民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)6
01 法人の設立
法人は、法律の定める一定の要件を具備した場合に、その設立が認められる(準則主義)。我が国の民法では、法人の設立を許可するか否かを主務官庁の自由裁量に委ねる許可主義が取られてきたが、準則主義に変更された(一般法人法22条、163条)。
設立手続 | その意義 | 代表例 |
特許主義 | 設立のために特別の立法が必要。 | 日本銀行(日銀6条)ほかの公庫、独立行政法人都市再生機構(独法都市再生2条)、他の独立行政法人 |
認可主義 | 法定の要件を備えて、主務官庁の認可を得ることによって設立される。主務官庁に認可に関する裁量は認められない。 | 消費生活協同組合(消費生協57条以下)、農業協同組合(農協59条以下)、学校法人(私学30条以下)、民法旧規定の公益法人。 |
認証主義 | 申請者提出の書類に基づいて、主務官庁が法定の要件の具備を確認することによって設立される。 | 宗教法人(宗教12条以下)、特定営利活動法人(NPO10条以下)。 |
準則主義 | 一定の要件を満たせば自動的に設立が認められる。 | 一般社団法人(22条)、一般財団法人(163条)、株式会社(会社49条)、持分会社(会社579条)、弁護士会(弁護34条)、弁護士法人(弁護30条の9)など。 |
当然設立 | 法律上当然に法人となる。 | 相続財産法人(民法951条)。 |
法律の規定がなく自由に法人を設立を認める自由設立主義(我が国にはない)、法人の設立を強制する強制主義(弁護士会など)もある。
法人の設立手続において、その要件は、(1)非営利性、(2)設立行為(定款の作成と認証)、(3)設立登記、である。一般社団法人を設立するためには、①社団法人設立行為としての定款の作成とその認証、②設立の登記が必要である。定款とは、法人の根本規則またはその根本規則を記載した書面をいう。社員になろうとする者(設立時社員)は、共同して定款を作成し、その全員がこれに署名または記名押印しなければならない(一般法人法10条)。定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない(同法13条)。設立の登記において、一般社団法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する(一般法人法22条)。登記は、法人設立の効力発生要件である。
一般財団法人を設立するためには、①財団法人設立行為としての定款の作成、②財産の拠出、③設立の登記が必要である。定款とは、法人の根本規則またはその根本規則を記載した書面をいう。設立者は、定款を作成し、これに署名または記名押印しなければならない(一般法人法152条1項)。この定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない(同法155条)。財団法人は、財産の集合に対して法人格が与えられるものだから、設立者は、定款の認証を受けた後、遅滞なく、財産(300万円以上)の全額を拠出しなければならない(一般法人法157条1項)。なお、財産の拠出が生前のときは贈与の規定を、遺言のときは遺贈の規定を準用する(同法158条)。ただし、法人設立後は意思表示の瑕疵を理由として財産の拠出の無効または取消しをすることができない(同法165条)。一般財団法人も、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって設立する(一般法人法163条)。社団法人の設立行為は、合同行為と解される。なぜなら、2人以上の設立者が設立目的の意思表示を集合してなすもので、単独行為でも契約でもない特殊なものだからである。財団法人の設立行為は、相手方のない単独行為と解される。
02 法人の組織・管理
理事の意義・地位について、理事は対外的には法人を代表し、対内的には法人の業務を執行する機関である。理事は、一般社団法人でも、一般財団法人でも、必ず設置しなければならない(必要的機関)。一般社団法人の理事の人数には制限がない(一般法人法60条1項)。理事は、業務内容から、自然人に限られる(大判昭和2年5月19日)。理事は、職務執行に際して忠実義務を負う(一般法人法83条、197条)。また、法人と理事とは、委任の規定が準用されるから、理事は法人に対して善管注意義務を負う(同法64条、172条1項、民法644条)。理事の氏名、代表理事の氏名・住所は登記事項である(一般法人法301条2項5号・6号、302条2項5号・6号)。理事の任免・退任は、その旨を登記しなければ善意の第三者に対抗することはできない(同法299条1項)。
理事の権限として、理事(代表理事)の職務権限は、①対外的な代表権と②対内的な業務執行権に分かれる。対外的代表権としては、理事の代表権は原則として法人のすべての事務に及ぶ(包括的代表権:一般法人法77条1項本文)。理事が数人存在する場合でも、各理事は単独で代表することができるが(同法77条2項)、代表理事を定めた場合には、他の理事は代表権を有しない(同法77条1項ただし書)。対内的業務執行権としては、理事は、定款に別段の定めがある場合を除き、一般社団法人の業務を執行する(一般法人法76条1項)。理事が数人あるときは、原則として理事の過半数をもって決定する(同76条2項)。
理事の代表権の制限として、理事の代表権は次の場合に制限される。(ア)定款または社員総会の決議による制限。理事の代表権は、①定款または②社員総会の決議によって制限できる。もっとも、この代表権の制限は、善意の第三者に対抗することができない(一般法人法77条5項)。法人と取引をする相手方は、法人内部の代表権制限の定めを知らずに取引する場合も多く、このような場合に取引をすべて無効とすれば取引の安全が著しく害されるからである。「善意」とは、理事の代表権を制限する定めがあることを知らないことをいう。また、「善意」には無過失は要求されないと解する(善意無重過失であれば保護される)。
