民法編(大人のための法律講座:中学受験や高校受験、大学受験にも役立つ)3
01 制限行為能力者の相手方の保護
制限行為能力者のなした法律行為は取り消しうるものとされ、取り消されれば遡って無効となり(121条)、追認されれば確定的に有効となります(122条)。それまでは取引の相手方は不安な状態におかれます。このような状態から相手方を保護する必要があります。
具体的制度としては、民法は、取消し一般につき相手方を保護するため、(1)法定追認(125条)(2)取消権の短期消滅時効(126条)の制度を設けている。また、制限行為能力者の相手方保護のため(3)催告権(20条)(4)詐術による取消権剥奪(21条)の制度を設けている。
まず、制限行為能力者に対する催告権として、民法20条があります。これは相手方から制限行為能力者側に対して、取り消すことができる法律行為を追認するか否かを一ヶ月以上の猶予期間を定めて催告し、その期間内に制限行為能力者が確答を発しないときは、(1)追認または(2)取消しがあったものとみなす(20条)というものです。民法20条が相手方に催告権を認めたのは、相手方の法律関係の不安定な状態を解消する趣旨があります。催告の要件として、20条の催告は、一ヶ月以上の猶予期間を定めるものでなければなりません。
また、催告は、催告を受領する能力がある者に対して行わなければならない。未成年者・成年被後見人は、催告を受領する能力がないから法定代理人に対して行う。能力者となれば、催告を受領する能力があります。被保佐人・被補助人には、催告を受領する能力があります。(20条1項・2項・4項)。
催告に対して、確答がない場合の効果は、単独で追認できる者に対する催告のときは、追認の効果があります(20条1項・2項)。催告を受けて何等かの措置をとらないことが、法律関係を現状のまま確定しようとする意思があると認められるからです。しかし、特別の様式を要する場合、単独で追認できない者に対しては、取消しの効果しかありません。
02 住所
民法その他の法律は、住所を基準にさまざまな法律効果を与えています。たとえば、不在・失踪地(民法25条、30条)、債務の履行場所(民法484条、商法516条)、相続開始地(民法883条)、手形行為の場所(手形法2条3項、4条、小切手法8条)、裁判管轄(民事訴訟法4条、人事訴訟法4条など)がある。そこで、民法は住所に関する規定を設けている。
住所の意味について、民法22条は各人の「生活の本拠」をもって住所とすると規定します。「生活の本拠」の意味は、人の生活関係の中心である場所のことをいいます。この場所は、定住のの客観的事実があればよい(客観説)、「生活の本拠」については実質的に捉えるべきであり(実質説)、これを客観的事実から判断する以上、同一人について、生活関係に応じて複数の住所が成立しうると解します(複数説)。
居所とは、人が多少継続的に居住するが、その生活との関係の度合いが住所ほど密接でない場所をいいます。(1)住所不明・住所不定の場合には居所が住所とみなされ(23条1項)、(2)日本に住所を有しない者は、日本における居所をもって住所とみなされます(23条2項本文)。仮住所とうのは、法律行為の当事者が特定の取引行為について一定の場所を仮の場所と定めたものをいいます。仮住所は、特定の取引行為に関する限り、住所とみなされます(24条)。
03 失踪に関する制度
失踪とは、行方不明の状態になることをいいます。いわゆる蒸発のことです。ある日、突然に蒸発し、行方不明状態になると、不在者(失踪者)の財産関係の保持等が問題となります。しかし、行方不明の状態が続くと、残された家族らは生存を諦め、また失踪者の財産関係の整理や残された配偶者の再婚の問題などがでてきます。そこで、民法では2段階にして失踪に対処しています。(1)不在者の制度、として失踪者生存の推定のもと、たとえば財産管理人などを置くとして不在者の財産を管理し(25条~29条)、(2)失踪者を死亡したものとみなして、その法律関係(財産関係や身分関係)を整理します(30条~32条)。
不在者とは、従来の住所または居所を去って行方の明らかではない者をいいます。つまり蒸発者のことです。不在者が現れた場合に、その者の財産をどのように管理・処理すべきかについて、民法は、不在者が生存しているとの推定のもとに、その財産管理手続に一定の規定を置いて、不在者の財産を保護しています。不在者が管理人を置かず、かつ、法定代理人もいない場合には、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所は財産の管理につき必要な処分を命ずることができます(25条1項前段)。必要な処分の主要なものは、財産管理人の選任です。この財産管理人は、本人の意思とは関係なく裁判所が選任する一種の法定代理人です。
財産管理人の権限は、委任契約によって定まり、報酬の有無も委任契約によって定まります。この権限が本人の不在中に消滅したときは、上記の不在者が管理人を置かない場合によります(25条1項後段)。また、不在者の生死が明らかでないときは、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所は財産管理人を改任することができます(26条)。法定代理人が法律の規定に従って不在者の財産を管理するから、特別の措置は必要ありません。
04 失踪宣告の制度
