英文法特講(英語から繋げる本物の教養)3

00 状態動詞は進行形にできない、ということもない。

さて、今回は、誰しも一度は聞いたことがある英文を訳せるかどうか、ということから話を始めてみましょう。それは、 i’m lovin’ it

これです。「i’m lovin’ it (I’m loving it.)」という言葉ですね。2003年以降、マクドナルド社が世界的にCMでこのキャッチコピーを使って、日本でももちろん、しょっちゅう目にするキャッチコピーかと思います。普通、中学校や高校の英語の授業では、学校の先生に、「状態動詞(Stative verb)は進行形(-ing)にできない」と習ったかと思います。もっとも、このネタも2000年代以降よく話題にされるようになっているので、少なくともこの記事を書いている2023年と20年も経った今では、周知の方も多いかもしれません。ちなみに、状態動詞というのは、「knowのような継続性の意味を持つ動詞のことを言います。 意識的に始めたりやめたりすることができないものです。 例えば、知っているということは唐突に始めたり、やめることができず、知っている状態が続きます。」と説明されるような動詞のことで、下記のように状態動詞の一覧として昔の受験の頃に暗記させられた方も多いのではないでしょうか。

01 状態動詞の一覧表

1 agree 同意する
2 appear 現れる
3 astonish 驚かす
4 be いる、ある
5 believe 信じる
6 belong 所属する
7 concern 心配させる
8 consist 構成する
9 contain 含む
10 deny 否定する
11 depend 頼る
12 deserve 値する
13 disagree 反対する
14 dislike 好きじゃない
15 doubt 疑う
16 feel (=have an opinion) 思う
17 fit 適する
18 hate 憎む
19 have 持つ
20 hear 聞く
21 imagine 想像する
22 impress 印象を与える
23 include 含む
24 involve 巻き込む
25 know 知ってる
26 lack 不足してる
27 like 好き
28 look (=seem) のように見える
29 love 愛している
30 matter 問題である
31 mean 意味する
32 measure (=have length etc) 測る
33 mind 気にする
34 need 必要とする
35 owe 借りている
36 own 持っている
37 please 喜ばせる
38 possess 持っている
39 prefer 好む
40 promise 約束する
41 realise 分かる
42 recognise 認識する
43 remember 思い出す
44 satisfy 満足させる
45 see 見る
46 seem のようだ
47 smell 臭いがする
48 sound のように聞こえる
49 suppose 思う
50 surprise 驚かせる
51 taste 味がする
52 think (=have an opinion) 思う
53 understand 理解する
54 want 欲しい
55 weigh (=have weight) 計る
56 wish 望む

02 状態動詞が動作動詞として用いられる定番用法。

しかし、この状態動詞も昔から、例外はありました。それは、状態動詞自体も動作動詞として用いられた場合は、進行形にできる、という用法で、この用法は昔から文法書には書いてあることでした。たとえば、

I see a ship in the distance.(遠くに船が見える)

I am seeing a lot of John these days.(この頃、ジョンと良く会っている)

という二つの文章の場合、前者は「見る」という状態動詞で、後者は「会う」という動作動詞として区別され、意味が違うと説明されていたわけですね。つまり、状態動詞でも進行形にでき、その場合は、動作動詞として機能し、意味が状態動詞の時とは異なってくるわけです。

同じような例としては、「The soup taste perfect.」(このスープの味は完璧だ。)「The chef is tasting the soup.」(シェフがスープの味見をする。)であるとか、「I think you are stupid.」(君は馬鹿だと思うよ。)「I am thinking of visiting John.」(ジョンを訪問しようか熟考している。)、「He has big nose.」(彼の鼻はでかい。)「He’s having breakfast.」(彼は朝食を食べてる。)といった例が多く上げられます。

このように考えると、「i’m lovin’ it (I’m loving it.)」も状態動詞から動作動詞へと意味が変わっていると解釈可能です。しかし、動作動詞というのは、(1)変化の過程を示す場合や(2)一時的な状態を強調する場合に用いられるため、先ほどの例のように「味見」をしたり、「よく考えて(熟考)」みたり、「食べて」いたりするわけです。すると、「それを(マックのこと)を好きになりつつある」とか「それを今のところは好きである」という風に訳すべきかと考えることになると思います。実際、そう説明しているサイトも少なくありません。実際、米国や「Yahoo!Japan知恵袋」的なサイトで次のように解説されたりもしています。

The present (‘I love’) is used normally to express a general and continuing state of affairs. The present progressive (‘I’m loving’), on the other hand, expresses something that is happening at the time of speaking. You’d expect a verb like ‘love’ to express something lasting for a little longer than the immediate present, but its use in the present progressive seems to have become more frequent. That may have something to do with the advertisements for McDonald’s (‘I’m lovin’ it’). It suggests an emotion in the here and now, but one which is not necessarily going to involve a lifetime’s commitment (although McDonald’s may actually hope otherwise).

