現代文の記述問題の解き方
01 現代文の記述問題を解くための最低限のルール
ここでは、現代文の入試における記述問題の解き方について説明したいと思います。現代文の記述問題というと、国公立大学の前期試験などで頻出されます。また、私大でも小論文や一部記述式の回答が求められる機会も増えてきています。
しかし、悲しいかな、多くの受験生が、「対策の仕方が分からない」「どうせ点数が取れない」「勉強してもしなくても一緒だ」と考え、模試や実際の試験でも全く点数が取れない答案を書き続けているのが現状だと思います。
記述式問題は、現代文を教えている側の視点から、先に説明させて頂くと、いわゆる選択式の問題よりも解きやすい問題です。
一方、共通テストをはじめとして、マーク式・選択肢式の問題、つまり「次の選択肢の中から最も適切なものを選びなさい」という問題は、四択なら、1/4で、正解できるものです。記述式の問題と違って、最悪、運否天賦に任せて選択するということも可能でしょう。
そもそも、選択肢式の問題は、解答となる選択肢が、提示されている選択肢の中に入っているわけですから、消去法なり、課題文との論理的整合性を検討すれば、正しい選択肢を導き出せます。
しかし、難関私大の選択肢問題などでは、問題の難易度を上げようとするあまり、解答とダミーの偽解答としてあげている選択肢の区別が付かなかったり、場合によっては、論理的に解釈すると、むしろ、正解は複数有り得るなどということが起きてしまうこともあります。筆者の出身大学の早稲田大学などが選択肢問題の悪問をだす良い例で、問題文と選択肢を幾らにらめっこしても、一体どれが正解なのか分かりかねるという経験は何度もしたことがあります。その結果、各出版社や予備校によって、模範解答がばらばらになるという現象は頻繁に起きています。
しかし、記述式の問題で大きく模範解答がずれるということはまずありません。というのも、選択肢の選び方は、一種のコミュニケーションのようなものだからです。簡単に例を挙げると、次の例題を解いてみましょう。
02 過去問演習を通して理解する
次の文章を読んで、後の設問に答えよ。
余りにも単純で身も蓋もない話ですが、過去は知覚的に見ることも、聞くことも、触ることもできず、ただ想起することができるだけです。その体験的過去における「想起」に当たるものが、歴史的過去においては「物語り行為」であるというのが僕の主張にほかなりません。つまり、過去は知覚できないがゆえに、その「実在」を確証するためには、想起や物語り行為をもとにした「探求」の手続き、すなわち発掘や史料批判といった作業が不可欠なのです。
そこで、過去と同様に知覚できないにも拘らず、われわれがその「実在」を確信して疑わないものを取り上げましょう。それは、ミクロの物理学の対象、すなわち素粒子です。電子や陽子や中性子を見たり、触ったりすることはどんなに優秀な物理学者にもできません。素粒子には質量やエネルギーやスピンはありますが、色も形も味も匂いもないからです。われわれが見ることができるのは、霧箱や泡箱によって捉えられた素粒子の飛跡にすぎません。それらは荷電粒子が通過してできた水滴や泡、すなわちミクロな粒子の運動のマクロな「痕跡」です。その痕跡が素粒子の「実在」を示す証拠であることを保証しているのは、量子力学を基礎とする現代物理学理論にほかなりません。その意味では、素粒子の「実在」の意味は直接的な観察によってではなく、間接的証拠を支えている物理学理論によって与えられているということができます。逆に、物理学理論の支えと実験的証拠の裏づけなしに物理学学者が「雷子」なる新粒子の存在を主張したとしても、それが実在するとは誰も考えませんし、だいいち根拠が明示されなければ検証や反証のしようがありません。ですから、素粒子が「実在」することは背景となる物理学理論のネットワークと不即不離なのであり、それらから独立に存在主張を行うことは意味をなしません。
科学哲学では、このように直接的に観察ができない対象のことを「理論的存在(theoretical entity)」ないしは「理論的構成体(theoretical construct)」と呼んでいます。むろん理論的存在と言っても「理論的虚構」という意味はまったく含まれていないことに注意してください。それは知覚的に観察できないというだけで、れっきとした「存在」であり、少なくとも現在のところ素粒子のような理論的存在の実在性を疑う人はおりません。しかし、その「実在」を確かめるためには、サイクロトロンを始めとする巨大な実験装置と一連の理論的手続きが要求されます。ですから、見聞異臭によって知覚的に観察可能なものだけが「実在」するという狭隘な実証主義は捨て去れねばなりませんが、他方でその「実在」の意味は理論的「探求」の手続きと表裏一体のものであるということにも留意せねばなりません。
