共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(9)
第2編 第1章 経済社会の変容と経済のしくみ
③市場経済の機能と限界
ポイント
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価格はどのようにして決まるのだろうか。
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市場の失敗とは何だろうか。
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独占や寡占にともなう弊害について考えてみよう。
価格機構
いくらの価格でどれだけの量の財やサービスが売買されるかは,原則として,市場の需要と供給との関係で決まる。このようにして決まる価格を市場価格という。個々の企業や消費者は,市場価格をめやすとして生産や消費の量を調整している。
消費者の財に対する好みの変化などは需要曲線を変化させ,企業の技術進歩などは供給曲線を変化させる。市場はつねにこれらの変化にさらされているため,需要曲線・供給曲線の変化に対応して,市場価格が変動する。市場において供給過剰が生じる場合には価格が下落し,反対に需要超過となって品不足が生じた場合には価格が上昇する。そして,市場における需要と供給が調整される。
このように,価格には経済社会全体の需給関係を自動的に調整する作用(価格の自動調節作用)がある。この機能は価格機構とよばれ,社会全体の複雑な資源の配分を最適におこなうはたらきをしている。
市場の失敗
価格機構が有効に機能するためには,市場で自由な競争がおこなわれ,市場への参入と市場からの退出が自由であるなどの条件が必要である。
しかし,現実の経済社会では,市場の失敗とよばれる現象がみられる。たとえば,独占や寡占が存在する場合,市場にまかせておくと財が十分に生産されず価格が高く設定され,消費者に不利な状況が発生することもある。また,道路・下水道などの公共財は,市場自体が成立せず,通常の市場機構では最適な資源配分が保証されない。また,市場を通らないで他の経済主体に利益を与えたり(外部経済),公害のように不利益をもたらしたり(外部不経済)する場合もある。これらは市場機構の限界を示しており,政府の果たす役割が重要になってくる。
競争と独占・寡占
商品の中には,たとえば自動車のように,大規模な生産をおこなうことによって,一商品当たりの費用を大幅に削減できるものがある。このような商品を生産する場合には,企業は大規模生産による利益の実現を図ろうとする(規模の利益,スケール・メリット)。このため,市場をめぐって,各企業は自己の市場占有率(マーケット・シェア)を増大させようと,激しい競争を展開する。その結果,少数の大企業によって市場が支配される場合がある。市場支配が単一企業による場合を独占というが,現代の資本主義経済に特徴的なのは,少数の企業によって市場が支配される寡占である。しかし,広い意味では,これも独占に含まれる。
企業の中には,競争を避け,利潤を確保するために,価格・生産量・販売地域などを協定してカルテル(企業連合)を形成することがある。このほかの市場独占の形態には,トラスト(企業合同)やコンツェルン(企業統合)もある。
独占市場では競争がおこなわれないため,独占企業は,生産物の価格を決定する力(価格支配力)をもつ。
寡占市場では,価格競争がみられる場合もあるが,多くの場合には,寡占企業は商品のデザインや品質管理など,価格以外の面での競争(非価格競争)によってシェアを拡大し,利潤を拡大しようとする。このため,技術の開発や生産の合理化などによって生産費が低下しても,価格は下がりにくくなる傾向がみられる(価格の下方硬直性)。
また,寡占市場では,大企業がプライス・リーダー(価格先導者)となって価格を設定し,他の企業がこれに追随して新たな価格が設定されることがある。これを管理価格という。
このように,寡占市場では,商品の価格が高めに設定されたり,消費活動が消費者自身の自発的選択よりも,企業の強い影響の下でおこなわれがちになり,消費者主権が損なわれる危険も出てくる。
今日の多くの資本主義諸国では,独占や寡占にともなう弊害を取り除き,適切な競争の下で健全な国民経済の発達を促すために,法的規制をおこなっている。日本では,これらの弊害が国民生活に及ぶことを防ぐために独占禁止法①が定められ,この法律の目的を達成するために公正取引委員会が設けられている。
国際競争力の強化が叫ばれるようになり,1997年,独占禁止法が改正された。これによって,第二次世界大戦後の財閥解体以来禁止されていた持株会社の設立が可能になった。持株会社とは,事業活動をコントロールすることを目的に,他の会社の株式を所有する会社のことである。