(イ)理事会の多数決。理事が数人いる場合、定款に別段の定めがない場合は、理事の過半数で決定する(一般法人法76条2項)。理事の法人に対する内部的業務を規定したにすぎないから、理事会の多数決を経ない行為も原則として有効である。しかし、相手方が、代表者の行為が理事会の多数決を経ていないことを知っていた場合は、このような相手方を保護する必要はない。そこで、同法77条5項の趣旨から、法人は悪意の相手方に対して理事の行為が無効であると主張できる(大判昭和15年6月19日)。
(ウ)競業取引・利益相反取引の制限。理事が自己または第三者のために一般社団法人の事業の部類に属する取引しようとするとき(競業取引)、理事が自己または第三者のために一般社団法人と取引をしようとするときなど(利益相反取引)は、理事は、社員総会において、重要な事実を開示してその承認を受けなければならない(一般法人法84条1項)
(エ)社員は理事の行為を定めることができる(一般法人法88条)。
次に、理事会についてであるが、理事会は、すべての理事で組織され、業務執行の決定、理事の職務執行の監督などを行う機関である(一般法人法90条1項・2項)。理事会は、一般社団法人では、任意的機関であるが、一般財団法人では、必要的機関である。理事会の権限は、①業務執行の決定、②理事の職務執行の監督、③代表理事の選定および解職である(一般法人法90条2項)。理事会は、重要な業務執行の決定を理事に委任することができない(同法4条)。理事会の招集や決議については、一般法人法93条ないし95条に定める。
監事について。監事とは、理事の業務執行を監査する機関である。監事は、一般社団法人では任意的機関であるが、一般財団法人では必要的機関である。監事の権限は、理事の職務執行の監査である。この場合において、監事は、監査報告を作成しなければならない(一般法人法99条1項)。また、監事は、いつでも、理事および使用人に対して事業の報告を求め、または法人の業務及び財産の状況を調査することができる(同条2項)。理事への報告義務、理事会への出席義務、社員総会に対する報告義務、理事の行為を差止め、訴訟における法人の代表については、一般法人法100条ないし104条に定める。
会計監査人について。会計監査人は、計算書類および附属明細書を監査する機関である(一般法人法107条、197条)。一般社団法人でも、一般財団法人でも、任意的機関である。
社員総会とは、一般社団法人のすべての構成員(全社員)によって構成される最高意思決定機関である。一般社団法人においては必要的機関である。一般財団法人には、社員が存在しないので社員総会はない。社員総会は、一般法人法に規定する事項、および法人の組織、運営、管理その他一般社団法人に関する一切の事項について決議をすることができる(一般法人法35条1項)。ただし、理事会設置一般社団法人においては、社員総会は、一般法人法に規定する事項および定款で定めた事項に限って決議をすることができる(同条2項)。
定款の変更(同法146条)、事業の全部譲渡(同法147条)、および任意解散(同法148条3号)は、社員総会の専権事項であって、定款をもってもこの権限を奪うことはできない。少数社員権(同法37条1項)や社員の議決権(同法48条)も、定款をもっても奪うことはできない。
評議員・評議員会について。評議員は3人以上である。評議員会は、すべての評議員で組織され、法律に規定する事項及び定款に定めた事項に限り決議することができる機関である(一般法人法173条、178条)。評議員、評議員会は、一般財団法人における必要的機関である(同法170条)。
03 法人の解散
法人の解散により、清算手続に入り、清算の終了により法人格は消滅する。法人の場合には相続人は存在しないから、解散によって直ちに権利能力を失うわけにはいかない。そこで、解散により従来の活動を停止して、財産関係を整理して、残余財産を引き渡すという手続が必要である。これが清算手続である。解散した法人(清算法人という)は、清算が結了するまで清算の目的の範囲内において権利能力を有する(一般法人法207条)。
法人の解散事由には、次のものがある(一般法人法148条、202条1項)。
一般社団法人・一般財団法人共通の解散事由 | ①定款で定めた存続期間の満了
②定款で定めた解散の事由の発生 ③合併 ④破産手続開始の決定 ⑤261条1項または268条による解散を命ずる裁判 |
一般社団法人に特有の解散事由 | ①社員総会の決議
②社員が欠けたとき |
一般財団法人に特有の解散事由 | ①基本財産の滅失その他の事由による一般財団法人の目的である事業の成功の不能
②貸借対照表上の純資産額がある事業年度・翌年度と連続で300万未満となった場合 |
清算とは、解散した法人が残務の処理や財産の整理をして清算の結了に至るまでの間の手続である。解散した法人は、債務を完済し残余財産を引き渡すことによって清算が結了するまで、清算という目的の限度でなお存続する(一般法人法207条)。この法人を清算法人という。清算人(一般法人法208条以下)は、清算法人の執行機関であるが、清算の目的の範囲内で、対外的に法人を代表し(同法214条)、対内的に法人の事務を執行する。
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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