以上の話から、物理学に見られるような理論的「探求」の手続きが、「物理的事実」のみならず「歴史的事実」を確定するためにも不可欠であることにお気づきになったと思います。そもそも「歴史(history)」の原義が「探求」であったことを思い出してください。歴史的事実は過去のものであり、もはや知覚的に見たり聞いたりすることはできませんので、その「実在」を主張するためには、直接間接の証拠が必要とされます。また、歴史学においては史料批判や年代測定など一連の理論的手続きが要求されることもご存じのとおりです。その意味で、歴史的事実を一種の「理論的存在」として特徴づけることは、抵抗感はあるでしょうが、それほど乱暴な議論ではありません。
(野家啓一『歴史を哲学する-七日間の集中講義』による)
設問
(一)「その痕跡が素粒子の『実在』を示す証拠であることを保証しているのは、量子力学を基盤とする現代の物理学理論にほかなりません。」とはどういうことか、説明せよ。
*引用元は、文末に紹介していますので、どこの大学の問題なのかもお楽しみにしてください。
この問題を解くにあたって、理解すべき前提は、簡単にいうと、歴史は直接知覚することができないものであり、それは史料や発掘といった作業に基づき、物語って言くしかないが、その分かりやすい例が、自然科学によって同じく知覚できないのにも拘わらず存在するとされている素粒子です、ということです。筆者は素粒子を例にして、歴史が同じく直接できないものであるにも拘わらず、だからといって全く存在しないものではないこと、そして、それは史料や発掘といった作業に基づき、ある一定の手続きの下に物語られる実在のものであることを説明しようとしているわけですね。
これがコミュニケーションであるというのは、筆者が、このように語っていることを、あなたはどう受け取りますか、ということを訊いている問題だ、ということです。筆者が、歴史を物語るということを説明する際に、どうして素粒子の話をしているのか、そして、その素粒子の話を通して何を伝えたいのか、あなたは理解出来ますか、と訊いているわけです。この課題文は哲学の文章ですから、多少生硬な言葉遣いがあります。しかし、元々は講義をネタにした本なので、哲学の文章としては比較的読みやすい部類に入るものだとも思います。この問題に対して、「いや、さっぱり意味分からないよ」と答える人は少ないのではないでしょうか。少なくとも、歴史という直接知覚したりできないものがあるが、それは単なるフィクション(虚構)ではなく、物理学で言うところの素粒子みたいなものだよね、と筆者が伝えたいということは理解出来るのではないでしょうか。そして、その際に用いられている具体例としての素粒子の実在と物理学の関係について、筆者は何を言いたいのですか、と訊かれているわけですね。
とはいえ、現代文の入試はあくまでも入試試験であり、自由なコミュニケーションではありません。朝知人に会ったときに「おはよう」と言われたら「おはよう」と返すのがマナーなように(ここで「こんばんは」であったり、「パンダが好き」と答えたら相手が戸惑うのは当然ですよね)、現代文の入試にも、解答するにあたってのマナーというか、ルールのようなものが存在します。
しかも、そのルールは別に複雑怪奇極まるものでも、難解深遠めいたものでもなく、簡単なルールです。それを先にここで紹介しましょう。まず、記述問題には、基本的に次の二種類しか存在しません。
それは、
一、「傍線部はどういうことを言っているのか説明しなさい」という傍線部の内容を説明する問題(内容説明問題)
か、
二、「傍線部のように言われるのは何故なのか説明しなさい」という傍線部の理由を説明する問題(理由説明問題)
のいずれかしかないということです。
03 現代文の記述問題では、「内容説明問題」と「理由説明問題」の二つしか無い
つまり、「内容説明問題」と「理由説明問題」の二種類しかないということです。そして、「内容説明問題」では、問われている傍線部の内容の箇所を、幾つかのポイント(説明要素)にわけて、ここのポイント(説明要素)を説明した上で、一つの文章として整えるということが必要となります。また、「理由説明問題」では、問われている傍線部の理由となる因果関係を抑えて、傍線部が結果となるべき理由を探し、その理由を論理的に飛躍がないように繋いでいくことが必要となります。