失踪宣告の制度は、失踪者の従来の住所を中心に、その財産関係・身分関係を清算し、確定する制度です。失踪宣告の制度により、法律上、失踪者が死亡してたのと同じ効果を発生させて、残された家族の相続や再婚などを実現します。実質的な要件として、普通失踪は、最後の時から7年、特別失踪は危険が去ったときから1年とされています。形式的な要件は、利害関係人の請求です。効果としては、普通失踪の場合は、7年間経過後に死亡したとみなし、特別失踪の場合は、危険の去ったときから死亡とみなします。
失踪宣告を得るためには(1)失踪者の生死不明の状態が一定の期間継続すると、(2)利害関係人から家庭裁判所に対して失踪宣告の申立があることが必要です。既に述べたように、実質的要件として、失踪期間の経過が必要です。普通失踪というのは、普通の失踪の場合のことで、7年(30条1項)となっており、飛行機事故や沈没、地震、火災など死亡の確率の高い事故に遭遇して行方不明になった場合(特別失踪、危険失踪という)は1年です(30条2項)。
失踪期間の起算点は、普通失踪であれば失踪者の生存が最後に確認された時であり、特別失踪では危険が去った時です。失踪宣告の形式的要件としては、利害関係人からの失踪宣告の申立てがあることが必要です。利害関係人とは、失踪宣告がなされることに法律上の利害関係を有する者をいい、単に事実上の利害関係を有するに過ぎないものは含まれません(大決昭和7年7月26日)。利害関係人には検察官も含まれません。家族が失踪者の帰来を待っているのに、国家が宣告請求するのは妥当ではないからです。
利害関係任意より失踪宣告の申立てがあったとき、家庭裁判所の公示催告の手続きを経た上で、失踪宣告の審判をしなければなりません。条文上は「宣告をすることができる」となっているが(30条)、要件を満たせば必ず宣告をしなければなりません。
05 失踪宣告の取消し
失踪の宣告があっても、失踪者が生きていることが判明する場合などがあります。この場合は、失踪者本人または利害関係人からの請求によって、家庭裁判所は失踪宣告の取消しの審判を行わなければならない(32条1項前段)。失踪宣告は死亡したものと「みなす」制度だから、生存を証明して推定を覆すだけでは足りない。そこで、このように、失踪者本人又は利害関係人が失踪宣告の取消しを申し立てる制度が必要である。失踪取消しの要件として、実質的要件としては、失踪者が生存すること、または死亡とみなされた時期と異なる時期に死亡したことが証明されたこと(32条1項)。形式的要件としては、失踪者本人又は利害関係人から申立てがあることです。
失踪宣告の取消しの効果としては、原則として取消しにより失踪の宣告は、はじめからなかったことになる(遡及効)。従って、相続は開始されなかったことになり、また婚姻関係も解消しなかったことになる。この遡及効は、生存していた失踪者を保護する趣旨です。
しかし、そうすると、失踪宣告を信頼した相続人・第三者は不足の損失を受ける。そこで、民法には2つの例外を定めています。失踪宣告により直接財産を得た者は、その取消しにより権利を失うが、現に利益を受けている限度(現存利益)で返還すれば足りるとされています(32条2項)。これは相続人を保護する趣旨です。
この場合、悪意(失踪者が生きていることを知っているという意味です)の受益者にも32条2項が適用されるか。k条文上は、返還義務の範囲について善意者(失踪者が生きていることを知らなかった者)と悪意者(知っていた者)とで区別していません。しかし、悪意者を善意者と同様に保護する必要はないので、悪意者の場合には、704条の悪意の返還者と同じく全部(目的物又は目的物の価額に利息をプラスしたもの)の返還義務を負うと解します。
また、失踪宣告後、その取消し前に善意でした行為は、その効力に影響を及ばさないとされています(32条1項後段)。これは失踪者の財産を取得した第三者を保護する趣旨です。
事例とみながら少し考えてみましょう。
事例)Aの失踪宣告によって土地を相続したBがその土地をCに売却しr、CがDに売却した後、失踪宣告の取消しがあった場合、取消し前に「善意で取引をした行為」はその効力に影響はない。即ち、Dは取得した土地をAに返還する必要はない(31条1項後段)。従って、Aとしては、Bに対し、32条2項により現に利益を受けている限度での返還を請求するしか方法がない。では、「善意で取引した行為」とはどのような場合をいうのか。
★32条1項後段の「善意」の意味が問題となる
失踪者A → 相続人b → 転得者C → 転得者D
①失踪宣告→②相続(A→B)③売買契約(B→C)④(売買契約(C→D)⑤宣告取消し
条文「失踪者が生存することまたは前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所、本人又は利害関係者の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ばさない。②失踪の宣告によって財産を得た者はその取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度でのみ、その財産を返還する義務を負う。」(32条)
(ア)32条1項後段の「善意」は、当事者一方の善意で足りるのか問題である。32条1項後段の「善意」は、取引の当事者双方(B→C)が善意であること意味する。①32条1項後段は失踪者本人の利益と取引の安全との調和の見地から規定されているが、単に当事者の一方の善意で足りるなどとすると、失踪者本人の保護に欠けるからである。また、②32条1項後段は「行為」と規定するが、契約に関与する当事者双方が善意であることを示すからである。