【注】
①独占禁止法 正式名称を「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といい,1947年に制定された。1953年の改正によって規制が緩和され,不況カルテルや合理化カルテルが認められるようになったが,1999年に,これらのカルテルは認められないことになった。
④経済成長と景気変動
ポイント
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景気変動は,国民所得にどのような影響を及ぼすのだろうか。
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景気変動に対する経済政策には,どのようなものがあるのだろうか。
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国民の福祉水準とは,何をさすのだろうか。
国民所得と景気変動
国の経済力を示す指標に,国富(国民資本)と国内総生産の概念がある。
国富は,工場や道路,森林,地下資源など,ある時点で一国全体に存在する実物資産と対外純資産の合計(ストック)である。国富は一国の実質的な富であり,同時に年々の生産物を生み出す源泉でもある。
国内総生産(GDP)は,一定期間内に一国内で生産された総生産額の総計から,原燃料などの中間生産物の価額を差し引いたものである。そして一部は投資などのように再び国富の蓄積に流入する(フロー)。
国民総生産から固定資本減耗(減価償却)を控除し,補助金と間接税を考慮したものを国民所得(付加価値の合計)とよぶ。国民所得は,生産,分配,支出の三面からとらえられ,それぞれが生産国民所得,分配国民所得,支出国民所得とよばれる。これらは,とらえる局面が異なるだけであるから,その大きさは等しい。これを三面等価の原則という。
ケインズによれば,生産水準や雇用水準の大きさは,有効需要の大きさで決まる(有効需要の原理)。なぜなら,つくっても売れ残れば意味がなく,需要の大きさが生産量を決定するからである。有効需要の大きさは,次の式で示される。
有効需要=消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)
有効需要が変化すれば所得水準が変化する。これが景気変動である。
景気変動の起こる原因の中で特に重要なものは,企業のおこなう投資である。すなわち,企業はより多くの利潤を求めて投資量を決定するため,経済全体としてみた場合には,投資量が必ずしも適正となる保証はない。企業が利潤を期待できる場合には,投資が促進され,投資量は過剰になる。また,逆に利潤獲得に不安を感じる場合には,投資量が減少する傾向にある。このような投資の過剰や過小にともなって,生産量・雇用量・商品価格に変動が生じ,景気変動がもたらされる。
資本主義経済の歴史を振り返ってみると,ある時期には経済活動が活発化して生産や雇用が増加し,またある時期にはそれが停滞して生産の減少,失業の増加がみられる。こうした景気の動き①には,周期的な繰り返しがみられる。これが景気循環②とよばれる現象であって,好況期・後退期・不況期・回復期の4つの局面に区分される。
好況期の投資の増加は生産力を拡大させる。しかし,生産の増加に需要の増加がともなわないと生産は過剰となり,企業の倒産などもみられるようになる。これが後退期であって,生産が減少し,失業が増大する。いったん下方へ向かいはじめた経済は,不況期へと突入していく。そこでは投資意欲は冷えきり,企業の倒産が多く,失業の規模も大きくなる。しかし,在庫品の掃き出しや機械設備の縮小がおこなわれることによって,不況は終止符を打ち,徐々に設備・原料などへの投資が試みられ,需要の増加,生産・雇用の拡張が進む。これが回復期である。
経済政策と経済成長
今日では,景気変動を緩和して,安定した経済成長を図るために,経済政策が講じられる。その代表的なものには,政府のおこなう財政政策と,中央銀行のおこなう金融政策がある。
資本主義諸国では,不況を克服し好況を持続させて,経済の安定的成長を図るため,経済政策を積極的に採用して景気変動の幅を小さくし,適正な経済成長率を保っていこうとする努力がはらわれている。
経済成長と国民の福祉
経済活動の規模が拡大することを経済成長という。一定期間における経済成長の速度,すなわち経済成長率は,ふつう国内総生産の対前年増加率で測定されている。
この場合,経済活動の規模が拡大しなくても物価が上昇していれば,その分だけ数値は伸びを示すことになり,経済成長の実態を正しくあらわすことができない。そこで,実質的な経済成長を測るために,物価の変動分を修正した実質国内総生産によって算出がおこなわれている。
