民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)8
01 法律行為の意義
法律行為とは、人が意思表示により法律効果を発生させる行為をいう。私的自治の原則のもと、人は原則として自由に法律行為により法律効果を発生させることができる(法律行為自由の原則)。意思表示を要素とするとき、これを「法律行為」という。意思表示とは、当事者が一定の法律効果の発生を意欲し、かつ、その旨を外部に表示する行為をいう。
法律行為にはさまざまな分類があるが、代表的な分類は、①単独行為(例えば、取消し、解除などや相手方のいない遺言など)・契約・合同行為、②債権行為、物権行為、③財産行為、身分行為、④要式行為、不要式行為、⑤有因行為、無因行為、⑥有償行為、無償行為、⑦生前行為、死後行為などが挙げられる。
準法律行為として、意思表示を要素としないため法律行為ではないが、法律によって一定の効果が与えられるものをいう。表現行為としては、①意思の通知、②観念の通知、③感情の表示、がある。意思の通知(一定の意思を通知すること)としては、催告(20条、150条、452条、541条)、受領の拒絶(493条、494条)などがある。例えば、履行の催告(541条)は、相手に履行を求める意思を伝えるものであるが、当事者の意欲を理由に法律効果が発生するのではなく、法律によって契約解除の効果を与えている。観念の通知(ある事実を通知すること)としては、代理権授与の表示(109条)、債務の承認(152条1項)、債権譲渡の通知(467条)などがある。例えば、代理権授与の表示(109条)は代理権を与える意思表示ではないが、あたかも意思表示したかのごとき外観を有するために法律によって代理行為を有効に扱っている。感情の表示(感情を発表すること)は、現行法では適切な例がない。
非表現行為としては、無主物先占(239条)、事務管理(697条)などがある。
法律行為の要件には、①成立要件、②有効要件、③効果帰属要件、④効力発生要件がある。法律行為が成立する要件として(成立要件)、当事者の意思表示が必要である(権利の主体、意思表示、目的の3要素)。法律行為が有効である要件(一般的有効要件)として①その内容が確定していること(確定性)、②実現可能であること、③法律行為の内容が強行法規に反しないこと(適法性)および公序良俗に反しないこと(社会的妥当性)が必要である。有効に成立した法律行為が人に帰属するための要件(効果帰属要件)として、代理権や処分権が必要である。法律行為の効力を発生させる要件(効力発生要件)として、附款(条件・期限など)を設けることができる。
02 公序良俗違反
民法90条の意味。法律行為の内容が公の秩序または善良の風俗(公序良俗)に違反するときは、その法律行為は絶対的に無効である(90条)。この趣旨は、社会的妥当性を欠く行為(違法行為)を抑止(禁止)することにある。公序良俗に違反するか否かの判断基準については、①社会的利益の内容、②違反の程度、③当事者の認識、④当事者間の公平、⑤取引の安全などの具体的事情を総合考慮して、判断するほかない。公序良俗に違反するか否かは、法律行為がなされた時点の公序に照らして判断される(最判平成15年4月18日)。
90条違反により無効であるとした判例としては、賭博行為(射倖的行為:最判昭和46年4月9日)、売春契約(大判昭和12年5月26日)、男女の定年が異なる就業規則(最判昭和56年3月24日)、不正競争防止法、商標法違反に該当する取引を内容とする商品売買契約(最判平成13年6月11日)、入会部落の慣習に基づく入会集団の会則中、入会権者の資格要件を男子係に限定した部分(最判平成18年3月17日)、市場の300倍の代金での土地の売買(下級審)などがある。
芸娼妓契約(前借金を得て弁済のため娼婦として働く契約)について、大審院は芸娼妓契約のみ無効(一部無効)としてきたが、最高裁(最判昭和30年10月7日)は芸娼妓契約も消費貸借契約もいずれも無効とした。708条により返金も不要と也、悪循環を絶つことになる。
他方、90条に違反せず無効でないとした判例として、妻子と以前から別居している男性が、約7年間、半同棲のような形で不倫関係を継続した助成に全遺産の3分の1を包括遺贈する旨の遺言(最判昭和61年11月20日)、クラブのホステスが客との関係を維持することでクラブから特別の利益を得る目的で、なじみ客の飲食代金債務を保証する契約(最判昭和61年11月20日)、消費貸借成立過程において、貸主の不法性が借主のそれに比べ極めて微弱な場合(最判昭和29年8月31日)などがある→密輸資金の準備のためとして15万円の貸与を強く要請され、やむを得ず融資したという事情のもとで、15万円の貸金返還を請求した。判旨としては、上告人が、本件貸金を成すに至った経路において多少の不法的分子があったとしても、その不法的分子は甚だ微弱なもので、これを被上告人の不法に比すれば問題にならぬ程度のものである。殆ど不法は被上告人の一方にあるといってもよい程のものであって、かかる場合は既に交付された物の返還請求に関する限り民法第90条も第708条もその適用なきものと解するを相当する。理由としては、当事者が不法な動機を認識している場合でも、貸主側の不法性が借主側の不法性より微弱であるとして、民法90条の適用を否定した。
また、不法な動機も問題となる。賭博の借金支払のために金を貸した場合、この金銭消費貸借は有効か。法律行為の動機が公序良俗に反するとき、90条は適用されるか(法律行為は無効か)が問題である。違法行為を抑止しようとする90条の趣旨からは、不法な動機があれば法律行為を無効とすべきとも思える。しかし、相手方には不法な動機は容易に知り得ないから、90条をそのまま適用すると取引の安全を害する。そこで、不法な動機といえども、それが相手方に明示または黙示に表示された場合に限り、動機も法律行為の内容となり、90条が適用され、法律行為が無効になると解すべきである(表示説)。