(現在進行形(’I love’)は、一般的で継続的な状態を表現するために通常使用されます。一方、現在進行形(’I’m loving’)は、話している時に起こっていることを表現します。love」のような動詞は、現在より少し長い時間を表すと思われますが、現在進行形で使われることが多くなってきたようです。それはマクドナルドの広告(「I’m lovin’ it」)と関係があるのかもしれません。これは、今ここにある感情でありながら、必ずしも一生を左右するものではないことを示唆している(マクドナルドは実際にはそうでないことを望んでいるかもしれないが)。)

まあ、ネイティブがこう感じているのなら、それでいいのかもしれませんが、この用例は決してマックに限ったものではなく、英国のまた同じような「Yahoo!Japan知恵袋」的なサイトでは、用例を下記のように紹介してくれています。

“I’m loving it” does sound slightly off, and that draws attention. Perhaps that’s why McDonald’s chose it for their slogan, which launched in September 2003 (3). None of the dictionaries I checked sanction “loving” as a form of the verb “love,” but the McDonald’s slogan isn’t the only instance where this sentence has been used in popular culture. Justin Timberlake has a 2003 song called “I’m Loving It” (3), and earlier the Scorpions put out a song called “Still Loving You” (4), which contains the lyric “I’m loving you.” Just recently, glamour.com had this to say about a maternity dress: “I’m loving the hot hue, the sweet, off-the-shoulder neckline …”

(”I’m loving it “は、少しずれた響きで、注意を引きますね。そのためか、マクドナルドは2003年9月にスタートしたスローガンにこの言葉を選んだ(3)。私が調べたどの辞書も、「loving」を動詞「love」の形として認めていないが、この文章が大衆文化で使われた例は、マクドナルドのスローガンだけではない。ジャスティン・ティンバーレイクは2003年に「I’m Loving It」(3)という曲を出しており、それ以前にスコーピオンズが出した「Still Loving You」(4)という曲には、「I’m loving you」という歌詞がある。つい最近も、glamour.comがマタニティドレスについてこんなことを言っていました: “ホットな色合いと、オフショルダーの甘いネックラインが気に入っている…” )

今、私が上のように訳したのでは無く、DeepLで訳したのが上の文章です。つまり、皮肉にもDeepLが既に上手に訳してくれているように、「気に入っている」と使われているわけです。これは、変化の過程や一時的な強調とは少し違う意味合いではないでしょうか。もう少しつっこんだ意味合いに感じられるわけですね。実際、久野暲・高見健一『謎解きの英文法(時の表現)』(くろしお出版、2013年)には「状態の断続的連続体」説という非常に難解な用語で「何度食べても好きだ」というニュアンスを表現しているものとして解説されています。

同著は「i’m lovin’ it (I’m loving it.)」ってどんな意味?という刺激的な帯で、

a. それが好き

b. それがだんだん好きになってきた

c. それは何度食べても美味しい

と選択肢を提示し、(c)を正解としています。そこで、紹介されている用例が私は好きです。

I’m loving the slit in her dress. It makes her look sexy and classy at the same time. (私は彼女のドレスのスリットが大好きです。セクシーでありながら、同時に上品に見えるんだ。)

いや、こういう用例出されたら納得しますよね。美しい女性のスリットを見て、好きになってきたとか、一時的な気の迷いというのは、粋(注1)じゃなりませんよね。

注1:粋という日本語も非常に難しいですね。日本の哲学者九鬼周造によれば(『「いき」の構造』)、「粋」とは、「媚態」と「意気地」と「諦め」の3つの要素からなっているといわれています。わかりやすく言うと、「粋だね」というのは、セクシーさと気概や執着しないでいる態度を意味しているわけです。まさに、I’m loving the slit in her dress.に感じる「好き」な気持ちではないでしょうかね。

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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