民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)7
01 物の意義
民法において、「物」とは「有体物」をいう(85条)。有体物とは、空間の一部を占める外形的存在をいう。固体、液体、気体である。有体物だけでは今日の社会的・経済的事情に合わないから、法律上排他的支配の可能なものも物権の客体であると解する。例えば、電気、エネルギーである。物権においては、客体(目的)は、「物」であり、債権の客体は「給付」であり、無体財産権(知的財産権)は特別法による。権利の客体とは、権利主体が社会的利益を受けるための対象のことである。例えば、物権においては物、債権においては債務者の行為(給付)、無体財産権においては精神的創作物(発明・意匠・著作物など)、人格権においては人格的利益(生命・身体・氏名・名誉・肖像など)をいう。民法総則は、物権の客体である「物」についてのみ規定を置いた。
法律上「物」として扱われるためには、①有体物、②支配可能性、③非人格性、の3要件が必要。物は、人の支配が可能なものでなければならないので、天体・大気・海は「物」たり得ない。海はそのままでは土地にあたらないが、国が一定範囲を区画し排他的支配を可能にした上で、公用を廃止し、私人の所有に帰属させたときは、その区画部分は所有権の客体である土地にあたる(最判昭和61年12月16日)。生きている人の身体は「物」たりえない。個人の人格の尊重からである。ただし、身体から分離した歯・毛髪・血液などは、公序良俗に反しない限り「物」として扱われる。
物の種類には、①不動産・動産、②主物・従物、③元物・果実、④融通物・不融通物(私法上取引対象となるかの区別)、⑤可分物・不可分物、⑥消費物・非消費物、⑦代替物、不代替物(個性に着目するかを客観的に区別)、⑧特定物・不特定物(個性に着目するかを主観的に区別)している。
02 不動産と動産
不動産とは、土地及びその定着物である(86条1項)。土地とは、地表を中心にして、人の支配・利用の可能な範囲内でその上下(空中・地下)に及ぶ立体的存在のことである。土地の個数は登記簿の記載によって人為的に決定され、登記簿上一個の物とされている土地は一筆の土地と呼ばれる。土地の定着物とは、土地に固定的に付着し、その物の性質上継続的に付着し使用されるものをいう。土地の定着物には①土地とは別個独立の不動産と扱われるもの(建物など)、②土地の一部となり独立の不動産とは認められないもの(石垣など)、③両者の中間のもの(立木)がある。
建物とは、土地に定着する建築物をいう。建物は、土地とは別個独立の所有権の客体とされている。建物の個数は、土地と異なり、登記簿によるのではなく、社会通念によって決められる。建築中の建物がいつから独立の不動産となるか。社会通念上、その建物の使用目的(使途)からみて使用に適する構造部分を具備する程度になれば建物になる。従って、一般に、木材を組み立てて、土地とに定着させ屋根を葺きあげただけでは建物とはいえない(大判大正15年2月22日)が外気遮断性要件、住宅用でなければ屋根と囲壁ができれば建物とみることができる(大判昭和10年10月1日)。壁のない立体駐車場や駅のプラットフォームが不動産として登記出来ることからもわかるように、建造物には多種多様なものがある。従って、外気遮断性が常に不動産の要件となるわけではない。
立木とは、立木法による登記をした樹木の集団は、独立の不動産とみなされる。それ以外の樹木の集団や個々の樹木は、一般には土地の一部として扱われるが、従来から、明認方法を施せば独立の取引の対象とする慣習がある(大判大正5年3月11日)。
動産とは、不動産以外の物すべてをいう(86条2項)。
不動産 | 動産 | |
公示方法 | 登記(177条) | 引渡し(178条) |
公信力 | なし(通説) | あり(192条) |
用益物権 | 客体となる | 客体とならない |
先取特権 | 特定の不動産上に成立する(325条)。登記を効力要件とする(337条、338条、340条)。 | 特定の動産上に成立する(311条) |
質権 | 登記を対抗要件とする(177条) | 占有の継続を対抗要件とする(352条) |
抵当権 | 客体となる | 客体とならない。
例外として、自動車、航空機。 |
無主物 | 国庫に帰属(239条2項) | 占有者が所有権を取得(239条1項) |
不動産と動産の大きな違いは、対抗要件にある。不動産の物権変動の公示方法は登記であるが(177条)、動産は引渡し(178条)である。また、動産には公信の原則=即時取得(192条)が適用される。
03 主物と従物、元物と果実
主物と従物とは、2個以上の独立した物が客観的・経済的にみて主従関係があるとき、主たる物を主物、補っている物を従物という。
具体例;
主物 | 家屋 | 母屋 | 庭 | 黒板 | 本 | 刀 |
従物 | 畳・家庭用クーラー | 物置 | 石灯籠 | 黒板消し | 本のケース | 鞘 |
