般法人法200条参照)。もっとも、社団法人の場合にも人的要素のほかに物的要素としての財産は必要であるし、また財団法人の場合も財産を運用する自然人(従業員)が必要であるから、この違いは相対的である。
次に非営利法人と営利法人の区別についてですが、非営利法人というのは、余剰金(事業による利益)の分配を目的としない法人をいいます。平成18年の一般社団法人は、従来の民法の公益法人制度を改正し、余剰金の分配を目的としない社団または財団について、その事業の公益性の有無に関わらず、容易に法人格を取得できることにした。従って、非営利法人はすべて「一般法人」という概念に入ることになる。
平成18年の法人制度の改正にによって、一般社団法人のうち、「公益目的事業」を行うことにより、行政庁から公益認定を受けた一般法人は「公益法人」となる(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)。したがって、「公益法人」は従来の民法では営利法人の対置概念であったが、今日では、一般法人のうち公益認定を受けたものをいう。
それに対して、営利法人とは、営利事業を営むことを目的とする法人を言います(33条2項)。すなわち、余剰金を構成員(社員)に分配することを目的とする法人をいいます。たとえば、株式会社は、利潤追求を目的とし、構成員(株主)が配当を受けることを目的とする。営利法人は、会社法の適用を受け、民法および一般法人法の適用を受けない。
中間法人とは、公益目的も営利目的も有しない法人をいう(従来の公益法人と営利法人に含まれないもの)。つまり、構成員の利益を図ることを目的とするが、余剰金を構成員に分配することを目的としない法人である。一般社団法人法においては、中間的な性格の団体も、準則主義によって容易に法人格を得て、一般社団法人となることができる。
改正のポイントとしては、一般法人の原則化と行政裁量の排除で、営利を目的としない法人は公益目的であるか否かを問わず、すべて一般法人(一般社団法人・一般財団法人)とされる。そして、法律のさだめる一定の要件を具備すれば法人格を取得することができる(準則主義)。従来は、公益法人の設立については許可主義、中間法人の設立については準則主義を採用されていたが、すべて準則主義となり、これにより公益法人の設立について行政裁量が排除された。
次が、公益法人の厳格運用です。一般社団法人・一般財団法人のうち、「公益目的事業」を行うものは、行政庁の「公益認定」を受けることにより、公益社団法人・公益財団法人となることができる。
02 法人の本質
法人について、三つの説があります。まず、法人の本質は何かという法人学説において、(1)法人は独立の社会的作用を有する社会的実在であり、自然人と同じく行為能力を有すると解する(法人実在説)。従って、法人自身の戦友や行為を観念することができる。これに対して、法人は法によって自然人に擬製されたものとする見解(法人擬制説)があります。確かに、法人の技術的性格は否定できないが、法人が自然人とは独立した社会的活動をしていたことを直視すべきであり、この見解は妥当ではないと考えられています。
法人擬制説 | 法人は法律により自然人に擬製されたものである。法人の行為はない(行為能力なし) |
法人否定説 | 法人に法人格を与える必要は無い。法人の行為はない(行為能力なし) |
法人実在説(判例・通説) | 法人とは独立の社会的作用を担当する社会的実在であり、法人格がある。自然人と同様に、法人の行為がある(行為能力あり) |
03 具体的差異について
法人実在説では、法人と理事の関係を「代表」関係として説明する。ここでは、法人の代表者の行為は、法人自身の行為とされる。つまり、法人の理事が代表者として法律行為をするときは、当然に法人の法律行為とされる。一方、法人擬制説では、「代理」関係と説明される。ここでは、法人の代表者はの行為は、代表者の行為であるが、その効果は法人に帰属する。
次に法人の占有(理事の占有者たる地位)についてですが、法人実在説では、法人の占有が認められる。法人の理事が代表者として物を所持するときは、法人自身の占有である。理事は単なる占有の機関(占有補助者)であり、独立の占有権(代理占有者)ではない。一方、法人擬制説では、法人の占有は認められない。ここでは、理事の物の所持は、あくまで理事の占有であるとされる。
また、法人の権利能力、行為能力、不法行為能力についてであるが、邦人実在説では、法人は、定款所定の目的の範囲(34条)内で、権利能力、行為能力、不法行為能力が認められる。一方、法人擬制説では、法人には権利能力、行為能力、不法行為能力が認められない。
権利能力なき社団の法人の地位においては、法人実在説では、権利能力なき社団は社会的実体であるゆえ、できる限り法人と同じ扱いをする。一方、法人擬制説では、権利能力なき社団は否定する。また、法人の善意・悪意等の判断については、法人実在説では、代理の規定(101条)を類推適用して、理事の善意・悪意等を基準に判断する。一方、法人擬制説では、代理の規定(101条)を適用して、理事の善意・悪意等を基準に判断する。
04 権利能力なき社団
権利能力なき社団とは、実体は社団であるにもかかわらず、法人格を有しないものをいう。公益目的にも営利目的も有しない団体(中間的な性格の団体)は、特別法により法人格が与えられる場合に限り、法人格を取得することができた(中間法人)。ところが、特別法は、中間的な性格の団体すべてを網羅しているわけではないから、法人化が認められない社団も多かった。しかし、一般法人法の制定により、中間的な性格の団体も法律の定める要件を満たせば、法人格を取得できることとなった。従って、今日、権利能力なき社団は、(1)法人格を取得する意思のない社団(例えば、町内会、自治会、同窓会、社交クラブ、区分所有者30人未満のマンション管理組合など)、(2)会社設立手続を完了する前の社団(設立中の社団)である。