公序良俗に違反する法律行為は、絶対的無効である。誰でも、誰に対しても無効を主張できる。また、追認することは許されない。この無効は公益的理由に基づくものであり、私人による勝手な処分はゆるされないからである。
また、公序良俗に違反する給付は不法原因給付となり、給付者は原則として給付物の返還を請求することができない(708条)。708条は、90条と一体となって、違反行為を抑止する趣旨の規定であり、給付がなされている場合には、708条の検討を忘れないことが重要である。
03 強行法規
民法91条の意味。強行規定とは、「公の秩序」に関する規定であり、当事者の意思によって適用を排除することができない規定をいう。これは、当事者の意思(特約)で適用を排斥できない規定で、例えば90条や146条がある。これに対し、任意規定とは、当事者の意思によって適用を排除することができる規定を言う。当事者の意思(特約)で適用を排除できる規定で、例えば87条2項(「従物は、主物の処分に従う」)。
強行規定に反する法律行為は無効である(91条の反対解釈、従来の通説)。しかし、強行法規に反する法律行為でも有効であることがありえる(有力説)。
また、民法90条と91条の関係において、強行規定とは、当事者の意思(特約)によって適用を排除できない規定をいい、任意規定とは、当事者の意思(特約)によって適用を排除できる規定を言う。しかし、「強行規定に反する法律行為は無効である」ということは絶対的ではない。取締規定のように強行規定であっても、違反しても無効とならない法律行為は多いのである。そこで、強行規定に違反したことは、公序良俗に違反して無効(90条)となるか否かを判断する一事情として考慮するに過ぎないとする見解が有力である(つまり、無効になるのは90条違反だけであり、91条は当事者の意思は任意規定に優先するという当然のことを定めたに過ぎないとみる)。
取締規定とは、行政上の目的から私法上の行為を制限する規定である。取締規定に違反した行為は、私法上効力を否定されるか(無効となるか)。取締規定にも、違反したとき、①私法上の効力を否定する規定(効力規定)と、②私法上の効力あで否定しない規定(単なる取締規定)とがあるとされる。取締規定に違反した行為が私法上の効力を否定されるか否かは、その方が当該行為を禁止する趣旨の他、違反の程度、当事者間の公平、取引の安全などの諸事情を総合的に考慮して判断しなければならない。
取締規定が、①効力規定(効果まで禁止するもの)なのか、②単なる取締規定(行為だけを禁止するもの)なのかは、強行規定か任意規定かの区別(91条)とは別問題であり、これを一般には論じ得ない。結局は、①法の目的(禁止の目的)、②違反の程度のの悪性の程度、③当事者の認識、④当事者間の信義公平、⑤取引の安全などの具体的事情を総合考慮して判断するほかない。例えば、警察の許可無く街頭で物を販売する行為は禁止されているが、取引の安全の見地から、売買は殆どが有効であると考えられる。単なる取締規定としたものとして、無免許の運送業者がなした運送契約は有効であるとしたもの(最判昭和39年10月29日)、食品衛生法の営業許可を受けていない食肉販売業者の食肉販売は有効であるとしたもの(最判昭和39年1月23日)などがある。その取締規定が、単に行為の禁止または抑制を目的とする規定なのか(違反行為には罰則を科せば良い)、取引行為の結果として生じる財貨の移転を抑えようとする規定か、というのがひとつの目安になろう。
脱法行為とは、形式的には強行規定に違反しないが、実質的には違反する行為をいう。強行規定の趣旨から、原則として無効とされる。
04 事実たる慣習
民法92条の意味、事実たる慣習は、任意規定に優先する(92条)。事実たる慣習とは、慣習法と区別され、法的確信にまで達しない慣習をいう。
民法92条と法適用通則法3条との関係においては、以下のような問題が存在する。民法92条は、「慣習」が任意規定に優先することを定める。他方、法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という)3条は、「慣習」は「法律」(任意規定)に優先しないことを定める。そこで、民法92条と法適用通則法3条の関係が問題となる。法適用通則法3条の「慣習」は慣習法(法的確信に達したもの)であり、民法92条の「慣習」が事実たる慣習(事実上行われる単なる慣行)であり、対象となる慣習が異なるから矛盾しないと解する。しかし、こう考えたとしても、強行規定>特約または事実たる慣習>任意規定≧慣習、ということとなり、在る慣習が法的確信を得ると慣習法として任意規定に優先しないのに、事実たる慣習のほうが任意規定に優先する(つまり、事実たる慣習が慣習法に優先するという矛盾がある)のはおかしいという批判がある。しかし、通説は、民法92条は当事者が事実たる慣習に従う意思があるとみなされるから、事実たる慣習は、特約と同様に、任意規定に優先することを定めるものであり、当事者が特に慣習を排斥する意思を示せば事実たる慣習は任意規定に優先しない。また、法適用通則法3条は慣習法が任意規定と同一の効力といっているにすぎないのであるとされる。このように理解すれば、従来の通説もあながち不当ではない。
民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)9
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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