従物といえるためには、①主物の常用に供せられ(常用性)、②主物に附属する場所的関係にあり(附属性)、③主物・従物とも独立の物であり(独立性)、かつ、④主物・従物とも同一の所有者に属する物でなければならない(87条1項)。大判昭和5年12月18日:建物の内部と外部と遮断するのに役立っている建具などは建物の構成部分であり、それに至らない障子・襖・畳等は従物であるとした。
従物の取扱いにおいて、従物は主物の処分に従う(87条2項)。すなわち、従物は主物と法律的運命を同じくする。例えば、AがBに黒板を売却したとする。とすると、AからBに黒板の所有権が移転するが、黒板消しの所有権はどうなるか。87条2項によれば、AB間の特約がない限り、Bに黒板消しの所有権も移転する。また、AがBに建物を売却した。とすると、AからBに建物の所有権が移転するが、建物のための土地の利用権(例えば賃借権)はどうなるか。87条2項を類推適用し、AB間の特約がない限り、Bに借地権も移転すると解される。
87条2項の趣旨をどのように理解するかは、①他人の物でも従物関係を認めるか、②抵当権の及ぶ範囲の問題に影響する。判例・通説では、従物は、主物と同一の法律的運命に従わせることが当事者の合理的意思に合致する。87条2項は当事者の合理的意思を推定した規定とする。この説からは、①従物は、主物の所有者の所有に属すること(主物・従物とも同一の所有者に属すること)を要求する。②抵当権の及ぶ範囲を87条2項によって決めると、抵当権設定当時の従物にのみ及ぶことになる。
高価な従物論として、従物が主物より高額な物件の場合、抵当権の効力は及ばないとすべきではないか。高額な従物の場合は、目的不動産に対する従属性が否定されると解すれば良い。従物の対抗要件について、主物たる不動産について対抗要件を備えれば、これによって従物たる動産についても対抗しうると解する(判例・通説)。従物は、主物と一定の場所的関係にあるが、それゆえに従物は主物の公示の衣裳に包まれていると考えられるからである。主物が、不動産、従物が動産の場合、譲渡人が動産については所有者でなかったとき、譲受人には従物について即時取得(192条)の可能性が出てくる。これに対し、譲渡人が主物の不動産について無権利者だった場合は、譲受人は、従物だけ即時取得することはないと解する。主物・従物関係があるのに、主物の所有権を取得できない者に、従物だけ切り離して従物のみの所有権取得を認めるのは、従物は主物と運命を共にするという考え方(87条2項)に反するからである。
◆最判昭和40年5月4日
判旨:借地上の建物に設定された抵当権の効力は敷地の賃借権にも及び、抵当権が実行されると、敷地の賃借権は競落人に移転するとした。
理由:建物と敷地(土地)の賃借権は、主物と従たる権利の関係にあり、主物である建物が移転すれば従たる権利である敷地の賃借権も移転するとした。最判昭和44年3月28日は、主物たる不動産に対する抵当権の効力は従物たる動産にも及び、その抵当権設定登記の対抗力も従物についても生じるとした。
元物と果実とは、物より生じる経済的収益を果実と呼び、果実を生み出すものとなった物を元物という。
元物 | 畑 | 羊 | 元金 | 土地・家屋 |
果実 | 農作物 | 羊毛 | 利息 | 賃料(地代・家賃) |
天然果実とは、物の経済的用途に従って自然に産出される物をいう(88条1項)。例えば、畑から産出する農作物、羊から産出する羊毛である。法定果実とは、ある物を他人に使用させ、その対価として受け取る金銭その他の物をいう(88条2項)。賃料(地代・家賃)、利息である。
果実の帰属について、天然果実は、果実を収取する権利を有する者が取得する(89条1項)。法定果実は、果実を収取する権利の存続期間に応じて日割計算により取得する(89条2項)。法定果実は、性質上分割が可能であり、日割計算が公平だからである。例えば、他人に土地を年10万円で貸していたところ、その土地を年の中央で売った場合、売主と買主はその地代を5万円ずつを受け取ることができる。
民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)8
武蔵野個別指導塾・武蔵境唯一の完全個別指導型学習塾
武蔵境・東小金井・武蔵小金井の完全個別指導型学習塾「武蔵野個別指導塾」の教育理念
【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
歴史学とはなにか?ー東大・京大・早慶上智を狙う人のための歴史学
総合型選抜や学校型推薦入試、私立高校の単願推薦やスポーツ推薦で勝つ面接力
受験期に伸びる子トップ10~武蔵境で学ぶ、豊かな武蔵野市で育つ
社会=暗記という常識はもう古い!知識だけでは通用しない社会の問題(麻布中学校の社会の入試問題より)
今なぜ哲学が必要なのか?~大学受験や高校受験、中学受験の新傾向
有名大学に入学するための勉強をすることは時給3万円のバイトをするようなもの
京都の歴史~破壊と再生の1200年史大学受験日本史・高校受験社会・中学受験社会特別講義)
中学受験、高校受験、大学受験、大学院入試に留まらず社会で生きていく上で役立つ民法