経済成長は,その国の産業構造に変化を与え,国民生活の向上に大きな影響をもたらす。一方,経済成長率は増加した生産量については表示できるが,増大した所得や富がどのように分配され,その結果,貧富の差が拡大したのか,縮小したのかなどの内容については示すことができない。
このように,経済成長を国内総生産のみであらわすと,一国全体の所得の増加はわかっても,国民一人ひとりの生活水準の向上については不明である。また,公害による環境破壊があった場合でも,それが考慮されないので,経済成長には国民の福祉水準③を正確にあらわすことができないという問題がある。
【注】
①景気の動き 景気の動向を示すものとしては,国内総生産・物価・国際収支・雇用量(失業量)などの推移があるが,代表的な指標としては,毎月末に内閣府が発表する景気動向指数がよく利用されている。
②景気循環 周期の長さに応じてキチン循環(40か月,在庫投資の変動による),ジュグラー循環(7~10年,設備投資の変動による),クズネッツ循環(15~25年,建設投資の変動による),コンドラチェフ循環(50~60年,技術革新による)などに分類される。
③国民の福祉水準 国内総生産から固定資本減耗や環境破壊などの経済的損失を差し引いて算出するグリーンGDP(環境調整済み国内総生産)も考案されている。
⑤財政のしくみとはたらき
ポイント
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財政の果たすべき役割は何だろうか。
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租税にはどのような種類があるのだろうか。
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望ましい租税制度とはどのようなものだろうか。
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日本の財政は,どのような課題をかかえているのだろうか。
財政
国や地方公共団体がおこなう経済活動を財政という。今日,資本主義経済の下では,財政を通じて経済の安定と成長を図っており,政府が国民経済の中で果たす役割は増大している。これにともなって,財政の一国経済に占める比重は高まり,その影響力もきわめて大きくなっている。
財政の役割
財政の機能には,次のようなものがある。まず第一は,資源配分の機能である。道路や橋のような公共財は,市場機構に委ねていたのではその供給がおこなわれにくいので,政府の関与が必要となる。また,国防・警察・教育などのサービスの提供も政府の役割である。
第二は,所得再分配の機能である。今日,多くの先進資本主義国では所得の不平等を是正するために,所得税に累進課税制度①を取り入れ,これにより徴収した税金を生活保護や雇用保険などの社会保障制度を通じて再分配し,所得格差の縮小を図っている。
第三は,景気調整の機能である。もともと財政は,累進課税制度や社会保障制度が組みこまれていることによって,景気を安定的な方向に導く機能(自動安定装置=ビルトイン・スタビライザー)が備わっている。しかし,それだけでは十分ではないため,景気調整のための財政政策(裁量的財政政策=フィスカル・ポリシー)がおこなわれる。これは,景気変動に対応して,政府が公共支出や税の増減をおこない,有効需要を適切に保ち,景気の安定化に努めるものである。たとえば,不況期には,公共事業を増やしたり,減税をおこなって有効需要を拡大させる。反対に,景気が過熱気味のときには公共事業を減らしたり,増税をおこなうことで有効需要を抑制する。なお,財政政策は,金融政策と一体的に運用されることが多く,これをポリシー・ミックスという。
経済の国際化が進展する中で,今日では,経済政策の面でも各国と協調を図ることが重要な課題となっている。
予算と財政投融資
政府の一会計年度における収入を歳入,支出を歳出といい,この歳入と歳出の計画を予算という。政府は,毎会計年度の予算を作成して国会に提出し,議決を得たうえでこれを執行する。
予算は,一般会計予算と特別会計予算とに分かれる。一般会計予算は,公共事業や社会保障など,政府の一般行政にかかわる財政活動の予算であり,特別会計予算は,特定の事業をおこなったり,特定の資金を運用・管理するためのものである。このほか,政府関係機関予算も国会に提出して,その承認を受けることとなっている。
国会の議決を経て,会計年度の当初から実施される予算を当初予算(本予算),年度途中に予想外の状況が生じて組まれる予算を補正予算とよぶ。年度当初に予算の議決ができないときは,暫定予算が組まれる。