組合とは、人的団体であって、組合員相互の組合契約(667条)によって成立する。組合は、団体としての独立性が弱く、その構成員(組合員)の個性が強い団体である。従って、組合の財産は全員が共有(含有)し、債務も組合員が直接責任を負う。また、組合の活動も原則として組合員全員によってなされる。実質的に、社団と組合は、次のように比較しうる。
社団 | 組合 | |
構成員 | 人数が多い。個性が希薄。社団の独立性あり。 | 人数が少ない。個性が強い。組合契約による。 |
財産・債務 | 構成員とは独立に帰属する。債務は有限責任。 | 全構成員は含有的に帰属する。債務は無限責任。 |
組織・活動 | 代表者・総会などの組織を備え、財産管理がなされ、代表者が活動する。 | 組織・財産はあるが、原則として組合員全員で活動する。 |
権利能力なき財団は、拠出財産が設立者個人から分離され、その財産の管理・運用のための組織は備わっているが、法人格が与えられないものをいう。権利能力なき社団に準じて考えればよい。
それでは、権利能力なき社団といえるためには、どのような要件を備えることが必要か。社団は構成員から独立して存在することが本質である。従って、権利能力なき社団といえるためには、(1)団体としての組織を備え、(2)多数決の原則が行われ、(3)構成員の変更にもかかわらず団体が存続し、(4)その組織において、代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体として主要な点が確立しているものでなければならない(判例)。
05 権利能力なき社団の法律構成
権利能力なき社団には、できる限り一般社団法人に関する規定が類推適用されるべきである(通説)。権利能力なき社団の実体は組合ではなく、構成員から独立した社団法人であり、できる限り一般社団法人と同様に取り扱うことが妥当だからである。社内の内部関係については、社団の規則に従わなければならないが、規則に定めのない事項については一般社団法人の規定を類推適用すべきである(通説)。権利能力なき社団は、権利能力がないため財産の帰属主体とはなれず、総構成員の共同所有とならざるを得ない。しかし、権利能力なき社団の実体は社団法人であるから、できる限り一般社団法人に準じた取扱いが望ましい。従って、社団の試算は社団の構成員に総有的に帰属するものと解する(個々の構成員の持分なき共同所有形態となる)。
判例・通説は、権利能力なき社団がその名において代表者により取得した資産は、構成員に総有的に帰属するとする(総有説:最判昭和39年10月15日)。ここに社団の構成員の「総有」に帰属するとは、構成員は個々の財産について持分権を持たないという意味である。従って、構成員は勝手に社団の財産を処分することはできない。負債関係については、権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務について、個々の構成員が個人的に責任を負うか。権利能力なき社団は、権利能力なき社団は、権利能力がないため財産の帰属主体とはなれない。しかし、権利能力なき社団の実体は社団法人であるから、実質的に債務は団体に帰属しているはずである。そうだとすれば、法律的にもその債務は社団の構成員に総有的に帰属するものと解する。従って、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員や代表者は直接には責任を負わない。
相手方保護を理由に、少なくとも代表者の個人的責任を認めようとする見解もある。しかし、相手方が必要とするならば構成員または代表者を保証人とすることもできるのであるから、常に有限責任と解しても相手方の保護に欠けることところはない(東京高判昭和34年10月31日も代表者の責任を否定する)。
権利能力なき社団の不動産の公示方法をどうするか。権利能力なき社団は、権利能力がないため財産の帰属主体とはなれないことから、登記請求権を有せず、不動産登記法上、登記申請人となることはできない。従って、代表者など個人名義で登記するほかない。これに対して、社団名義あるいは代表者の肩書による社団名義の登記を認める見解もある。しかし、現行の形式的審査制度の下では虚無人名義の登記がなされるおそれがあることから、この見解は妥当ではない。
権利能力なき社団の債権者が強制執行する場合、個人名義の不動産であれば、社団所有であることを挙証し、社団構成員全員の登記名義に改めた上で、社団に対する債務名義に基づいて執行することになる。代表者や構成員個人名義の登記をしていたところ、その個人の債権者が個人名義の不動産に強制執行してきた場合、たとえその個人名義の不動産の権利能力なき社団の所有であってもやむを得ない。結局、これは社団の登記名義人の選出を誤ったというほかない。代表者や構成員の個人名義の登記をしていたところ、その個人が無断で第三者に個人名義の不動産を売却した場合、第三者が保護されるには94条2項の類推適用によっても保護されない(不動産の所有権を取得できない)ことになると考える(もっとも、現在ではすべての団体が、法人になろうと思えばなれるので、確実に保全すべき不動産を有するのであれば、法人として登記すべきであり、この点を持って過失ありとされる可能性は高いといえる)。
民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)5
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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