その上で、細かなルールとしては、「比喩」や「本文の文脈抜きには理解出来ない表現」など説明に使えないものは用いないことや「課題文をだらだらと抜き出す」ことや同じような内容を「重複」して文字数を稼ぐようなことはしない(禁止)ということが守れていればそれで十分です。
どうでしょうか?とても簡単なことに思えてきませんでしょうか。といっても、実際に問題を解いてみないと分からないことがあると思いますので、問題の解説を続けましょう。
さて、ここまで踏まえた上で、本問の解答に取りかかって行きたいと思いますが、本問はまさに「内容説明問題」であるということが分かると思います。つまり、傍線部の箇所を幾つかのポイントにわけて、ここのポイントを説明した上で、一つの文章に繋ぐことが求められているわけですね。
それでは、「その痕跡が素粒子の『実在』を示す証拠であることを保証しているのは、量子力学を基盤とする現代の物理学理論にほかなりません。」というのは、どういうポイントによってわけることができるでしょうか。
大きく、(1)「痕跡」とは一体何を意味しているのか、(2)「素粒子」とは一体何をいみしているのか、(3)「『実在』を示す証拠」とは何を言わんとしているのか、(4)「保証している」とはどういう事態を言わんとしているのか、の四つのポイントにわけられるのではないかと思います。
知覚できなくてもある物理的事実の存在が、物理学理論に支える実験による間接的証拠(実験的証拠)によって裏づけられているということですね。こう答えてくれれば満点です。もちろん、ポイントを抑えて説明すれば良いので、表現は今挙げたものと同じである必要は全くありません。
大事なことは、
- 痕跡とは、実験による間接的証拠、実験的証拠であるということ
- 素粒子とは、知覚できない(見聞異臭できない、見ることができない)物理的事実(あるいはミクロ物理学の対象、物理学の対象)であるということ
- 『実在』を示す証拠とは、物理学的事実(あるいはミクロ物理学、物理学の対象)として存在が裏づけられている(支えられている、確証されている)ということ
- 保証しているとは、物理学理論が実験による間接的証拠(実験的証拠)を支えている(裏づけている、確証する)ということ
の四つのポイントを踏まえた表現で、一つのまとまった文章として説明されていれば、正解であるわけです。
もう一度別解として、解答をまとめましょう。「知覚できない物理学の対象が、ミクロ物理学に裏づけられた実験による間接的証拠によって、その存在が確証されているということ」です。解答するに当たって、別に特別難しい知識や手続きが必要なわけではないということが分かってもらえたでしょうか。「内容説明問題」であることを理解した上で、その問われている傍線部を要素に分解し、その要素を別の言葉に言い換えて説明し直す、ただそれだけです。
少しだけ、注意しておくべきことを補足しておくならば、「内容説明問題」において、別の言葉に言い換えて説明する際には以下の点を注意しましょう。
- 対比を表現する
- 具体例はカットする
- 繰り返し登場するキーワード(「類比」)を抑える
- 傍線部、つまり説明を求められている箇所の言葉は極力使用しない
ちなみに、本問のネタ元ですが、これは2018年の東京大学の国語の文理共通問題である大問の第一問でした。いきなり東大の問題だったのかと驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、この問題と形式は違うものの、この文章はよく現代文に出題されるもので、高校入試の問題に出題されたこともあります。
このように、記述式の問題は、正解へ至るプロセスが明確で、誰でも辿ることが出来る論理的なものです。それでは、引き続き本記事を通して、解答を導き出すための正しい手順(プロセス)を身につけ、是非、自身を持って記述式問題に取り組んでみましょう。
現代文への偏見
現代文の記述問題の解き方(1)
現代文の記述問題の解き方(2)
現代文の記述問題の解き方(3)
現代文の記述問題の解き方(4)
現代文の記述問題の解き方(5)
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【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |