民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)9

01 意思表示の意義

意思表示とは、人が法律効果の発生を意欲し、かつ、その旨を表示する行為をいう。意思表示は、法律行為の要素をなす。意思表示は、意思の表示の中でも、法律効果の発生を意欲してなされる点に特徴がある。

意思表示は、(あ)法律効果の発生を意欲する意思と、(い)その意思を外部に表示する行為を要素とする。(あ)を内心的効果意思(または効果意思)といい、(い)を表示行為という。

①動機→②効果意思(あ)→③意思表示→④表示行為

というジュンに意思表示の成立過程は示せる。①動機は、意思表示(法律行為)の内容ではない。②効果意思は、法律効果の発生を意欲する意思であるが、通常、「意思」というときは、これを指す。③表示意思は、効果意思を外部へ表示しようとする意思であり、効果意思と表示行為の橋渡しとなる。④表示行為は、効果意思を外部に表示する行為であるが、通常、「行為」というときはこれを指す。このうち、②効力意思から④意思表示までは、意思表示(法律行為)の内容となる。

02 意思主義と表示主義

意思主義とは、効果意思を重視する立場である。この立場で、私的自治の原則から、効果意思と表示行為の不一致を原則として無効とする。従って、表意者本人を保護することになりやすい。表示主義とは、表示行為を重視する立場である。この立場では、原則として表示行為通りの効果を認める。従って、相手方を保護し、取引の安全を確保することにつながりやすい。民法の立場としては、意思主義を基本とするが、表示主義の考え方も大幅に取り入れられている。

意思の欠缺(不存在) ①心裡留保(93条)

②通謀虚偽表示(94条)

③錯誤(95条)

意思表示の瑕疵 ④詐欺(96条)

⑤強迫(96条1項)

効果意思と表示行為が一致していれば意思表示は有効であり、効果意思と表示行為が不一致であれば意思表示は無効である。そこで、効果意思と表示行為の不一致のことを「意思の欠缺」または「意思の不存在」という。民法93条ないし95条が意思の欠缺を定めている。また、効果意思と表示意思は一致しているが、効果意思の形成過程(動機)に欠陥があることを「意思表示の瑕疵」という。民法96条が意思表示の瑕疵を定めている(有効だが取り消しうる)

近時、古典的な意思理論に批判が加えられており、行為の効力を動機も含めて実質的・総合的に理解しようとする見解が有力になりつつある。

心裡留保(93条) 意思と表示の不一致。不一致を表意者が知っている。 原則:無効(93条1項本文)

例外:相手方が悪意又は善意有過失のとき無効(93条1項ただし書)。

善意の第三者に対抗できない(93条2項)

通謀虚偽表示(94条) 意思と表示が不一致。不一致につき、通謀があること。 原則:無効(94条1項)

例外:善意の第三者には無効を対抗できない(94条2項)

錯誤(95条) 意思と表示のう不一致につき、表意者が知らない。 原則:要素の錯誤があれば取り消せる(95条1項)

例外:表意者に重過失があるときは取り消せない(95条3項柱書)

詐欺(96条) 欺罔により表意者が錯誤に陥り、その錯誤に基づいて意思表示をしたこと。 原則:取り消しうる(96条1項)

例外:①第三者の詐欺は、相手方が悪意か過失あるときに限り取り消せる(96条2項)

②取消しは善意の第三者に対抗できない(96条3項)

強迫(96条) 害悪の告知により表意者が畏怖し、その畏怖に基づき意思表示をしたこと。 原則:取り消しうる(96条1項)

例外:なし

03 心裡留保

心裡留保とは、表意者が表示行為に対応する効果意思がないことを知りながらする意思と表示の不一致について表意者が知っていることである。心裡留保という用語は、心の底に留めるという意味であるが、冗談を言ったり、嘘をついたりする場合である。条文を確認してみましょう。

「意思表示は、表意者がその真意であないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。②前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない」(民法93条:心裡留保)

93条では、心裡留保による意思表示は原則として有効である(93条1項本文)。なぜなら、表示通りの効果を期待する相手方を保護する必要があり、意思と表示の不一致を認識している表意者を保護する必要がないからである。例外として、相手方が表意者の真意について悪意または善意有過失のとき、意思表示は無効である(93条1項ただし書)。このような相手方を保護する必要がなく、表意者の真意に従って無効として良いからである。相手方の善意・悪意は、相手方が意思表示を了知した時点を基準に判断される。善意で意思表示を受領後に悪意になっても無効にならない。

民法93条は、相手方のいない意思表示にも適用される。ただし書のない適用はないから常に有効。準法律行為にも類推適用が認められる。身分行為には適用されないことに注意。当事者の意思を尊重すべきだからである。たとえば、養子縁組は意思がなければ常に無効である(最判昭和23年12月23日)。相手方が悪意または有過失のとき、93条1項ただし書による無効を善意の第三者に対抗できるから、従来は規定がなく問題となり、94条2項類推適用で第三者を保護してきた。しかし、改正法は93条2項で保護する規定を設け、立法により解決した。

A B C
心裡留保 譲渡は93条1項

ただし書で無効

悪意・有過失 譲渡 善意

(1)民法93条の応用

(あ)代理権の濫用

【事例】本人Aの代理人Bは相手方Cとの間で代理行為として売買し、Cから受け取った代金を自己のために着服した。このようにBが自己の利益を図るためにに代理行為をした場合、その結果はAに帰属するか(有効か)。代理人が自己または第三者の利益を図るために権限内の代理行為をした場合、その効力が問題である。

従来判例は、代理権濫用事例を「無効」であると考え、93条ただし書を類推適用して、相手方が代理人の意思を知りまたは知ることができた場合に限り、本人は代理行為の無効を主張しうると解してきた。しかし、改正法は代理権濫用につき、107条を置いた。107条自体は異常の判例法理を明文化したものである。しかし、改正法下では、代理権濫用事例は、「無権代理」と解されることになったので、本人による追認が可能となる(113条、116条)。また、代理権を濫用した代理人は相手方に対して、117条の無権代理人としての責任を負うことになる。更に、無権代理には第三者保護規定がないので、第三者は、94条2項類推適用、192条などにより保護されることになる。

代理権の濫用とは、代理人が自己または第三者の利益を図るために代理行為を行うことをいう。例えば、代理人が、相手方と売買した際に、相手方から受け取った代金を自己のために着服する場合である(行為をする代理権限はある)。関連条文を確認しておきましょう。

「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。②追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。」(民法113条:無権代理)

「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」(116条:無権代理行為の追認)

「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。②前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。(一)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。(二)他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りではない。(三)他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。」(117条:無権代理人の責任)

「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。②前項の規定により意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」(94条:虚偽表示)

「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」(192条:即時取得)

◆最判平成4年12月10日

判旨:「親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法824条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法93条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は子には及ばない解するのが相当である。しかし、親権者が子を代理とする法律行為は、親権者と事の利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてなされるなど、親権者に子を代理する権限を付与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。」。

理由:本判決は、①親権者の法定代理権の濫用でも93条ただし書うぃ類推しうる。しかし、②親権者に子を代理する権限を付与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用にあたらないとした。

(い)代理人と相手方の通謀虚偽表示

【事例】BがAから借入れする際に、Aから保証人を求められた。そこで、BはAの代理人となり、Cと通謀して保証契約を結ぶ意思がないのにCを保証人とする保証契約を締結した。AC間の保証契約は通謀虚偽表示として無効となるか。

代理人が表意者本人をだますつもりで相手方と通謀して虚偽表示をした場合、その効力が問題である。代理人と相手方の通謀虚偽表示の効果は、代理人を基準として判断されるから(101条1項)、本人に無効行為として帰属するはずである(94条1項)。しかし、そうすると、本人がそのような事情を知らない場合にも無効となってしまい、本人に不測の損害を被らせるおそれがある。そこで、本人が相手方の意図について善意・無過失である場合には、93条1項本文の類推適用によって、相手方の意思表示は有効であると解する(93条類推適用説)。なぜなら、代理人には相手方と通謀して本人を騙す権限はなく、ここでの代理人は単に相手方の意思を本人に伝達する機関(相手方の使者)に過ぎないから、全体として相手方の本人に対する心裡留保を構成するからである(本人を93条1項ただし書の「相手方」と評価できる)。

代理人と相手方が通謀した場合、契約は無効となる(94条1項)。従って、相手方は無効を主張しうる。なぜなら、代理行為の瑕疵は代理人を基準にするからである(101条1項)。なお、この場合、本人は94条2項の「第三者」でないことも明らかである(大判昭和6年8月30日)。東京地判昭和41年11月28日も、売主から不動産売却の委任を受けた代理人が、相手方と通謀して相手方を買主とする売買を仮装した場合、代理人は相手方の虚偽の意思表示を売主に伝達する機関となったものとみて、93条の心裡留保をもって事態を律するのが相当であるとしている。

「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。」(101条1項:代理行為の瑕疵)

04 通謀虚偽表示

通謀虚偽表示とは、表意者が相手方と通謀して行う真意でない意思表示をいう。意思と表示の不一致について表意者と相手方との通謀があることである。例えば、債務者が財産隠しのため、仮装譲渡をする場合である。表意者と相手方に「通謀」があるのだから、表意者も相手方も表意者の効果意思と表示行為の不一致を知っている。条文を確認してみよう。

「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。②前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」(94条:虚偽表示)

通謀虚偽表示は、原則として無効である(94条1項)。なぜなら、当事者双方に表示どおりの効果を発生させる意思がないからである。例外として、この無効は善意の第三者に対抗することができない(94条2項)。民法94条2項は、意思表示の外形を信じて取引を行った第三者を保護し、取引の安全を図る趣旨である(外観法理)。94条2項は外観法理に基づく規定であり、極めて重要である。すなわち、動産取引の安全は192条で確保されることが多いが、不動産取引においては、177条が登記の公信力を認めていないため、登記による権利の外観を信頼した第三者を保護するために94条2項が用いられることが多い。

民法94条の適用範囲として、相手方のいない単独行為には、通謀は有り得ないから、民法94条1項は適用されないのが原則である。これに対して、相手方のある単独行為は、通謀がありえるから、94条1項が適用される(最判昭和31年12月28日)。相手方のいない単独行為でも、実質的に関係者の通謀に基づくときは94条1項が類推される(最判昭和42条6月22日)。

合同行為には、94条1項が類推適用される(最判昭和56年4月28日)。

要物契約にも、94条2項が(類推)適用されるか。要物契約においては物の授受が契約の成立要件である。しかし、94条2項は外形に対する信頼を保護する外観法理に基づくものであり、要物契約の成立を信じさせるに足りる外形が存在し、第三者がこれを信頼した場合には、要物性の要件を満たさなくても、94条2項が適用されてよいと解する(大判昭和8年9月18日、通説)。

身分行為に、94条2項は適用されない。表意者の意思を尊重すべきだからである。

(1)民法94条2項に関する解釈

民法94条2項は「・・・無効は、善意の第三者に対抗することができない」と規定する。「善意」とは、虚偽表示があることを知らないことをいう。「対抗をすることができない」とは、誰からも、第三者に対し、意思表示の無効という効果を主張できないことをいう。しかし、第三者からは、有効も無効も主張できる。

<94条2項の要件に関する論点>

①「第三者」の意義

②「第三者」に転得者が含まれるか

③絶対的構成か、相対的構成か

④「善意」のほか、無過失まで必要か

⑤第三者は登記まで必要か

(2)民法94条2項の「第三者」の意義

94条2項の「第三者」とは①虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で、②その意思表示によって生じた法律関係について、別の法律原因によって新たに利害関係を取得し、かつ、③その当事者から独立した利益を有する者をいう。①について、当事者やその相続人を除くことは当然である。ここでは、②虚偽表示をベースに新たに利害関係を有するに至ったことが重要である。③当事者から独立した利益を有するとは、取立委任のために受験された場合などを除くためである。

肯定説 ・不動産の仮装譲受人からさらに譲り受けた者(最判昭28年10月1日)

・仮装譲受人から抵当権などの設定を受けた者(大判昭6年10月24日)

・虚偽表示の目的物に対して差押えをした者(最判昭48年6月28日)

・仮装譲受人が破産した場合の破産管財人(大判昭8年12月19日)

・発生を仮装した債権の譲受人(大判昭13年12月17日)

否定説 ・仮装譲受人の一般債権者(大判昭18年12月22日)

・債権の仮装譲受人から取立てのため債権を譲り受けた者

・代理人が虚偽表示をした場合における本人

・債権が仮装譲渡された場合の債務者(大判昭8年6月16日)

・1番抵当権が仮装で放棄され、順位が上昇したと誤信した2番抵当権者

・土地の仮装譲受人から土地上の建物を賃借した者(最判昭57年6月8日)

・土地賃借人が自己所有の地上建物を虚偽表示により譲渡し登記を経由した場合の土地賃貸人(最判昭38年11月28日)

・土地の仮装譲受人から土地上の建物を賃借した者

【事例】AがBに土地を仮装譲渡したところ、Bが土地上に建物を築造した上、善意者Cに建物を賃貸した場合、Cは94条2項の「第三者」にあたるか。判例は、Cは「第三者」にあたらないとする(最判昭和57年6月8日)土地と建物は別個のものであり、地上建物の賃借人Cは土地については事実上の利害関係にとどまるからである。しかし、通説は、建物は土地なくして存立しえず、地上建物の賃借人Cは土地利用権が否定されれば建物の利用を妨げられるという関係にあり、土地について明渡義務を負うという法律上の利害関係があるといえるから、Cは「第三者」にあたるとする(AはCに対して建物撤去を請求できない)。

・土地賃借人が自己所有の地上建物を虚偽表示により譲渡した場合

【事例】AがBに土地を賃貸し、土地賃借人Bが自己所有の地上建物を虚偽表示によりCに譲渡し、登記を経由した場合、BC間の売買が有効ならば、Bの賃借権はCに移転する(87条2項類推)。しかし、BC間の売買は仮装譲渡であり無効であるから(94条1項)、賃借権の譲渡にあたらない。そこで、Aは、94条2項の「第三者」にあたるとして、612条2項により土地の賃貸借契約を解除できないか(BC間で、賃借権の無断譲渡がなされた構成に持ち込みたい。その前提として、BC間の仮装売買の無効をAに対抗できないから、と言いたいのである)。判例は、Aは新たに利害関係を有した者でないから「第三者」にあたらないとした(最判昭和38年11月28日)。従って、Aは土地賃貸借を解除できない。

関連条文

「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。②賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」(612条:賃借権の譲渡及び転貸の制限)

(3)民法94条2項の「第三者」と転得者

第三者が悪意、転得者が善意のとき、転得者は保護されるか。94条2項の「第三者」に転得者が含まれるか問題である。「第三者」に転得者が含まれると解する。なぜなら、94条2項は虚偽表示により権利者であると信頼した者を保護する外観法理に基づく、転得者であっても自己の前者が権利者であるとの信頼を保護すべきだからである。

(4)民法94条2項の「第三者」の絶対的構成

第三者が善意、転得者が悪意のとき、転得者は保護されるか。第三者が善意であれば転得者が悪意でも、94条2項によって転得者は保護されると解する(絶対的構成)。なぜなら、悪意者を保護しないと、いつまでも法律関係が確定せず、早期安定化の要請に反するからである。

(5)民法94条2項の「第三者」の主観的要件

94条2項の「第三者」は、善意のほか、無過失も要するか。虚偽の外形を自ら意識的に作り出した真正権利者の帰責性は相当大きいので、無過失は不要である。「善意」は、当該法律関係について、第三者が利害関係を有するに至った時を基準に判断する(最判昭和55年9月11日)。また、第三者には自己が「善意」であったことを主張・立証する責任がある(最判昭和35年2月2日)。

「第三者」の主観的要件の考え方としては、94条2項の「第三者」の保護要件をいかに設定するかの問題であり、表意者本人保護の要請と第三者保護の要請の調整の問題である。表意者本人の帰責性(落ち度)が大きいと考えれば、「第三者」の保護要件を低く設定してよいことになりやすく、逆に、表意者本人の帰責性が小さいと考えれば、「第三者」の保護要件を厳しく設定する必要がある。表意者本人の帰責性の大きさと「第三者の保護要件の厳格さは、反比例のグラフのようである。

判例は「善意」であれば、無過失を要しないとする(大判昭和12年8月10日など)。もっとも、本人の帰責性が小さいケースでは、善意のほか無過失を要求している(最判昭和43年10月17日など)。

(6)民法94条2項の「第三者」の登記

94条2項の「第三者」は、登記を要するか。表意者本人と第三者との関係は物権移転の当事者類似の関係であり、対抗問題としての登記(177条)は不要である。さらに、保護要件としての登記も不要である。虚偽の外観を作出した表意者の帰責性は大きいからである。

「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」(177条:不動産に関する物権の変動の対抗要件)

(7)民法94条2項と対抗関係(応用)

次のア~ウは、対抗関係(177条)で処理されるかをみてみよう。

ア 不動産がA→Bと虚偽表示により譲渡した後(登記はBにある)、B→C、B→Dと二重に譲渡した場合のCとDの優劣関係。CとDは94条2項で保護される同等の立場に立つから、CとDは対抗関係に立ち、先に登記を備えた者が優先する(177条)。
イ 不動産がA→Bと虚偽表示により譲渡した後(登記はBにある)、A→Cにも二重に譲渡した場合のBとCの優劣関係。Bは94条1項により無権利者だから、BとCは対抗関係に立たない(Bは177条の「第三者」でない)。従って、Cが優先する。
ウ 不動産がA→Bと虚偽表示により譲渡し、B→Cと譲渡した後(登記はBにある)、A→Dにも二重譲渡した場合のCとDの優劣関係。CとDは対抗関係に立ち、先に登記を備えた者が優先する(177条)と解する(最判昭和42年10月31日)。Cは94条2項で保護される「第三者」であるが、AはCが登記を具備するまでは無権利者となるわけでなく、あたかもAを起点とした二重譲渡があったのと同様に考えるのである。これに対して、Cが94条2項によって保護される場合、A→B→Cの譲渡が有効とされるから、Bに登記がある以上、BがDに優先し、Cがその地位を継承することになるとする見解もある。しかし、善意の第三者Cが保護されるのは表意者Aに対してだけであって、そのことから当然にDに対しても保護されるのは表意者Aに対してだけであって、そのことから当然にDに対しても保護されるものではない(虚偽表示者は、善意の第三者との関係では、当該不動産について権利を有すると主張することができなくなり、この意味で無権利者と扱われ、虚偽表示者は、善意の第三者との関係では177条の「第三者」に該当しない、ということに尽きるのである)。CとDの要保護性は同じである以上、CとDと対抗関係に立つとみるべきである。

 

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プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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