(イ)「善意」は、失踪者の相手方・転得者間(BとC)の善意のほか、転得者・転得者間(CとD)の善意も必要とするのか問題となる。転得者・転得者間の善意でも取引の安全を保護する要請は同じであるから、これを肯定すべきである。
(ウ)更に、当事者双方が善意である場合(たとえばBとC)、その後の悪意者(例えばDが悪意の場合)は保護されるかも問題である。当事者双方が善意であえば、その後は悪意差であっても保護されると解する(絶対的構成)。その後の悪意者が保護されないとすると(相対的構成)、①法律関係の早期安定化に反すること、②善意者が悪意者から債務不履行責任追及されることからである。
事例)夫に付き、失踪宣告後、妻が再婚した場合に、失踪宣告が取り消された場合のみ法律関係はどうなるか。
身分行為についても、32条1項後段の解釈をそのまま当てはめるべきである。即ち、再婚した妻及び新配偶者の双方が善意である場合は、その再婚の効力は影響を受けないから、善根は復活しない。他方、再婚当事者の一方または双方が悪意の場合は、前婚が復活して重婚関係が生じ、これが前婚には離婚原因(770条1項5号)となり、後婚は取消原因(744条2項)となる。
これに対して、身分関係に32条1項後段を適用しない見解も有力である。身分法では当事者の意思を尊重すべきだからである。この場合は、常に前婚関係が復活し重婚関係を認めるか、または常に後婚だけを有効とすることになる。
06 同時死亡の推定
人が死亡すれば権利能力を失うが(882条参照)。法律上は死亡が確認されないと生存と扱わなければならない。しかし、人の死亡(死亡時期)を証明できないと法律関係が確定しないのでは不合理である。そこで、人の終期(死亡)に関する制度が3つ置かれている。
失踪宣告 | 「死亡とみなす」制度である |
認定死亡(戸籍法) | 死亡の蓋然性が高い場合に、戸籍に本人死亡の記載をする戸籍法上の制度。死亡と同じ効果が得られる。 |
同時死亡の推定(32条の2) | 「死亡したものと推定する」制度である。 |
民法は、数人の者が死亡した場合で、そのうちの1人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときには、これらの者は同時に死亡したものと推定している(32条の2)。相続人・被相続人の関係にある同時死亡者間において相続関係が発生しないと取り扱う規定である。
32条の2は「推定する」となっているので、この規定の適用に不服のある者は反証によって推定を覆すことができる。なお、「みなす」という場合は、反証によって覆せない。たとえば失踪宣告は「みなす」であった(31条)
32条の2は死亡が同一の事故による場合に限定されていないから、たまたま別の事故で死亡した場合でも、両者の死亡の前後が不明であれば適用される。
事例)Aには妻B、未成年の子Cと親Dがいて、AとCが飛行機事故によって一緒に死亡したケースはどうか。
ア Aの遺産の帰属
AがCより先に死亡したとすると、A死亡の時Aの遺産の相続人はBとCになり(887条、890条)、Bが2分の1、Cが2分の1の割合でそれぞれ相続する(900条1項)その直後にCが死亡したから、Cの遺産はCの親であるBにいくことになる(889条1項)。結果的に、Aの遺産が最終的にすべて妻Bに帰属し、Dにはまったくいかないことになる。逆に、CがAより先に死亡したとすると、Aの死亡時には先にCが死亡しているから、Aの遺産の相続人はBとDとなり(889条、890条)、Bが3分の2、Dが3分の1の割合でAの遺産を承継することになる(900条2号)。このように被相続人・相続人の関係によって財産の帰属が大きく異なることになってくる。そこで、民法32条の2(同時死亡の推定)の規定が置かれた。AとCは同時に死亡したものと推定されるから、AC間に民法32条の2によれば、相続が生じないことになる。Aの遺産については、Cに相続が生じなから(Cが先に死亡したと考えるのと同じ事になる)、Bに3分の2、Dに3分の1の割合で相続される結果となる。
イ Cの遺産の相続
AがCより先に死亡したとすると、C死亡の時にAが先に死亡しているからCの遺産はすべてBが相続する(889条1項)。逆にCがAより先に死亡したとすると、Cの死亡の時にCの遺産の相続人はAとBになり(889条1項)、Aが2分の1、Bが2分の1の割合ででそれぞれ相続する(900条4項)その直後にAが死亡したから、BがAの相続分の3分の2、Aの親であるDにAの相続分の3分の1が相続され(889条1項、890条、900条2号)、結局、Cの遺産については、Bに6分の5、Dに6分の1が帰属することになる。民法32条の2によればAとCは同時に死亡したものと推定されるから、AC間には相続が生じないことになる。Cの遺産については、Aに相続が生じないから(Aが先に死んだと考えればよい)、すべてBが相続する結果となる。
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員。元MENSA会員。早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。一橋大学大学院にてイギリス史の研究も行っている。 |
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