税収などを基礎とする予算とは別に,財政投融資計画がある。これは,郵便貯金や厚生年金・国民年金の積立金を原資として,国が投資や融資をおこなうことである。政府の経済政策を補うものとして,予算とともに国会に提出され,承認を受ける。その規模は,一般会計の約20%(2006年度)にも相当し,「第二の予算」ともよばれる。しかし,近年,金融の自由化が進む中で,郵便貯金の肥大化が批判されたり,融資面での非効率性などが問題とされるようになった。このため,財政投融資計画は,2001年に抜本的な改革がおこなわれた。これにより,郵便貯金や年金積立金などは基本的に自主運用されることとなった。そして,公庫や事業団といった特殊法人などの財投機関は,財投機関債とよばれる債券を発行して資金を得る。また,政府は財投債(国債の一種)を発行し,その資金を利用して,特殊法人などに融資をおこなうこととなった。
租税
財政収入は,本来,国民の負担する租税によってまかなわれる。租税は,納税者と税負担者が同一である直接税と,両者が異なる間接税とに区分される。租税収入における直接税と間接税の割合を直間比率という。戦前は間接税の比重が高かったが,戦後は1949年のシャウプ勧告②を受けて税制を改革し,ヨーロッパ諸国と比較して直接税が高いという特徴をもつようになった。そして,高度経済成長期には,比較的潤沢な租税収入を確保することができた。しかし,1973年の第1次石油危機以降,経済成長率が低迷するようになると,税収が伸び悩んだ。一方で少子高齢化が急速に進行し,福祉財源などの安定的確保が課題となった。
このため,1989年には,消費税導入を含む税制改革がおこなわれ,さらに1997年には,消費税の税率が5%に引き上げられた。しかし,消費税には逆進性③があるなど,問題点も指摘されている。
税制の課題
租税は国民が負担するものであり,課税④にあたっては,公平性(所得の多い人がより多くの税を負担するという垂直的公平と,同程度の所得であれば職種にかかわらず同程度の税を負担するという水平的公平がある)が満たされることが大切である。さらに,地方分権を進めていくには,地方税の比率を高めることも必要である。
今後も,所得・消費・資産に対する課税をほどよく調和させ,国民の税に対する不公平⑤感を取り除き,また,必要財源を確保する税制のあり方を確立していくことが求められている。
公債の発行と財政再建
国や地方公共団体は,歳出を租税でまかなうことができない場合,公債⑥(国債・地方債)を発行して,不足する資金を補うことになる。ただし,日本では,公債の発行がやがて財政の硬直化をまねいたり,将来の世代に重い負担を強いる原因となることなどから,財政法(1947年)によって,公債の発行を厳しく制限してきた。しかし,1965年の不況をきっかけに建設公債が発行されるようになり,さらに,第1次石油危機後の1975年からは,年度ごとに,特例法による特例公債(赤字国債)も発行されるようになった。そして,租税収入が伸び悩む中で公債依存度はしだいに高まった。
1980年代に入り,財政再建のための緊縮財政がおこなわれ,1980年代後半の景気拡大(「バブル経済」)によって財政が一時好転し,1990年度の当初予算では,赤字国債をゼロにおさえることができた。しかし,「バブル経済」崩壊後の深刻な不況とデフレの中で,ふたたび国債の発行が繰り返されるようになった。その結果,国債と地方債をあわせた公債残高は775兆円(2006年度末現在)程度となっている。公債の発行については,長期的展望に立つとともに,その必要性についても慎重に吟味することが求められている。
財政が危機的状況に陥っている現在,今後急速に進行する人口の高齢化などに対応するためにも,財政再建は緊急の課題である。
【注】
①累進課税制度 課税対象額を,その大きさによりいくつかの段階に分け,上の段階ほど高い税率が適用される制度のことをいう。所得税,住民税,相続税などに採用されている。
②シャウプ勧告 アメリカのシャウプ博士を団長とする日本の税制改革に関する勧告。税制全般にわたる勧告で,その後の日本の税制体系の基礎を確立した。
③逆進性 所得差を考慮せずに一律に税が課税されると,低所得者の所得に対する税の割合が高くなること。
④課税 アダム=スミスは,課税の原則として,①負担公平の原則 ②明確の原則 ③便宜の原則 ④経費節約の原則の4つをあげている。これらは,現実の課税を考えるときの大切なめやすとなる。
⑤税負担の不公平 所得の種類によって業種間の捕捉率に差(クロヨンとかトーゴーサンなどといわれる)があり,特に給与所得者の間で不満が強い。
⑥公債 財政法第4条では,国会の議決で,公共事業費,出資金および貸付金の財源にあてるために公債(建設公債)の発行を認めている。
共通テストで満点を取る政治経済(大学入試や高校入試対策)(10)
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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